• HOME
  • 伝統と文化
  • 『株式会社ふろしきや』が提供する、“垣根を越える”〈千曲市ワーケーション〉とは

『株式会社ふろしきや』が提供する、“垣根を越える”〈千曲市ワーケーション〉とは

『株式会社ふろしきや』が開催している〈千曲市ワーケーション〉。2019年10月にはじまり、2021年9月現在までに延べ約250人が全国から参加をしている。
地元の事業者・住民も多く参加する〈千曲市ワーケーション〉のリピーターは7割を超え、参加者は企画者として運営に携わることもある。筆者もいち参加者として〈千曲市ワーケーション〉を体験したが、今では広報担当者として1ヵ月に1回は千曲市に足を運ぶようになった。
なぜ千曲市ワーケーションは垣根を越えた交流がおきるのか。
参加者の体験価値向上を追い求めた結果、まちづくりにも貢献できる。意義のある楽しい活動に、ワーケーション参加者もアイディアを出し合い、いつしか企画側として入り込む構図がそこにはある。
リゾート地のホテルで優雅に過ごす従来の“ワーケーション”とは毛色が違う〈千曲市ワーケーション〉。その魅力を個人の体験も織り交ぜながら紐解く。

19619_ext_01_0_L

〈千曲市ワーケーション〉の様子

遊休資源の活用:これまでとは違う形で、使われていない場所を活用

境内に用意したコタツで作業をする〈テラワーク〉

「テレワークでなく、“テラワーク”ですか?」
筆者が初めて〈千曲市ワーケーション〉に参加したときのこと。聞いたことがない言葉に戸惑いながら、境内に足を踏み入れた。
住職の説法をうけ、瞑想体験を行い、境内にコタツを敷いて仕事をする取組みが〈テラワーク〉の正体であった。お寺で働くという非日常の体験に、不思議とアイディアが沸く感覚がした。

最高齢参加者のあんず農家さんは参加者と農業発展について話し合った

参加者が企画した〈トレインワーケーション〉は今までに3回開催される大好評企画となっている。しなの鉄道協力のもと『観光列車ろくもん』を貸し切り、車内で快適に仕事をしながら流れる景色や食事を楽しめる。
〈トレインワーケーション〉は、主に休日運行する観光列車を平日運行させることで、鉄道業界にとって新たな商機を生み出す取組みとなった。

姨捨棚田で景色を楽しみながら仕事をする参加者

既に存在する地域資源をこれまでとは違う形で活用し、使われていない場所を活用するのが〈千曲市ワーケーション〉の特長。
モバイルルーターがあれば、自然環境もワークスペースとなる。川のせせらぎや鳥のさえずりをBGMに集中し、ふと目線を上げて壮大な山々や自然に癒される。千曲市ならではの働き方は、不思議と仕事もはかどり晴れやかな気分になる。

移動課題の解決:ワーケーション参加者で発案・開発した〈MaaSシステム〉

筆者のように運転免許証を持っていないと、地方の移動はかなり不便に感じる。一方、車を持っている方は駐車場を探すのに手間取るようだ。

〈温泉MaaS〉画面イメージ

こういった移動課題を解決すべく〈温泉MaaS〉が誕生した。〈温泉MaaS〉とは、車や自転車の配車をワンストップで利用できる、LINE連携アプリを用いた独自システムを指す 。支払いはチケット制をとっており、毎回のワーケーションでアップデートを行っている。 「すごい、進化してる」リピーターである参加者が驚くのも無理はない。
紙のチケットで試験運用をしていたシステムも、現在は完全にオンライン化。チケット譲渡や一部カフェでドリンクと交換できるようになった。

座り続けて体が疲れたら近くの温泉でリフレッシュ、新しいワークスペースに向かうといった過ごし方が可能になり、仕事内容によって働く場所を変える楽しさも味わえる。車を使わない筆者も快適に千曲市内を移動して多くの場所に足を運べるようになった。

