ワクワク感が止まらない。
自称遊び人が「田舎の商店街を”好き”で埋め尽くす!」
長野県上伊那郡辰野町・トビチ商店街。
辰野町は松本市から少し南に行った所にある、人口約2万人の小さなまちだ。夏はほたる祭りで各地から見物客が集まる、自然豊かな地域だが、高齢化や商店街のシャッター街化も進む。 そんな辰野町に、私が興味を持つきっかけとなったイベントがある。2019年12月7日に下辰野商店街で開催された『トビチMarket(トビチマーケット)』。21の空き店舗、空き地を使ってマーケットを実施し、まちの10年後の1日を前借り。まちの人たちと一緒に未来を考えるというものだ。 まちの未来を考えるとき、一番手っ取り早いのは、それを目の前で再現すること。当日、普段はシャッター街の所にいくつもお店が出て、トークイベント等が行われた。通りには人があふれ、いつもは閑散としている商店街がにぎやかになった。そんなイベントの話を聞いて、私は企画の中心人物は誰なのだろうと気になった。それが、赤羽 孝太さんだ。
辰野が何やらアツいらしい
『トビチMarket(トビチマーケット)』を皮切りに、辰野町では今でも定期的に空き地を活用したイベントが行われていて、最近では新規開店のニュースも増えている。中でも、2021年3月20日にオープンした『Equinox Store TATSUNO(イクイノックス・ストア・タツノ)』は、松本からの出店となる『High-Five COFFEE STAND(ハイファイブコーヒースタンド)』やアパレルショップとプライムウォッシュランドリーを兼ね備えた『ロカルタス』、箕輪町からは美容雑貨店『kaymakli(カイマクル)』が出店し、3店舗の複合施設という珍しい形となっている。
せっかくオープンするのならと、近くの空き地や空き店舗を活用してオープニングイベントを開催した。 @トビチ商店街ホームページ
空き地の他にも、空き店舗を使って古着や雑貨の期間限定のポップアップなどがあったり、自転車販売&レンタサイクルの『grav bicycle station(グラブバイシクルステーション)』もこの日に合わせてリニューアルオープン。
18ルームというサービスも併せてスタート。隣の箕輪町のビストロなゆたさんのデリや、洋菓子、おやきなど5-6店舗の商品が自動販売機と同じく、いつでも買えるシステムだ。 周辺に洋菓子店があまり無いことや、なかなか予約が取れないビストロのデリが買えちゃう!ということで、ひっきりなしに買い求めに来る人の姿があった。
自称「遊び人」赤羽さんって一体何者?
たくさんのお店や企画が立ち上がる辰野町。これらの企画や事業を牽引している赤羽さんは一体どんな人なのか・・?やっていることが多すぎて、周囲の人もなかなか「こんな人!」と言い表すのが難しい。
辰野町出身の赤羽さんは、東京で建築を学んだ後、建築業界でしばらく働き、個人の建築事務所を設立。その後神奈川と辰野町の2拠点生活をする際、辰野町の集落支援員に着任した。任期中に『一般社団法人◯(まる)と編集社』を立ち上げ、空きビルを一棟借りし、改装してつくったシェアスタジオ『STUDIOリバー(スタジオリバー)』として運営しつつ、飲食店営業許可つきのイベントスペースなども運営している。直近では不動産業も始め、仏壇が残されたままの部屋など何らかの事情で通常の不動産屋さんが手放す物件等を請け負う。古民家からはしばしば魅力的な家財なども出てくるため、古物商として販売もしている。また仕事柄、産業廃棄物処理会社と一緒に動くことも多いため、片付けや、資源ゴミの回収といった事業も手掛けている。
さすが、リストアップするだけでも相当な数。やっていることが多岐にわたるからこそ、認知のされ方は出会い方やタイミングによってもまちまちだ。
「なので、何屋さん?と聞かれると、すごく困るんです。あえて言うなら遊び人というしかないんだろうなと思うんですけど」。
しかし、赤羽さんがなぜここまで広い業種をカバーしているのか、その答えはシンプルだ。
「やらざるを得ないからなんです。その方がいろんなことをひととおりおつなぎできたり、やっている事業ごとに深みが出る」。
空き家が面白いとなったら、不動産業をやっていれば入り口から相談に乗ることができる。片付けで出てきた魅力的な家財は、新しいお店をオープンする人や欲しいという人に届けられるよう古物商の資格を取る。 何かを狙ってというより、活動の中で地続きに見えてくる必要な役割をその都度インストールしていった結果、赤羽さんの守備範囲の広さがあるのだ。
住んでいる自分の「こうなったらいいな」をまちに実装する
赤羽さんを突き動かすのは必要性だけではない。運営している飲食許可つきレンタルスペースについて伺った。
