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山の斜面に浮かび上がる桜並木の“昇り竜”が絶景! 【光城山~長峰山】(安曇野市)
春の花といえば、代表格が桜。その絶好のお花見登山スポットが、1,500本ものソメイヨシノが登山道から山頂にかけて連なる安曇野市の光城山(ひかるじょうやま:標高912m)と、その北に位置する長峰山(ながみねやま:標高933m)です。どちらも低山ながら、山頂からの眺望が抜群で、とくに桜の時季は大勢の人でにぎわう人気の山。光城山は登山口から山頂までゆっくり登っても約1時間でたどり着け、そこから長峰山へ足を伸ばしてもプラス1時間ほどなので、ふたつの山の魅力を一度に味わうことができます。
光城山は、鎌倉時代にこの地を治めていた海野氏の一族である光氏によって築かれた山城が名前の由来。登山口から山頂まではおよそ1.5km、高低差400mほどで、登山道も歩きやすく整備されているので、ハイキングビギナーも安心です。至るところに植樹されたソメイヨシノは大正天皇の即位を記念したもの。遠まきに眺めると、淡いピンク色の桜並木が山の斜面を駆け上がるようで「昇り竜」に例えられることもある、春の安曇野の風物詩です。
ジグザグと続く登山道の桜の木には番号が付いており、400~500本目あたりが中間地点。さらに進むと、山頂の少し手前に、ベンチが置かれた休憩スペースに到着します。一帯は桜の木が最も多いエリア。晴れた日は常念岳をはじめとする北アルプスと桜の花をともに望める、SNS映え必至の撮影スポットです。
桜の回廊を抜けて山頂へ進むと、眼前の北アルプスと眼下に広がる桜並木のコントラストが見事。例年の見頃は4月中旬から下旬で、麓から咲きはじめ、山頂まで徐々に開花していくので、長い期間、お花見を楽しめるのも魅力です。
光城山から長峰山へは、山頂から「天平の森・長峰山」の看板の方向へ。オートキャンプ場などを備えた森林体験交流施設「天平の森」を経て山頂に到着すると、光城山よりも視界が開けた、安曇野市随一の絶景が広がります。展望台もあり、パラグライダーの離陸場所にもなっています。
下山は来た道を戻ってもよいですが、せっかくなら麓の一軒宿「長峰荘」方面の登山道へ。「長峰荘」から光城山登山口までは約2km、徒歩40分ほどで戻ることができます。 なお、この「長峰荘」裏手の登山口にも光城山登山口にも駐車場がありますし、どちらの登山口もJR篠ノ井線田沢駅や明科駅から歩くことも可能。長峰山は車でもアクセスできますが、桜の時季はぜひ歩いてのんびり桜を眺めたいスポットです。見頃に合わせ、夜はライトアップも行われます。
COURSE DATA
光城山登山口(60分)→光城山山頂(40分)→天平の森(20分)→長峰山山頂(50分)→長峰荘(40分)→光城山登山口
(総距離 約8.0km、行動時間 約3時間30分、累積標高差 約500m)
INFORMATION
長野県安曇野市豊科光(光城山)・安曇野市明科中川手(長峰山)
TEL 0263-82-9363(安曇野市観光情報センター)
☞https://azumino-e-tabi.net/
松本市街地からもアクセス良好。桜の名所をトレッキング【弘法山古墳~中山霊園】(松本市)
JR松本駅から南東へ約3km。店舗や住宅が立ち並ぶ市街地にぽっかりと浮かび上がる桜色の小山は、国史跡の弘法山古墳です。中山丘陵の北側突端部に位置する弘法山(標高652m)の山頂にあたり、東日本でも古い紀元3世紀末に造られたとされる、東日本最大級の前方後方墳。山頂からは北アルプスを一望でき、春は約4,000本もの桜で古墳全体が包まれます。
この桜は1980年代に地元のライオンズクラブと地域の子どもたちなどによって植樹されたもの。弘法山古墳が国史跡指定を受けた1976 年当時、一帯はニセアカシアが生い茂っていましたが、市民が楽しめる桜の山にしようと実施されました。いまでは県内屈指の桜の名所として広く知られ、実写映画化された漫画『Orange』に登場したり、JR東日本「大人の休日倶楽部」のポスターで女優・吉永小百合さんが訪ねていたりと、話題を集めています。
弘法山古墳は駐車場から歩いてすぐですが、北尾根からトレッキングルートが続いており、中山丘陵の南側にある市営墓地公園・中山霊園(標高836m)にたどり着くことができます。2km強の山道は、最初は緩やかな登り坂ながら、ベンチのある休憩所を経ると次第に急勾配に。尾根に出ると、眼下に松本平を見渡せるポイントも現れます。
