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特集『ナガノのキャンプ時間』❸ サウナ×グランピングで極限を目指す FromP代表・大塚 栄青さん

プライベートサウナ付きグランピング施設「FromP(フロムピー)」は、白馬村でグランピング×サウナが楽しめるスポットの先駆けとして、2022年3月にオープンしました。運営会社の社長を務めるのは地元出身・在住の大塚栄青さん(25歳)。家業を継ぐためUターンした若き実業家の展望とは。施設の魅力とともにご紹介します。

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Pから始まる、非日常の旅

白馬八方尾根スキー場から約1.7km。スキージャンプ台やゲレンデ、その奥にそびえる白馬三山を望む立地に位置する「プチホテルぴー坊」。その敷地内に「FromP」はあります。
「スキージャンプ競技では踏切台から90mの地点をP点と呼びます。ドイツ語のPunktに由来する標準点という意味です。よく耳にするK点はKritisch Punktを略した極限点を指します。施設名のFromPは実家のホテル名・ぴー坊と掛け、この場所が白馬村を楽しむ標準点になったら……との願いを込めて名付けました」。ここから非日常を体感する旅を始める。そんな施設にしたいと、施設名の由来を大塚さんが語ってくれました。

敷地内には全6棟のドーム型テントとコットンテント、そのほとんどに専用のサウナと水風呂が併設。1棟プラスサウナを貸切りで利用することができます。グランピングとサウナを組み合わせたスポットは今でこそ数多く存在しますが「FromP」は長野県内の先駆的存在でした。
「グランピング施設の開業を検討していた頃、友人と一緒に近くの川辺に行きテントサウナを建てて入ったんですが、その時初めて“整う”体験をしたんです。バーベキューをしたりお酒を飲んだりもして、これはめちゃくちゃ良い時間だなと。当時サウナ好きでもなかった自分が感動するくらいだから大勢の人が喜んでくれるはずだと思い、グランピングもサウナも両方楽しめる施設をつくろうと決めました」(大塚さん)

敷地内でひときわ目を引く水風呂。奈良県の醤油醸造所から受け継いだ高さ約2m、直径約1.7mの醤油樽を活用

雪解け水を地下から組み上げ、かけ流す水風呂。ミネラル豊富な水質で、肌ざわりが良いと評判

薪ストーブで温まったバレルサウナ(=樽形のサウナルーム)

白馬村の間伐材を活用した薪

4基あるサウナは、いずれもセルフロウリュが可能です。ヴィフィタ(白樺の束)やロウリュ用のアロマウォーター、追加用の薪がサウナベース(フロント)に用意されているのもこの施設の特徴。薪をくべ温度を上げてもよし、香りを楽しむもよし。プライベートサウナだからこそ叶う自由さがあります。
正しいサウナの入り方を大塚さんに尋ねると「あまり気にしなくて良いと思います」と一言。
「一般的にいわれているのは、サウナ8~12分、水風呂30秒から1分、外気浴5分の繰り返しですが、あくまで目安。お客さんにも押し付けないようにしています。自分がサウナを体験した時に楽しいと思えたのは、仲間内で好きなように過ごしたからこそ。思い思いに楽しんでほしいですね」

サウナベースでは、シーシャ(水タバコ)やインスタントカメラのレンタルも実施中。水着やポンチョを貸し出す他、オリジナルのサウナハット・サンダル・Tシャツなどを販売し、サウナに必要なものが一式揃います。地元のクラフトビールやサワー、ワインなどのアルコール類・ソフトドリンク各種など、欲しいものがすべて揃っているのも魅力です。

フロントとなるサウナベース内。さまざまな香りのアロマウォーターを用意

「FromP」オリジナルのサウナグッズを販売する他、水着やポンチョのレンタルも可能

敷地内には独立したサウナも。今後は特別ルームとして貸切り予約を受付ける予定

「家業を守り継ぐのが最大のミッション」

全6棟のグランピング施設の中で、最も人気なのは2つのドームが連結した「コネクトドーム バレルサウナ」。約26畳の広々とした空間に、ベッドやテーブル、椅子、ハンモックなどが配置されます。カーテンを開け、窓から雄大な山並みを望むことができるのも魅力。テントは2重構造で保温性に優れ、室内には冷暖房を完備。真冬はベッドに電気毛布を敷いて快適さを保ちます。

