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『GREEN WORK HAKUBA』白馬村の未来へのデザインシフトが始まった_❶

長野県北安曇郡白馬村。北アルプス北端に位置する日本屈指の山岳リゾートにして観光立村。山麓には豊かな水系に恵まれた中山間地域ならではの濃密な農村風景と伝統文化が息づく。ウインターシーズンには約150万人の観光客が訪れる誰もが認める絶対的アドバンテージ。しかし白馬村観光局事務局長、福島洋次郎氏が体感し見据える世界は異なる。地球温暖化による異常気象、雪不足、そして新型コロナウイルス禍。世界規模で社会生活が激変し始めた今こそ、白馬村は危機感を持って変化しなければいけないと福島氏は言う。2020年9月14日にスタートした観光というジャンルを超え地域全体の未来を形成するプロジェクト『GREEN WORK HAKUBA』を追いかける。

取材:佐藤ピエール

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『GREEN WORK HAKUBA』第1回目の開催場所となった白馬岩岳マウンテンリゾート。リゾートワークプログラム実践の森に立つ白馬村観光局事務局長福島洋次郎氏。

大自然に育まれる白馬だからこその“気付きと責任”

2017年白馬村で開催した『Freeride World Tour(FWT)』が僕の意識を変えました。1996年スイスで生まれた、自然のままの地形を滑り、テクニックやスタイルを競う“フリーライド”世界一を決めるツアーです。世界中からトップレベルのライダーが集い、競技だけではなくエコロジーやカルチャーに関する意見交換も盛んです。元々、自然と対話しながら最高のパフォーマンスを実践するライダーたちですから環境に対しても敏感でとても勉強していることに驚きました。開催期間中、ライダーたちとビールを飲みながら親交を深めていくうちに、自分の中にある白馬の自然への思いが不足していたと痛感したんです。

それから、さまざまなジャンルで活躍する村内外の人たちと白馬の大自然と向き合い、考え、そして行動するアイディアを模索しました。徐々に方向性みたいなものが見えてきたとき、世界中の注目を集めたグレタ・エルンマン・トゥンベリさんの登場です。16歳の少女が巻き起こした気候変動への意識改革は白馬高校の生徒にも届きグローバル気候マーチが行われ、白馬村は2019年12月『気候非常事態宣言』を表明しました。

村内、そして行政の中でも環境についての議論が活発になり、またビジネスパートナーや友人からも協力のお声がけをいただきました。ちょっと時間はかかりましたがパズルの欠けていたピースが見つかったんです。それが『GREEN WORK HAKUBA』プロジェクトです」

リゾート地と革新的概念『サーキュラーエコノミー(循環型経済)』の出会い

提供:新東通信

提供:新東通信

提供:新東通信

提供:新東通信

提供:新東通信

提供:新東通信

提供:新東通信

提供:新東通信

『GREEN WORK HAKUBA』プロジェクトのキックオフにはどのようなコンテンツがふさわしいのか? パートナーでもある新東通信さん、ご紹介いただいたインフォバーンの小林弘人さんともミーティングを重ね、白馬の自然と解け合う特別な価値を生み出すものが良いのでは、という結論になりました。すでに環境保全、SDGsへの認識も高まり、さらにその先を見つめる考え方・行動として、世界が注目する「サーキュラーエコノミー」について話し合うプログラムを選択したんです。机に座ったままではなく、マニュアルを踏襲した学習というスタイルでもなく、楽しみながら体感する、そんなコンセプトでの開催を考えました。また、従来どおりのペーパーテキストに依存せず、『GREEN WORK HSAKUBA』に関する概念をグラフィック化しました。僕もこのデザインが大好きです。

