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門前町発展の中心地、善光寺の表玄関・大門町
善光寺の前庭となる大門町。江戸時代には北国街道の宿場町として、本陣の「御本陳藤屋旅館」や純和風旅館の脇本陣「五明館」が置かれました。今はそれぞれ、レストラン&結婚式場の「THE FUJIYA GOHONJIN」と善光寺郵便局に生まれ変わり、当時のまま活用された建物に往時の面影を色濃く感じます。
明治時代には長野商工会議所が設立され、昭和の時代に入ると県下初の民放局SBC(信越放送)の開設事務局も誕生。大門町はいつの時代も文化・経済の中心地でした。
また、問屋場でもあった大門町には、旧家の大型の土蔵や商家も集積。約10棟の建物と地形、樹木を可能な限り生かして修景した複合商業施設「ぱてぃお大門 蔵楽庭(くらにわ)」もまた、大門町の歴史を感じさせる場所です。独自の審美眼に基づいたセレクトで足繁く通うファンも多い「ギャルリ夏至」や、まちの案内所も兼ねた「カフェ+まち案内 えんがわ」など13店舗が営業中。2022年3月末にオープンした「日本料理 そば懐石 紡ぎ」は、自家製粉した県産のそば粉を使った十割そばや地物の食材を生かした“そばと日本料理のマリアージュ”が楽しめます。
個性あふれる味わいをめざす注目のブルーパブ「Mallika Brewing」(大門町)
にぎやかな大門町も一歩枝道に入ると、ぐっと落ち着いた雰囲気になります。路地裏に佇む2階建ての蔵風の建物が、2021年にオープンしたばかりのブルーパブ「Mallika Brewing[マリカブルーイング]」。1階のブルワリーは4月からの本格始動を控え、先行して営業をはじめた2階のバプ&カフェスペースでは、クラフトビールのほかコーヒーや軽食を楽しめます。
「ビールを飲む人も飲まない人も一緒に楽しめる場をつくりたいと思ったんです」と話す、店主の伊東大記さん・春菜さん夫妻。関東出身のふたりは、2018年から2年間かけて世界100カ国を旅し、各国のビールを楽しむなかで「いつかは自分好みのビールを造りたい」と思い描くようになりました。
帰国後、縁もゆかりもなかった長野市で開業を決めたのは、令和元年東日本台風の復興支援で訪れたのがきっかけ。地元農家をはじめとする知り合いが増えたことや、山が近く自然が豊かで、おいしく新鮮な農産物がすぐに手に入ること、コミュニティがコンパクトで顔が見える付き合いができることなどが決め手でした。
観光客がにぎわう善光寺門前でのオープンを希望し、出合ったのは同じく大門町の「武井工芸店」の倉庫だった建物。同店のオーナーが「昔は多くの店があったこの路地を盛り上げてほしい」との思いで快く貸してくれたそうです。
4月からはじまる醸造では「スタンダードなものとは一線を画すビールを造りたい」と大記さん。果物をたっぷり使ったフルーツIPAやホップを大量に投入して苦味を効かせたビール、酸味の強いサワー系など、個性が強い一風変わった味わいのビール造りをめざします。なかでもこだわりは、旅先のベトナムで飲んで気に入ったジャスミンを使ったビール。「毬花(マリカ)」とはジャスミンやホップを意味しますが、生粋のビール好きが造るジャスミンのビールは、きっと「Mallika Brewing」の代表格になることでしょう。
奇しくも、長野市内では同時期に3つのマイクロブルワリーが誕生。最近は全国的にブルワリーが急増していますが、なかでも長野県は実力派が多いことから「それぞれの個性を生かし、みんなで一緒に県内のクラフトビールを盛り上げていけたら」と春菜さんは話します。国内外での豊かな経験や、世界から長野へと拠点を移した軽いフットワーク、前向きなチャレンジ精神から生み出される「Mallika Brewing」のクラフトビールに期待が高まります。
〈Mallika Brewing [マリカブルーイング]〉
長野県長野市大門町72−5 TEL 026-217-2585。火曜日:17~22時、水曜日~土曜日:14~22時、日曜日:12~20時。月曜定休。
☞ https://www.instagram.com/mallikabrewing/
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元ビニール工場内に広がる迷宮「遊歴書房」の本棚の世界(東町)
