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【盛夏~初秋】「川で過ごす時間を楽しむ」フライフィッシングの世界! 長野県は渓流釣りパラダイス

山岳渓流の本格シーズン! 記録的な猛暑と渇水に苦戦した夏の日々。

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志賀高原を流れる雑魚川の大滝(おおぜん)。一帯は「上信越高原国立公園」にもなっています。渓流釣り愛好者に人気の川
松本市、梓川支流にて。通り雨が止むと蕩けるような緑の渓に光が差し込み、一層美しさを演出してくれました
宮田村。中央アルプス東麓の流れに泳ぐ瑞々しいイワナ。大イワナの姿も何度も目撃しましたが、フライを咥えてはくれませんでした
夏の夕暮れ。南アルプスを遠くに望みながら一休み。田んぼの色合いに秋の気配を感じます
夕暮れ迫る開田高原では巨大な積乱雲が西日を浴びていました。ひと雨来そうでしたが、これで降らないのが今年の夏……

9月に入りましたが、依然厳しい暑さが続いていますね。「観測史上最も暑い……」という言葉にすっかり耳慣れてしまいました。暑さに加えて深刻なのが、雨の極端な少なさです。国内の他の地域では豪雨災害に見舞われた夏だったところもあります。しかし、長野県内に関しては、梅雨もさらりと明け、台風の影響も少なく(それ自体はありがたいことです)、局地的な短時間の夕立はあるものの総じて降水量が少ない夏でした。

本来であれば、盛夏は山岳エリアでの渓流釣りの最盛期です。漂うフライに小気味よく水面を割るイワナ! 真夏の太陽の下、勢いよく飛び出す魚の姿に酔いしれる輝く季節です。

しかし、実際には個人的には大いに苦戦した夏でした。それというのも前述した通り、高い気温・水温、そして何よりも乏しい水量で魚たちもすっかり夏バテ? しているようで、どうも反応が鈍いのです。もちろん不調の要因はそれ以外にもあるのでしょうが、例年になく渋々出てきてくれている感が否めません。夏の後半は、スレていない魚を狙ってずいぶんと渓の奥まで詰めましたが、特に大物は岩陰でじっと息を潜めているような印象でした。隣県にも赴きましたが、僕が釣りをした範囲では山奥こそ水が少なく(山々に降った雨に期待したのですが)、こと大物に関しては満足いくような釣果には恵まれませんでした。

その傾向はお盆を過ぎても続いていました。それでも朝夕は幾分秋めいて、渓を吹き抜ける風にもそこはかとない涼しさを感じます。標高の高いところでは甘いカラメルのような匂いに誘われて見上げると、カツラの葉が黄色く染まり出しています。禁漁が間近になってくると、どこか強迫観念のようなものが釣り人の心を支配します。カレンダーを睨みながら、気持ちばかり焦ってしまいますね。“雨乞い”の念を込めて天気予報を見つめる日々が続いています。

県北の千曲川支流! 豊かな森の流れに野趣溢れるイワナを求めて

栄村。清冽な水が滔々と流れいく渓。浅いポイントからも良型イワナが飛び出してくれました
昨年も同じ場所で同じような魚を釣りました。ですが、サイズはむしろ小さくなっていたので別のイワナですね
夏空を覆うように枝葉を広げる森の木々。生命力がみなぎる季節は釣りをしていても心が弾みます
体側のオレンジの斑点や腹部の黄色。彩り豊かなイワナがこの渓の特徴です。いくつもの堰堤で本流と隔てられているのが幸いしているのでしょう
山ノ内町。釣りのアプローチで訪れた奥志賀渓谷のトレッキングコースでは、見事なブナの森が迎えてくれました
同行者に指差されて帽子を脱ぐと、フタスジモンカゲロウのメスが止まっていました。お相手を物色中でしょうか

県内、東信から北信を繋ぐように北へ流れる千曲川(信濃川)。その支流、新潟県と隣接するあたりに毎年幾度も訪れている渓があります。盛夏は濃厚な緑に包まれた渓流です。ブナやミズナラなどが織りなす深い森は豊富に水を蓄え、滔々とした流れに野性味溢れるイワナが息づいています。

例年遅くまで雪に閉ざされる豪雪地帯ですので、当然雪代も多いです。しかし、梅雨明けする頃にはすっかり水勢も弱まり、流れの中を釣り上がることが可能になります。森をそっと湿らすような優しい雨が降った後が釣りのチャンスです。

