この夏、ラベンダー畑で。
初めてラベンダーに出会ったのは小学生の頃だったと思う。どこか家族で出かけた旅先で、その香りに触れたとき。「花ってこんなにいい香りがするんだ!」と感動して以来、ラベンダーが大好きだ。そのときお土産に買ったラベンダーの香りがするアイピローを、香りがしなくなるまで使い続けていた。そんな思い出から、私にとってラベンダーは特別な花の一つである。
香りは記憶と深く結びつくと考えられる。それを“プルースト効果”とも呼ぶそうだ。プルーストの小説の中で、マドレーヌを口にして幼少期を思いだすという描写があることから名づけられたとされるが、きっと、誰しもそんな経験があるのではないか。ふとした時にふんわりと鼻から入ってきた香りに、心の中が色めき立つ。それに気づいた時、自分にとってその香りが、何か特別な地位を得る(大好き、かもしれないし、大嫌い、かもしれない)。そう、私にとって、それがラベンダーなのだ。
7月。ラベンダーの咲く季節。数年前に行ったきり、ラベンダー畑に行っていない。この夏は、体いっぱいに、ラベンダーの香りを感じたい。あわよくば、香りを持ち帰りたい。日々に埋没している五感を喜ばせる旅に、出かけることにした。
鮮やかな色彩のコントラスト 小諸『夢ハーベスト農場』
佐久から15分ほどひたすら坂を上り続け、『夢ハーベスト農場』へ。短時間ながら標高は200mほど上がったので、車から降りると、先ほどとは違う心地よい風が体を通り抜けていく。一気に坂を上った分、広い空と、眼下には八ヶ岳や野辺山まで見渡せる雄大な景色が広がり、なによりも目を見張るのは、一面に広がる鮮やかなラベンダーの紫色だ。色のコントラストに目がくらみそうになるほど、夏らしい、彩度の高い景色に、無条件に心が踊る。
「定年後に花を育てながら過ごしたい」という願いで、初代オーナーの小林さんが手がけたことから始まったこの農場は、広大な土地に、1万株のラベンダーが植えられている。それ以外にもオールドローズ、ハーブ、ブルーベリーなど、季節ごとに楽しめる多様な植物を栽培。また、昨年よりオーガニック認証を得て、現在は全て有機栽培で行っており、オリジナルの蒸留器を作り、自家製のアロマオイルまで作っているのだから、恐れ入る。老後の夢と聞いて想像するスケールをはるかに超えた、大きな夢が実現された様子を目の当たりにして、思わず目の前の景色に向かって、かけ出したくなる(私も、もっと大きな夢を持とう)。
オープン時から共に農場を作り上げてきた、小林さんの義理の娘である千代子さんに、農場をご案内していただいた。もともと地元の出身ではあるが、ちょうど結婚する時期に農場を作る話が持ち上がったそうで、この広大な農場に携わることになったそうだ。こうやってここにいるのは、なるべくしてなった巡り合わせなのかもしれないですね、と話して下さった。義父とは感覚がとても合い、一緒に作り上げるのが楽しかった、と微笑む。そんな家族の話を聞き、こちらまで心が温まる。
私の名刺を見て「お名前の漢字に入っている、“麻”が今ちょうどありますよ。私も大好きな花なんです。」と、亜麻科の“ペレニアルフラックス”を紹介してくれた。今まで自分の名前が花であるという感覚が無かったので、この邂逅に驚くとともに双子の姉妹を見ているかのような親しみが湧いてきた。私の名前に、こんなにかわいらしい花が使われていたとは!人生で初めて“私の花”を知った。少し小ぶりな、透明感のある青い花だ。
その後も、次々に色々な植物について教えてくれた。見るだけでなく、実際にさわり、嗅ぎ、食べる。形もさることながら、手触りの違い、香りの違い、味の違い。それぞれの個性が全く違うのが面白い。中でもちょうど今がシーズンである“レモンバベーナ”は、フレッシュな香りを楽しめるハーブだ。最初にお話を伺うときに頂いたレモンバベーナを浮かべた紅茶を一口飲み、その香り高さにすっかり虜になってしまった。なかなか流通しない、めずらしいハーブだそうで、その名のとおり、葉っぱからレモンのような爽やかな香りがする。もうすでに、心が満たされてきた。植物の力もさることながら、千代子さんの柔らかい笑顔と心こもったおもてなしのおかげである。
「さあ、ラベンダーの方へ、行きましょう。」
