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壮大な雪山のスケール感が魅力の「SKIMO」
SKIMOってなに?
「SKIMO(スキーモ)」というスポーツをご存知でしょうか?
どこかで聞いたことはあるけれどよく知らないという方、なかには初めて耳にした方も多いのではないでしょうか。
正式名称は「Ski Mountaineeing(スキーマウンテニアリング)」で、略してSKIMO。2026年にイタリアで開催されるミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪の新種目となったことで、注目を集めている新しいウィンタースポーツです。
SKIMOは「スキーと登山を融合したスポーツ」と言われます。自然の雪山に設けられたコースを、登ったり滑ったりして、ゴールまでの速さを競う競技。簡単に言えば、“バックカントリースキーの競技版”です。クライミングスキン(滑り止め)をスキー板に貼って登ったり、ビーコンなどの安全装備を携帯したりする点など、スタイルは基本的にはバックカントリースキーと同じです。
日本ではまだ広くは知られていませんが、そのなかでも信州はSKIMOが盛んで、体験することもできます。実は筆者も何度かSKIMOを経験したことがあり、その魅力を肌で感じた一人です。もちろん私はアスリートではなく、普段はのんびりとスキーツアーを楽しんでいるような人間ですが、そんな人間をも惹き付ける魅力がSKIMOにはあるのです。
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非日常の世界。軽快な道具を使い雪山を楽しむ
SKIMOの魅力は、なんといっても雪山の壮大なスケール感でしょう。SKIMOの舞台となるのは、神々しい峰々を望む山稜や、雪景色の森など。大自然に身を置くことで、どっぷりと非日常の世界に浸ることができます。
また、雪山をスキーで素早く移動する、そのスピード感も日常ではなかなか得られない感覚です。スキーの爽快さを思う存分楽しめます。
レースとなれば、自分の持てる力を最大限に出しながら、登ったり滑ったりします。もちろん順位が付きますが、雪山での運動会のような高揚感が味わえるのもSKIMOの魅力です。
さて、SKIMOの大きな特徴は、その道具です。
基本的にはバックカントリースキーと同じで、登行時にかかとが上がるビンディング、ウォークモードがあるブーツ、スキー板の滑走面に貼り付けるクライミングスキン(滑り止め)などが用いられますが、スピードを重視するために、あらゆる道具が非常に軽量に作られています。
スキー板はビンディング含め、片方で750g程度(※アルペンスキーは通常2kg前後)。ブーツも、厚みやパーツが極限まで削ぎ落され、歩行時は足首が大きく動くように設計されています。
そんな道具を身に付ければ、走れるほどの軽快さ。登りがつらい、苦手という人も、SKIMOの道具を使えば、登りに対するイメージが覆されると思います。 雪山での滑走技術はある程度必要ですが、ゲレンデ内で行なわれる種目や、登りだけの種目もあるので、バックカントリーに慣れていない方は、最初はそこから入るのもおすすめです。
SKIMOは、日本では一部のトップアスリートが取り組む過酷なスポーツと捉えられがちですが、実はヨーロッパでは、フィットネス感覚でSKIMOが楽しまれているそうです。軽快に山を登れるSKIMOは、レースを除けば、年齢や性別に関係なく、マイペースで楽しめる持久系の運動でもあるのです。
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発祥の地、ヨーロッパでは大人気
ここでちょっとSKIMOがどんな歴史やルールをもつ競技なのかについて説明したいと思います。
SKIMO発祥の地は欧州。ヨーロッパアルプスの国境警備隊の山岳トレーニングが発展して、競技になりました。
ヨーロッパでは今やSKIMOは大人気スポーツとなっており、冬になると毎週末にあちこちでレースが開催され、日本でいえばマラソンのような身近な存在のスポーツになっているようです。さらに各国の代表選手が集まるワールドカップや世界選手権もヨーロッパを中心に開催されています。
現在、強豪国はヨーロッパに集中していますが、アジアからも日本・中国・韓国などの選手が参加しており、特に日本は比較的早くからSKIMOに取り組んできた国でした。2005年に第1回の日本選手権が開催され、それ以降、愛好者を中心に、競技の歴史が紡がれてきました。
オリンピック競技に決まってからは、日本でも本格的な選手強化の取り組みが始まっています。2024-25のこのシーズンは、まさにオリンピック出場枠をかけて、日本代表選手がワールドカップや世界選手権を闘っている最中なのです。
