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米子大瀑布を通して考える道の復活と地域の願い、私たちに気づかせてくれること

“米子大瀑布”名前を聞いたことのある方は多いのではないでしょうか。須坂市の南東部に位置し日本の滝百選にも数えられている名瀑です。ところが令和元年の東日本台風によって道が崩壊し通行止めが続いているため、アプローチは閉ざされていると聞きます。その道を復活させ、地元の人にも外から遊びに来る人にも米子大瀑布を楽しんでもらおう、という取り組みが地域の方を中心に動いています。そしてこの秋、滝への道がお披露目されるとのこと。写真でしか見たことのない滝をぜひこの目で見てみたい!と訪れました。このプロジェクトを主催する一般社団法人仁礼会と協力する株式会社マウンテンワークスは、どのようにして開通への準備を進めているのでしょうか。米子大瀑布のこれからについても伺います。

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初めて訪れた米子大瀑布、さてその印象は?

硫黄鉱山跡の台地を歩き、滝へ近づいていく

レースカーテンの様な霧に覆われる権現滝(左)と不動滝(右)

来た方角を振り返る。奥の岩壁と紅葉も素晴らしく全方位見飽きない

滝を見ながら歓談。霧の動きで景色が変わるので、離れられなかった

数日前から本降り予報だったこの日、予報が後ろ倒しになり午前中は曇りで昼過ぎからの雨、と少し良い方へ変わりました。とはいっても午後からの降水確率は高く、びしょ濡れを想定した防水対策をして仁礼会集会所へ向かいます。クローズドイベントのため、基本的には観光業に従事している皆さんが集いました。「午後から荒天予報のため予定を変更して、午前中に滝を見に行き午後は集会所でオリエンテーションを行います」との案内に、ほっと胸を撫でおろします。こういう細やかな対応は、参加者からみて主催側への信頼感が生まれますね。早速、何台かの車に分乗して出発です。一般車両の通行止め(2022年11月現在)が続いている林道・米子不動線のゲートを開けて進みました。スタートの仁礼集落の標高は570mほどで、そこからぐんぐん標高を上げ1,200m付近まで達すると、紅葉の華やかさが一段と鮮やかになっていきます。硫黄鉱山跡の開けた場所で車を降りると、秋の落ち葉の香ばしい匂いと冷たい霧に、一気に季節を進んだように感じました。思わず立ち止まり目をつむって深呼吸。肺の奥までしっとり冷えた空気で満たされて、冬の気配すら漂ってきます。目を開き、先に行く皆さんの方へ追いかけていくと、紅葉の森に上下から挟まれるようにして大岩壁が横に広がり、その中に2筋の白い滝が見えました。視界いっぱいに広がる景色に、焦点を絞り切れません。わあ~! 感嘆の声が漏れ、紅葉と滝、そこに煙る霧の見事な合作に見惚れてしまいます。こんな光景をみると曇天もありがとう、と言いたくなりますね。ぜひ、いろんな方に見に来てもらいたい、という想いがよくわかりました。