そうだった、今日はラベンダーに会いに来たのだ。改めて、鮮やかな一面の紫に目を向ける。
青空の下で芳香欲 鋏を片手に摘み取り体験
農場では様々な種類のラベンダーが植え付けられており、6月中旬ごろから8月上旬ごろまで、ラベンダーが咲いている。30本摘み取りすることができ、老若男女の利用客でにぎわう。家でドライフラワーにして長く香りを楽しめるのも、ラベンダー畑の魅力の一つだ。「ぜひ楽しんでくださいね。」と渡されたはさみを手に、紫色に足を踏み入れる。つぼみが多いものの方が、ドライフラワーには向くとのこと。しゃがみながら、一つ一つの花をじっくり見て、よさそうなものを手に取り、はさみを入れる。ちょきんと切ると、ふんわり香るのがたまらない。手に持ったラベンダーが増えると、その香りも増す。全身にラベンダーをまとっているような、とても贅沢な気持ちだ。ふと顔を上げると、目の前には広い空と鮮やかな色。たまに吹く心地よい風を浴びながら、ここは天上世界か、と思う。
ラベンダー畑の横には、自家製の蒸留器を使った工房がある。蒸留器の中に水とたっぷりの花を入れ熱することで、花の成分を含んだ水蒸気が発生する。それを冷やすと、アロマオイルとフローラルウォーターが出来上がる仕組みだ。まだ熟成途中のフローラルウォーターを見せてもらった。さらさらしているが、ほんのり花の香りがする。ここから熟成が進むことで、香りもさらに凝縮されていくのだそう。アロマオイルも、濃厚かつ洗練された香りだ。有機自家栽培のラベンダーを使用し、自家製の蒸留器で作るオイルからは、徹底したこだわりが感じられる。
さて、ラベンダー畑を堪能していたら、あっという間に時間が過ぎてしまった(天上世界は地上の世界とは時の流れが異なるようだ)。農場にはカフェが併設されているので、のんびり楽しめるのがうれしい。今日はせっかくなので、ラベンダーにまつわるメニューを楽しむことにしよう。
ボタニカルなカフェ&ショップで心満たされる一日を
緑あふれるオープンテラスカフェからの眺望も、完璧だ。日陰で一息つきながら、ぼんやりと遠くの稜線を眺めるだけで、癒される。メニューはラベンダー、ブルーベリー、ローズなど農場にあるものを使用したドリンクやスイーツ。やはりラベンダーソフトは人気で、他の利用客もソフトクリームを手に持つ人が多い(昼にかけてかなり人が増えてきた)。今回は、ラベンダーソフトがのっているラベンダーパフェと、ラベンダーカルピスを頂くことにした。
運ばれてきたものを前に、わあ、と声が出た。薄紫と白が二層になったラベンダーカルピスには、ラベンダーの花がかわいらしく添えられている。パフェも紫色をテーマカラーにして、ゼリーやクリームが合わさった華やかな出で立ちだ。食べる前から幸せである。ひんやりとしたソフトクリームは、ほんのり香るラベンダーがとても上品で舌に溶けていく。下に隠れているゼリーもさっぱりと頂けるため、味の変化がバランスよく、パフェといえどもぺろりと食べられる。ラベンダーカルピスは、かき混ぜながら色のグラデーションを楽しんでみてほしい。パステルカラーの紫色が美しく、このまま持って帰りたいくらいだ。乾いた喉が、どんどん潤っていく。メニューから選ぶ時に始まり、食べ終わった後も幸せは続く。姿かたちは変わっても、ラベンダーの力は、すさまじい。
店内にはショップも併設されており、前述の有機栽培のラベンダーなどを工房で蒸留して作るフローラルウォーター、アロマオイルをはじめ、ハーブティーなども販売している。天井には美しいドライフラワーが沢山ぶら下がり、どこまでもボタニカルである。ガーデンだけでなくショップまで、目を向けるところすべてが絵のように美しくて、つい長居をしてしまった。
先ほど畑にいた小さい子どもが、ソフトクリームを食べて満足したのか、ご機嫌で話している。ラベンダーを摘み取ったのがうれしかったのか、「かえったら、さっそく、これ、干しょうねー!」と連呼している声が響き渡り、あまりのかわいさについ笑ってしまった。そうだ、私も家に帰ってラベンダーを干そう。買い物を済ませ、千代子さんに取材のお礼を告げると、別れ際にレモンバーベナを摘み取ったものを下さった。最後まで心こもった優しさに、すっかり満たされた気持ちで帰路に着く。きっとこの後、どこかでレモンバーベナの香りに出会ったら、千代子さんと農場のことを思い出すだろう。車の中もまた、心地よい香りが充満していた。