夕食は、サーロインステーキをメインとしたバーベキューメニュー。カマンベールチーズと野菜のアヒージョ、新じゃがバター、サウナの本場・フィンランドで愛されるグリルソーセージ「マッカラ」などがセットに(冬季はメニューを変更し鍋料理を提供)。朝食はホットサンドにスープ、ヨーグルトなど。いずれもスタッフが部屋まで運んでくれるほか、入浴・トイレは隣接する「プチホテルぴー坊」で。アメニティも充実。車で約2分の位置に最寄りのコンビニがあるので安心です。

今や平日でも満室になることが多い「FromP」。人気施設となるまでの道のりは、大学進学で上京した大塚さんが、Uターンし、家業を継いだところから始まりました。
「大学在学中、進路に悩んでいた頃。父が体調を崩し、実家が営むホテルの今後を話し合うことになりました。その時、生まれ育った場所を守ることが自分のやりたいことだと強く思ったんです。父は2代目で創業は祖父。戦後、地元で学校や習い事の先生を務め、本当に多くの人から慕われていました」
そして定年退職後、白馬の魅力を広く伝えたいと、親戚一同の反対を押し切り、宿泊業を始めたそうです。
「その人柄と周りが何と言おうと意志を貫く強さに憧れ、自分も祖父のようにかっこいい人生を歩みたいとの気持ちもあり、家業を継ぐことにしました」(大塚さん)

取材は10月上旬。冬は一面雪景色に。そのロケーションを楽しみに来るサウナーも後をたたない

各棟のデッキにはリクライニングチェアをセット。外気浴用の“整いスペース”が設けられている

2つのドームテントが連結したタイプの部屋は、北欧風テイストの落ち着いた雰囲気

ドーム型のテントの他、よりキャンプ感を味わえるコットンテントの部屋も

尊敬する祖父が作り、父が繋いだ場所。守り継ぐ決意を胸に、白馬村に帰郷した大塚さんですが、時は2019年4月。新型コロナウイルスまん延し始めた時期でした。
「右も左もわからずに帰ってきて、コロナが直撃。経営を立て直すために無我夢中で、不安を感じている暇もありませんでした」
奮闘の末、軌道に乗った頃、元々テニスコートだった敷地をグランピング施設に改造する計画を思いつきます。コロナによって、プライベート感を重視する旅の需要が高まった時期。時代の流れに沿った事業を形にするため、急ピッチで準備が進められ、開業に至りました。
「白馬はエネルギッシュな人たちが多く、新しいことに挑戦する機運が盛り上がっています。周囲からの刺激もあり、ここまで走り続けました」

白馬で生まれ育ち、幼少期からクロスカントリースキーに熱中した大塚さん。その経験が今の闘志に活きているそう。
「追い込まれた時に自分を鼓舞し、前へ進む力を養いました。上下関係が厳しかった反動か、縛られない考え方を持つようにもなりましたね。それが仕事への姿勢や施設の雰囲気に反映されているのかもしれません」

今後は長野県内、某エリアへの施設展開を思案中。
「日常と非日常を行き来する“FromP”を増やしていきたい」と意気込みます。
「今のところグランピング×サウナ事業をベースとしていますが、世の中の流れによっては違う形になるかもしれません。自分の最大のミッションは家業を守ること。それがクリアできているのなら、さらに広げていきたいという展望はあります。白馬周辺の小谷村や大町市とも連携できたら良いですね。市町村という枠組みにとらわれなければ、もっとおもしろいことができるんじゃないかと思っています」

時代のニーズを捉え、それを形にする。白馬が生んだ若き実業家の挑戦は続きます。

グリーンシーズンは、サーロインステーキや長野県産野菜などのバーベキューセットを夕食として提供。冬季(11月から)は鍋料理が楽しめる

星が煌めく夜。明かりの灯るドームが幻想的な雰囲気を演出

〈FromP〉
住所|長野県北安曇郡白馬村北城瑞穂3020-45
電話|0261-72-3780
URL|https://www.glamping-nagano.com/
料金|1泊14,000円~(素泊まり・1室2名利用時) *通年営業
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大塚 栄青(Eisei Otsuka)
白馬村に生まれ育ち、幼少期よりクロスカントリースキーに打ち込む。大学進学を機に上京し、卒業後は家業を継ぐため白馬村にUターン。2019年、有限会社ぴー坊の社長に就任。2022年3月にプライベートサウナ付きグランピング施設「FromP」をオープン。兄が経営する海外輸入品卸売会社の副社長を兼任するほか、サウナ運営のサポート、販売、施工、プロデュースなども行っている。


取材・文:小松 あい 撮影:松本 千尋

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