滝山館と、滝へ続く道の復活を目指して

株式会社マウンテンワークス代表の三笘育さん

米子不動尊奥の院。修験者たちはどんな想いで訪れたのだろうか

奥の院の裏側から不動滝へ向かう直した道の一部。周りによく馴染んでいる

見上げてしばらく見入る。山でできたばかりの水を落とす神さびた不動滝

江戸時代、米子大瀑布にはたくさんの人が修行の場として訪れていたそうです。滝壺の近くには米子不動尊の奥の院が祭られ、滝のそのものがご神体であるとのこと。その向かいには今は使われなくなった滝山館が建っています。江戸から戦前の頃までは、訪れる修験者や硫黄鉱山の採掘で賑わっていました。その後、滝山館の先代が亡くなり、それからは手つかずのままの状態にあるのだそうです。荒廃した米子大瀑布までの道と滝山館を復活し、訪れる人たちが憩える場所を作ろうと、仁礼会と準備を進めている株式会社マウンテンワークス代表の三笘育さんにお話しを伺います。
間近で滝を見るために米子不動尊奥の院から山道を歩きながら、どのように道を直しているのか、三笘さんが説明してくださいました。「自然に溶け込むように石を組んでいます。この辺りは荒れ果てて通れなかったのですが、歩いてみてどうですか?」階段状の石段へ歩を進めると、歩きやすい! たくさんの登山道を歩いてきた私は、一歩一歩だす足の流れを止めずに違和感なく置ける位置と段差があると、作り手の登山者への優しさを感じます。「ちょうどよい岩が多いですね?」「積んでいる岩は付近から調達しています。板状節理のものが多く積みやすいこともありますが、石積みのうまいネパールのシェルパ族にも手伝ってもらいました」。私たちが自然の中で遊ぶとき、目的の場所までたどり着くための道や、そこを歩くこと自体が目的のトレイルもありますが、獣道以外は必ず誰か人の手が入っています。誰も歩かなくなった道はあっという間に自然に帰っていき、人は入ることができなくなります。日本の登山道は管理者不在のところも多く、放置されて危険な場所も目にしてきました。藪漕ぎ(※)をすると、道のありがたさが身に染み、道があることは当然のことではないことがよくわかります。美しい自然風景は人里離れていることも多く、その道の維持には誰かが働いている、ということを私たち利用者は心に留めて歩きたいなと思いました。
仁礼会とマウンテンワークスでは、米子大瀑布とその西側にある大谷不動を含めた国立公園の利用計画の策定からプロモーション、集客施策までと包括的にプロジェクトを進めている最中だそうです。「この道の復活にはどんな意味がありますか」と伺ってみました。「地域に根差した観光資源である米子大瀑布群を整備し直すことで、仁礼地区の経済を支える復興になります。それは結果的には訪れた人のためにもなると思いますよ」
轟音と共にしぶきを上げる不動滝の下に案内してもらいました。修験者は直下まで行き滝に打たれるそうですが、私たちはその手前の水しぶきがかかるくらいの場所まで近づきます。見上げると、岩崖の高さに圧倒されました。滝口からの落差は89m、まっすぐに滝壺まで流れ落ちる直瀑からの水煙が顔を撫でていきます。その迫力に畏怖を感じるのは昔も今も変わらないように思いました。
※道なき場所を歩いて進むこと。木で密な藪の海を、船を漕ぐようにして歩くことから

四阿山カルデラの水を集めて、米子川へ

滝壺から米子川へ流れていく水は、これから日本海までの長い旅がある

下山路の途中、振り返ると木の間から権現滝

滝山館の本館から少し離れたところにある浴場の跡。湯舟は滝見風呂になっていた

こちらは不動滝へ向かう途中、小さな橋から可愛らしいひょんぐりの滝

「冬になると、今は見えない滝が現れます」と三笘さんに教えてもらいました。「氷瀑が見えるのですか?」「はい。水量が少ない滝は、冬季になると少しずつ凍っていき徐々に白く目立つように育っていきます」わあ、見てみたい! しかも何本も現れるのだとか。広葉樹が落葉した後の荒涼とした黒い岩壁に何本もの白いラインが想い浮かびました。もしかすると水墨画のように見えるのでしょうか。想像が膨らみます。
なぜ、こんなに見事な景色ができたのでしょう。見れば見るほど、どんな地形なのかが気になりました。スマホアプリで国土地理院の地形図を開くと、直径3㎞の大きな四阿山カルデラ(※)が馬蹄の形になっていることがよくわかります。外輪山の標高は全体的に2,000m程度で、南側の四阿山(2,354m)はもちろん、西側の根子岳(2,207m)と名前の知られたピークも含まれます。その馬蹄の開いている北側に瀑布群が位置しており、カルデラ内の米子川源頭部の水を集め、1600m付近から流れ落ちています。数年前の3月、四阿山を登った際に山頂から雪で覆われたカルデラを見て感動したのを覚えています。あのカルデラの先に目の前の滝が繋がり、地中に浸み込んだ雪が流れていくのかと思うと、静かなドキドキが治まらなくなりました。地球の活動によって創られた景色が、数十万年後の今、たまたま生きている私の前に広がっているのです。
流れる水が周りの岩を削り、毎年数センチずつ後退する滝もあると聞いたことがあります。米子大瀑布群も何世代か後には違う形になっているかもしれません。(勝手な想像ですが)今見ているこの景色はこの時だけのものと思うと、一層、愛しみの気持ちを感じます。
※火山活動によってできた凹地