アイディアソンには運営者である田村氏も参加する

〈温泉MaaS〉はアイディアソンという、参加者がアイディアを出し合うワークショップで生まれた。地元の事業者や行政職員、会社員や経営者が机を囲み、それぞれの立場で課題や解決策を出し合う。その中で、高齢者や車いすで生活をする方、送り迎えをする方に負担がかかっているという課題を聞き、交通課題は日常に溢れているということを改めて実感した。
〈温泉MaaS〉は「あったらいいね」で終わりではなく、ワーケーション参加者達が全国からリモート開発をして完成させた。後々は市民の生活にも役立てたいという展望を描きながら、ワーケーション体験会毎にアップデートをしている。

環境問題への取組み:楽しいから学びになる、長野を舞台に世界に目を向ける

ゼロカーボンセミナーで質問をする学生

「未来に繋る学びを共有したい」。〈千曲市ワーケーション〉の体験価値をアップデートさせたいと考えていたタイミングで、田村氏は『EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社』早瀬慶氏と出会った。思いを伝えたところ、早瀬氏は心よく講師を引き受けてくれたという。
実際に筆者も参加をした本講座は、ゼロ・カーボンやカーボンニュートラルの概念はもちろん、世界や日本企業の意識変革や、環境保全活動の最新事例が学べるものであった。講演を聞くことによってゼロカーボンをマクロ的に分かりやすく学べた。

『ゼロ・カーボンレター』(EYSC製作・配布)

実は、温暖化に影響を与える産業ランキングにおいて畜産は第三位。牛のゲップに含まれるメタンなどが主要因となり、地球温暖化に影響しているのだという。長野県の郷土料理はもともと野菜や穀物が多いため、動物性食品を使わないヴィーガン料理とは相性がよい。『ゼロ・カーボンレター』と称した情報紙も同封し、信州素材を生かしたヴィーガン弁当を楽しみながら環境問題について考えるきっかけができた。

信州食材を生かしたヴィーガン弁当

料理を提供してくれたのは地元企業の『有限会社フレスコ・カンパニー』。シェフの小林賢一氏に話を聞いたところ、「動物性食品を使わないヴィーガン料理には魚を使った出汁がとれないため、コクを出すために発酵食品やきのこを活用したり、歯ごたえをつけたりすることで飽きずに美味しく楽しめる食事を心がけた」のだとか。
ヴィーガン弁当の満足感はこの上なかった。食材そのものの味が引き立てられた、コクと深みがある創作料理はどれも丁寧に味わいたくなる。高たんぱく低カロリーで血糖値の上昇が穏やかなため、食後の眠気も少なく、体が喜ぶ感覚がするのも印象的であった。

廃材を活用したDIYワークショップ(株式会社鳶髙橋提供

楽しい体験は学びになることを実感し、未来を担う子ども達に向けて〈大人も子どもも楽しめる自由研究〉を開催した。
燃料電池カー作成や廃材を活用したDIYといった6つのプログラムはワーケーション参加者の持ち込み企画。キャンプ場を貸切って実施した自由研究プログラムに、子ども達はもちろん、大人も夢中になり各々のワークに取り組んでいた。

長野県は〈ゼロカーボン戦略〉(第四次長野県地球温暖化防止県民計画、第一次長野県脱炭素社会づくり行動計画)において、「社会変革、経済発展とともに実現する持続可能な脱炭素社会づくり」を目標に活動を展開している環境推進都道府県の一つである。グローバル課題への取組みとしてふさわしい長野県をフィールドに、環境問題改善に寄与する芽が生まれはじめている。

再び参加したくなる理由は人との交流とモラトリアム!?