アップダウンを繰り返して到着する中山霊園は、春には満開の桜が出迎えてくれるお花見スポットですが、弘法山古墳に比べて訪れる人が少ない穴場。手入れの行き届いた芝生が広がる東京ドーム10個分の広大な敷地に遊歩道が整備されており、満開の桜並木をゆっくり楽しめます。園内には多目的広場やゲートボール場、マレットゴルフ場なども整備されていて、松本市街地が一望できるロケーション。また、一帯は 「中山古墳群」とよばれるほど古墳が点在しており、園内でも古墳を見ることができます。
COURSE DATA
弘法山古墳(60分)→中山霊園(50分)→弘法山古墳
(総距離8.0km、行動時間 約3時間30分、累積標高差 約500m)
INFORMATION
長野県松本市並柳2-1000ほか
0263-34-3000(松本市観光プロモーション課)
☞https://visitmatsumoto.com/
長野県松本市中山字中山1742-8(中山霊園)
0263-58-5922(中山霊園管理事務所)
☞https://www.nakayama-reien.com/
県内最大規模のレンゲツツジの群生地【五味池破風高原~破風岳】(須坂市)
長野県と群馬県の境に位置する破風岳(標高1,999m)の西側に広がる須坂市の五味池破風(ごみいけはふ)高原。6月中旬から下旬にかけては100万株ともいわれるオレンジ色のレンゲツツジが群生する、知る人ぞ知る名所です。その規模は県下最大級。かつて放牧場だった開放的な草原を中心に約130haの「五味池破風高原自然園」が広がり、一帯が鮮やかなオレンジ色に彩られます。また、高原からは北アルプスや北信五岳、善光寺平の壮観な眺めも楽しめます。
アクセスは須坂市街地から県道五味池高原線を通って車で約50分。80ものカーブが連続する細い山道を20kmほど上がった五味池駐車場(第一駐車場:レンゲツツジのシーズン中は環境保護協力金1人200円、中学生以下無料)から徒歩で「五味池破風高原自然園」まで登っていきます。なお、五味池とは、大池、苦池、西五味池、よし河原池、つつじが池の5つの池の総称です(よし河原池と東五味池は枯渇消失)。
園内での見どころは、大池周辺(標高約1,480m)、つつじハウス周辺(標高約1,600m)、大平周辺(標高約1,800m)。標高差があるため見頃の時期も変わり、大池周辺から咲き始め、つつじハウス周辺、大平周辺と移り咲いていきます。駐車場に最も近いのが、つつじハウス周辺。遊歩道を進んで400mほどで到着します。そこからあずまや展望台に進み、分岐で大池ルートと大平ルートへ。どちらも駐車場から約1.5kmでたどり着くことができます。遊歩道のほかに作業道路を通って大池や大平にアクセスすることも可能です。
大平からは、足を伸ばして破風岳や土鍋山(2,000m)へ。破風岳山頂までの登山ルートは林道を進む北側のルートと、土鍋山の登山道にもつながる南側ルートがあります。山頂からは、根子岳、四阿山や志賀高原、浅間山などが間近に望め、眼下にはかつての硫黄鉱山である小串鉱山跡や毛無峠などの荒涼としたインパクトある風景も広がります。
ちなみに、この「五味池破風高原自然園」でレンゲツツジとともに人気なのが、管理棟「つつじハウス」で提供している名物のジンギスカン。毎年、レンゲツツジの開花に合わせて営業がはじまり、これを楽しみに訪れる人も少なくないとか。詳しくは問い合わせを(080-8744-4051/案内所)。
COURSE DATA
五味池駐車場(30分)→大平(林道60分)→破風岳山頂(90分)→五味池駐車場
(総距離 約8.4km、行動時間 約3時間、累積標高差 約400m)
INFORMATION
長野県須坂市豊丘豊丘上町
TEL 026-215-2225(信州須坂観光協会)
☞https://www.suzaka-kankokyokai.jp/
国天然記念物のレンゲツツジ大群落とトレッキングを楽しむ【湯の丸高原~湯ノ丸山】(東御市)
上信越国立公園の南西部、長野県と群馬県の県境に位置する標高1,800~2,000mの湯の丸高原。6月中旬から下旬にかけて開花する「湯の丸レンゲツツジ群落」は国の天然記念物に指定されています。湯ノ丸山(南峰2,101m、北峰2,099m)の山肌に約60万株のレンゲツツジが広がる風景は圧巻。また「湯の丸スキー場」第一ゲレンデのリフト周辺や、第一ゲレンデを登り切ったところにある「つつじ平」では、レンゲツツジを眺めながら散策が楽しめます。期間中は「夏山リフト」も運行。高原の真っ青な空にレンゲツツジの朱色が映え、訪れる人を魅了しています。
