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新しいジブン発見旅-櫻井麻美さんのニチコレ(日日是好日)第36話 茅野市尖石縄文考古館で土偶を愛で、土偶をお迎えする旅へ

かの有名な国宝土偶、“縄文のビーナス”と“仮面の女神”。その神秘的な美しさを堪能できる尖石縄文考古館のミュージアムショップには、土偶グッズが多数並んでいる。さあ、自宅にも、こだわりの土偶をお迎えしよう。

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土偶、その神秘的な美しさ

縄文時代が、気になって仕方がない。争いごとがなく、長く続いた時代だからなのか、未だ謎が多く、想像する余地がたくさん残っているからなのか。プリミティブで野生味溢れる様々な遺物に心惹かれる。なぜ、どうして、これを、この形にしたのだろう、と考え出すと止まらない。縄文と名の付くものを見ると、なんだって好奇心を掻き立てられる。

縄文人に憧れて、土器を作ったり、石を磨いたり、骨を削ったり。今までに何度となく、当時に思いを馳せながらその営みを追体験してきた。縄文人の心に近づくには、まだまだ時間がかかりそうだが、様々な制作を通じて結果的に分かったのは、彼らの技術力の高さだ。

ちょっと体験してみれば、簡単に思えた全ての工程が、意外と難しいことに気づく。なんとか試行錯誤しながら時間をかけて色々なものを作ってはみたものの、私の作品は残念ながら、どれもあらかじめ描いていた完成予想図とはかけ離れたものだった。

だから、博物館の展示にあるような、美しい道具たちを見る度に、ため息が出そうになる。一体これを、どんな人が、どれだけの時間と労力をかけて作っていたのだろう?当時の熟練の職人たちの仕事ぶりを、ぜひこの目で見てみたいと思ってしまう。

個人的に、それらの中でも、ひときわ興味をそそられるのは、やはり土偶だ。その造形美はもちろんのこと、独特の見た目や、儀式に使われていたとされる用途、ちょっとミステリアスで近づきがたい雰囲気が、魅力的に見えて仕方がない。

あの、丸みとか、表情とか、文様とか、抽象化された人体とか……と、土偶のことを考えていたら、本物に会いたくなってきた。久しぶりに、博物館へ行こうとスマホで茅野市尖石縄文考古館のHPを開き、営業時間を確認する。すると、メニューのひとつにミュージアムショップの商品紹介があることに気づいた。クリックしてみれば、ずらりと土偶グッズが紹介されているではないか。しかも、どれも、かわいい。

首都圏の博物館の企画展では、展示室からグッズ販売に大混雑で、なかなかゆっくり見ることもできず、しまいにはお土産は諦めてしまうのが常だが、ここならのんびり買い物できそうだ。なにより、常時、土偶関連商品がこんなに揃っているミュージアムショップが近くにあるとは。…いや、それだけじゃない。ここでは土偶のレプリカまで、販売している。
これは、もしかして。我が家に土偶をお迎えするという念願が叶う日が、来るのかもしれない。

ふたつの国宝土偶 “縄文のビーナス”と“仮面の女神”

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茅野市尖石縄文考古館で出迎えてくれる土偶たち。おしゃれなマフラーが似合う

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建物周辺にも実際に縄文人が暮らしていた。ここ尖石遺跡と隣の与助尾根遺跡は特別史跡に指定されている

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国宝土偶の“仮面の女神”。独特の文様が、とても美しい

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仮面をつけていた紐と思われる表現が後頭部にかけて見られる

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墓地から出土した当時の状況を再現した模型も展示されている。遺体は土に還り、土偶が残った

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もう一つの国宝土偶“縄文のビーナス”。実物を見ると雲母の輝きが滑らかな体を覆っている

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横から見ると、お腹が大きく妊娠した女性の表現がよく分かる