長いアプローチを経て川に降ります。流れに指を浸けると、予想以上に水はひんやりとしていました。暑さに辟易しながらの道中でしたが、ここまで来ると渓に沿って吹く風は涼しく、一服の清涼剤のようです。ゲイタースタイルのウェットウェーディング。足元から伝わる水の心地よさに真夏の釣りの醍醐味を感じました。

周囲の山肌にしっかりと染み込んだ雨のせいでしょうか。湿り気を帯びた森一帯に、芳醇な香りが濃密に漂っています。なんだか健康に良さそうで、何度も大きく息を吸い込んでしまいました。

さて、入渓して最初のポイントで漂うドライフライ(水面付近で浮く毛鉤)にさっそくイワナが浮上してきました。ですが、わずかにかかってしまったドラグ(水の流れにそぐわない不自然な動き)で偽物だと見抜かれたようで、魚はUターン……。山奥だからといって野生の魚は舐めてかかれません。反省して慎重にフライを流すと、魚たちは素直に飛び出してきてくれました。

深い谷間ですので携帯は圏外です。釣り人はたまに訪れているようですが、人気(ひとけ)はありません。当然、クマも生息しています。木漏れ日差し込む優しげな森ですが油断は大敵です。釣りに没頭しすぎないよう、絶えず周囲に気を配りながら一歩一歩慎重に遡行していきます。少し物足りないくらいでロッドを仕舞い、後ろ髪を引かれつつも帰路につきました。願わくば、禁漁前の秋にもう一度訪れたいです。

冒険心をくすぐられる地図で見つけた渓へ “地図にない滝”と出会う

小さな沢の透明度が高い流れ。陽光が差し込むとそのクリアーさは一層際立ちます
水に溶け込むような、どこか儚げなイワナ。渇水のせいか、フライへの反応は神経質でした
地形図に載っていない見事な滝との出会い。幽玄な雰囲気を漂わせていました
渓には十分に太陽が降り注いでいるはずなのに、まるで日に当たった事がないような柔肌のイワナ

通い慣れた、勝手知ったるポイントでの釣り。それでも釣果はその時々、訪れる度に渓の表情も違って楽しいものですね。けれど、まだ竿を出したことのない未知の渓での釣りはより一層冒険心がくすぐられます。ある夏の夜に(釣り人にとって)宝の地図、つまり地形図をつぶさに観察していると、とある短い沢に目が止まりました。

県北部の西側に連なる北アルプスの峰々。その山稜には数多の渓谷が刻まれています。机上でその水線を辿っていると、流程わずかで入り組んだ等高線に隠れるように支沢があるのを発見しました。ネットで検索しても有益な情報は出てきませんでしたが、それゆえに夢が広がります! 幸か不幸かしばらく雨も降っていません。意を決して訪ねてみました。

渇水状態のおかげで、平水であれば苦戦しそうな本流の渡渉も難なく終わり、地形図通りの位置で支沢の出合(であい)へと辿り着きました。予想に反して、渓への入口は明るく爽やかな印象でした。

さっそくロッドを振りながら遡行を開始しました。深いV字の渓ですが、真夏の陽光が容赦なく降り注いでいます。ただし、倒木が沢を横切っていたり急な斜面が崩れ落ちたガレ場もときおり見受けられ、遡行には細心の注意が必要です。

しばらくは何も反応がありませんでしたが、魚がいることを信じて釣り上がっていきます。やがて、小さめのイワナたちが顔を出すようになりました。さらに進むと、釣れるイワナの様子が変わりました。色が白く体側の朱点が艶やかな魚体です。その美しさに見惚れつつ、「来てよかった」と喜びがじわりと込み上げます。

どこか幽玄な雰囲気のあるイワナをそっと流れに帰して上流を見据えると、1:1の分岐が目の前にあります。右が本流のはずですが、目に見えて冷気が漂っているのに気づきました。木々の陰で発見が遅れましたが、まさかの滝です! 明るい渓相にあって、そこだけ暗く荒れた印象ですが、まるで光を放っているように青白く神秘的な滝。厳かな雰囲気に包まれていました。

落差およそ15mの2段の滝です。両岸は切り立った崖が両翼を広げ岩質も脆そう。地形図ではちょうど屈曲し、等高線が狭まったノドの部分でした。地形図にない滝に行く手を完全に阻まれてしまいました。

誘われるように、おそらく魚留となるその滝の壺へそっと近寄りました。いかにも大物が潜んでいそうです。期待が高まりますが、流れ落ちる水の風圧は凄まじく、フライラインが押し返されてしまいます。涼しく快適だったのは最初だけ。冷気に体温を奪われ眼鏡は水滴だらけ。ジャケットを羽織ってから近寄らなかったことを後悔しつつ、しばらく粘りましたが、釣果はありませんでした。

