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自然景観と調和する長野の「ため池」 景色を楽しみながら地域の歴史や文化を知ろう

長野県内各地に点在する『ため池』は、地域農業を支えるだけでなく、自然の美しさとともに地域の歴史や文化をいまに伝える存在。本記事では「ため池百選」に選ばれた長野県内の『ため池』の景観や歴史などをご紹介します。四季折々の風景を楽しみながら『ため池』を巡り、自然と共生する長野県の魅力に触れてみてください。(2024/11/1)

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TOP PHOTO:冬の御射鹿池 (出典:Adobe Stock)

 

ため池とは

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春の「千人塚城ヶ池」と中央アルプス (出典:Adobe Stock)

『ため池』とは、降水量が少なく流域に大きな河川がない地域において、農業用水を確保するために人工的に造成された池を指します。日本各地に約21万ヵ所が存在し、農業の基盤を支える貴重な水源として活用されています。

『ため池』は農地を潤すだけでなく、地域の活性化や環境保全の核としての役割も果たしています。その重要性について理解を深め、保存・活用を進めようと農林水産省が選定したのが「ため池百選」です。選定基準は、現在も農業用水として利用され、適切に維持管理されていることが前提。加えて①農業の礎②歴史・文化・伝統の継承③景観の魅力④生物多様性の保全⑤地域とのつながりという5つの視点のうち優れた特徴を持つ『ため池』が選ばれています。

『ため池』を訪れる際は、地域の重要な資源であることを念頭に置き、ゴミは持ち帰るなどの基本的なマナーを守りましょう。また、多くの『ため池』では遊泳や釣りが禁止されていることもご留意ください。ドローン撮影には許可が必要な場合があるため、各自治体や観光協会に事前に確認を。その他、地域で定められたルールがあれば、それにしたがって行動しましょう。

01 荒神山ため池(たつの海)<辰野町>

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桜の開花時期は例年4月上中旬。濃淡異なるピンク色に囲まれる「たつの海」 ©辰野町観光協会

長野県辰野町にある「荒神山ため池」、通称「たつの海」は、およそ33haの水田を潤す農業用の温水ため池です。下流からポンプアップした水を一時貯水し、太陽の力で適温に上げてから農業用水として活用しています。

「たつの海」を含む「荒神山スポーツ公園」は桜の名所としても知られています。春になるとソメイヨシノや八重桜、しだれ桜など全6種類、約800本の桜が開花。池を囲むウォーキングロードはピンクのトンネルと化し、春の息吹を満喫することができます。

桜の開花シーズンに合わせ、例年4月上旬から中旬にかけては「荒神山公園さくら祭り」が開催。期間中の夜間には園内の桜がライトアップされ、多くの花見客で賑わいます。

「荒神山スポーツ公園」は、地域内外の人々から親しまれる憩いの場です。野球場やテニスコート、陸上競技場などのスポーツ施設が充実し、美術館や昆虫館も併設されています。冬季にはイルミネーションが施され、公園全体が華やかに彩られます。

また、池近くに建つ「たつのパークホテル」は、桜鑑賞や周辺観光を満喫する拠点として最適です。ホテルには温泉が備わり、宿泊者はもちろん日帰り利用も可能です。ナトリウム炭酸水素塩泉の泉質は、慢性皮膚病や疲労回復に効果があるとされています。客室からは四季折々の「たつの海」の姿を望むことができます。

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池の畔に建つ「たつのパークホテル」。西洋風の外観と紅葉の共演が趣深い。紅葉の見頃は10月下旬頃〜11月上旬頃 ©辰野町観光協会

【INFORMATION】

【スポット名】荒神山ため池(たつの海)
【住所】長野県上伊那郡辰野町赤羽(☞Google Maps
【詳細】☞辰野町公式サイト

02 塩田平のため池群<上田市>

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ふたつの伝説がいまも語り継がれる「手洗池」。真っ平な水面に空模様が写り込む牧歌的な景色に癒やされます(撮影:矢幡正夫)

上田市は、年間降水量が全国平均の半分ほどと、国内でも特に雨が少ない地域。河川の水量も少なく、米作りには貯水池の整備が不可欠でした。こうした地理・気候の背景から、江戸時代を中心にため池の整備や拡張が進められ、現在残っている池は比較的大きなもので41ヵ所。これらは『塩田平のため池群』として「ため池百選」に選ばれたほか、日本文化遺産の文化財としても登録されています。