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後ろ姿のお尻もチャームポイントだ

冬の茅野市。吹く風は肌に刺さるように冷たい。訪れた尖石縄文考古館は、尖石遺跡に隣接する博物館で、隣の与助尾根遺跡と合わせて特別史跡にも指定されている。縄文人たちも、こんな風を感じていたのだろうか、と想像しながら館内の展示を見るのもまた、良い。

ここにはかの有名な国宝土偶、“縄文のビーナス”と“仮面の女神”が展示されている。実は国内には、国宝として登録されている土偶は5件しかない。つまり、5分の2が、ここにあるのだから、大変貴重な場所である。

それぞれが国宝に指定された理由は、大まかに2つあるのだと、学芸員さんが教えてくれた。出土状況、そして造形美だ。

“縄文のビーナス”は約5000年前、縄文時代中期のもので、高さは27センチ。通常10センチくらいのものが多い土偶の中では、とても大きいサイズだ。集落の中央からほぼ完璧な状態で出土されたその姿は、とても曲線的な体をしている。横から見るとお尻とお腹の大きさと柔らかな線がとても特徴的で、妊婦の姿を模しているといわれる。

そして実物を見ると、ラメを散りばめたようにキラキラと体が光り輝いているのが、その姿をより神々しくさせている。これは、雲母が含まれた粘土を使っているからなのだそう。それにしても、なんて神秘的な輝きなのだろう。ぐるぐると色々な角度に回り、土偶を愛でる。

一方の“仮面の女神”は約4000年前、縄文時代後期のもので、高さはさらに大きい34センチ。こちらは足が故意に壊された状態で見つかり、仮面の女神が出土した穴の周りには人が埋葬されていたとも考えられている。土偶が墓から出土するのは珍しいことから、その価値が認められた。

造形の特徴としては、やはり仮面を付けたと思われる表現だ。よく見ると横に仮面を結ぶ紐のようなものが確認できる。さらに文様がたくさん描かれており、これも衣服、入れ墨、はたまた鎧など、見た人それぞれが色々な説を唱えるという。見た目からはわからないが、中は空洞となっており、焼くときに破裂しないように設計されているそうで、なるほど、縄文人はすでに色々な失敗から土偶をうまく焼く術を知っていた、というわけだ。

薄暗い展示室で照らされたふたつの土偶は、特別な“何か”を纏っているように感じる。それは、そのものが本来持つ神秘的なものなのか、はたまた、人々がそれに思いをこめたことによって、作り上げられたものなのか。

4、5000年前の人々は、この土偶をどんな気持ちで、眺めていたのだろう。どんな願いを込めて、作ったのだろう。縄文時代はまだ、分かっていないことだらけ。だから、その時のことを推し量るしかないが、こういう、分からない、を前提として考える時間は、とてもわくわくする。なんだって答えを白黒はっきりさせることだけが、大切ではないのだ。

縄文時代の遺物を、土偶を、眺めるという行為。それは、複雑化しすぎてしまった社会を解きほぐして、今一度自分自身の根底にあるものを思い起こさせてくれるような、そんな体験であるような気がする。だから私は、縄文時代に魅力を感じるのかもしれない。

こだわりのクオリティ!ミュージアムショップへ

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館内ミュージアムショップにはたくさんの土偶グッズが並ぶ。こちらの箸置きは地元八ヶ岳の工房で作られたもの

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キーホルダーやシール、ピンバッジなどもあれば、アクリルスタンドやブロマイド(!)まで多岐にわたるラインナップ

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手染めで作られた商品は一点もの。愛らしい表情の色とりどりの土偶たちがかわいい

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アパレル商品も充実している。土偶好きをアピールできるかも?