「僕らの行きたい飲食店がまちになければ、食べたい料理を1日でも食べられる方がいいじゃないですか。このまちに1日でもおしゃれな洋服屋さんが出店したらとか、おいしいコーヒーが飲めたらとか、自分たちがこうだったらいいなと思うことを単純にやるって感じですね」。
自分の楽しみたいことにお金を使う。とても単純なことのように聞こえるが、大半の人は無いものは有るところで調達することを選ぶだろう、その方が楽なのだから。赤羽さんのすごいところは、無いものは自分たちで作るというスタンスでいるところだ。
「僕らの場合は、暮らしも仕事も辰野町にあります。多くの時間を否応なしに費やさなければならないとしたら、身近においしいカフェがあったり、おしゃれな洋服屋さんがあったり、お土産やプレゼントを買えたらうれしいじゃないですか」。
自分が生活や仕事の基盤を置く地域は、当然そこでの滞在時間も増える。であれば、そこが楽しい場所であった方がよいだろう。赤羽さんの行動の動機となるのは、まちの住民である彼自身の、「こうなったらいいな」という等身大の欲求である部分も大きいと思う。
大事にするのは”好き+許容性”。多様な人や生き方が共存するまちに
好きなものをまちに実装していくには、周辺環境も無視できない。まちの人の反応も気になるところ。
シャッター街化が進む通りでは、空き店舗が増え、事業承継を諦める人も増えている。そんな中、新規事業で異なるターゲットに向けたサービスを展開するお店が増えてくることについては、まちの人も応援してくれる傾向にあるようだ。
では、新たにお店を開く人たちにとっては、辰野町はどういうまちだろうか?
「大きな都市でお店を開く場合、隙間もないし、人を集めるための戦略も必要になります。ここは、人が少ないので、ビジネスのことを優先で考えても難しい。じゃあ好きなことをやろうとなるし、物価も安く、場所も選び放題なので、ローリスクで色々始められるメリットがあります」。
また、人が少ないからこそ、辰野町でお店の経営が成り立つには、ファンが付くお店であること。辰野町の人が1時間かけて松本まで買い物に行くように、1時間圏内で考えた時に「あそこに行きたい」という目的地化するお店であることも必要になる。何でも、誰でも、という訳ではなさそうだ。
自分の好きなことができる =居場所を作れるまちになろうとしている辰野町。こんなにいろいろとやっている赤羽さんだが、『辰野町のドン』ということでは全くなく、「挑戦しようとする人たちにとって、自分ができる範囲のことを色々と支援していけたら」と話す。
今も、これからも、たくさんの企画や事業の立ち上げをする赤羽さんが、辰野町に求める要素としてもう一つあげたのは”許容性"だ。多様な考えを持つ人ががたくさん集まれば赤羽さんの存在はいい意味で薄れていく。多様な人や生き方が許容されるまちであれば、もっと生きやすいまちが実現されていくだろう。
「5年後には引退して陶芸家になっていたい。緩やかに山にこもっていく予定です。たまに商店街が賑やかになると、目撃情報がでたり。なんか面白いじゃないですか」。
赤羽さんが語る”面白さ”の根底には、まるで少年時代を想起させられるようなワクワク感が、確かに存在する。
きっと隠遁生活などしていられないくらい、5年後も忙しいかもしれないが、今後も辰野町は楽しい企画が立ち上がっていくに違いない。
赤羽さんの瞳に映るのは、果てしなく拡がる辰野町のワクワクする未来だ。
文:岩井 美咲(旅人)
トビチ商店街
https://tobichi.jp/
<プロフィール情報>
赤羽 孝太さん
コミュニティアーキテクト/一級建築士事務所MMMstudio 代表 / 一般社団法人○と編集社 代表理事 / 地域力創造アドバイザー(総務省) / 一級建築士 / 宅建士 / 大工
1981年長野県辰野町生まれAB型。神奈川大学建築学科、同大大学院(修士)卒。建築家の物件を中心に都内工務店にて大工として従事し、2014年に都内設計事務所を経て独立。2016年~2019年3月まで辰野町集落支援員となり、拠点を辰野町へ移して首都圏と辰野町の2拠点生活をしながら、空き家・空き店舗を活用した地域づくり・まちづくり・エリアリノベーション活動を行う。
<著者プロフィール>
岩井 美咲
Kobu. Productions代表
1990年東京⽣まれ。Impact HUB Tokyoに新卒⼊社後、起業家のコミュニティづくりや事業伴⾛を行いながらプログラムやイベントを運営する。2018年より⻑野県塩尻市のシビック・イノベーション拠点「スナバ」の⽴ち上げに参画し、2020年に塩尻市に移住&独立。屋号の由来である「⿎舞する」をテーマに、向き合う⼈のビジョンや課題を掘り下げ、必要な伴⾛を提供しつつ企画を一緒に実現していく。事業内容はインタビューやPV制作のディレクション、ブランド⽴ち上げから経営伴⾛まで多岐にわたる。
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