長野県立美術館・東山魁夷館×建築家Yun Chen-Lee

日本の現代建築に魅了された若き台湾人建築家が思いを馳せる長野県立美術館・東山魁夷館。Yun Chen-Leeの五感に呼応した建築空間と美世界を3人のクリエーターと共に巡る。

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長野県立美術館──この地に刻まれた建築史の新たな一章。1966年の信濃美術館、1990年の東山魁夷館。それぞれの時代の建築的価値を体現してきた両館が、今、大胆な改修計画により生まれ変わった。東山魁夷館の改修・整備を軸に、本館エリアでは設計コラボレーションという革新的なアプローチで新たな建築の可能性を問う。そのビジョンに、建築家としての私の心は深く揺さぶられた。

宮崎 浩氏の「ランドスケープ・ミュージアム」は、建築家が目指すべき環境との対話を体現している。高低差を生かした設計手法、城山公園や善光寺との絶妙なバランス、公園に面したガラス窓の連続。建築と環境の美しい共生を物語る。

東山魁夷館と向き合うファサードで、その表情に私の目は奪われた。光の移ろいとともに変化するアルミパネルは、朝と夕で全く異なる表情を見せる。2つの美術館の間に生まれた「谷間」こそ、このプロジェクトの神髄だ。水場や階段は地形に寄り添い、空間体験そのものをデザインしている。

新館の内部空間は、若き建築家にとって学びの宝庫だ。白いキューブの中で織りなされる展示室、イベントスペース、小ギャラリーの空間の序列は、まるで現代美術のインスタレーション。中谷芙二子氏《Dynamic Earth Series Ⅰ》霧の彫刻 #47610は、エアブリッジの下で霧と戯れ、建築空間とアートの理想的な共生を示す。

谷口吉生氏の東山魁夷記念館は、日本建築の現代的解釈の好例だ。繊細な日本画だけでなく、大胆な現代風の作品も展示されている。そのため、空間を軽やかでモダンな建築言語で表現する手法は示唆に富む。「作品のための額縁」というコンセプトは、建築の本質的な役割を問いかける。

展示室周りの空間構成は秀逸だ。石壁が生み出す落ち着いた腰掛けスペース、床から天井までのガラス面を通して見える水盤と公園の緑。天井に映る水面からの光の揺らめきが、静謐な空間に詩的な動きを与えている。

建築家が新館と東山魁夷館との関係を扱う手法に、心引かれるものがある。周囲との調和を保ちながらも、静かな存在感を放つその佇まい。この地に根づく事物への謙虚な眼差しと敬意。陽光が差し込む廊下に生まれる、光と影の美しい饗宴。そこに佇むとき、言葉にできない感動が胸を満たしていく。

建築の隅々に宿る職人の丁寧な仕事と、吟味を重ねて選ばれた素材の数々。そのすべてが織りなす細部のハーモニーが、この空間にかけがえのない味わいを与えている。
建築とは、そこに集う人の心を豊かにする器だ。私はこの美しい建物に、そのような崇高な使命を感じずにはいられない。

異なる世代の建築家、谷口氏と宮崎氏。空間と環境を深く理解し、敬意を払う姿勢は、若い世代が継承すべき大切な視点だ。美術館建築は単なる展示ケースではない。自然、文化、人々の対話を育む場なのだ。その信念が、両館の随所に宿っている。

館内を歩く私は、時に詩の中を歩むように、時に絵画の奥行きに吸い込まれるように、展示作品だけでなく、この場所が持つ歴史や物語が織りなす重層的な体験を味わう。若き建築家として、空間がもたらす豊かな経験の創出を、自身の設計でも目指していきたいと強く思うのだ。

text_Yun Chen-Lee


自然と建築_外観

人の心を豊かにする器_内観

静寂の空間_東山魁夷館

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Yun Chen-Lee(ユン チェン リ)
建築家。台湾生まれ。東京都在住。台湾の大学で建築を専攻。在学中から日本の現代建築に魅了される。大学院卒業後、建築事務所で働きながら台湾建築士免許を取得。2015年に来日。日本語学校で学び東京の建築事務所に入社。趣味も兼ね仕事の傍ら日本各地を旅する。美しい建築を訪れては写真と文章で記録している。2016年から「東京建築女子」というアカウントでFacebookページを開設。記録した日本の建築情報を台湾に発信。すぐに注目を集め、国内の出版社や台湾ウェブマガジンからオファーが。同タイトル「東京建築女子」を冠して日本各地の建築旅をまとめた書籍を3冊刊行。今後、日本の建築と生活をテーマに4冊目の出版を予定。Instagramでも「東京建築女子(@fuples)」にて各地の美しい建築写真を投稿。日々活躍の場を広げている。

長野県立美術館・東山魁夷館の1日。_フォトグラファー内山温那

善光寺門前で活動している私にとって美術館は近所の公園のように身近な場所です。今回、建築家のYun Chen-Leeさんと建築の視点で美術館を歩いてみると、漠然と美しいと感じていた建物は具体的にどこが美しかったのか、どうして美しく見えるのか再発見があり、視点を変えてみることの面白さを再確認しました。撮影時に一番意識していたのはリフレクションや形の美しさですが、Leeさんと一緒に歩く中で建物の線の美しさや見どころを教えていただき、途中からその辺りも意識しました。

