世界が羨む日本(JAPAN)のパウダー(POWDER)スノーの魅力! 盛り上がるフリーライドの世界
12月の半ばになり、県内のスキー場にも待望の雪が勢いよく降り出しました。コロナ禍で一旦減少していた海外からのスキー客も、この冬は戻って来てくれそうな雰囲気が漂っています。
ここ数年(コロナ禍前)、日本国内のスキー場で見かける外国人の姿が、格段に増えたことにお気づきでしょうか? 実は世界中のスノーフリークから熱い眼差しを向けられているのが、日本の豊富で上質な“雪”なのです。
僕自身、以前は北米やヨーロッパなどの雄大な景色と多彩な斜面、圧雪されていない新雪=パウダースノーでの滑走に憧れ、ずいぶんと色んなスキー場や山へ滑りに出かけました。それがいつの頃からか、海外のスキー場で僕が日本人だと分かると「日本の雪を滑ってみたい!」「北海道っていいのか?」という質問をされるように。やがて海外のスキーメディアの撮影クルーが来日した時にアテンドしたりもするようになりました。まずは北海道を紹介していたのですが「長野っていうところもいいって聞いたぞ」と言われ始め……。
コロナ禍以前の数シーズン、真冬の野沢温泉や白馬エリアは北海道のニセコにも引けを取らないくらい外国人の姿が目立つようになっていました。まるで海外のスキー場に来たかのような錯覚に陥るほどでした。“インバウンド”という言葉もずいぶん市民権を得ましたね。
では一体なぜ、それほどまでに日本のスキー場に海外からのゲストがやって来るのか。その理由は……。
世界から注目される日本の雪!
世界から見た日本の魅力は数々ありますが、スノーシーズン、ワールドクオリティーで自慢できるのがズバリ、“雪”です! もちろん、雪が降り積もる場所は、世界中にいっぱいありますよね。けれど、“パウダースノーを滑走して楽しむ”目線で見たとき、日本の雪はかなりアツい存在なのです。
長野県(特に北部)のような雪国にいると、当たり前のように冬には街のある平地にも雪が降ります。県内全域で考えると、標高が高いといっても山間地でなければ1,000m程度でしょう。ついでに書くと、お隣の新潟県では海辺でも豪雪地帯があります。当然、スキー場に行けば天然雪がたっぷりと積もっています。真冬は毎日のように雪が降り続き、ちょっと晴れたかと思うと再びしんしんと……。 実はこれは非常に価値があります。インフラが整った国や地域、一般的に移動する交通手段がある中では、(街から近い低標高のエリアで)これほど降雪に恵まれた場所は限られます。適度な緯度、そして四方を海に囲まれた島国であることなど。諸条件が揃ったからこそ、(スノースポーツの楽しみを享受する上で)雪の恩恵を受けることができます。
ちなみにヨーロッパ中央部、いわゆるアルプス地方でスキー場があるのは、氷河があるような標高が高いエリアがメイン。それに比べて日本のスキー場は低標高で森林限界を越えていないところが多く、広葉樹のツリーラン(森や林の中を滑ること)を楽しめるのも人気のひとつです。北欧でも同様のところがあるのですが、低緯度なので標高が低くても荒涼としていたり針葉樹の森だったり、都市からの移動がかなり遠かったり……。物価も高いですしね。北米には比較的似た環境もあります。ただ日本ほどコンスタントに、(間をあけずに)雪が降り続ける(=フレッシュな雪が滑れる)ところは少ないかもしれません。
『JAPOW(ジャパウ)』がキーワードに!
シーズンによって降雪・積雪の多い少ないはありますが、冬になれば必ず楽しませてくれる、期待を裏切らないのが日本の雪。いつしか“ジャパニーズパウダー”として世界のパウダー(スノー)フリークに浸透しました。今や『JAPOW(ジャパウ)』という呼び名が広まり、熱い眼差しを向けられています。
スノースポーツを愛好する人なら「いつか日本で滑りたい」「毎冬行くよ!」と人気です。なかでも1月~2月にかけてコンスタントに降ることから、「ジャパニュアリー」と言われることも。実際、白馬の知人のコンドミニアム(外国人がメインターゲット)は、その時期に集中して予約が入るようです。
日本にいると実感しにくいのですが、“雪”はそれ自体が観光資源として大きな価値を持っています。僕らは世界が羨むほど恵まれた環境で暮らしているのです。
アジアの中でもユニークな文化を持つ日本。観光目線で日本以外の国から見ると、エキゾチックな魅力に溢れています。“ニンジャ”や“サムライ”はいませんが、穏やかで親切な国民性もうけているようです。そもそも物価(リフト券や食事などが特に)が安い上に、このところの円安が旅行先としての人気に拍車をかけていくでしょう。
楽しいのはパウダー滑走だけじゃない! 雪質や地形を積極的に楽しむ! 「フリーライド」ってどんなもの?