五感で楽しむ天上のラベンダー畑に出かけよう
ショップで買ったフローラルウォーターとアロマオイルを早速使ってみた。ふんわりと漂うその香りに、家にいながら目を閉じればラベンダー畑が浮かんでくる。どこにいても、花がそよぐ天上世界へトリップできるなんて、我ながらいい買い物をした。寝る時に使えば、花畑に寝転がっているような気持ちだ。
色とりどりに自然あふれる場所に身を置くと、忙しい日々の中では忘れがちな、五感で感じられるさまざまなものに気づく。それらをフル活用したことで、現代生活の中で置き去りにしていた“人間らしさ”を取り戻せたような気持ちになった。画面を通じての体験ではなく、体を通じての体験は、やはり私たちにインパクトをもたらす。“本物”に触れることは、“本物”の体験をもたらすのだ。
ぜひ、農場に踏み入れたときに目に飛び込んでくる景色を、ただ感じるままに味わってほしい。できれば写真を撮るだけでなく、体全部を使って。きっと、写真を見返して終わるだけではない、もっと体の底から感じるような体験をすることができるはずだ。そしてその体験は、家に帰った後もあなたを満たされた気持ちにしてくれる。いつでもその時の香りに出会えば、またその気持ちを思いだすだろう。
美しい花々が待つ、天上のラベンダー畑へ。五感を使った旅に、出かけてみてはいかがだろうか。
〈夢ハーベスト農場〉
☞http://yume-harvest.com/
取材・撮影・文:櫻井麻美
<著者プロフィール>
櫻井麻美(Asami Sakurai)
ライター、ヨガ講師、たまにイラストレーター
世界一周したのちに日本各地の農家を渡り歩いた経験から、旅をするように人生を生きることをめざす。2019年に東京から長野に 移住。「あそび」と「しごと」をまぜ合わせながら、日々を過ご す。
https://www.instagram.com/tariru_yoga/
この夏、ラベンダー畑で。
初めてラベンダーに出会ったのは小学生の頃だったと思う。どこか家族で出かけた旅先で、その香りに触れたとき。「花ってこんなにいい香りがするんだ!」と感動して以来、ラベンダーが大好きだ。そのときお土産に買ったラベンダーの香りがするアイピローを、香りがしなくなるまで使い続けていた。そんな思い出から、私にとってラベンダーは特別な花の一つである。
香りは記憶と深く結びつくと考えられる。それを“プルースト効果”とも呼ぶそうだ。プルーストの小説の中で、マドレーヌを口にして幼少期を思いだすという描写があることから名づけられたとされるが、きっと、誰しもそんな経験があるのではないか。ふとした時にふんわりと鼻から入ってきた香りに、心の中が色めき立つ。それに気づいた時、自分にとってその香りが、何か特別な地位を得る(大好き、かもしれないし、大嫌い、かもしれない)。そう、私にとって、それがラベンダーなのだ。
7月。ラベンダーの咲く季節。数年前に行ったきり、ラベンダー畑に行っていない。この夏は、体いっぱいに、ラベンダーの香りを感じたい。あわよくば、香りを持ち帰りたい。日々に埋没している五感を喜ばせる旅に、出かけることにした。
鮮やかな色彩のコントラスト 小諸『夢ハーベスト農場』
佐久から15分ほどひたすら坂を上り続け、『夢ハーベスト農場』へ。短時間ながら標高は200mほど上がったので、車から降りると、先ほどとは違う心地よい風が体を通り抜けていく。一気に坂を上った分、広い空と、眼下には八ヶ岳や野辺山まで見渡せる雄大な景色が広がり、なによりも目を見張るのは、一面に広がる鮮やかなラベンダーの紫色だ。色のコントラストに目がくらみそうになるほど、夏らしい、彩度の高い景色に、無条件に心が踊る。
「定年後に花を育てながら過ごしたい」という願いで、初代オーナーの小林さんが手がけたことから始まったこの農場は、広大な土地に、1万株のラベンダーが植えられている。それ以外にもオールドローズ、ハーブ、ブルーベリーなど、季節ごとに楽しめる多様な植物を栽培。また、昨年よりオーガニック認証を得て、現在は全て有機栽培で行っており、オリジナルの蒸留器を作り、自家製のアロマオイルまで作っているのだから、恐れ入る。老後の夢と聞いて想像するスケールをはるかに超えた、大きな夢が実現された様子を目の当たりにして、思わず目の前の景色に向かって、かけ出したくなる(私も、もっと大きな夢を持とう)。