体験を共にし交流が深まる参加者たち

〈千曲市ワーケーション〉参加者に対して実施したアンケート結果によると、67%の人が「出会い」をワーケーションに求めていることが分かった※。 リピーターとして参加する方の動機も「交流」と回答する方が多く、「お久しぶりです」「SNSで活躍見てますよ」といった会話が弾むコミュニティーが形成されている。

『日本マイクロソフト株式会社』清水氏

こうしたコミュニティーで積み重ねた参加者の絆に加え、〈千曲市ワーケーション〉の特長を「モラトリアム」と表現する方がいる。〈千曲市ワーケーション〉参加者であり、主催側としてアイディアソンの開催や〈温泉MaaS〉の開発を担当する『日本マイクロソフト株式会社』インダストリーアドバイザー 清水 宏之氏だ。
発達心理学において「社会人としての義務などが猶予されている期間」を意味する「モラトリアム」は、いわば文化祭の準備期間のような高揚感を得る感覚に近く、得意分野を持ち寄りプロジェクトを遂行する〈千曲市ワーケーション〉の様子はまさに「モラトリアム」を体験できる時間だという。
通常業務の責任や緊張感から解放され、気軽に、得意分野を生かし活躍する「大人の文化祭」がまちづくりにも貢献するとなると、参加者が再訪するのもうなずける。

※参照:〈ワーケーションの今と可能性分析レポート〉(2020年12月実施)

今後開催のイベントや目標

『株式会社ふろしきや』田村氏(写真奥)と参加者

よりよいワーケーション体験を目指すことで、働く場所の拡充、移動手段の効率化をはかってきた『株式会社ふろしきや』。代表田村氏が先導する〈千曲市ワーケーション〉は、ワーケーション施設を一から作るのではなく、既存の地域資源を有効活用し、交流を通じた学びに重きを置いている。
『株式会社ふろしきや』の活動に共感したワーケーション参加者は、次第にワーケーションの運営者として参画。行政・宿泊施設・飲食店、そして鉄道事業者等も協働で「ワーケーションを通したまちづくり」を実験的に進めている。

 

今後開催予定のイベントは下記参照
https://db.go-nagano.net/topics_detail11/id=21467

 

〈千曲市ワーケーション〉概要
https://furoshiki-ya.co.jp/workation_lab/

*事業・イベント問い合わせ先
work-at-chikuma@furoshiki-ya-co.jp
*広報問い合わせ先 ☞ pr@furoshiki-ya-co.jp

千曲川と山が織りなす景色

〈千曲市ワーケーション〉参加者は多忙な方ばかりだが、どこか楽しそうにしている印象がある。筆者もまた、参加者・運営者として、いずれの立場でも楽しませてもらっている。予想ができない出会いから新たな取組みがはじまり、地域に貢献できる〈千曲市ワーケーション〉はまさにライフワークと呼ぶにふさわしい。まさか自分が千曲市という、聞いたことがなかった場所に月に一度足を運ぶとは思ってもいなかったが、ワーケーションを通じて出会った方々に再会し、自然の中で深呼吸をすると無駄なものがそぎ落とされ、研ぎ澄まされる。
働き方や地域との関わり方が自ずと変わってくる、そんな感覚を一人でも多くの方に伝えたいと、筆者は微力ながら広報活動を手伝わせていただいている。読者の方とも〈千曲市ワーケーション〉でお会いできることを願ってやまない。

 

写真提供:株式会社ふろしきや 文:坂下彩花

 

『株式会社ふろしきや』代表・田村英彦氏 「関係人口創出というより、ワーケーション参加者が快適にそして刺激的に働くためにはどうしたらよいかを考え続けています。」先に壮大な目標を掲げるのではなく、参加者の体験価値を高めることにフォーカスをしてきたという田村氏。ユーザー体験の向上を目指す上で、「遊休資源の活用」・「移動課題の解決」・「環境問題への取組み」がリンクし、〈千曲市ワーケーション〉はまちづくりに貢献する事業へと発展した。

<著者プロフィール>
『合同会社KOUYO』
『株式会社ふろしきや』
坂下彩花
スタートアップ企業で約10年営業、人事、広報を経験し、2020年『合同会社KOUYO』を設立。建築会社やSaaS企業の支援を行っている。2021年よりワーケーション事業の企画・運営・広報として〈千曲市ワーケーション〉事業に参画中。

閲覧に基づくおすすめ記事

MENU