今年で開園150年。〈高遠城址公園〉のお花見情報2025

“天下第一の桜”と名高い、長野県伊那市の〈高遠城址公園〉。毎年4月上旬から中旬にかけて1500本の『タカトオコヒガンザクラ』が咲き、園内は薄紅色の彩りに包まれます。じつは2025年は、『タカトオコヒガンザクラ』が高遠城址へ移植され公園化して、150周年を迎える年。そのため一層の賑わいが予想されますが、本記事では、できる限り快適で充実した高遠のお花見旅を楽しんでいただけるよう、現地情報を盛り込みながらその魅力をお届けします。

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TOP PHOTO:©伊那市観光協会
 

“天下第一の桜” 〈高遠城址公園〉の桜の魅力

“やがて、前方遥か遠くに、桜樹の固まりを載せた台地が見えてきた。背後に山を背負い、その台地だけが薄桃色のクレヨンで塗りたくられている。雪を頂いた仙丈はその台地の少し右手に、大きい姿を見せている。いかにも信濃の早春の眺めである。”
――井上 靖(1969)、『化石』角川文庫

長野県伊那市〈高遠城址公園〉は、毎年シーズン中に15万人もの花見客が訪れている、県内でも屈指の人気を誇るお花見スポットとして知られています。その人気の理由には、歴史ある〈高遠城址公園〉内に1500本もの桜が植えられていることや、その桜のすべてがソメイヨシノよりも小ぶりで赤みを帯びた固有種『タカトオコヒガンザクラ』であることなどが挙げられます。

〈高遠城址公園〉の桜の始まりは、明治8年(1875年)。旧高遠藩の武士たちが私財を出し、『桜の馬場』(※)に植えられていた桜並木の若木を高遠城址へ移植したと伝えられています。それから150年もの間、優美な姿で私たちに春の訪れを知らせ続けているのです。
※現在の高遠小学校の場所にあった。校内には桜の馬場跡を示す石碑がある。

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〈高遠城址公園〉を象徴するスポットのひとつ、『桜雲橋』。満開時は、この橋と奥の『問屋門』を桜の雲が覆い隠す。夜間は光の演出も。(提供:伊那市観光協会)
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かつて高遠城の正面玄関として使われていた搦手(からめて)門の傍らにこのような『太鼓櫓』があり、楼上に置かれた太鼓で時が報じられていた。写真の櫓は廃城後に別の場所に新設されたもので、明治10年(1877年)に現在の場所へ移築された。(提供:伊那市観光協会)
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『鉾持神社』付近から〈高遠城址公園〉を眺めると、作家の井上靖氏が「その台地だけが薄桃色のクレヨンで塗りたくられている」と表現した絶景が広がる。奥にそびえるのは仙丈ヶ岳。(撮影:清水俊一郎)

通常時、〈高遠城址公園〉への入園は無料ですが、桜の開花宣言が行なわれた翌日から散り終わりまでの期間は入園が有料となります。また桜の咲きはじめから散り終わりまで『高遠さくら祭り』が開催され、県内外から訪れる多くの花見客によって園内は活気に溢れます。

さらに3分咲きから満開、散り始めに至る最盛期の10日間ほどは、夜間のライトアップも実施。暗闇のなかで光に照らされた桜は、昼間とは異なる幻想的な雰囲気をまとい、非日常感や旅情を掻き立てるでしょう。

2023年以降はコロナ禍で行われていた飲食制限が解除となり、レジャーシートを広げてお花見を楽しめるようになりました。園内や周辺には屋台が立ち並び、ご当地グルメを片手に夜桜鑑賞を堪能することもできます。

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本丸の東側のお掘には、フォトスポットとして人気の小さな池がある。満開時には桜が水鏡に映り込む様を、散り始めには桜の花びらが水面を覆い尽くす様を写真に収めることも可能。(提供:伊那市観光協会)
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昭和11年(1936年)、弁護士の小松伝一郎、日本画家の池上秀畝など地元出身者4名の出資によって完成した、国の登録有形文化財『高遠閣』。お花見期間中、有料で休憩所や授乳室として利用できる。事前予約も可能。(提供:伊那市観光協会)
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〈高遠城址公園〉の南側、三峰川に架かる白山橋の上から、桜色にライトアップされた高遠ダムを眺めるのも一興。ダムの奥には高遠湖が広がる。(撮影:清水俊一郎)

〈高遠城址公園〉
Google Map:https://maps.app.goo.gl/dRnL9dqAeZnbyM9E9
駐車場:約3,000台(無料・有料・バス専用あり)
トイレ:あり

『高遠さくら祭り』
公式サイト:https://takato-inacity.jp/2025/
開催期間:咲きはじめ~咲き終わり
開園時間:8:00~17:00
※最盛期10日間の夜間ライトアップ時は6:00~22:00(最終入園21:00)。
入園料:大人600円、子ども300円 ※団体割引あり

『2025高遠城址公園さくら祭り交通規制図・駐車場案内図』

〈高遠城址公園〉のお花見旅を快適に楽しむためのポイント

先述のとおり、〈高遠城址公園〉やその周辺には、毎年シーズンを通して15万人近くの花見客が訪れています。とくに満開前後の最盛期の週末となると、その混雑ぶりはご想像のとおり。最盛期を避け、なおかつ平日に見に行ければベストではありますが、「桜が満開のタイミングに行きたい」「平日は仕事があるので行けない」という人がほとんどではないでしょうか。

長い歴史をもち、最盛期の混雑を何度も経験してきた高遠町では、できる限りストレスなくお花見や高遠の観光を楽しんでもらえるよう、特設の駐車場の整備や臨時バスの手配などが行なわれています。ぜひ、シーズン中に合わせて用意されたこれらのサービスを活用して、快適なお花見を味わいましょう。

