新しいジブン発見旅-櫻井麻美さんのニチコレ(日日是好日)第29話 懐かしくて新しい「量り売り」で、健やかな買い物を始めよう
今、環境問題に対する意識の高まりから、じわじわと増えている「量り売り」のお店。地球に優しいのはもちろん、自分で好きなものを好きなだけ選んで買える楽しさも、大きな魅力のひとつだ。楽しみながら、健やかに。量り売りの店に出かけよう。
主体性ある買い物と、その充実感
デジタルツールを見ていると、押しつけがましい広告がいやというほど流れてくる。その度に、絶対に買うものか、と強く決意する私は、根っからの天邪鬼である。
こういうのが好きだろう、と決めつけられているのも気持ち悪いし(そして大抵それは私の好みではない)、買い物をする気分でないのに外野から突拍子もなく延々と飛び込んでくるのにも辟易している。
インターネットでの買い物を、もちろん私も利用する。その良さも分かる。でも最近は、自分の足で店に行って、実際に商品を手にして、買う、という方法ができるものに関しては、そちらを選ぶようにしている。
運送業者に負担をかけないとか、通販で顕著な過剰包装を避けたい、とか、そういう点も理由としては挙げられるが、わざわざ店に行って買う、という行為の身体性に、心地よさを感じるからだ。
そして最近は、その中でも「量り売り」なるものに楽しみを見出している。世代によって懐かしさを感じたり、斬新さを感じたり、印象はそれぞれだが、私の中で「量り売り」はわくわくする買い物イベントだ。それは私の生い立ち(?)のせいだと思う。
遡れば、小学生時代。繁華街にあった憧れのお店には、量り売りがあった。自分好みのカラフルなお菓子を、好きなだけ袋に詰め込むシステムだった。食べ物とは思えないその鮮烈な色は、明らかに体に悪そうだし、何よりお菓子も安くない。だから、親には買ってもらえず、まして自分ではなかなか手が届かなかった。今でも同じような雑貨屋にたまに出会うが、子どもの頃の甘酸っぱい感触が胸に蘇る。
そんな私が大人になり、しばらくして、再び量り売りに出会った。しかも、前のようにギラギラ光るお菓子ではなく、体に優しそうなお菓子たち。さらに、大人になった私に突き刺さる、海外のバザールで並んでいそうな、ずらりと並んだスパイスたち。その瞬間、一気に私の中で何かが爆発した。実現できなかった子どもの頃の願いが、実を結んだ瞬間だった(しかも、たくさん買った気がするのに、意外とリーズナブルなのもうれしい)。
そんないきさつもあり、量り売りが大好きだ。あれを買え、これを買え、とか、広告に煽られながらするのとは違う、私の、私による、私のための買い物。プラスチック包装を減らしたり、フードロス削減などの環境問題対策にもつながるのだから、選ばない理由がない。
最近は、長野県内にもじわじわと店が増えている。家からお気に入りの容器を持って、好きなものを詰め込む。そんな量り売りならではの買い物に、出かけてみよう。
心地の良い衣食住を揃えよう 上田 『NESTORE』
上田城のほど近く、懐かしいまちなみに佇む店の目印は、大きなグレーの引き戸。昔ながらの建物がリノベーションされたその外観が、道行く人を自然に誘う。少し重さを感じる戸を開ければ、着心地のよさそうな服を着たトルソと、清楚にまとまったヴィンテージの什器が迎え入れてくれた。
『NESTORE』は、“Food,clothing and shelter” つまり、衣食住がここで揃えられることを目指して、2年前にオープンした店だ。食を担う量り売りだけでなく、長く愛着を持って使える日用品、セミオーダーの衣料品。それぞれオーナーの荻原さんがこだわって仕入れたり、制作したりしたものを購入することができる。
海外でバックパッカーをしていたこともある彼女は、「旅先のお店などで見た瓶がずらりと並ぶ光景が、好きだったんです。」と、話す。
実際に、店頭に並ぶ瓶たちを見ていると、どうしてもわくわくする。それは彼女の言うように、どこか旅先で見た風景みたいだから、なのかもしれない。
量り売りでは有機栽培のものを中心に、ドライフルーツやチョコ、スパイス、パスタ類から、油や洗剤などが店の一画に並ぶ。特にスパイス類は沢山の種類が所狭しと並び、見ているだけで創造力が掻き立てられる(残念ながらレシピは浮かんでこないのだが…)。
「マスタードシードをここで見て、手作りマスタードに挑戦される方も多いですよ。意外と簡単なんです。」