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土偶ピアスは、縄文人も求めたヒスイの産地、糸魚川の「ホウの木」が使用されたこだわりの作品

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とにかくたくさんの土偶グッズを前に、うれしい悲鳴を上げそうに

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そして今回は念願の土偶レプリカを我が家にお迎え!手作りのためひとつひとつ表情が違う

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次に来た時にはクッションを買おうともくろむ

私たちに、大切なことを思い起こさせる装置でもある、土偶。あの神秘的な美しさを、日常に置けたなら。ただ置いておくだけで、なんだか人生が好転しそうな気がする。……と、怪しげな盲信はさておいて、シンプルに、土偶はかわいいから、グッズが欲しい。

展示室を後にして、ミュージアムショップに踏み入れれば、様々な縄文グッズが並び、なかでも、土偶グッズがずらりと私たちを出迎えてくれる。ステッカー、マグネット、ピンバッジ、キーホルダー、ストラップ、箸置き、ピアス、クッション、ネクタイ、トレーナー、果てはアクリルスタンドまで。幅広い品揃えに、うれしい悲鳴が上がりそうになるのを、必死に堪える。

しかも、それぞれとても高いクオリティで仕上げられていて、一点ものの商品も多数あるのが、ファンの心を掴んで離さない。例えば、手染めで仕上げられたファブリックのシリーズは、尖石縄文考古館限定デザイン&カラーのものもある。手染めゆえの揺らぎが、土偶の表情と相まって、愛らしい。箸置きなどの焼き物は、地元の工房でひとつひとつ焼き上げられていて、実用品としても高品質。どれも、すごく魅力的だ。

そしてなにより心惹かれるのは、やっぱり土偶のレプリカだ。“縄文のビーナス”と、“仮面の女神”。堂々とミュージアムショップの店に鎮座している様子は、レプリカとはいえ、やはり他とは異質な雰囲気を纏っている。

中でも私が引き込まれたのは、土偶作家である宮沢昭山さんが手がけた、“縄文のビーナス”だ。あの、画面越しでは見ることのできない、雲母の輝き。それが、レプリカにも丁寧に、再現されている。

ああ、これを家に迎えたい。ショップをぐるぐると周り、店内を30分ほど物色した頃、ついに心を決めた。いくつかのサイズがある中から、程よい大きさのものを選び、意を決してスタッフの方に声をかける。すると、お顔の表情がそれぞれ微妙に違うので、よかったら見比べてみてくださいね、と棚からビーナスたちを降ろしてくれた。かくして私は再び、ショップの窓から注ぐ太陽の光に照らされた彼女たちを前に、しばらく睨めっこをすることになったのだった。

土偶を家に、迎えるということ

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散々迷った挙句、一体のビーナスを、私は家へと連れ帰ることにした。彼女のきらきらと光る体には、本物のビーナスが発見された地域で採れる雲母が含まれた土を使用しているのだと教えてもらった。ここでしか買えない、特別な土偶。それを聞いて、土偶への愛着が、ますます強くなる。それにしても、時代を超えて、現代人が土偶を作り、そしてそれが家に飾られるとは、縄文人はきっと、思ってもみなかっただろう。

丁重な梱包が施された土偶を、家で開けた時、不思議な感覚に陥った。なにか、雄大な自然を目の前にしたのと同じ時のような、あの感覚。私はそっとビーナスを箱から取り出し、赤子を抱くかのように、または、長老を敬うかのように、大切に棚へと飾った。

尖石縄文考古館では、毎年、野焼きでの土偶作り体験も行っている。近いうちに、土偶作りにもチャレンジしてみたい。きっと、自分で作ることでしか感じられない、土偶への気持ちが湧き出てくることだろう。その日を楽しみに、日々土偶を愛でようと思う。


『茅野市尖石縄文考古館』
https://www.city.chino.lg.jp/site/togariishi/


取材・撮影・文:櫻井 麻美

<著者プロフィール>
櫻井 麻美(Asami Sakurai)
ライター、ヨガ講師、たまにイラストレーター
世界一周したのちに日本各地の農家を渡り歩いた経験から、旅をするように人生を生きることをめざす。2019年に東京から長野に移住。「あそび」と「しごと」をまぜ合わせながら、日々を過ごす。
https://www.instagram.com/tabisuru_keshiki

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