ちなみに〈高遠城址公園〉へは、基本的に公共交通機関よりもマイカー利用が便利ですが、JR伊那市駅や伊那バスターミナルから路線バスに乗り換えて、高遠駅へアクセスするという方法もあります。また4月5日(土)から4月13日(日)まで、JR茅野駅~高遠駅間を走る臨時バスが1日3便で運行されるため、都内から電車でアクセスする人にとっては便利なバスのひとつと言えるでしょう。

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〈高遠城址公園〉の上空から一望する、高遠の街並みと中央アルプス。ふだんはのどかなエリアだが、お花見シーズンの最盛期には多くのツアーバスや車が訪れるため渋滞が起こる。(提供:伊那市観光協会)

最盛期の週末のバス活用法

最盛期以外の時期は、〈高遠城址公園〉に近い場所にある有料駐車場にも停めやすいので、臨時バスを使わずとも快適にお花見を楽しめるはずですが、最盛期の週末となると話は異なります。〈高遠城址公園〉周辺の有料駐車場は早々に埋まってしまうため、街中に点在する無料駐車場へ案内される人が多くなるでしょう。

ひとつの方法としては、5分咲きのころから運行を開始するお花見循環バス(300円)を活用するという手があります。このバスは30分おきに高遠の街中を巡回するので、利用すれば無料駐車場から目的地の〈高遠城址公園〉まで楽にたどり着けるはず。

最盛期の9日間、高遠中学校の無料駐車場から運行されるシャトルバス(200円)や、最盛期の土曜1日だけ伊那市役所の無料駐車場から運行されるシャトルバス(500円)も便利です。とくに最盛期の週末は伊那市街地から高遠への道中も混雑が予想されるので、市役所の駐車場に車を停めてシャトルバスに乗り換え、車窓からの景色を眺めながらのんびり高遠を目指してみてはいかがでしょうか。

臨時バスを利用する際の注意点は、桜に夢中になって最終の便を逃してしまうこと。高遠さくら祭りの公式ウェブサイトをしっかりと確認したうえで、賢く利用しましょう。

『アクセス・臨時バス』

〈高遠城址公園〉とセットで楽しみたい伊那市内お花見スポット4選

せっかくお花見を目的に〈高遠城址公園〉を訪れるなら、ぜひ伊那市内のほかの場所へも足を延ばしてほしいところです。ここでは地元民一押しのお花見スポットを厳選してご紹介します。


①春の空を彩る薄紅色の花しぶき/『勝間の枝垂れ桜』

〈高遠城址公園〉の南側、三峰川や高遠湖の対岸に勝間という地区があり、そこに建つ薬師堂の隣に、空から流れ落ちる滝のような大きな枝垂れ桜が佇んでいます。樹齢は150年以上。〈高遠城址公園〉の桜よりも長くこの地に根差し、時代の移り変わりを見守ってきた桜には、凛とした風格があります。枝垂れ桜越しに〈高遠城址公園〉を眺めれば、どこを切り取っても美しい絵画のような風景が広がります。

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撮影:清水俊一郎

勝間の枝垂れ桜
Google Map:https://maps.app.goo.gl/zUGSdnVoVKTm3BFRA
駐車場:約50台(ほりでいパーク) トイレ:なし


②桜とともに伊那谷や南アルプスを一望/『春日公園』

JR伊那市駅から西に1.5㎞ほどの高台にあり、春日城という城の跡地に作られた公園です。園内にはソメイヨシノ150本、コヒガンザクラ50本があり、お花見シーズンには多くの花見客が訪れます。特徴は、園内から伊那谷や南アルプスを眺められること。谷の反対側にそびえる南アルプスの仙丈ヶ岳と桜を一緒に撮影するには絶好のスポットです。

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撮影:清水俊一郎

春日公園
Google Map:https://maps.app.goo.gl/WANGkKaQAX6LKafu9
駐車場:約420台
トイレ:あり


③子どもと一緒にお花見へ出かけるなら/『伊那公園』

伊那市街の東の段丘上にある見晴らし抜群な公園で、春が来ると180本のソメイヨシノと102本のコヒガンザクラが園内をピンクに染め上げます。遊具や広場に加えて蒸気機関車のD51の展示もあり、子どもと一緒にお花見をする場所としても最適。お花見シーズンには屋台の出店やライトアップも行われます。

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提供:伊那市観光協会

伊那公園
Google Map:https://maps.app.goo.gl/KYWkobMaiPjFjtQD8
駐車場:約370台
トイレ:あり


④東西に走る一本道と堤防に立ち並ぶ桜並木/『ナイスロード 三峰川堤防』

伊那市街と高遠を繋ぐ一本道『ナイスロード』の南側に南アルプスを源流とする一級河川の三峰川が流れていて、その堤防には約200本のソメイヨシノが整然と立ち並んでいます。ドライブをしながらその風景を眺めるもよし、ナイスロードの中間地点にある『三峰川レストパーク』に車を停め、堤防まで歩いて桜と山々が織りなす景色をゆっくり眺めるもよし。桜の最盛期に行われるライトアップも見応えがあります。

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撮影:清水俊一郎

ナイスロード 三峰川堤防
Google Map:https://maps.app.goo.gl/8CJhsS1o1E1eNwKn8
駐車場:約10台(三峰川レストパーク)
トイレ:あり


じつはここでご紹介した以外にも、神社やお寺にある桜、山桜、農地の脇の一本桜など、伊那市内には桜を鑑賞できるスポットが点在し、シーズン中は街全体が桜尽くしになります。高遠や伊那市街に一泊して、グルメやその他の観光とともに、心行くまでお花見を満喫してほしいものです。


取材・文:松元 麻希

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