イングリッシュガーデンで迎えるイブの夜……。

訪れた12月初旬のある夜。凛とした冷気の中、静けさに包まれた庭園に足を踏み入れると、そこはもう現実とは思えない幻想的な光景が広がっていた。木々のシルエットが浮かび上がり、小道が光の粒で縁取られ、まるで絵画の中に迷い込んだかのよう。この美しさの秘密は、イングリッシュガーデンならではの庭園設計と、光の繊細な演出にある。

1_IMG_1140

ロマンスの舞台。美の異空間と化した庭園へ。

長野県茅野市に英国の香り漂う庭園がある。バラクライングリッシュガーデン。日本初の本格的なイングリッシュガーデンとして知られるこの庭は、冬の間だけ特別な表情を見せる。それが、イルミネーションイベント「Magical Christmas」だ。

訪れた12月初旬のある夜。凛とした冷気の中、静けさに包まれた庭に足を踏み入れると、そこはもう現実とは思えない幻想的な光景が広がっていた。木々のシルエットが浮かび上がり、小道が光の粒で縁取られ、まるで絵画の中に迷い込んだかのよう。この美しさの秘密は、イングリッシュガーデンならではの庭園設計と、光の繊細な演出にある。

イングリッシュガーデンとは、18世紀の英国で生まれた自然風景式庭園。風景画のような庭を目指し、自然と調和するよう計算し尽くされている。そんな庭の美意識が、冬のイルミネーションにも息づいている。ライトアップは植栽のラインを際立たせ、奥行きを強調する。光は時に木々の間を透過し、葉を落とした枝のむき出しの美しさを引き出す。暖色の光が温かみを、寒色が冬の静寂を演出する。

特に目を奪われたのは、庭の中央に佇む「光のアーチ」だ。パーゴラを活用したこのトンネルは、イングリッシュガーデンの象徴的存在。その美しいアーチを、温かな光が包み込む。歩みを進めると、木漏れ日のようにきらめく光が全身を優しく照らした。

「Magical Christmas」を手がけたのは、バラクライングリッシュガーデンの社長・山田裕人さん。昨年、英国・ロンドン南西部キューにある王立植物園「キューガーデン」を訪れた際に感銘を受けたことがきっかけだという。英国式庭園の美を生かしたライトアップを、ここ信州の地でも実現したい。そんな山田さんの想いから生まれたのがこのイベントだ。

光が照らし出すのはバラクライングリッシュガーデン30年の歴史。1990年の開園時、創設者ケイ山田さん自らが選定し植樹した木々は、今や庭を雄大に覆う存在となった。カナディアンメイプル、スモークツリー、ハンカチーフツリー。植物に造詣が深いケイ山田さんが、一本一本に合わせて選んだというライトの色が、それぞれの個性を引き立てる。

冬の夜の庭を彩るこの光は、バラクライングリッシュガーデンという庭園の本質を凝縮したものなのかもしれない。自然と人工、伝統と革新。相反するものを高次元で調和させる。そこにこそ、本物のイングリッシュガーデンの真髄がある。「Magical Christmas」は、そのメッセージを光として放っているようだった。

冬の間だけ、信州の大自然に囲まれたこの庭は、いつもとは違う表情を見せてくれる。日本にいながら英国の庭園美を堪能できる貴重な体験。訪れた人は誰もが、静かな感動に包まれることだろう。光に彩られた樹々が、永遠の美を語りかけているかのようだった。

2_IMG_1112

植物を誘引する格子状の棚、パーゴラに設置されたライト。庭園の宇宙空間!?