店頭に置いてあるレシピに目を移すと、確かにシンプルな材料と行程だ。ちゃんとしてます感があるのに、肩ひじ張らずに取り入れられるのは、マスタード、のみならず、この店にあるものは、全てにおいてかもしれない。
雑貨コーナーに並ぶのは、シンプルながらも作り手のこだわりが感じられる、長く使えるものばかり。余分な装飾がないというのは、道具の美しさを際立たせる。さらに、使えば使う程、愛着が湧くものだ。
荻原さんが制作する洋服にも、その哲学が見て取れる。大人の女性向けに作られたという自然素材の衣服は、上質さと着心地の良さ、そして着る人に寄り添う優しさが調和した作品だ。
「年を重ねると、今までの服がなんか違うなって思うことがあって。」
そんな自身の経験から生まれた服は、見ているとつい触りたくなってしまうほど気持ちよさそうだ。洗練されたデザインは、年齢を重ねることがポジティブなことであると感じさせてくれる。
あれこれと物色し、持ってきた容器で買い物をした。生活の中に、ちょっと、こだわりのもの。不思議と私もほんの少しだけ、大人の女性に近づけたような気がした(近づけると、願いたい)。
生活の延長線上にあるささやかな幸せ 小諸 『giro by parte』
小諸駅から真っ直ぐに伸びた、大きな通り。そこに面したビルの2階にある『giro by parte』は、シンボリックな階段とその脇の看板を頼りに見つけよう。
通りからは絶妙に見えない店の様子が、階段を登るごとに少しずつ見えてくれば、期待感が自ずと高まる。そして温かな木が印象的な入り口のドアを開ける時、それは最高潮になるはずだ。
ずらりと並んだ瓶と、そこに詰まったおいしそうなものたち。博物館のような店内は、ただ、眺めているだけでも心が満たされる。
お店のキーワードは、“オーガニック”。併設する美容院と共に、この店では地球や体に優しいものにこだわり、提供している。オーナーの福島さんは、第一子妊娠中に今まで使っていた化粧品が合わなくなり、そこから日常的に使うものに対して気を使うようになったという。
「子どものお菓子の袋とか、小分けになることで余計にゴミが沢山出るのが、気になって。」
量り売りは、瓶や容器などを持参して、そこに買ったものを入れるのが基本スタイル。だから、包装のゴミが出ずに煩わしさも減るのが良い。容器を忘れてしまったり、足りなくなってしまっても、大丈夫。再利用の空き瓶や、新聞紙などでできた袋をもらうこともできる。
店内は、日々のお料理に使える醤油(リピーターがとっても多いのだそう!)や、実はお手軽な豆類等も揃う。そのまま料理にポイっと入れるだけで使えるというレンズ豆は、入っているだけで上級者感が出る食材だ。瓶に入ったものがキッチンに並んでいるだけでも、絵になる。
「マルベリー(桑の実)とゴジベリー(クコの実)も、おすすめです。美容にもいいんですよ。」
色とりどりの自然な食べ物と、その他にも、かわいらしく並んだ焼き菓子。目移りしすぎて、どれもこれも欲しくなる。と、そんな私のような優柔不断な人に、朗報だ。
「こちらに、既に瓶詰めになっている商品もご用意しています。」
ドライフルーツやチョコ、ナッツ類を詰め合わせたお土産用の瓶。どうしても決められない人には、こちらもおすすめ。在庫状況によって中身が変わるので、毎回の楽しみになりそうだ。
そして美容室併設のこの店ならではなのが、シャンプーやトリートメントの量り売り。もちろん、オーガニックで良質な商品。使い終わったポンプを持ってきて、充てんできるから、何より詰め替えの手間がなく、楽なのが良い。実際に私も購入し、使っているのだが、香りもよく、洗い心地も最高。やっぱり毎日使うものは、大切にしたいと改めて思う。
日々の生活用品を、ふらりと買いに来られる店。良質なものを、自分のために、自分で選ぶ。ただの買い物ではなく、ずらりと並ぶ瓶から選ぶわくわく感も生まれるのだから、帰り道の充足感は、とてつもない。
初めて使う食材で、教えてもらったレシピに挑戦してみよう。ちょっとうれしい、帰り道。こういうささやかな幸せが、一番大切なのかもしれない。
いつでも人の温もりと笑顔がある 安曇野『ハカル AZUMINO skateboard & ECOshop』
安曇野の広々とした景色の中にある路面店。入っていく人、出ていく人、駐車場にも車が多く停まっている。