「FREE RIDE(フリーライド)」という言葉を聞いたことがありますか? 簡単に言ってしまうと、(自然の)ありのままの環境や地形を生かした自由な滑走の楽しみ方です。スタイルやマインドも含めることが多いですね。アルペンやフリースタイル、基礎などの競技をベースにしたカテゴリーとは異なる喜びがあります。「普通にゲレンデを滑っているのとは違うの?」と言われると説明に苦しいところですが、よりアグレッシブに能動的に滑走を楽しんでいる感じでしょうか。
誰かと競うのではなく、自由に楽しく滑ればいいので、無理にカテゴライズすることもないのでしょうが、ここ数年で世界的にも大きなムーヴメントとなっています。
数年前から白馬エリアでは白馬八方尾根スキー場上部の山岳エリア(スキー場エリア外)において、フリーライドの世界大会の予選『FREERIDE WORLD TOUR(FWT・FWQ)』が開かれています。さらに白馬コルチナスキー場/白馬乗鞍温泉スキー場では、国内大会である『Japan Freeride Open(JFO)』も開催されて盛り上がりを見せています。
フリーライドの魅力はJAPOW、パウダースノーだけではありません。荒れた不整地もお手のもの。人工的に作られたパークでなくても、自然にできた地形を活用してジャンプしたり、スライドさせたりと、立体的に滑りを楽しみます。グラトリ・カービングなんでも自由です。
人気はどこ? 長野県はフリーライド向きのフィールドが目白押し!
JAPOW、フリーライドはどこで楽しめるの? 答えは、雪があればどこでも! です。
ただし、基本的には自然のままの環境、地形を滑るのが醍醐味なので、豊富な天然雪があるエリアがおすすめです。軽くて柔らかい新雪だとベストですね。
滑るメインはスキー場の非圧雪コースでしょう。さらに森の中、ツリーランができるようならそれも楽しいです。通常のコースでも、夜間や早朝の圧雪作業後も継続して雪が降り積もった時なら、圧雪の上に積もった新雪滑走を味わうことができます。スキー場や営業日によっては、コースの中心部だけを圧雪する場合もありますので、その場合両サイドはまさにパラダイスです!
傾斜が急だったり、変化に富んだ地形の方が立体的な滑走を楽しみやすいです。注意したいのは、そうしたコースは“上級者向け”のことが多く、スキー場の管理体制によっては条件付きで限定開放されている場合があることです。ロープを潜ってコース外に出ることは決してせず、ゲートが設けられている場合は、必ずそこから出入りするようにしましょう。他の滑走者もいますので、くれぐれもスピードの出し過ぎは控えましょう。他のコースとの合流点は要注意です。地形の陰や雪煙で見えづらいことへの認識も必要ですね。
特に注目されているのが、県北部の西側に位置する白馬エリア。背後に北アルプスが聳え立ち、圧倒的なスケールでフィールドが広がります。降雪具合に合わせてスキー場やコースを選ぶ楽しみもあります。
野沢温泉スキー場や北信濃の豪雪地帯にも魅力的なコースがいっぱいです。豊富な積雪によって作られた地形と新雪を思う存分堪能できます。志賀高原エリアはより内陸で標高も高いため、上質なパウダースノーの宝庫です。ターンを刻み、乾いた雪が舞うと視界を遮り、呼吸ができないくらい軽い雪です。
全国的に見れば長野県はベースの標高が高いこともあり、規模の小さなスキー場でも十分に上質な雪を味わうことができます。豊富な降雪・積雪量があればいいので、メジャーなフィールドじゃなくても期待できます。穴場探しもおもしろいかもしれません。案外、海外からのゲストの方がいい場所を知っていたりして、びっくりさせられることもありますよ。
降雪中、もしくはまとまった降雪後の晴天の日、最高の滑走を楽しんだらその日(時間)は「THE DAY(ザ・デイ)」と呼ばれています。この冬はぜひJAPOWを存分に味わって、笑顔でいっぱいになるよう素敵なTHE DAYを体験してみてください!
構成・撮影・文:杉村 航
<著者プロフィール>
杉村 航(Wataru Sugimura)
フォトグラファー。1974年生まれ。長野県在住。山岳・スキー写真をメインに撮影する。沢に薮山、山スキー、道なき道をいく山旅が好き。ライフワークはトラウトフィッシング。美しいヤマメやイワナを求めて、全国の渓流に足しげく通う日々。小谷村山案内人組合所属、北アルプス北部遭対協。
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