滝での釣りを諦め、少し戻って1:1の分岐から支流の上流を少し覗いてみました。山肌をびっしりと隙間なく覆う森、崩壊してできた斜面にはミズ(ウワバミソウ)の群落が生い茂っていました。「クマが好きそうな場所だな」と思い、腰にぶら下げているカウンターアソルト(クマ撃退スプレー)を確認します。下ろした足に妙に柔らかい感触を感じました。糞……。しかもクマの落としものです。周囲の草をたらふく食べているのでしょう、緑色のまだ新しいものです。このあたりが潮時でしょう。周囲を警戒しつつ、ゆっくりと渓を下りました。

夏の名残りと秋の気配の狭間に揺れるフライフィッシャー

白馬の定番撮影スポット。「白馬大橋」から眺める姫川支流、松川の流れ
青緑色の流れによく馴染む、とろけるような色あいのイワナ。どこか色気があります
村の西側から姫川に注ぐ支流。北アルプスを水源としているだけあって、渇水でも清冽な水が流れてきます
足元に落ちていたカワゲラのニンフの抜け殻と使用したフライ。実際は水中の石裏で見つけたニンフは一回り小さく、ちょうどフライと同サイズでした
しつこくじっくりと流れの深みを探ると、生命感あふれる震えが手元に伝わってきます

この夏の猛暑と降水量の少なさで、県内の多くの河川では渇水状況が続いています。ようやく降ったわずかな雨の後、永遠に続くかと思われた厳しい暑さが一段落してくれました。向かったのは姫川上流漁協が管轄する白馬エリアです。

高く懐の深い北アルプスの東側に位置する流れですので、清冽な水が絶えることなく渓を潤してくれています。まずはとある支流の、さらに小さな支流へ。山懐の深い北アルプスの東側に位置する流れですので、清冽な水が絶えることなく渓を潤してくれています。

そっとフライを流すと、ぽつりぽつりとイワナたちが水面を割ってくれます。本来、渇水状態では魚たちの警戒が強く、シビアな釣りになります。少し水量が増えているくらいの方が、いい釣りをすることができます。けれど、水が少ないのにも関わらず、それほどスレている感じもなく、素直にフライを咥えてくれました。
その後、支流の本流へ。河原には足跡がいっぱい残っています。開けた河原で川面を行き交うトンボの様子から、多少の小型の虫は飛んでいるのでしょうが確認できません。水面付近にも明確な虫の流下もありませんでした。そこでニンフ(水生昆虫の幼虫を模したフライ)を結びました。

深めの流れの中、なるべくゆっくりと低層付近の流れにじっくりと漂わせます。これが功を奏し、目ぼしいポイントごとにほぼアタリがあり、そのうち何割かはしっかりとフライを咥えてくれました。ロッドを絞る魚の感触を噛み締めるように味わいます。
しばらく釣り上がって落ち込みの脇、泡の浮いた反転流の中でニンフを何周もさせました。するとマーカー(目印)を狙ってイワナがふわりと浮かんでパクりと口を開けました。
「大きい! 尺上じゃん」と思って眺めていると、マーカーをしっかりと咥えて引き込みました。その勢いでわずか一瞬でしたがロッドがしなります。当然ハリは付いていませんので魚が掛かる訳はありません。悔しいけれど、どこか微笑ましいような、おかげで肩の力がスッと抜けました。

暑い夏の終わり、色褪せつつある緑はどこか覇気に欠け、沢筋を抜ける風はすでに冷たく秋の気配が漂っています。流れに浸かりながらの釣り。ウェーディングしていると寒いほどでしたが、森を抜け林道に上がると“ぬるり”とした風がまとわりつきました。里へ下る道すがら、おしゃれな身支度でカップル(?)が釣りを楽しんでいました。まだしばらく夏は続きそうです。

〈トピックス〉便利な電子遊漁券 県内の漁協で一気に拡大!

