3年連続のラニーニャの冬が到来!「しも雪」による大雪に注意
2022年12月18日、日本列島を今冬最初の強い寒波が襲いました。長野県でも広い範囲で雪が降り、「いよいよ冬本番」と感じた方も多いのではないでしょうか。その後も強い寒気の到来があり、県内に降雪をもたらしています。
記憶に残っている方も多いと思いますが、昨年の冬は、日本海側を中心に大雪となり、災害レベルの雪が降ったこともありました。大変な経験をされた方もいらっしゃるかと思いますし、今年の冬はどうなるのかが気になりますね。
昨年に続き、今年の冬もラニーニャ現象が予想されています。実はこのラニーニャ現象は、2020年の秋ごろに発生し、一時的な中断を経ながらも続いているのです。今年は3年連続のラニーニャの冬ということで、世界中がその影響に注目しています。
さて、長野県の雪の降り方を表す言葉に「上(かみ)雪」「下(しも)雪」というものがあります。「上雪」は長野県の中信・南信を中心に降る雪のことで、主に春先に降る、重い湿った雪を指します。それに対し「下雪」は、北信を中心に降る雪のことで、主に真冬に降る、比較的軽い雪のことを言います。方言のようですが、昔の都である京都に近いほうを「上」、遠いほうを「下」と呼んでいたことに由来するという説があります。
一般に、ラニーニャ現象が起きると、日本付近では夏は暑く、冬は寒くなると言われます。冬の場合、寒気が入りやすく、冬型気圧配置が強まって日本海側を中心に大雪となる傾向があります。つまり「下雪」の天気パターンが現れやすくなるのです。
昨冬の大雪や厳しい寒さも、ラニーニャ現象が関係している可能性があります。私はスキーが大好きなので、基本的には雪が降るのは歓迎なのですが、スキー場にたどり着けないほどの大雪ともなると、交通や生活にも大きな影響が出ますし、困りますよね。
このラニーニャ現象、実は2023年2月以降に、ようやく終息へ向かうと予想されています。ですが、年明けからしばらくはラニーニャの状態が続く予想で、とくにクリスマスから年末年始には強い寒気が襲来する恐れがあります。少なくとも1月いっぱいは冬型の気圧配置になりやすく、強い寒気の流入があると予想されています。
スキーやスノーボードが好きな方には、今シーズンも「下雪」によりパウダースノーが楽しめそうですね。でも、大雪や寒さへの備えはしっかりと行って、この冬を乗り切りましょう!
「くもり時々雪、一時晴れ」――なんでもあり!?それが冬型の天気です
「明日の天気は、くもり時々雪、一時晴れでしょう」。天気予報が、こんな内容だったらどう思いますか?「いったい雪なの?晴れなの?くもりなの?」と困惑する方もいるかもしれませんね。
実は、冬型の気圧配置のときの日本海側の地域というのが、まさにこのような天気なのです。その理由は、冬型の雲が発生するメカニズムにあります。
冬型気圧配置というのは、日本の西に高気圧があり、東に低気圧がある、いわゆる「西高東低」の気圧配置のことを言います。このとき、日本付近は主に北~北西の季節風が吹きます。この季節風は、日本海を渡る際に海面から水蒸気をたっぷりともらい、日本海上で雲が大量にできます。冬型が強いときに、気象衛星ひまわりの画像を見ると、日本海にびっしりと筋状の雲があることが分かります。なんとも不思議な形ですね。この筋状の雲が、北西の季節風によって日本海側に到達し、雪を降らせるのです。
さて、この日本海で発生した筋状の雲の正体は、積雲や積乱雲です。雲の種類には大きく分けて2つのグループがあり、べったりと広がる「層雲」のグループと、モクモクした形の「積雲」という2つのグループがあるのですが、冬型の筋状の雲は、後者の積雲系の雲で、近くで見ると、モクモクした形をしています。
暖流の影響で比較的暖かい日本海に、冷たい季節風が吹き付けると、空気の下層だけが暖められます。すると上昇気流が発生し、積雲や積乱雲が作られるという仕組みです。
つまり、雲と雲との間にすき間が多くあり、晴れ間が現れることも多いのです。「雪が降ったり、晴れ間も出たり……」というのが冬型の天気なのです。もちろん冬型の強さによって晴れ間の度合いは異なり、冬型が強く、雲にすき間が少ない場合は、ほとんど晴れ間が出ないこともあります。
同じ冬型でも降る場所が違う!?4つの降雪パターン
今シーズンはラニーニャ現象により、いわゆる「しも雪」パターンが多くなりそうですが、ひとくちに「しも雪」と言っても、上層の寒気の入る経路や風向などによって、大雪が降る場所が異なることがあります。
「しも雪」となるのは、いわゆる冬型の気圧配置の時ですが、冬型にもさまざまあり、長野県での大雪の降り方は、おおよそ次の4つに大別されます。