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本館_午前

Leeさんと合流。どんな方か、建物のどんなところを見ているのか探りながら、午前の光と反射の綺麗なところを本館内で探して撮影。

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東山魁夷館_正午

東山魁夷館に本館のテーマであるリフレクションのルーツを感じて、建築家へのリスペクトとそれら融合に感じ入る。とはいえ私は建築の知識ゼロ、Leeさんの休憩スペースの緑の石壁にはどんな意味があるの?と尋ねると、「多分ミース・ファン・デル・ローエの影響を受けているんです」と優しく教えてくれた。他にも天井と外のひさしの高さを揃えているところや「午後の水面の反射がとても綺麗ですよ」と建物が美しく見える仕掛けを教えていただきとても楽しかった。

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本館_午後

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本館の屋上に行くとちょうど近所の小学校の校内放送が聞こえ、気が緩んだ。Leeさんも「かわいい」と笑っていた。屋上では小学校のチャイムや善光寺の鐘の音も聞こえる。美術館特有の緊張感と、緩やかな長野の日常風景の両方を感じる、そんなランドスケープがいいなと思った。

photo.text_Hruna Uchiyama

内山温那(Haruna Uchiyama)
フォトグラファー。長野県出身、長野市在住。2010年より編集室ナノグラフィカに所属しフォトグラファーとして県内で活動。現在は子育てをしながら写真撮影や挿絵製作を行っている。温泉が好き。

美術館で感じる、非日常の体験。_映像ディレクター竹節友樹

今回の長野県立美術館・東山魁夷館の映像製作において、テーマとして考えていたのは、タイトルとして書いた「美術館で感じる、非日常の体験」。もう少し補足すると「日常の中にある非日常との出会い」です。

モデルの建築家Yun Chen-Leeさんがそんな体験を映し出す存在としてとても相応しい方だったことに尽きます。

撮影に関しては、台本や構成は特になく、撮影ポイントを太陽の光を見ながら一緒に歩き回った感じですが、表情に関しては、自然感を出してもらうことを今回は大切にしました。
また音楽に関して、軽快な短音の旋律で構成する楽曲を当初から考えていました。そのため、ドローンによる空撮や、動きのあるジンバル撮影、横に動くスライダーなど、1つのシーンを色々な方向から何カットも撮影したりと、軽快な音楽にハマるようにカット数を多く撮影しています。

全体的な色のトーンも、温かみと質感を出すことにこだわりました。映画用のシネカメラ(RED KOMODO 6K)を使用し、フィルム感を感じる質感を出しているのと、編集時の色の調整も温かみのある自然な色を出すことにこだわっています。

そこから見えてくる建造物の美しさや、質感、広大さ、そして新しい発見や楽しみ方など、この映像の中から長野県立美術館・東山魁夷館に行ってみたいと思わせるキーワードを見つけてもらえればと思います。

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竹節友樹(Yuki Takefushi)
映像ディレクター/ビデオグラファー。合同会社LODE Film代表。長野県山ノ内町出身。株式会社アミューズ・マネージャー 。2007年フジテレビ報道番組部AD / ディレクターを経て2014長野市にJターン。2023合同会社LODE Film 設立。制作映像数は770件を超える。
https://www.lodefilm.com/

水のせせらぎや風の通る音が聞こえてくるような自然とのつながりを感じる空間。_ドローンパイロット石森孝一

風の流れのようにドローンの視点する私の目には長野県立美術館・東山魁夷館が自然と地形の一部のように存在した。

城山公園から長野県立美術館と東山魁夷館との間に存在する水場は、まるで谷間に流れる川のせせらぎのよう。水をたたえる東山魁夷館の庭園、その先に続く森を抜け館内へと飛んでいく。

高低差のある長野県立美術館・東山魁夷館がもたらす地形との調和。吹き抜けの空間がまるで急峻な渓谷を行くように広がり、連なる窓ガラス配置が外との境界線を越え、視界に入る景色との繋がりを心地よく感じ飛行した。最上階へと進み丘の上から見える山並み、まるで木々の回廊のような大庇を抜けると善光寺と長野の街並みが待っていた。

text_Koichi Ishimori

石森孝一(Koichi Ishimori)
ドローンパイロット/カメラマン。株式会社 ストーンモリス代表。
2007年にカメラマンとして独立し、登山やアウトドアを主なフィールドとして活動。
BSフジ「絶景百名山」をはじめ、多くのテレビ番組や企業プロモーションで映像撮影を担当。また、ドローンによる空撮を開始して以降、「絶景百名山」「トレッキング100」「テントを背負って」「釣り人万歳」「にっぽん百名山」他、NHK・民放の番組でのドローン撮影を多数手掛ける。ドローン経験10年以上。 ドローン総飛行時間:約1000時間以上(2025年1月現在)。
https://www.nagano-drone-service.com/blank-3

 

長野県立美術館のHPはこちら

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制作:長野県観光機構

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