オープン時から共に農場を作り上げてきた、小林さんの義理の娘である千代子さんに、農場をご案内していただいた。もともと地元の出身ではあるが、ちょうど結婚する時期に農場を作る話が持ち上がったそうで、この広大な農場に携わることになったそうだ。こうやってここにいるのは、なるべくしてなった巡り合わせなのかもしれないですね、と話して下さった。義父とは感覚がとても合い、一緒に作り上げるのが楽しかった、と微笑む。そんな家族の話を聞き、こちらまで心が温まる。
私の名刺を見て「お名前の漢字に入っている、“麻”が今ちょうどありますよ。私も大好きな花なんです。」と、亜麻科の“ペレニアルフラックス”を紹介してくれた。今まで自分の名前が花であるという感覚が無かったので、この邂逅に驚くとともに双子の姉妹を見ているかのような親しみが湧いてきた。私の名前に、こんなにかわいらしい花が使われていたとは!人生で初めて“私の花”を知った。少し小ぶりな、透明感のある青い花だ。
その後も、次々に色々な植物について教えてくれた。見るだけでなく、実際にさわり、嗅ぎ、食べる。形もさることながら、手触りの違い、香りの違い、味の違い。それぞれの個性が全く違うのが面白い。中でもちょうど今がシーズンである“レモンバベーナ”は、フレッシュな香りを楽しめるハーブだ。最初にお話を伺うときに頂いたレモンバベーナを浮かべた紅茶を一口飲み、その香り高さにすっかり虜になってしまった。なかなか流通しない、めずらしいハーブだそうで、その名のとおり、葉っぱからレモンのような爽やかな香りがする。もうすでに、心が満たされてきた。植物の力もさることながら、千代子さんの柔らかい笑顔と心こもったおもてなしのおかげである。
「さあ、ラベンダーの方へ、行きましょう。」
そうだった、今日はラベンダーに会いに来たのだ。改めて、鮮やかな一面の紫に目を向ける。
青空の下で芳香欲 鋏を片手に摘み取り体験
農場では様々な種類のラベンダーが植え付けられており、6月中旬ごろから8月上旬ごろまで、ラベンダーが咲いている。30本摘み取りすることができ、老若男女の利用客でにぎわう。家でドライフラワーにして長く香りを楽しめるのも、ラベンダー畑の魅力の一つだ。「ぜひ楽しんでくださいね。」と渡されたはさみを手に、紫色に足を踏み入れる。つぼみが多いものの方が、ドライフラワーには向くとのこと。しゃがみながら、一つ一つの花をじっくり見て、よさそうなものを手に取り、はさみを入れる。ちょきんと切ると、ふんわり香るのがたまらない。手に持ったラベンダーが増えると、その香りも増す。全身にラベンダーをまとっているような、とても贅沢な気持ちだ。ふと顔を上げると、目の前には広い空と鮮やかな色。たまに吹く心地よい風を浴びながら、ここは天上世界か、と思う。
ラベンダー畑の横には、自家製の蒸留器を使った工房がある。蒸留器の中に水とたっぷりの花を入れ熱することで、花の成分を含んだ水蒸気が発生する。それを冷やすと、アロマオイルとフローラルウォーターが出来上がる仕組みだ。まだ熟成途中のフローラルウォーターを見せてもらった。さらさらしているが、ほんのり花の香りがする。ここから熟成が進むことで、香りもさらに凝縮されていくのだそう。アロマオイルも、濃厚かつ洗練された香りだ。有機自家栽培のラベンダーを使用し、自家製の蒸留器で作るオイルからは、徹底したこだわりが感じられる。
さて、ラベンダー畑を堪能していたら、あっという間に時間が過ぎてしまった(天上世界は地上の世界とは時の流れが異なるようだ)。農場にはカフェが併設されているので、のんびり楽しめるのがうれしい。今日はせっかくなので、ラベンダーにまつわるメニューを楽しむことにしよう。
ボタニカルなカフェ&ショップで心満たされる一日を