漁業権を持たない個人(釣り人)が釣りをするために必要なのが“遊漁券” (呼び方は釣り券や鑑札など様々)です。これについては、前回の記事『【初夏】「川で過ごす時間を楽しむ」フライフィッシングの世界! 長野県は渓流釣りパラダイス』で触れましたが、さらに補足の情報です。

長野県内の場合、渓流魚が釣れる場所は漁業協同組合(漁協)が管理しています。遊漁券は釣りを開始する前に購入しておくことが原則です。一部を除き、“現場売り”も存在しますが、その分料金が加算されます。あらかじめ購入して釣りをした方が気持ちもスッキリ! いい釣果に結びつきそうです。

しかし、遠方の釣り場や早朝から入渓する場合には遊漁券の取扱店が開いていないことも多くあります。最近は遊漁券を取り扱っているコンビニが増えたので便利になりましたが、都合良く道中にあるとも限りません。川のコンディションを把握してから釣り場を決めたい時もありますね。そこで便利なのが、ウェブでの購入が可能な“電子遊漁券”です。現状では国内に「つりチケ」と「フィッシュパス」の2社あります。それぞれ特徴があり、対応している漁協も違う(一部重複)ので、まずはチェックしてみましょう。ちなみに両方ともスマホ用アプリも用意されています。遊漁券以外にも有益な情報を手に入れる事ができるかもしれません。※ちなみにフィッシュパスでは、料金据え置きで、遊漁券の購入と同時に怪我などの入院・治療費や救援者費用などを補償する保険が付いてきますので、非常にお得だと思います。

電子遊漁券は、全国的に広まってきているのですが、諸事情によりどの漁協でも即座に対応してくれる訳ではありません。特に県内ではその導入に遅れをとっている漁協が多く、歯がゆい思いをしていたところでしたが、9月より電子遊漁券導入漁協が一気に増えています。

ここで注意点です。僕もたまに失敗するのですが、川の状況を確認してから、いざ入渓点近くでネット購入しようとしても、山あいの渓では電波がなく(弱く)手続きが難しい事があります。どこまで戻れば電波があるのか、(非常時も考慮して)常に気にしておくといいですね。

また、釣りをしたい河川を管轄する漁協を探して遊漁規則を調べたり、購入の段取りをするのは、煩わしい事もありますね。そんなときに便利なのが、県内のポータルサイト『長野 釣り人ナビ』です。長野県内水面漁業の公式WEBページであり、長野県漁業協同組合連合会(長野県漁連)の公認サイトです。
県内の漁協を網羅していて、一目瞭然に整理してくれているので非常に助かっています。僕自身、土地勘のない、あまり足を運ばない河川はもちろん、足繁く通う河川・漁協でも定期的にチェックして情報を得るようにしています。ぜひ一度チェックしてみてください。

いよいよシーズン終了間近! 秋の一本で有終の美を飾りたい

岐阜県との県境、安房峠にて。飛騨への釣り旅の途中に。「いい魚と出会えますよう」星空に願いを込めて
避暑地・リゾートとして有名な軽井沢。町外れの森にはヤマメやイワナが泳いでいます。9月上旬に釣れたヤマメはすでに婚姻色に染まり出していました
木曽・開田高原。九蔵峠の手前より、振り返って見た御嶽山。高原の風にたなびくススキの穂に秋の訪れを感じます
長野市大岡の道の駅の前を流れる犀川本流。静かな朝のひととき。水量はかなり少ない状況です
山ノ内町の雑魚川にて。渇水でかなりシビアな状況の中、同行者が流したフライにようやく飛び出した一本!

この原稿を書いている途中、ようやく待望の雨が降り出してきました。
正直なところ、ほっとしています。程よい雨の恵みが流れを潤せば、すっかり気難しくなってしまった渓流魚たちも、きっと心を開いて飛び出してくれるはずです。
県内の渓流は、9月いっぱいで禁漁となってしまいます。そう、毎年このシーズン後半戦は、焦りと共に寂しさが付きまとう切ない季節なのです。まるで“恋わずらい”のようですね。
気温も徐々に下がり、ひと雨ごとに季節が進んでいくはずです。標高の低い里川での釣りも再び楽しめるわずかなひととき。先日、軽井沢で釣ったヤマメはすでに婚姻色が出ていました。紅葉のように色づいた魚体は艶っぽく、手にした喜びを増してくれます。

10月に入っても犀川殖産を始め、一部の本流ではニジマスを対象として釣りをすることができます。この夏は少雨のおかげで激しく増水することもありませんでした。水温が下がり出せばきっといい釣りができるでしょう。紅葉の中での釣りも乙なものです。


取材・撮影・文:杉村 航

<著者プロフィール>
杉村 航(Wataru Sugimura)
フォトグラファー。1974年生まれ。長野県在住。山岳・スキー写真をメインに撮影する。沢に薮山、山スキー、道なき道をいく山旅が好き。ライフワークはトラウトフィッシング。美しいヤマメやイワナを求めて、全国の渓流に足しげく通う日々。小谷村山案内人組合所属、北アルプス北部遭対協。全日本釣り団体協議会公認・フィッシングインストラクター。

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