大門町の東側にある東町は、かつては問屋街として発展し、今も往時の名残を感じる建物が点在しています。そのひとつが、元ビニール工場の建物をリノベーションした「KANEMATSU(カネマツ)」。シェアオフィス兼店舗として活用されており、入口に位置する自家焙煎コーヒーの「C.H.P COFFEE」を抜けた先、広いイベントスペース一角の扉を開けると、天井まである本棚が壁一面を覆い尽くす、本に囲まれた異空間が広がります。
「遊歴書房」のコンセプトは「歴史を旅する古本屋」。本棚のブロックごとに、国や地域、文化などのテーマがカテゴライズされ、店主の宮島悠太さんが得意とする人文書から小説、エッセイ、美術、絵本、漫画などなど、そのエリアにまつわる幅広いジャンルの本がギュッと詰まっています。
若い頃に世界各地を旅し、大学で歴史学を学んだあと、大型書店で働いた宮島さん。その経験に基づく本棚のつくり方は見る者の知的好奇心をくすぐり、時間が経つのを忘れてしまうほど。「とにかく来てもらえたら面白いと思ってもらえるよう、歴史を感じられる本ならどんなものでも揃えています。自分の感性とは異なっても、誰かの心に響くものがあれば」と話します。幅広いジャンルの陳列によりさまざまな地域の歴史や文化に触れることができ、思わず旅に出たくなるような気持ちも駆られます。
書籍以外にわずかながらCDや雑貨もあり、店の外まで本が置かれていたりと、多種多様な品揃えが見られるのは、家一軒を収納庫として使っているほど豊富な在庫があるからこそ。また、1冊1冊を丁寧に査定し、書き込みなど本の状態が悪いものは手書きのスリップに書かれているのも「遊歴書房」の特徴。安心して本を選ぶことができます。
なお、東町にはこの「KANEMATSU」のほかにも、新小路という細い通りに位置する元・文房具卸会社の4つの倉庫群をリノベーションして、カフェやショップ、シェアオフィス、シェアアトリエ、共同型住宅として活用する「SHINKOJI SHARE SPACE」があり、まち歩きの楽しみを広げてくれます。
〈遊歴書房〉
長野県長野市東町207-1 KANEMATSU TEL 026-217-5559。10時~18時。日・月曜休。
☞ https://yurekishobo.naganoblog.jp/
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国産素材と季節感を大切にする「和菓子 豆暦」(西町)
東町があれば、西町もあります。「和菓子 豆暦」は、かつて西町で愛された「成金まんじゅう」の建物をリノベーションした、女性和菓子職人の小山紗地穂さんが営む小さな和菓子屋。店先に並ぶ生菓子や和菓子は長野の身近な自然や季節を表し、小山さんが和菓子の専門学校時代に学んだ関東風と、修業をした名古屋や京都の関西風が混ざりあった独自の品揃えです。タイミングが合えば、かつて「成金まんじゅう」のおばあさんが饅頭を焼いていた店頭で、今は小山さんが定番のどら焼きを焼いている姿を眺めることができます。
素材はできる限り国産、長野県産のものを。どら焼きは県産小麦粉を使い、はちみつもりんごの花からつくられた県内の養蜂家のものを使用。ほかに、くるみ羊羹などに使用するクルミも県産です。
和菓子というと年配が好むイメージですが、客層は意外にも小山さんと同世代の30~40代が多く、男性ひとり客も少なくないのだとか。「和菓子屋にあまり来たことなかったという人もいて、『和菓子ってこんなにおいしかったんだ』と言ってもらえることがうれしいですね。一番幸せを感じるのは、仕事帰りに『自分へのご褒美』として1~2個だけ買ってもらえるとき。和菓子はどうしても贈答などかしこまったイメージがありますが、気軽に食べてもらえたら」と小山さん。そう話す間にも、次々と和菓子を求める老若男女が訪れます。
どれもこれも丁寧な仕事ぶりを感じる和菓子のなかでも、個人的一押しは夏季以外の土・日・月曜につくられるわらび餅。貴重な国産わらび粉を使い、やさしいこしあんの甘さと相まったとろける食感で、ぜひ一度味わってほしい一品です。
〈和菓子 豆暦〉
長野県長野市西町1042-2 TEL 026-219-2629。9時~17時。火・水曜休。
☞ https://www.facebook.com/mamekoyomi
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日々を楽しくするヒントが詰まった「Roger」のセレクト雑貨(上西之門町)