数多くのため池が点在しているのは、上田市の別所温泉から上田市街地に至る「塩田平」と呼ばれるエリア。江戸時代には、上田藩全体の約半分の石高を生み出す重要な水田地帯でした。『塩田平のため池群』は、現在も約900haの田んぼを潤し、地域農業を支えています。

41ヵ所のため池は、農業用水としての役割だけでなく、地域の自然や文化とも深く結びついています。白鳥が飛来する池、希少なマダラヤンマが生息する池、桜や蓮の花が美しい池、民話や伝承が語り継がれる池など、それぞれが特徴的な景観や歴史を持っています。

たとえば『塩田平のため池群』の一つ「手洗池」の名前の由来については、ふたつの伝説が残されています。一つは、村に災いをもたらした大けやきを切り倒し、木曽義仲の家臣・手塚太郎金刺光盛が御神木とした際に、この池の水で手を清めたことから名付けられたというもの。もう一つは、弘法大師がこの地を訪れ、清らかな水で手を洗い、後にため池を築いたことに由来するという言い伝えです。

こうした特色豊かな「塩田平のため池群」を存分に楽しむには、歩き旅がおすすめです。田園風景の中をのんびりと歩くだけでなく、温泉や果物狩りなども合わせて満喫してみてはいかがでしょうか。国重要文化財である三重塔が建つ「前山寺」に立ち寄るのも良いでしょう。

ウォーキングモデルコースの詳細は、下記の関連サイトからご覧いただけます。
信州の農業資産を巡る旅

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「手洗池」から車で約6分、徒歩約40分の「舌喰池」には、池を改修する際に人柱として選ばれた美しい娘が、悲しみに耐えきれず舌を食い切って池に身を投げたという伝承が残っています(撮影:矢幡正夫)

【INFORMATION】

【スポット名】塩田平のため池群
【住所】長野県上田市塩田(☞Google Maps ※手洗池)
【詳細】☞塩田の里交流館公式サイト

03 千人塚城ヶ池<飯島町>

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SUPや釣りを楽しむこともできる『千人塚城ヶ池』 ©飯島町

長野県南部の飯島町には『千人塚城ヶ池』があります。中央・南アルプスを一望できる絶景スポットで、春の桜、夏のアジサイ、秋の紅葉、冬の冠雪したアルプスと、四季折々の景観とため池との共演が見られます。ツバメやカワウなどの渡り鳥が訪れ、自然との共生を感じられるのも魅力の一つ。一帯は「千人塚公園」として整備され「中央アルプス国定公園」の一部に指定されています。

池やその周辺では、SUP(サップ)や釣り、トレッキングが楽しめるほか、キャンプ場やグランピング、そしてテントサウナなど、水辺でのゆったりとした時間を満喫できる施設がそろいます。キャンプ場のセンターハウスでは地元食材を使ったシェフのこだわり料理や「千人塚バーガー」などの飲食メニューが提供され、日帰り利用も可能です。

昭和初期に完成した『千人塚城ヶ池』は、農業用の温水ため池で、与田切川から引いた水を貯水して温め、下流にある約200haの水田へ供給します。このため池ができたことにより、水稲の生育が良くなり収量が安定しました。『千人塚城ヶ池』は、飯島町の米作りに欠かせない存在です。

「千人塚」という名称には古くから伝承があり、戦国時代、織田信忠の伊那侵攻により落城した北山城の戦没者たちがこの地に葬られたことが由来とされています。この塚には敵味方の遺骸や武具が埋められたといい、その後に疫病が流行したため「千九人童子の碑」が建てられ、慰霊の供養が続けられてきました。『千人塚城ヶ池』一帯は、地域の人々にとって歴史的にも特別な場所なのです。

『千人塚城ヶ池』を囲む「千人塚公園」では、冠雪の中央アルプスを背景に映える桜が見ものです(桜の見頃は例年4月上旬頃〜中旬頃)。5月には水中花火大会が行われます。また、飯島町は花の里としても知られ、各地に花の名所が点在します。3月頃から桜の開花を皮切りに、花桃、藤の花、ポピー、ひまわりなどが見られるようになります。

町内には、地場産の新鮮な野菜を販売する道の駅が2ヵ所あるほか、江戸時代に伊那谷の領地を治めた代官の役所だった「飯島陣屋」も残っており、立ち寄りスポットとしておすすめです。