このレンゲツツジの誕生は、この地で放牧がはじまった明治37(1904)年までさかのぼります。当時、牧場の開設によって牛や馬など約300~400頭の家畜が夏に放牧されるようになりましたが、レンゲツツジの葉には有毒成分が含まれているため牛たちが食べず、レンゲツツジ以外の草を食べ続けたのです。その結果、レンゲツツジのみが残り、現在の一大群落が生み出されました。面積が約174haと広大で、標高2,000m以上とレンゲツツジの生育高度限界に達していることや、変化に富んだ地形、レンゲツツジの花色に濃淡があって花数にも変異が多く見られるなど、学術的な価値が高いことから、昭和31(1956)年に国の天然記念物に指定。いまは牛の放牧数は少なくなりましたが、わずかながら毎年6月から行われています。
高原からは手頃な登山コースがいくつもあります。湯の丸高原を代表するなだらかな山容の湯ノ丸山の南峰頂上をめざすルートは、湯の丸高原ビジターセンターがある地蔵峠からおよそ2kmで1時間45分ほど。山頂からは噴煙がたなびく浅間山や北アルプス、八ヶ岳連峰、南アルプス、奥秩父の山々や富士山など、360°の大展望が楽しめます。時間や体力に余裕がある場合は、湯ノ丸山南峰から北峰山頂をめざすのもおすすめ。往復約1.8㎞です。
COURSE DATA
地蔵峠・湯の丸高原ビジターセンター(25分)→第1リフト山頂(25分)→鐘分岐(55分)→湯ノ丸山南峰山頂(35分)→鐘分岐(25分)→第1リフト山頂(15分)→湯の丸高原ビジターセンター
(総距離約4.2km、行動時間 約3時間、高低差 約370m)
INFORMATION
〈湯の丸高原・湯ノ丸山〉 長野県東御市湯の丸高原
TEL 0268-62-7701(信州とうみ観光協会)
☞https://tomikan.jp/
日本を代表する貴重な高層湿原の探勝と歴史の道【八島ヶ原湿原~鷲ヶ峰・和田峠】(下諏訪町・長和町)
長野県のほぼ中央、諏訪湖の北東に位置する霧ヶ峰高原。その北西部、標高1,640mに広がる八島ヶ原湿原は学術的にも貴重な高層湿原で、国の天然記念物に指定されています。高層湿原とは、枯死したミズゴケなどが分解されず、泥炭となって湖沼に蓄積され、中央部が周囲より高くなったことで、地下水ではなく雨水などで維持されている貧栄養の湿原のこと。八島ヶ原湿原は1万2,000年前に誕生した日本最南端の高層湿原で、春から秋にかけては、この地で発見されたものを含む約360種類もの植物を見ることができます。春はアケビやレンゲツツジなどが草原に彩りを添え、環境省の「自然の音100選」に選ばれた八島ヶ原湿原のシュレーゲルアオガエルの蛙鳴(あめい)もにぎやかに響きます。
また、古代は動物たちにとっての貴重な水場でもあったとされ、その動物を求め、縄文時代には格好の狩場だったともいわれています。
湿原内には木道が整備されており、一周3.7km、歩いて1時間30分ほど。高低差もほぼないので、自分のペースで動植物の観察が楽しめます。木道途中には、霧ヶ峰高原の西端にあたる鷲ヶ峰(標高1,798m)への登山口があり、山頂までは約1.5km、45分ほど。湿原の林を抜け、なだらかな明るい尾根道を登って行きます。山頂からは、美ヶ原や車山、諏訪湖、蓼科山など広い展望を楽しめます。
山頂からは来た道を折り返して下山してもよいですし、時間と体力があれば和田峠に足を伸ばすことも。滑りやすい小石まじりの急な下り坂と登り返しが続き、1時間30分ほどで和田峠トンネルへ。さらに、30分ほどで旧中山道の和田峠古峠に到着します。
COURSE DATA
八島ヶ原湿原木道一周(90分)→鷲ヶ峰登山口(45分)→鷲ヶ峰山頂(35分)→鷲ヶ峰登山口
(総距離 約6.8km、行動時間 約2時間50分、累積標高差 約220m)
(足を伸ばす場合は)鷲ヶ峰登山口(45分)→鷲ヶ峰山頂(90分)→和田峠トンネル(30分)→和田峠古峠(90分)→三峰山
(総距離 約6.8km、行動時間 約4時間15分、累積標高差 約570m)
INFORMATION
〈八島ヶ原湿原〉
長野県諏訪郡下諏訪町10618
TEL 0266-52-7000(八島ビジターセンターあざみ館)※11月上旬~4月下旬の冬季休業中は0266-26-2102 (下諏訪観光協会)
☞https://shimosuwaonsen.jp/yashima/
〈和田峠〉
長野県小県郡長和町和田
TEL 0268-68-0006(信州・長和町観光協会)
☞https://www.nagawa.info/