西町の北側にある西之門町は、善光寺仁王門の西側に位置します。善光寺門前の空き家リノベブームの草分け的存在である編集・企画室の「ナノグラフィカ」は、界隈では広く知られる存在。毎月、空き家見学会を開催しており、その数は100回を超えました。
その「ナノグラフィカ」から徒歩数十秒、上西之門町にある雑貨屋「Roger(ロジェ)」の安達紘子さんも、この空き家見学会で物件を見つけたひとりです。元焼肉屋だった店舗は年を追うごとに面積を拡大し、今やオープン当初の倍以上の大きさに。そんな広い空間に所狭しと並ぶのは、暮らしを楽しむ日用品や文房具、衣料など。生活になじみながらもシンプルすぎず、どこか遊び心を感じるものばかりで、眺めているだけでワクワクします。
メインはヨーロッパを中心とした輸入雑貨。安達さんは学生時代に美術を学び、フランスでの留学を経て、帰国後は都内の雑貨屋で働きました。その経験を生かし、子育てがやや落ち着いた2012年に地元の長野市で念願の独立開業。夫の浩平さんとはフランスで出会ったそうで、当時、浩平さんが暮らしていた下宿先のオーナー・Rogerおじさんが店名の由来です。人を喜ばせることが大好きで、DIYも得意だったRogerおじさんのように、暮らしを上手に楽しむアイテムを提供したい。そんな思いが込められています。
ちなみに浩平さんは、先に紹介した「SHINKOJI SHARE SPACE」でケータリング専門店「ロジェ・ア・ターブル」を経営。Roger2階のレンタルスペースで催しが開催されるときは、「ロジェ・ア・ターブル」のケータリングが活躍したりと、ゆるやかにリンクしています。
国内のアイテムも揃い、マスキングテープやレターセットなどの文房具は可愛らしいデザイナーズ商品も。「自分で好きな雑貨を揃えられる仕事は楽しく、いつまでも飽きません」と話す“雑貨LOVE”の思いが、心くすぐるセレクトにつながっています。
〈Roger〉
長野県長野市上西之門町604-1 TEL 026-217-7929。10時~16時。不定休。
☞ https://roger-nagano.com/roger/
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ジャズの音色とともに楽しむ「平野珈琲」の自家焙煎コーヒー(立町)
西之門町の西側、立町は細い小道が走る小さな町。その路地裏に隠れ家のように佇むのが、自家焙煎コーヒーを提供する「平野珈琲」です。ALTECのスピーカーから流れるジャズがよく似合うゆったりとした空間で、店主の平野 仁さんが店内一角の直火式焙煎機で毎日焙煎するコーヒーを提供しています。
学生時代からバックパッカー旅が好きで、50カ国を訪問した平野さん。会社員になり、転勤で訪れた北海道札幌市が気に入って移住すると、ゲストハウスやブックカフェを開きました。そして、焙煎機を製造する職人との出会いから、独学で自家焙煎に励むようになりました。
結婚を機に移り住んだ長野市でもカフェを開き、自家焙煎コーヒーを追求。今は世界各地の農園からスペシャルティコーヒーを仕入れるバイヤーを介して生豆を直接輸入し、豆の特性を見極めて最適な焙煎から香り高いコーヒーを生み出しています。求めているのは、毎日飲んでも飽きないデイリーな味わい。「コンテストで高評価のロットの味わいは特別でとても素晴らしいのですが、仕入れ値もとんでもなく高額です(笑)。仮に日常で飲み続けられる価格があるとしたら、そのなかでどれだけよい品質のコーヒーを選べるか。 “ブラジルらしさ”、“ホンジュラスらしさ”など、その国のコーヒーが持つ伝統的な雰囲気を感じられる銘柄や、ブレンドで活躍するマイルドな銘柄など、数ある選択肢のなかから自信を持って提供できるものを選んでいます」。
コーヒー豆のラインアップは、常時シングルオリジン13~14種類、ブレンド4~5種類。同じブラジル産の豆でも、違う農園のものを、深煎り、中深煎り、浅煎りと、豆の特徴に合わせて焙煎し、メニューは月替わり。「めざす味に向く銘柄を探し、いろいろな焙煎方法も試してみる。コーヒーを焙煎する人は、みんなそれが楽しくて続けているんですよね」。
以前はネルドリップで提供していましたが、現在はペーパードリップに。「ネルの味わいは好きですが、手間がかかる分、自宅ではなかなか再現できない特別な一杯になってしまう。それはそれでよいものの、自店では日常のコーヒーをイメージしてもらうために、家で使いやすいペーパードリップでの提供にしました」。
