“湖” で涼む。
長野県には“涼”を感じる場所がたくさんある。そのひとつが湖だ。
「なぜ、長野県には海がないのだろう。海があればよかったのに…」と、海に憧れた子ども時代。
湖で泳げることも知らず、水がきれないことにも気づかず、ここまで年を重ねてきてしまったことにちょっと後悔すら覚える。
長野県には海はない。だが、美しい湖がある。
心安らぐ穏やかな湖面。多彩なウォーターアクティビティ。周辺にはおしゃれなカフェも点在。
なんで今まで気づかなかったのだろう、地域の宝でもある湖の価値に。
そんな思いを強く抱かせてくれたのが大町市にある木崎湖だ。
「木崎湖」の水の透明度に感動
水のまち、大町市。市内には「仁科三湖」と呼ばれる天然湖が3つもある。諏訪湖、野尻湖に次ぎ県内で3番目に大きい青木湖。四季折々の風景をみせてくれる中綱湖。そしてさまざまなウォーターアクティビティが楽しめる木崎湖と、それぞれ違った景観や特徴を楽しむことができる。
今回は木崎湖を訪れた。
北アルプスの雪解け水が湖底から湧き出ているため、泳いでいる魚が見えるほどの透明度。大町市には何度も訪れ、豊かな水の存在を理解していたつもりだったが、正直、この透明感には驚いた。
「木崎湖で泳いだことありますか?めっちゃ気持ちいいですよ!」
木崎湖でレイクサイドアクティビティ&キャンプ場を営む「木崎湖POW WOW」代表の伊藤洋平さん。この地で生まれ、この地で育った、生粋の“木崎っ湖”だ。この日は伊藤さんが案内してくれた。
「海だとあがった後に体がベタベタするからシャワーは必須ですよね。でも湖は淡水なので、そのまま帰れる気軽さがいいんですよ」(伊藤さん)。湖で泳ぐという概念がなく、上越の海へと出かけていた子ども時代。淡水で泳いだ経験がないなんて、なんだか損した気分だ。
「日本は泳げるところが少ないですからね。今日もスイスの方から“泳げるところないですか?”って問い合わせがありました。木崎湖を案内したらとても喜んでいましたよ」。
泳ぐことはもちろん、他のアクティビティも充実している。「木崎湖POW WOW」では、SUP、カヤック、フォイルサーフィン&ウィングサーフィンを揃えている。SUP、カヤックあたりは聞いたことがあるが、フォイルサーフィンとは?
「風や波を使った横乗りの遊びで、ボードの下に水中翼があるので、水面から離れて飛んでいるように滑ります。浮遊感がすごいんですよ!」
SUPもイチ早く取り入れた伊藤さん。「おもしろそうだと思ったら、まず自分がやってみたいので(笑)」。自分でやって楽しかったことを手取り足取りお客さんに伝えていく、インストラクターの顔も持つ。
また、キャンプ場としても人気で、ネイティブアメリカンが移住用の居住として使っていた「ティピー」をモチーフにしたテントも設置されている。1日1組限定空間、プライベートテラスもあるので、ゆったりとレイクリゾートタイムを過ごせそう。
「僕はお客さんがいないと生きていけないので、こんなこと言っちゃいけないのですが…。人があまりいない静かな木崎湖は本当に最高ですよ」。
鳥のさえずりが響き渡る早朝のSUPツアーはまた格別だそう。
〈木崎湖POW WOWキャンプ場&アウトドアクラブ〉
住所:長野県大町市平19004-1
TEL:0261-85-2494
http://kizakiko-powwow.com/
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木崎湖の周りを歩いたら、一軒のカフェにたどり着いた
面積1.4km、最大水深29.5mの木崎湖。周囲は約6.5km。歩くと約2時間半で一周できる、のんびりトレッキングにちょうどいいコース。「木崎湖POW WOW」から木崎湖駅方面へ向かって歩くと、見晴らしが良い「木崎湖キャンプ場」が見えてくる。
キャンプ場に声をかけ、木崎湖桟橋でちょっと休憩。
少し進んだ先にある阿部神社でお参りをし、レンタルボードがあるあたりを過ぎたあたりで、なんだかお腹が空いてきた。
そんな頃合いを見計らってか、タイミングよくオシャレなカフェが目の前に。
木崎湖のほとりにある「ねまるちゃテラス」。自然に囲まれたロケーションと、洋食ランチ、スイーツなどが楽しめる居心地良いカフェだ。
窓から木崎湖がのぞめるカウンター席を陣取って、ほっと一息。
こちらでいただけるのは、地元の野菜などを使った手作りの洋食メニュー。大町のご当地カレー「黒部ダムカレー」も気になったが、「プルアパートプレートランチ」をいただくことにする。カンパーニュにたっぷりチーズをはさんで焼いたもので食べ応え抜群。一気に満たされた気分に。
この店のオーナーの松澤さんは、「木崎湖POW WOW」の伊藤さんと一緒に、木崎湖の活性化を目的とした「木崎湖プロジェクト」を推進。自然や風景を感じながら木崎湖周りをのんびり歩く『木崎湖フットパス』を広める運動もそのひとつだ。
自然ってやっぱりすごい。少しの時間ここにいるだけで、なんだか身も心もスッキリ整った感じだ。伺ったのは7月中旬。ちょうど湖面に咲くスイレンも見頃だった。
〈ねまるちゃテラス〉
住所:長野県大町市平10731
TEL:0261-85-4584
https://www.yamaku.jp/nemarucha.html
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「野尻湖」で小休止。心の洗濯。
長野県北信地方、信濃町にある県内で2番目の大きさを誇る野尻湖。黒姫高原と妙高高原の間、水面標高654mの高原にある湖だ。