山林を管理する仁礼会、一歩先ゆく理念

一般財団法人仁礼会理事長、若林武雄さん

奇妙滝(落差60m)を見に行く。あちこちに滝があり、水の豊富なこと

奇妙山の石仏巡りへ。先人たちの息遣いと信仰心に感じ入る

前述の石仏の前からは、ご神体である滝を臨めるように配置されていた

この企画の呼びかけ人は、一般財団法人仁礼会理事長、若林武雄さん。仁礼会とは、地域で共有する山林を維持管理するために集まった皆さんで成り立っています。面白いのは、「共有」というところ。個人が個別に限定された場所を所有するのではなく、地域全体で山を持ち皆で管理していきましょう、という土台が既に出来上がっているのですね。山の土地が個々の持ち物の場合は、区画をまたいだ利用はとても難しいと聞きます。車や家などシェアリングが浸透してきたのはここ最近ですから、予てより山をシェアするという柔軟な姿勢があったのは土地の気風なのでしょうか。仁礼会で保有する山域は1,700ヘクタールにおよびます。植林と伐採により手入れされていた山が、ここ30年ほどは管理者の高齢化により手つかずのまま。若林さんはおっしゃいます。「このままでは荒れていくばかりの山に危機感を持っています。未来へ山を活かしていくにはどうすればいいのか、利用する人にも行動を起こしてもらいたい、と今日の集まりを立案しました」最後の言葉に私はドキリとしました。どこか受け身で参加をしていたのかもしれません。午後のオリエンテーションでは参加者一人一人に、アイデアと感想を求められました。登山ガイド目線で気になることを回答しながら、初めて訪れた部外者の意見を聞く組織のあり方が胸に響きます。山林を維持する方法を模索し、「どうしたら持続的に人に来てもらえるのか」外からもアイデアを求める機会をつくっていく仁礼会を興味深く思いました。

歩いて感じたこと、次の旅へのヒント

紅葉の上を歩く。サクサク、サクサク、音と足裏の感触が気持ちよい

米子大瀑布駐車場登山口では新しくトイレを立て替え中。開通へ向けて準備している

道々、ほら貝を吹きながら同行してくださった山伏登山ガイドの田村茂樹さん

午後のオリエンテーションでは参加者の意見交換も行われた

私たちは訪れた場所で楽しんで時間とお金を使うことができます。自然環境の中で遊ぶことが多い私は、その場所で誰にも会わないこともあります。けれど、登山口まで移動して、トイレを利用し、道を歩けば、そこには誰かの手が入っている、という想像力を忘れないようにしていきたい、と改めて思いました。次の旅先は興味の対象であり、さらに応援したい場所なのかどうかを物差しに入れてみようと思います。私たちが訪れる事で地域の環境保全につながる可能性があるならば、その選択は循環していくはずです。自然の恩恵を受けて楽しんだらその環境にただ感謝するだけではなく、山麓の宿に泊まったり、買ったり、食べたりという事が地域経済に貢献し次につながっていく、ということを今まで以上に意識しました。
米子不動線の林道開通は、早くて2023年になるそうです。降雪エリアの林道の開通状況を調べるときは、雪解けの頃にすると新しい情報がでてくることが多いですね。ぜひ、米子大瀑布群をあなたの行きたい場所リストに入れていただき(あの景色を体感してほしい!)、春のその頃にプランニングを考えてみてはいかがでしょうか。

〈米子大瀑布登山口駐車場を起点にした周遊マップ〉*計画予定(制作:マウンテンワークス)

・駐車場までアクセスする林道米子不動線はただいま通行止めです。(2022年11月現在)

・林道米子不動線開通の最新状況は、下記の須坂市ホームページよりご確認ください。
☞ 林道米子不動線(米子大瀑布へのアクセス道路)通行止めについて


撮影:杉村 航 取材・文:渡辺佐智

<著者プロフィール>
渡辺佐智(Sachi Watanabe)
日本山岳ガイド協会認定登山ガイド、雪崩業務従事者レベル2。バックカントリーのアシスタントガイドとしてスタートし、一年を通して日本の山を歩いています。季節の中で一番好きなのは雪山。登山初心者から中級者を中心に、安全に長く山登りを楽しめるようなサポート、ガイディングを心がけています。コロナ禍の影響で仕事の幅が広がり、自然の中で感じたことを文章で伝えることにも挑戦中です。

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