『ハカル AZUMINO skateboard & ECOshop』はその名の通り、量り売りとスケートボードのショップが併設された店だ。扉を開けると、オーナーの生田さんの元気な挨拶と笑顔が迎え入れてくれる。
小さな子連れから、60代位の人まで、私が滞在した時間だけでも、様々な人が店に訪れる。生田さんも、忙しそうだ。でも、みんななんだか、楽しそう。入ってくるすべての人に声をかけ、話をする彼女を中心に、この店には笑顔があふれている。
「夫は若いころに、年代や背景に関係なく楽しめるスケートボードに救われたことがあって。色んな社会が入り混じり、色んな人がいる、みんなの居場所になる店を作りたいと、夫婦でここを始めたんです。」
そんな彼女の言葉通り、スケボーをしそうな人、食材を買いにきた人、カフェスペースでお茶をしながらのんびりする人。色々な利用者がいる。初めて会った人なのに、前から知っている人みたいに、垣根なくそれぞれが話している。その様子が、この店の在り方を象徴しているだろう。
スケートボート売り場の横に設けられた量り売りスペースには、瓶に詰められた様々な食材の他に、地元産の農作物などもある。元管理栄養士だという生田さんが手作りした加工品もあり、季節によって内容も変わるそうだ。
カウンターに並ぶお菓子や総菜の餃子も、おいしそう。他の出店者が制作しているもので、こちらも人気なのだそう。
「アフガニスタンのドライフルーツも、たくさん並べています。この商品を選ぶことで、女性の支援につながるんです。」
フェアトレードの商品も、取り揃えている。自分の買い物が、誰かを苦しめている、知らず知らずにそれが起ってしまっている現実を、少しでも変える活動だ。
ちなみにアフガニスタンとのつながりは、たまたまカフェに入ったところで、他の席に座っていた人たちが商談しているのを聞いたところから。「私も興味あります!」とそこに飛び入り参加して、この店に仕入れることになったのだとか。そんなエピソードをからりと笑いながら話す生田さんの行動力に、思わずこちらまで楽しくなってしまう。
この日は大町のベーグル店『noe』が出張販売を行っていて、飛ぶようにベーグルが売れていく。私も焦りながらベーグルを確保し、量り売りでドライフルーツもいただいた。
買い物だけでなく、ここでの温かな人とのつながりに、心はすっかり満たされた。
「また来てくださーい!」
と笑顔で手を振る生田さん。彼女と話せば、きっと誰もが笑顔になってしまうだろう。
家で噛みしめる、買い物の余韻
スーパーで買ってきたものを帰ってきてから眺めることはないが、量り売りの店で買ってきたものは、カウンターに並べてニヤニヤしながら愛でてしまう。お気に入りの瓶や容器に入った、お気に入りのものたちが並んでいるのだから、しょうがない。
何にしようか迷いながらも、手に取ったものを瓶に詰める。そして、それを眺めながら、少しずつ使っていく。量り売りでの買い物の、醍醐味だ。
何より、通販では味わえない人とのつながりを感じられることが、一番の魅力かもしれない。何でもないおしゃべりをしながら、誰かから物を買う。そしてそれを作った人や、それができた過程も、分かっている。その一連は、健やかな買い物にとって重要だ。
今、改めて見直され始めている、“消費”という行為。楽しみながらよりよい買い物ができる量り売りの店は、きっとその一役を担う存在だ。健やかで、楽しい。これからの私たちの生活に、もっと身近になることを願う。
取材・撮影・文:櫻井 麻美
『NESTORE』
https://nestore.reichardt.jp/
『giro by parte』
http://www.hair-parte.com/giro
『ハカル AZUMINO skateboard & ECOshop』
https://www.hakalazumino.com/
<著者プロフィール>
櫻井 麻美(Asami Sakurai)
ライター、ヨガ講師、たまにイラストレーター
世界一周したのちに日本各地の農家を渡り歩いた経験から、旅をするように人生を生きることをめざす。2019年に東京から長野に移住。「あそび」と「しごと」をまぜ合わせながら、日々を過ごす。
https://www.instagram.com/tariru_yoga/
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