100万本のスズランと山野草が咲き誇る天空の花園【入笠湿原~入笠山】(富士見町)
“花の宝庫”として知られる標高1,955mの入笠山(にゅうかさやま)。富士見町と伊那市にまたがってそびえ、山麓の標高1,734mに位置する入笠湿原では、春から秋にかけて約150種類ともいわれる草花が咲き継ぎます。とくに6月に咲き誇る100万本ものニホンスズランの群生は壮観。また、入笠湿原の先、入笠山の登山口付近にも多くの花が咲く花畑が広がります。
入笠湿原へのアクセスは、麓の富士見町から「富士見パノラマリゾート」のゴンドラを利用(往復大人2,000円・小学生1,000円)。ゴンドラ山麓駅から標高1,780mの山頂駅までは10分ほどで、山頂駅を降りるとすぐに「入笠すずらん山野草公園」が広がります。5~6月には5万本以上のカタクリや20万本ものドイツスズランとともに、絶滅危惧種に指定されている釜無(かまなし)ホテイアツモリソウの花も見られる公園エリア。アクセスがしやすく眺望もよいため、多くの人でにぎわいます。
ここから10分ほど歩いて入笠湿原へ。1.85haもの湿原が広がり、木道に沿って歩くと、ニホンスズランをはじめとする可憐な山野草を鑑賞できます。 湿原から入笠山の登山口へは10分ほど。登山口の斜面に広がる花畑でも四季折々の山野草や高山植物が楽しめます。
登山口から入笠山山頂へは約30分。カラマツ林の登山道を抜けて進みます。途中、岩場コースと迂回路コースがありますが、岩場といっても足元に注意すればよい程度なので、山頂まで危険箇所などはほぼありません。山頂は360度の視界が開けた絶景のマウンテンビュー。八ヶ岳、奥秩父連峰、富士山、南アルプス、中央アルプスの大パノラマが広がります。晴れた日は深田久弥の『日本百名山』のうち20座以上が展望でき、息をのむ美しさです。
なお、登山道はこの登山口のほかに、2019年には「首切清水」という名の清水が湧く「首切登山口」からの新コースも開通しました。下山はこの「首切登山口」のルートを使い、登山口近くの大阿原湿原に立ち寄るのもおすすめ。約3億年前に形成されたとされる老年時代の高層湿原で、乾燥度が高く、コナシやシラカバなどの木々が侵入しているのが見られます。また、土の養分が少ないために食虫植物が生育するのも特徴。一周1,700mの遊歩道が整備されていて、40分ほどで周遊できます。帰り道は舗装道路を通って入笠湿原へ。途中、八ヶ岳ビューポイントもお見逃しなく。
さらに足を伸ばすと、富士見町には日本を代表する縄文時代の遺跡「井戸尻遺跡」があります。「富士見パノラマリゾート」からは車で20分ほど。湧水が豊富だったことから人が暮らすには適した場所とされ、狩猟や採集などが中心だったとされる縄文時代に農耕があったと主張した「縄文農耕論」の発祥の地です。縄文農耕や土器造形から、縄文人の豊かな精神世界を解明する舞台となりました。一帯は「井戸尻史跡公園」として整備され、豊かな湧水による公園内の植栽田には、初夏にはスイレンや大賀ハス(古代ハス)などの水生・湿生植物が咲き誇ります。
COURSE DATA
ゴンドラ山頂駅(1分)→入笠すずらん山野草公園(10分)→入笠湿原(10分)→花畑登山口(30分)→入笠山山頂(20分)→首切登山口(20分)→大阿原湿原(一周40分、首切登山口へは20分)→首切登山口(30分)→入笠湿原(15分)→ゴンドラ山頂駅
(総距離 約7.4km、行動時間 約3時間15分、累積標高差 約340m)
INFORMATION
〈富士見パノラマリゾート〉
長野県諏訪郡富士見町富士見6666-703
TEL 0266-62-5666
☞https://www.fujimipanorama.com/summer/
〈井戸尻遺跡〉
長野県諏訪郡富士見町境
TEL 0266-64-2044(井戸尻考古館)
☞https://userweb.alles.or.jp/fujimi/idojiri.html
取材・撮影・文:島田 浩美
<著者プロフィール>
島田 浩美(Hiromi Shimada)
長野県飯綱町生まれ。信州大学卒業後、2年間の海外放浪生活を経て、長野市の出版社にて編集業とカフェ店長業を兼任。2011年、同僚デザイナーと独立し、同市内に編集兼デザイン事務所および「旅とアート」がテーマの書店「ch.books」をオープン。趣味は山登り、特技はトライアスロン。体力には自信あり。
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