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雪化粧したアルプスが映える冬の『千人塚城ヶ池』 ©飯島町

【INFORMATION】

【スポット名】千人塚城ヶ池
【住所】長野県上伊那郡飯島町七久保(☞Google Maps ※千人塚公園駐車場)
【詳細】☞飯島町観光協会公式サイト

04 菅大平温水ため池(あやめ公園池)<木祖村>

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池周辺の白樺や楓などの黄葉が彩る秋色のリフレクション。『菅大平温水ため池(あやめ公園池)』周辺の紅葉の見頃は例年10月下旬頃〜例年11月上旬頃 ©木祖村観光協会

長野県木祖村の標高1,000mほどに位置する「菅大平温水ため池」は、池周辺にアヤメの花が咲き誇り「あやめ公園池」とも呼ばれます。アヤメの見頃は5月中旬から6月上旬にかけて。池の周りが鮮やかな紫色で彩られるこの時期以外にも、初夏には白樺の木々が、秋には紅葉が湖面に写り込む美しい光景に出合えます。池の周囲には約1kmの遊歩道が整備されており、散策も楽しめます。

『 菅大平温水ため池(あやめ公園池)』は、アヤメだけでなく多様な生態が息づく場所でもあります。水辺にはヨシやガマが、水中にはコイ・ワカサギ・フナ・ドジョウなどの在来魚が生息。ブラックバスなどの外来魚が入らないよう地元のみなさんが保護活動に取り組んでいます。

もともと湿地帯で、アヤメが自生していた一帯は、大正時代に地元の方々によって公園として整備されました。後の昭和後期、冷水による稲作の低温障害を解決するため、現在の温水ため池が築造され、貴重な農業用水として40haの水田に供給されています。

ため池近くの観光スポットといえば、シーズンを通して遊べる「やぶはら高原スキー場」。夏季は「こだまの森」としてオープンし、豊かな自然の中でキャンプやバーベキュー、アスレチック、ゴーカードなどのアクティビティを満喫することができます。

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池の畔一面に花開く紫色のアヤメ。例年の見頃は5月中旬〜6月上旬。撮影スポットとしても人気です ©木祖村観光協会

【INFORMATION】

【スポット名】菅大平温水ため池(あやめ公園池)
【住所】長野県木曽郡木祖村(☞Google Maps
【詳細】☞木祖村観光協会公式サイト

05 御射鹿池<茅野市>

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新緑の『御射鹿池』 ©一般社団法人ちの観光まちづくり推進機構

長野県茅野市の標高1,500m地点に佇む『御射鹿池(みしゃかいけ)』は、四季の美しい風景が水面に映り込む、まるで鏡のようなため池です。日本画家・東山魁夷の名作「緑響く」のインスピレーション源としても知られています。

池の周りにはカラマツ林が広がり、春には若々しい緑、夏の落ち着いた深い緑、秋の黄金色に染まり、冬には雪と氷の世界に包まれます。リフレクションを見るのにおすすめの時間帯は、風が穏やかで太陽の位置がまだ低い早朝。幻想的な雰囲気が一層際立ち、訪れる人を魅了します。

絶景スポットとして有名な『御射鹿池』ですが、実は昭和初期に造られた農業用のため池。八ヶ岳連峰から流れ込む冷水を貯水して温め、麓の笹原地区の農業用水として利用されています。地域の方々が大切に管理している資源のため、ゴミは落とさない・池の中には入らないなど、基本的なマナーを守った上で景色を味わいましょう。

『御射鹿池』を訪れたら、少し足を伸ばして「おしどり隠しの滝」を訪れるのもおすすめです。池からは徒歩約10分ほど。とくに紅葉の季節は、チャツボミゴケが生える岩肌と赤く色づいた紅葉とのコントラストが見事です。滝近くに建つ「山の宿 明治温泉」では宿泊のほか、日帰り入浴の利用も可能。風光明媚な景色と合わせて温泉が堪能できるのも、このエリアの大きな魅力です。

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紅葉の『御射鹿池』。紅葉の見頃は例年10月下旬頃〜11月上旬頃 ©一般社団法人ちの観光まちづくり推進機構

【INFORMATION】

【スポット名】御射鹿池
【住所】長野県茅野市豊平奥蓼科(☞Google Maps
【詳細】☞茅野観光ナビ


文:松尾 奈々子
 

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