提供している器は札幌市の陶芸家・杉田真紀さんのもので、最近はコーヒードリッパーも杉田さん特製の陶製に。自分のお気に入りのアイテムを増やすこともまた、平野さんなりのコーヒーとの向き合い方なのでしょう。
〈平野珈琲〉
長野県長野市立町981 TEL 050-3699-7897。10時~16時30分LO。日・月曜休。
☞ https://hiranocoffee.official.ec/
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自家製天然酵母パンの味わい深さを楽しむ「pinatis」(花咲町)
花咲町もまた善光寺西側に広がる町で、閑静な住宅街です。車1台がやっと通るほどの小道に、これまた隠れ家のように佇む「pinatis(ピナティ)」。身近な里山で採れる季節の果物や自家栽培無農薬小麦から起こした酵母の力を生かし、じっくりと発酵させた自家製天然酵母と国産素材のハード系パンをつくっています。
東京から家族で移住し、以前は長野市の隣、りんごの名産地でもある飯綱町で暮らしていた店主の厚海友美さん。近隣農家からたくさんのりんごや果物をもらえる環境のなか、植物に付着する野生の酵母菌で天然酵母を起こすようになり、“生き物”である酵母菌の培養の複雑な面白さに魅了されたといいます。この天然酵母を生かすならパンをつくらない手はない、ということではじめたパンづくり。当初は家族で食べることが中心だったこともあって、体にいい国産小麦と無添加の素材にこだわりました。次第にパンづくりの楽しさも覚え、店舗を持たない出張出店型のパン屋を開業。ご近所のリクエストに応えていくうちに、種類が増えていったといいます。
パートナーの仕事の関係で長野市に拠点を移すタイミングで実店舗をオープン。「ボロボロなところが気に入った」という長屋の古民家は裏庭があり、飯綱町のように自然環境が近いところも決め手でした。「天候や季節に左右されて培養が難しいといわれる天然酵母で失敗したことがないのは、飯綱町の空気中にりんご由来の酵母菌がいたからかもしれません。だから、なるべく自然が近くにある場所がいいと思っていました」。
さらに、気軽に果物が手に入る環境だからこそ、常にフレッシュな酵母を起こすことができることから、酸っぱいイメージが伴う天然酵母パンも癖のある味わいになりません。酵母に使う果物は季節によって変わり「パンの風味が使う果物に左右されるのも面白い」と厚海さん。独特の甘みや旨みを楽しめるパンづくりに努めています。
ちなみに気になる店名は、息子のニックネーム「ぴなた」からの造語。そんな店名からもオリジナリティが感じられます。
〈pinatis〉
長野県長野市花咲町811-1 TEL 026-405-4769。9時30分~17時30分(売切次第終了)。日~水曜休。
☞ https://1link.jp/pinatis
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古本・喫茶・トンカツが時間ごとに楽しめる「大福屋/成満堂」(岩石町)
さらに隠れ家感のあるお店といえば、元下宿屋と魚屋がひとつになった不思議な建物の古本屋・喫茶店「大福屋」とトンカツ屋「成満堂」もあります。1階が「大福屋」の古本スペースで、2階の喫茶スペースが昼は「成満堂」になるというユニークなシステム。東町の東側、岩石町の迷路のような裏道にありながら、このふたつの店を求めて遠方からも多くの人が足を運んでいます。
「成満堂」の高野啓司さんが揚げるトンカツは、味わいもビジュアルも唯一無二。5cmもの厚みを誇るインパクト大の厚切りロースカツは、食べた瞬間に「これはトンカツなのか・・?」と思わずにはいられない、トンカツの概念を覆すようなジューシーな柔らかさ、上品なしっとり感、あっさりとしながらも肉々しい弾力。異次元の味わいが口の中に広がります。調理法は、なんと67℃の揚げ油で3時間! 油の温度が70℃を越えるとタンパク質が破壊されて旨みがなくなってしまうそうで、肉のボリュームと温度、時間に細心の注意を払い、低温でじっくり揚げることでおいしさを存分に引き出しています。
長時間調理と限られた席数の争奪戦により、予約をして訪れる客が大半。客層はほぼ女性客で、若者だけでなく年配の女性も少なくありません。一番人気はヒレ肉を使った定食ですが、ロースとヒレのいいとこどりの「5cm厚ロースかつとヒレかつセット(要予約)」も人気が高く、2人前ながらひとりでたいらげてしまう女性もいるのだとか。おもてなしの心遣いを感じる接客も心地よく、昔懐かしい空間のくつろぎとともに満足感に包まれます。