3_IMG_1115

光のバーゴラを抜けるとモニュメントが出迎える。オールドローズのドーム(レッド)とその奥にあるジューンベリー(水色)のコントラスが別世界へと誘う

4_IMG_1120

落葉したミズキの姿がアートとして存在している

5_IMG_1124

イエロー、オフホワイト、ピンクの共演。美のステージ

6_IMG_1136

ハンカチーフツリー、ジューンベリーが立ち並び、金色に輝くサンザシの垣根との見事なキュレーション

7_IMG_1129

メルヘンの世界!? ポートレイト撮影人気のコーナー

8_IMG_1133

庭園の中央にあるイルミネーションアーチと花の電飾が示す小径

特別な時間にふさわしい庭園伝統のメニュー物語

9__IMG_1103

エントランスに面したカフェレストラン。ジンプルかつアートオブジェのようなデザイン。〝ロマンチック物語の部屋〟へ招待

10_IMG_1099

星と花の象徴的モチーフ。迫力ある直径50cm程のオーナメント

11_IMG_1163

幾層にも重なるパイ生地はまるで大きな花びらのよう。中にはサーモンとホウレンソウ、ポロネギ、キノコのホワイトシチューがたっぷり

12_MG_1160

英国ではクリスマス文化の象徴的スイーツ、ミンスパイ。ドライフルーツやナッツとスパイスを混ぜたミンスミートを詰めて焼きあげる

13_IMG_1157

冷えた体を温めるにはホットチョコレートが最適。ビターなテイストとマシュマロの甘さがつくる心地よい時間

バラクライングリッシュガーデンで提供されるパイ料理やホットチョコレートは、単なる食事ではなく、英国の文化や自然観を映し出す象徴的な存在。蓼科高原の寒冷な気候の中で体を温めるこれらの料理は、季節の移ろいを楽しみながら、庭園という特別な空間でゆったりとした時間を過ごすための一助となっている。イングリッシュガーデンは単なる鑑賞の場にとどまらず、静けさを楽しむ場所であり、自然と人間の調和を表現する「外のリビングルーム」として発展してきた。その空間で提供される料理や飲み物は、自然と文化の豊かさをさらに高める「もてなし」の象徴でもある。

ホットチョコレートに浮かぶマシュマロの柔らかな白、サーモンポットパイの金色に輝くパイ生地、ミンスパイに散りばめられた星型の装飾など、いずれもその場を訪れた人々に視覚的にも味覚的にも喜びを与える工夫が凝らされている。たとえば、マシュマロが溶ける過程は時間の流れを意識させ、「このひとときを味わう」よう促す。一方、サーモンポットパイはクリーミーなソースとサクサクの生地が織りなすコントラストで、満足感とともに暖かさを提供する。また、ミンスパイはスパイスの香りとドライフルーツの甘みが季節感を存分に引き立て、クリスマスの雰囲気を祝う伝統的な一品として親しまれている。

英国のガーデンレストランでは、庭園の美しさと料理の調和が重要な要素として意識されている。庭園そのものが理想化された自然の空間として設計され、そこに提供される料理は、自然や芸術、そして季節への感謝を表現する一環となっている。少し大げさかもしれないが、サーモンポットパイやミンスパイ、ホットチョコレート……庭園を眺めながら味わうことは、自然との一体感を体験する行為にほかならない。

サーモンポットパイは、英国の豊かな食材を活かした温かい一品であり、ほうれん草やクリーミーなソース、サクサクのパイ生地が見事に調和している。季節よっては庭園で採れた新鮮な野菜が添えられることもあり、自然とのつながりを感じさせる料理だ。一方、ミンスパイは歴史ある伝統菓子であり、その小さなサイズや華やかな装飾が食事そのものに喜びを与える。ドライフルーツとスパイスが織りなす風味は、庭園の美しさとともに訪れる人々の記憶に残る味わいとなる。

また、こうした料理や飲み物は、庭園の四季折々の景色と強く結びついている。例えば、秋から冬にかけての寒い季節には、温かな料理や飲み物が庭園の湿った空気を和らげ、訪問者を包み込むような心地よさを提供する。その際、庭園の花々や風景に合わせて料理のプレゼンテーションが工夫されており、パイの焼き色やホットチョコレートの甘い香りが、視覚と嗅覚、味覚を通じて空間全体を豊かに演出している。

このように、ここバラクライングリッシュガーデン『Magical Christmas』の食事は、食べる行為を超えて、庭園文化そのものを体験する場となる。サーモンポットパイ、ミンスパイ、ホットチョコレートは、クリスマスという特別な空間でのひとときをより深く味わい、英国の歴史、自然、そしてもてなしの精神を全身で感じるための、思い出に残る、特別な時間となるかもしれない。

『BARAKURA Magical Christmas』Infomation

14_IMG_1141

開催期間:〜2024年12月25日(水)
ライトアップタイム:16:00〜19:00
入場料:500円
ショップ・バラクラカフェ営業時間:16:00〜19:00
「ポットパイ」1日限定10食。当日17:30までに要予約(18:00提供)
フードコート・ブティック営業時間:16:00〜19:00
https://barakura.co.jp/

 

取材・撮影・文:長野県観光機構(TXデザイン部・佐藤)

閲覧に基づくおすすめ記事

MENU