緑あふれるオープンテラスカフェからの眺望も、完璧だ。日陰で一息つきながら、ぼんやりと遠くの稜線を眺めるだけで、癒される。メニューはラベンダー、ブルーベリー、ローズなど農場にあるものを使用したドリンクやスイーツ。やはりラベンダーソフトは人気で、他の利用客もソフトクリームを手に持つ人が多い(昼にかけてかなり人が増えてきた)。今回は、ラベンダーソフトがのっているラベンダーパフェと、ラベンダーカルピスを頂くことにした。
運ばれてきたものを前に、わあ、と声が出た。薄紫と白が二層になったラベンダーカルピスには、ラベンダーの花がかわいらしく添えられている。パフェも紫色をテーマカラーにして、ゼリーやクリームが合わさった華やかな出で立ちだ。食べる前から幸せである。ひんやりとしたソフトクリームは、ほんのり香るラベンダーがとても上品で舌に溶けていく。下に隠れているゼリーもさっぱりと頂けるため、味の変化がバランスよく、パフェといえどもぺろりと食べられる。ラベンダーカルピスは、かき混ぜながら色のグラデーションを楽しんでみてほしい。パステルカラーの紫色が美しく、このまま持って帰りたいくらいだ。乾いた喉が、どんどん潤っていく。メニューから選ぶ時に始まり、食べ終わった後も幸せは続く。姿かたちは変わっても、ラベンダーの力は、すさまじい。
店内にはショップも併設されており、前述の有機栽培のラベンダーなどを工房で蒸留して作るフローラルウォーター、アロマオイルをはじめ、ハーブティーなども販売している。天井には美しいドライフラワーが沢山ぶら下がり、どこまでもボタニカルである。ガーデンだけでなくショップまで、目を向けるところすべてが絵のように美しくて、つい長居をしてしまった。
先ほど畑にいた小さい子どもが、ソフトクリームを食べて満足したのか、ご機嫌で話している。ラベンダーを摘み取ったのがうれしかったのか、「かえったら、さっそく、これ、干しょうねー!」と連呼している声が響き渡り、あまりのかわいさについ笑ってしまった。そうだ、私も家に帰ってラベンダーを干そう。買い物を済ませ、千代子さんに取材のお礼を告げると、別れ際にレモンバーベナを摘み取ったものを下さった。最後まで心こもった優しさに、すっかり満たされた気持ちで帰路に着く。きっとこの後、どこかでレモンバーベナの香りに出会ったら、千代子さんと農場のことを思い出すだろう。車の中もまた、心地よい香りが充満していた。
五感で楽しむ天上のラベンダー畑に出かけよう
ショップで買ったフローラルウォーターとアロマオイルを早速使ってみた。ふんわりと漂うその香りに、家にいながら目を閉じればラベンダー畑が浮かんでくる。どこにいても、花がそよぐ天上世界へトリップできるなんて、我ながらいい買い物をした。寝る時に使えば、花畑に寝転がっているような気持ちだ。
色とりどりに自然あふれる場所に身を置くと、忙しい日々の中では忘れがちな、五感で感じられるさまざまなものに気づく。それらをフル活用したことで、現代生活の中で置き去りにしていた“人間らしさ”を取り戻せたような気持ちになった。画面を通じての体験ではなく、体を通じての体験は、やはり私たちにインパクトをもたらす。“本物”に触れることは、“本物”の体験をもたらすのだ。
ぜひ、農場に踏み入れたときに目に飛び込んでくる景色を、ただ感じるままに味わってほしい。できれば写真を撮るだけでなく、体全部を使って。きっと、写真を見返して終わるだけではない、もっと体の底から感じるような体験をすることができるはずだ。そしてその体験は、家に帰った後もあなたを満たされた気持ちにしてくれる。いつでもその時の香りに出会えば、またその気持ちを思いだすだろう。
美しい花々が待つ、天上のラベンダー畑へ。五感を使った旅に、出かけてみてはいかがだろうか。
〈夢ハーベスト農場〉
☞http://yume-harvest.com/
取材・撮影・文:櫻井麻美
<著者プロフィール>
櫻井麻美(Asami Sakurai)
ライター、ヨガ講師、たまにイラストレーター
世界一周したのちに日本各地の農家を渡り歩いた経験から、旅をするように人生を生きることをめざす。2019年に東京から長野に 移住。「あそび」と「しごと」をまぜ合わせながら、日々を過ご す。
https://www.instagram.com/tariru_yoga/
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