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ルールと種目
コースには、3種類のセクション(区間)が設けられています。スキー板にクライミングスキン(滑り止め)を貼って登る区間、バックパックにスキー板を取り付けてブーツで登る区間、そして滑走区間です。選手はセクションごとに決められたルールに従って雪山を駆け抜けていきます。
セクションとセクションの間には「トランジット」と呼ばれる場所があり、選手はそのエリア内で、クライミングスキン脱着など次のセクションに移るための作業を行ないます。
SKIMOには5つの種目があります。雪山の自然地形で行なわれる「インディビジュアル」、インディビジュアルの短縮版である「スプリント」、同じく短距離で男女ペアで闘う「ミックスリレー」、登りのみで滑走がない「バーティカル」、長距離・長時間で行なわれる「チーム」です。
このうち、オリンピックの実施種目として選ばれたのは「スプリント」と「ミックスリレー」。いずれもゲレンデ内に設置されたコースで実施されます。雪山で行なわれるのがSKIMO本来の姿ですが、ゲレンデ内のほうが観客と選手の距離が近く、メディア放映などもしやすいため、SKIMOの魅力を広く知ってもらえる利点があります。
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「観るスポーツ」としての魅力も
オリンピックで実施される「スプリント」「ミックスリレー」の2種目は、観戦スポーツとしても楽しめる要素が多く盛り込まれています。
競技の舞台となるのは、スタートからゴールまですべて見渡せるくらいのコンパクトな範囲。1周3分程度と所要時間が短く、スピーディなレース展開が特徴です。
コース内に、スキー登行、ブーツ登行、滑走と、SKIMOの基本的なセクションがすべて含まれ、登りと滑りの切り替え作業を行なうトランジットエリアがあります。
トランジットでは、作業の手早さによって順位の入れ替わりが発生することも多く、競技の見どころのひとつでもあります。国内トップ選手になると、クライミングスキンを剥がして滑走モードに切り替えるのに10秒以内、スキンを貼って登行モードに切り替えるのも30秒程度。無駄が削ぎ落され、洗練された動作は美しく、観ているだけで気持ちが高揚します!
そんな「スプリント」の日本選手権大会が、2025年4月に長野県・志賀高原で実施されます。選手たちの熱い闘いを、ぜひ間近で観戦してみてください。
●第18回 SKIMO日本選手権・SPRINT開催予定
開催日:2025年4月19日(土)~20日(日)
開催地:長野県山ノ内町志賀高原横手山
*大会の詳細は、決まり次第下記サイトで発表。
「SKIMO JAPAN」:https://jmsca-skimo.org/news
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信州でSKIMOの魅力を体験!
SKIMOは観るだけでもおもしろいですが、体験することでその魅力を存分に味わうことができます。ガチなレースだけがSKIMOではありません。まずは、雪山を楽しむアクティビティとして、気軽にSKIMOを楽しんでみてはいかがでしょうか。
長野県は、SKIMOの体験会が実施されている、全国でも数少ないエリアです。もちろん道具はレンタル可能で、インストラクターの指導付き。安心して最初の一歩を踏み出せます。豊富な雪がもたらされている今シーズン、冬の恵みを感じながら、ぜひいちどSKIMOを体験してみてください。
【SKIMOを体験できる場所】
●トレイルランテストセンター
長野県富士見町
講習会・練習会を不定期で開催(facebookで日程公開)。個別レッスンもあり。
https://trailrun-test-center.amebaownd.com/pages/2474567/page_201812271233
●スポーツハイムアルプ
長野県木島平村
国内トップアスリートが指導。SKIMOのほかクロスカントリースキーなどの体験も。
https://sportheim-alp.com/ski_school/
●DYNAFIT RACE CENTER TSUGAIKE
長野県小谷村
全日本選手権も開催された白馬・栂池でSKIMOを体験。個別レッスンのみ、要問合せ。
https://www.t-hirata.com/racecenter.html
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文:横尾絢子 写真提供:ISMF
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