一方、「大福屋」で提供するのは、コーヒーなどのドリンクと、土日のモーニングは開店当初からの定番メニューであるオブセ牛乳を使ったうどん「ぎゅうにゅうどん」などの軽食。1階の古本スペースは本を売りたい人に棚を貸し出す「貸し棚」システムで、多彩な出店者による幅広いジャンルの本に出合えます。漂う自由な雰囲気は「大福屋」の店主・望月ひとみさんのおおらかな人柄にも通じます。
高校時代は善光寺が通学路だったという望月さん。大学進学を機に地元の長野市を離れ、紆余曲折を経て2015年にUターンしたのを機に、念願の門前暮らしをしようと「空き家見学会」に参加しました。そして、築100年ほどのこの物件にひと目惚れし、建物を生かすべく、大好きな古本と喫茶店の開業を決めてリノベーションをはじめました。
その頃、偶然再会したのが、元職場の仲間で早期退職したばかりだった高野さんです。改修を手伝ってもらい、その後、高野さんは四国遍路の旅へ。無事、旅を終えて長野に戻る前、縁あって都内にあるトンカツの名店で揚げ方を教わり、その技を「大福屋」で披露。すると評判が評判を呼び、「成満堂」を開くことになったといいます。
実はトンカツの油っぽさが苦手だったという高野さん。だからこそ、試行錯誤の末、幾度もの進化を遂げた製法はオリジナリティにあふれています。「成満堂」の営業中は、望月さんも「成満堂」の店員に。絶妙なバランスで成り立つ「大福屋」と「成満堂」は、時間によってさまざまな楽しみ方ができます。
〈大福屋〉※大福屋は閉店しました。長野県長野市岩石町222-1 TEL 080-4915-2763。土・日曜7時30分~16時、月・火曜11時~19時(喫茶営業は土・日曜7時30分~9時30分LOのみ)。水~金曜休。
☞ https://twitter.com/dai298_monzen
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〈成満堂〉
長野県長野市岩石町222-1 TEL 026-235-5477(営業日の10時~15時対応)。11時~13時30分LO。水・木曜休。
☞ https://twitter.com/jouman_katsu
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幼なじみが営む和食カフェ「Polka dot cafe」と古着屋「COMMA」(権堂町)
ふたりでひとつの建物を共有し、絶妙なバランスで成り立っている店としては、権堂町にある和食カフェ「Polka dot cafe(ポルカ・ドット・カフェ)」と古着屋「COMMA」も外せません。長野市松代町出身の両店の店主は幼少期からの幼なじみで、それぞれ都内で料理とアパレルの経験を積み、“故郷に錦”の思いで帰郷した、いわば盟友です。タイプも雰囲気も異なるふたりですが、お互いに自分の店を持ちたいという夢で意気投合し、2018年に開業しました。
もともと料理が好きだった「Polka dot cafe」の山田大輔さん。大学進学を機に上京し、卒業後は和食や定食屋を中心に飲食の世界で働きました。そして、値段が手頃な定食屋であれば幅広い客層に足を運んでもらえると考え、故郷で定食が食べられるカフェの開業を考えるようになったと言います。
「COMMA」の駒込憲秀さんもまた、根っからの古着好き。高校時代は長野市内の古着屋に足繁く通い、服飾の専門学校進学のために上京。卒業後はアパレル分野で働き、古着好きを再認識したそうです。
帰郷後、開業に向けて先に動き出したのは山田さん。すでにリノベ集積地として全国的に評判になっていたうえに長野駅前よりも家賃相場が安い善光寺門前で店を開こうと、古着屋開店の夢を持っていた駒込さんを誘って物件探しをはじめました。一方、駒込さんは帰郷後に長野市内の古着屋などで働いていたものの、独立はまだ先の話だと考えていたとか。しかし、山田さんに背中を押され、開業が現実的になったと言います。そして、上下階で店の形態が分けられる2階建ての建物を求め、たどり着いたのがこの物件でした。
開業してちょうど4年が経った今はお互いにスタイルが確立され、干渉し合うことなく、ゆるやかなパートナーシップを築いています。
1階の「Polka dot cafe」で提供するのは、3種類からメイン料理が選べる日替わり定食と、2カ月ごとにメイン料理が変わる季節の定食。いずれも4種類の小鉢がつき、ごはんはおかわり自由とボリューム満点。栄養バランスも考えられています。