サーキュラーエコノミーは従来型の廃棄を前提にした大量生産・大量消費システムとは根本的に異なり、「廃棄物を出す」という概念を設計やデザインの段階からなくし、資源利用を続ける循環型の経済システムです。海外では環境への負荷を減らすだけではなく、むしろこれからの経済と社会の維持には欠かせないものとして官民の両面において採用が進められています。世界の具体的事例をお話ししますと、オランダ・アムステルダムのジーンズスタートアップ企業『MUD J E A N S(マッド・ジーンズ)』があります。最近皆さんも耳にするサブスクリプションを導入したビジネス展開をしています。まず初回登録料29ユーロを支払い、月額7.5ユーロでリース利用するシステムです。1年間のリース契約期間終了時には、現在使用しているジーンズを返却して新品と交換し継続リースするか、使用ジーンズを買い取るか、を選択できます。回収されたジーンズを繊維へ戻し再度新しいジーンズを製造します。約40%がリサイクルのコットン、約60%は契約した生産農家のオーガニックコットンが使用されています。ビジネスモデルとしても高い評価を得ていますし、デザインコンセプトもとてもカッコいいので参考URLを紹介しますね。

*https://www.earthackers.com/mud-jeans-the-worlds-first-sustainable-circular-economy-jeans-brand/

新たなワークスタイルが創出する新しい生き方

中石和良氏/一般社団法人サーキュラーエコノミージャパン代表理事。「サーキュラーエコノミー」への移行を加速するプラットフォームを運営。企業のサスティナビリティ戦略構築、サーキュラーエコノミービジネスモデル構築、商品・サービス企画開発など、日本における中心的存在。2020年8月『サーキュラーエコノミー:企業がやるべきSDGs実践の書/ポプラ新書』を上梓。『GREEN WORK HAKUBA』でも監修的立場を果たした。

酒井里奈氏/株式会社ファーメンステーション代表。未利用資源から独自の発酵技術でエタノールなどを製造。高付加価値なサスティナブル原材料として販売する事業を展開している。第1回「Japan Beauty Tech Awards」特別賞、第3回「DBJ女性ビジネスプランコンペティション」特別賞、「地域イノベーション賞」、「ブリティッシュ・ビジネス・アワード(BBA)2014 Community Contribution」等を受賞。

東野唯史氏/株式会社 ReBuilding Center 代表取締役社長。2014年、結婚を機に妻・華南子氏と共に空間デザインユニット『medicara』として全国の店舗デザイン・施工・運営アドバイスを行う。2015年夏、新婚旅行先のアメリカ・ポートランドで『ReBuilding Center』に出会い、2016年秋『ReBuilding Center JAPAN』を長野県諏訪市に創設する。

小林弘人氏/『Unchained』代表、インフォバーン CVO。『WIRED(日本版)』『GIZMODO(日本版)』など紙とウェブの両分野で多くの媒体を立ち上げ、1998年より企業のデジタル・コミュニケーションを支援する会社インフォバーンを起業。国内外企業のデジタルマーケティング全般からウェブメディアの立ち上げ・運用などを支援。コンテンツ・マーケティング、オウンドメディアの先駆として知られる。近著に『After GAFA 分散化する世界の未来地図/KADOKAWA』がある。

岩岳山頂で開催されたワークショップ。「大自然の中での“会議”ってめちゃくちゃ楽しいです!」と大興奮の参加者たち。徐々に集中力が高まり、日常とは異なるゾーンで飛び交うアイディエーションは新鮮かつ斬新だった。全国から16企業60人が参加。

今回はサーキュラーエコノミーを牽引する識者、実践者、そしてコンテンツ・マーケティングの先駆者をスピーカーとしてお招きしました。4日間の日程で、スピーカーからの海外・国内における事例紹介をイントロダクションに、全国から来村されたグローバル企業や事業者、イノベーターの皆さんと共にテーマを設けたトーキングやアイディエーションをワークショップ形式での進行です。天候に不安もあったのですが、まだ深緑が残る岩岳の山頂に壁も天井もない、そして目の前には雄麗な白馬連峰が広がるオープン・オフィスを展開したかったんです。大自然の懐に飛び込んで職種も立場も異なる次世代のリーダーたちから湧き上がるサーキューラーエコノミーの実装案にとても興奮しました。

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