夢を見たことも想像したこともなかった出来事が起きた。命や家族や友達の事を思ったのも初めて。いろんな事を考え始めた。必然と偶然、必要と不要。ちょっと大げさかもしれないけれど、今は自分と話してみたい。
「retreat+tourism=retreasm “リトリーズム”」隠れ家や退避ではなく、自分や大切な人と向き合う旅に出ます。
すうっ、と滝が見たくなった、電車に乗って
ずいぶん前に携帯に保存した滝の写真。あのとき、仕事や人間関係に疲れていた記憶がある。たぶん、何かに癒されたくて、どこかに行きたくなっていたのかもしれない。
ベッドに入って部屋の明かりを見ていたら、急に出かけたくなった。独りでどこかに。確か、あの滝の画像、あるはず、って。
長野県茅野市にある横谷峡の滝だった。JR中央本線の茅野駅から渓谷の入り口までバスで約30分。私でも大丈夫そうな川に沿った遊歩道もある。決めた。
ペーパードライバーって言われないくらい車の運転はしている。でも今は久しぶりに電車に乗ってみたい。ぼうっ、と窓の外を眺めながら、ただぼうっ、と。だって気が楽だし。(✔︎ToDoリスト:茅野駅で駅弁『やまのごはん』を買う)
緑色の香りと透明な水音のミストシャワー
横谷峡入り口から渋川沿いの遊歩道へ。左側から巨岩が迫る道を通り抜け(ちょっと怖かった)、いかにも森の入り口みたいな緑のトンネルへ向かう。とても緩やかな坂を進むと右の耳へ急流の水音が飛び込んでくる。左の耳には静寂しか聴こえない。さっきすれ違った人が言っていた。「水量が多くて昨年よりマイナスイオンもすごく飛んでいるよ、はははっ」。マイナスイオンって見えるんだろうか?でも何となく不思議な香りがするのは気のせい?
30分ぐらい歩いたところに「コケの森」があった。古い木の根元や倒れてしまった木を覆い森が呼吸していた。電車の中で調べたフィトンチッドという聞いたことがなかった言葉。樹木が発散する香りの成分らしい。植物や食べ物への殺菌効果や人間にもヒーリング効果があるって。真偽のほどはわからないけれど、お寿司屋さんのカウンターやまな板にとても立派な木材が使われていたり、ガラスケースの中に針葉樹の葉っぱが置かれていたっけ。本当かも。今、私も息をしているんだ、っていう実感が強い。そのせいか背中がまっすぐになった。歩いていると、少しずつ少しずつ、喉につかえていた気持ちが取れていく感じがした。こんな香りのフレグランスが欲しい。
何年ぶり?こんなに深呼吸したのは?
バス停近くの観光協会さんからもらったガイドマップと照らし合わせながら、乙女滝・霧降の滝・屏風岩・一枚岩と、それぞれの滝や渓谷の個性や特徴を目の前にすると、まるで大きな生き物に触れているような緊張と安堵感があった。
また少し坂を上がると右手に渋川へ下りる道を見つけた。先には小さいけれど平らなスペースがあってついに最高のレストラン発見!と大喜び。川幅も広がり水流の音も迫力を増している。目に見えないしぶきに雲間から注ぎ込んだ太陽が反射したり隠れたり、劇場の大きなスクリーンに映し出される大自然のワンシーンみたいにプリズムしていた。
マップで滝の名前を探したけれど発見できず。携帯画面を見ると、圏外。ふふふ。自分だけの滝に出会えた満足感。“智華”の滝と命名。
この場所まで約1時間。いくつかの深緑色したパサージュを通り、何本かの滝に成長したせせらぎと対面しながら休憩。そのたび私の体と心はダイエットに成功したような爽快感に包まれた。そして虹色のしぶきを浴びながら何度も何度も深呼吸した。するととても冷たくおいしい水が喉から体の深いところへ流れ落ちていくみたいに新鮮で清らかな何かが補給された。
私だけの森と滝の食彩テーブルへ
朝に茅野駅で買った念願のお弁当。売店はホームの中にあった。おばあちゃんが教えてくれた。昔はお弁当屋さんのおじさんが肩から箱を下げてホームに列車が到着するたびにいろんなお弁当を売ってたって。今も私はいつかそんな光景に出会えるのでは……とひそかに期待している。電車+駅弁は私のお約束。以前から食べたかった『やまのごはん』。中央本線の小淵沢駅と茅野駅で限定販売だと事前情報。私は“限定”に弱い。竹かごに詰められた、うめ・栗おこわ・みそのおにぎり。おかずは、たけのこ・つくね・きゃらぶき・大学芋・たくあん・そしてマスの塩焼き。このお弁当を滝を見ながらいただく。
旅の終わりに。
日常と非日常の境界線をきっちりと定めることは難しくなったみたい。無理に分けるよりもいつもを自分が気分良く生きて行けるように計画し実行することが大切。そんな新しい居場所を見つける旅に出たい。
*現在『やまのごはん』の販売は休止中です。
*各駅の弁当売店の営業時間等は変更となる場合があります。
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