「カジュアルな内装の定食屋で、お腹いっぱい食べられる健康志向の店がいいと思っていました。もともと小鉢がたくさんある定食が好きなんですが、女性がガッツリ食べても罪悪感がなく、男性でも満足感があるように考えています。誰でも食べやすい味わいながらも、家でつくるよりも2ランクほど上の料理を提供できたら」と山田さん。なお、リーズナブルな価格設定には「お札1枚で食べられる定食屋に気軽に来てもらえることで、若い人の和食の入口になったら」との思いも込められています。
さらに「Polka dot cafe」が若者の心をつかんで話さないのが、名物のかき氷。季節のフルーツや地物の素材を使ったカラフルなビジュアルに加え、2種類のトッピングを組み合わせたセパレート方式で、遠方から求めて訪れる人も少なくありません。
「ボリュームがあるので食べ飽きないように、また、ふたつの味わいで楽しみを増やしたいと思ってつくりました。両方が溶け合っても最後までおいしく食べられるように考えています」と山田さん。とにかく“お得感”を大切に、いかに喜んでもらえるかを考えたメニュー構成が魅力です。
2階の「COMMA」は独特のラインアップ。アメリカ・フランス・イギリスのアイテムを中心に、駒込さんが自ら開拓した現地のディーラーを介してインポート古着を仕入れ、昨年からはヴィンテージのカテゴリーにも力を入れています。「年代物や市場に出回らない珍しいものは高額になり、なかなかコアで響かない部分もありますが、県内のみならず県外の方からの問い合わせが割とあるんです」と駒込さん。開店当初は手に取りやすい価格帯の古着がメインでしたが、次第に自分が好きなヴィンテージ古着を特化させていきました。「ヴィンテージが専門学生の頃から好きで、生地やボタン、デザイン、ステッチ幅など細かいディテールから国や年代がわかったりするのですが、長野市で店を営むうえで、それが自分の強みだと思っています。勉強したという感覚ではなく、好きで自然と知識が身についた感じです」。
なかには、100年以上前のアンティークも。1900年前後の畜産用のインディゴ染めのコート、卵白と動物性脂で何十回も叩いてコーティングしたリネンのワークスモック、1920年代のフランスの囚人服など、少し説明を聞くだけでもユニークなものばかり。「囚人服などは通常、捨てられてしまうものですが、それが現代に残っているのが面白い。だから、珍しいものを見つけると『売れる』というより『お客さんに知ってほしい、見てほしい』という感覚で仕入れちゃうんです。もう二度と見られないかもしれない100年以上前のアメリカ、ヨーロッパの古着が長野にあるのがまた面白いと思っています」。
なお、今は古着屋ブームに加えてコロナ禍で一点ものの価値が見直されていることもあり、長野県内でも古着屋が増えていますが、「古着は需要の波が大きいので、いずれブームが落ち着くときは来ます」と駒込さん。それでも「古着が好きなかたは自分を含め一定数いるので、流行に左右されないアイテムを取り扱っていきたい」と話す姿からは、古着が好きという絶対的な信念からくる揺るぎない誇りが感じられます。
そんな「COMMA」と「Polka dot cafe」がある権堂町は、善光寺の南側に広がる県内屈指の歓楽街で、江戸時代には善光寺参りの精進落としの花街として栄えた歴史があります。今も“夜の街”としての顔を持つ一方、メインストリートの権堂アーケードは商店街として市民に親しまれており、「飲食」と「古着屋」というふたつの側面を持つこの店と通じる趣があります。
〈Polka dot cafe〉
長野県長野市鶴賀権堂町2390-1 TEL 026-225-9197(COMMAと共通)。11時30分~15時、18時~21時LO。水・木曜休。
☞ https://www.instagram.com/polka.cafe2390/?hl=ja
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〈COMMA〉
長野県長野市鶴賀権堂町2390-1-2F TEL 026-225-9197(Polka dot cafeと共通)。12時~21時。水曜休。
☞ https://www.instagram.com/comma.uvcs/?hl=ja
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路地裏の片隅で絶品イタリアンに舌鼓を打つ穴場感「ambrosia」(箱清水)