北信で育ったわたしにとって、野尻湖はかなり身近な存在。足漕ぎボートに乗って、琵琶島(通称・弁天島)に上陸したことを思い出す。琵琶島は野尻湖北西にある小さな浮島で、島の中には「宇賀神社」がある。子ども時代は琴線に触れることはなかったが、大人になってから訪れると、孤島の神社の神秘的な雰囲気に圧倒される。観光船の立ち寄りポイントにもなっているので、興味のある方はぜひ訪れてみてほしい。
野尻湖は水上アクティビティも充実。新しいカフェやバーガーショップなどがオープンし、湖畔沿いが少しずつ賑わってきた。
目的のひとつ、人気のベーカリーを訪ねてみる。
湖畔沿いの人気ベーカリー 「EN BAKERY 39!」
湖畔にある「EN BAKERY 39!」。わざわざ訪れる場所にあるにも関わらず、お昼過ぎになるとたいがい売り切れる人気のベーカリーだ。わたしはこの店を3回訪れ、3回目にしてようやく、少しのパンを購入することができた。
「もしかして、ちょっとしかパンを焼いてないんじゃないか…」。
そんな失礼なことを考えつつ、開店前のお店に入らせてもらうと…。
種類豊富なパンがぎっしり! ドアの前にはすでに行列‼
パンを焼くのは大阪出身の谷口さん。7年ほど大阪のベーカリーで働き、たまたま知り合いのホットドッグ店のキッチンカーの手伝いで、信濃町のスキー場に出店。知り合いが多くできたこともあり2019年に移住。2020年に「EN BAKERY 39!」をオープンさせた。
ハード系、惣菜系、焼き菓子まで、種類豊富なパンがたくさん並ぶ。惣菜系で使う野菜は地元のものを使用。ソースなどは全て自家製だ。
開店直前になったので外に出ると、行列の人数が増えていた。
もう少し空いてから中に入ろうと外で待っていたら、「パン、買わないの?」と、買い物を終えた外国人の方が話しかけてくれた。
バンクーバー出身のご主人。毎年、夏の間のみ湖畔沿いの別荘に滞在し、毎朝野尻湖で泳いでいるそう。「ここのパン、すごくおいしいから、よく来ますよ。早く行かないとなくなっちゃうよ」と言い残し、自転車に乗って颯爽と帰って行った。
店の横にはイートインスペースもあるが、湖畔を眺めながら買ったばかりのパンを食べることにした。なんて、優雅な時間。おいしいパンがよりおいしく感じられるから不思議だ。
〈EN BAKERY 39!〉
住所:長野県上水内郡信濃町野尻257-1
https://www.instagram.com/en_bakery_39/
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昭和の趣を残すノスタルジックカフェ 「+コハクテラス」
しっかりお昼を食べるためにベーカリーのすぐそばにある「+コハクテラス」へと移動する。目の前に野尻湖がのぞめる眺望最高のカフェテラスだ。
昭和初期より営業する「宮川旅館」の一部をリノベーション。歴史を刻んだ古き良き老舗の趣を感じられるカフェとなって2018年にオープン。テーブル席、ソファ席、そして野尻湖が目の前にのぞめるカウンター席。もっと近くで野尻湖を感じたい人には、解放感抜群のテラス席もある。
ロケーションと居心地の良いこの空間でランチをいただくことにする。ここで楽しめるのは窯焼きのピザ。しかも、なんと食べ放題。
定番のマルゲリータにソーセージ、ピーマン、コーンなどがのったコハクピザ、くるみメープルピザなど7種類のピザに加え、季節のピザが1種類。
「季節のピザは地元の旬素材が登場します。春は根曲がり竹、8月は信濃町のトウモロコシですね。楽しみにしてくださっている方が多いので、全種類味わっていただくよう、クォーターやハーフ&ハーフで提供しています」と、オーナーの吉松さん。
さくさくのクリスピー生地に、自家製トマトソース、そしてこぼれんばかりのトッピング。クォーターでオーダーすれば、1枚で4種類も楽しめる。しかも食べ放題。サラダもドリンクも付いて2,200円ってお得すぎるのでは? 「そうですね、お客様にも“ホントに食べ放題?”ってよく聞かれます(笑)。でもわざわざここに来ていただくので、できるだけ満足して帰っていただきたいんです」(吉松さん)。
お腹が満たされたので、館内を案内していただく。2階には「宮川旅館」としての部屋のほか、コハクテラス専用の「湖泊ルーム」がある。リビングと寝室それぞれ分かれた贅沢造りで、ゆったりとプライベートタイムが過ごせる空間だ。
帰る間際、ご主人に「野尻湖の魅力」を訪ねてみた。
「昭和の時代で止まっている風景が野尻湖らしくて好きですね。観光地であるんだけどそこまで開発されていないので、のんびりできるところも魅力です。ウチは商売している側なので、ある程度人が来てもらわないと困るんですが(笑)」。
陽の光にうつる水面のきらめき。空と雲と風。湖畔を眺めているだけで、強張った心と体がすーっと楽になっていく。
涼しさを求め湖に来てみたら、1日中ずっと眺めていたい景色がそこにあった。
〈野尻湖宮川旅館 +コハクテラス〉
住所:長野県上水内郡信濃町野尻261-2
TEL:026-258-2501
https://www.kohakuterrace.com/
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取材・文:大塚 真貴子 撮影:平松 マキ
<著者プロフィール>
大塚 真貴子(Ohtsuka Makiko)
長野県出身。東京で情報誌を中心とした雑誌、書籍などの編集・ライターを経て、2008年に地元である長野市にUターン。地域に根差した出版社において情報誌の編集に17年間携わり、フリーランスのローカルエディター・ライターとして独立。趣味は飼い猫(ねこみやくん)を愛でること。
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