長野県の大雪パターンその①
「大糸線の大雪」「木曽地方の大雪」
最初は、大糸線沿いのエリアと、木曽地方が大雪になるパターンです。これは、発達した低気圧が日本付近を通過した直後、冬型気圧配置に移る初期のタイミングで起きます。
風向きが西よりとなるため、雪雲は北アルプスにぶつかり、小谷・白馬・上高地など、大糸線沿いで大雪となります。また、南部の中央アルプスの木曽地方も、岐阜県からの雪雲が流れ込むため大雪となります。
昨シーズンで例を挙げますと、2022年1月11日に低気圧が通過し、その直後から強い冬型となりました。11日は、木曽の開田高原でなんと20cmもの雪が降りました(※一日の降雪の合計の値)。この日、白馬の降雪の合計は21㎝、小谷は16cmでした。
長野県の大雪パターンその②
「信越線の大雪」
次に、北部の信越線沿いが大雪となるパターンです。これは冬型の気圧配置が非常に強まって、季節風が最盛期となったタイミングで起こります。
風は北西~北よりで、信越県境に近づくほど雪の量が多くなります。新潟県の山沿いでは大雪となります。このとき、特に上空の寒気が特に強い場合は、長野市あたりまで大雪になることもあり、菅平など東信エリアまで雪雲が流れ込むこともあります。
2022年1月13日は冬型が強まり、降雪の合計は白馬で36cm、小谷57cmでした。翌14日に冬型はさらに強まり、日本列島に大寒波が襲来。上空5500mに-40℃という非常に強い寒気が入りました。14日の天気図では、等圧線が縦に並び、北寄りの強い風が吹きました。北部全体に大雪となり、13日の降雪の合計は、小谷で57cm。信濃町で36cmでした。14日には長野市にある長野地方気象台で21㎝の雪を観測しています。
長野県の大雪パターンその③
「飯山線の大雪」
3つ目に、飯山線沿いで大雪となるパターンです。これは冬型の気圧配置が次第に弱まってくるときに起こります。風向きは北~やや東寄りとなり、風上側にあたる新潟県側の山地で、雪雲が上昇して発達するため、長野県側へは、この雪雲の一部が飯山線沿いに進入し、野沢温泉など局地的にたくさんの雪を降らせます。
2022年1月28日、野沢温泉では23cmの降雪がありました。いっぽう白馬は1cm、小谷は8cmでした。28日の天気図を見ると、東日本付近の等圧線が斜め(右上から左下へ)に走り、風は北から北東寄りでした。また、翌29日の天気図を見ると、冬型が次第に緩んでいくことが分かります。
長野県の大雪パターンその④
「長野市あたりまでの大雪」
もうひとつ、長野市あたりまで大雪となるパターンがあります。低気圧が北日本付近で発達し、上層の寒気の中心が北陸付近まで南下するような場合に起こります。
2022年1月20日から21日にかけて冬型の気圧配置が強まり、能登半島付近の上空に非常に強い寒気が南下して、全国的に寒い一日となりました。長野市の降雪の合計は、20日が28cm、21日が27cmで、2日連続で大雪となりました。
上空に強い寒気が入るかどうかは、専門的な高層天気図を見ないと分かりませんが、地上天気図で強い冬型になっていたり、ニュースの天気予報で「強い寒気が流入する」といったコメントが流れたときは注意したほうがよいでしょう。
いかがですか。面積の広い長野県は、山や谷が多く地形が複雑なこともあって、県内でも場所によって天気がかなり異なるのが特徴です。
でも、天気図の等圧線の方向に着目し、風向きを考慮することで、大雪となる場所を予想することができます。スキーやスノーボードが好きで、パウダースキーを滑りたい方は、ピンポイントで良い雪を当てられるかもしれませんよ。
構成・文:横尾 絢子
【参考文献】
▼気象庁ホームページ
https://www.jma.go.jp/jma/index.html
▼長野地方気象台「長野県の気候・冬」
https://www.jma-net.go.jp/nagano/shosai/kikou/kikou.html
<著者プロフィール>
横尾 絢子(Ayako Yokoo)
フリーランス編集者・ライター。気象予報士。高校時代より登山に親しむ。気象会社勤務の後、新聞社の子会社で夕刊執筆、山岳・アウトドア系出版社で月刊誌編集に携わる。2020年、東京都から長野県佐久市に移住したのを機に独立。現在はフリーランスとして、雑誌や書籍の編集・執筆に携わる。雪山を楽しみたくて20代でテレマークスキーを始め、現在は山岳スキー競技にも参加。テレマークスキーイベント「Frie(フリーエ)」実行委員。日本山岳・スポーツクライミング協会山岳スキー委員。
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