さて、にぎやかな善光寺の南側に比べ、北側の横沢町や箱清水にはのどかな住宅地が広がるなかに個性的な店が点在している面白さがあります。箱清水の「ambrosia(アンブロジア)」は、りんご農家の直売所だった土間空間をリノベーションしたイタリアン&パティスリー。「観光客はほぼ来ることがなく9割5歩以上が地元の方で、リピーターも少なくありません」と話すのは、シェフの永岡祐二さん。パティシエである妻の佳奈さんと営みます。
ランチもディナーもコースのみの完全予約制にしているのは、食材を余すことなく新鮮な状態で提供したいから。「大切にしているのは、そのときどきのいい素材をきちんと使うこと。野草や山菜、家族が手をかけて育てる野菜など、身近においしいものがたくさんあるので、それらを丁寧に使えたら」と祐二さんは話します。
神奈川県横浜市出身の祐二さん。23歳まで地元でパティシエとして働き、縁あって大門町のレストラン&結婚式場「THE FUJIYA GOHONJIN」に就職しました。パティシエとして応募したはずが、図らずも料理人として採用されたことでイタリアンの道に。「もともと製菓よりも表現の自由度が高い料理のほうが自分に合っていると感じていたので、すんなりとイタリアンに進めました」と話します。
4年間働いた後、一度は帰郷し料理を離れるも、東日本大震災後、イタリアで修業をしていた「THE FUJIYA GOHONJIN」時代の先輩の誘いを受けて渡伊。イタリアンの世界に返り咲きました。1年ほど過ごしたイタリアで決意したのが、将来の独立です。「技術も知識も経験も積んで、最終的に自分の表現ができる店舗を持つことが料理人として必要なことだと思ったんです」。
帰国後は再び「THE FUJIYA GOHONJIN」で8年ほど働いたあと、開業に向けて退職。「繁華街ではなく落ち着いた場所で、既存の建物に手を入れて使いたい」と、この場所を選びました。ちなみに前職と同じ善光寺門前での独立でしたが、同店の社長からは「『ambrosia』が人気になることで『THE FUJIYA GOHONJIN』の評判が高まれば」と、背中を押してもらったそう。社長とは釣りという共通の趣味を持つ釣り仲間で、祐二さんの釣果が「ambrosia」のメニューに並ぶこともあります。
なお、長野市はレベルの高いイタリアンが多い激戦区で、同門である「THE FUJIYA GOHONJIN」出身のシェフの店も席巻中。しかし、それぞれの店は決してライバルではなくお互いに行き来をするような仲のよさからは、古の時代から性別や宗派、階級を問わず全国の善男善女を受け入れてきた善光寺の懐の深さに通じるものも感じます。
〈ambrosia〉
長野県長野市箱清水2-5-8 TEL 026-217-7406。ランチ11時30分~14時30分、ディナー17時30分~21時。(いずれも前営業日の18時までに要予約)。水・木曜、第1・3火曜休
☞ https://www.ambrosia-nagano.com/
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箱清水には桜の名所としても知られる「城山公園」もあり、その一角には2021年にリニューアルした長野県立美術館が佇みます。周囲の自然と一体化した「ランドスケープ・ミュージアム」がコンセプトで、改築と合わせ、「城山公園」も生まれ変わりました。その北側に位置する「城山動物園」は入場無料の都市型動物園で、開業60周年を迎え、今なお市民に親しまれています。
思い思いの楽しみ方ができ、路地に迷い込んでもまた新たな楽しみが見つけられる善光寺門前。参拝だけではもったいない。小さな町に踏み込めば、きっと心の琴線に触れる発見があることでしょう。
善光寺界隈裏道ガイド
マップのダウンロードはこちら
撮影:清水隆史、内山温那 取材・文:島田浩美
<著者プロフィール>
島田浩美(Hiromi Shimada〉
長野県飯綱町生まれ。信州大学卒業後、2年間の海外放浪生活を経て、長野市の出版社にて編集業とカフェ店長業を兼任。2011年、同僚デザイナーと独立し、同市内に編集兼デザイン事務所および「旅とアート」がテーマの書店「ch.books」をオープン。趣味は山登り、特技はトライアスロン。体力には自信あり。
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