県下随一の透明度を誇る青木湖。大町市から白馬村への途中にある仁科三湖のひとつで、最も上流に位置する湖です。2024年夏、この青木湖に、新たな施設がオープンしました。手がけているのは、昨年10月まで白馬岩岳スキー場で「オールシーズンマウンテンリゾート」を掲げ、大人気コンテンツを仕掛け続けてきた和田寛(わだ・ゆたか)さん。
大町市や小谷村、白馬村からなる「白馬バレーエリア」と新潟県の糸魚川市までを一体のエリアととらえて観光面での活性化を狙う和田さんと、新たにオープンした拠点「ao LAKESIDE CAFE(アオレイクサイドカフェ)」の店長、手塚駿(てづか・たかし)さんにお話を伺いました。
冬だけではない白馬バレーの魅力を発信
「個人的には、小学校3年生のときに父と北アルプスを縦走したのが一番古い長野県の山々の記憶です。中学生になってからはスキーに夢中になり、友人とスキーバスを使って何度も県内のスキー場に滑りにいきました。移住して10年ほどになりますが、今も毎朝カーテンを開ければ山の美しさに感動しますし、空き時間があればスキーをしたりハイキングをしたり。この良さを知らない人がいる、というのが悔しくなるくらい大好きな場所です」
魅力的な山や湖、川の景色。和田さんは「地元の人しか知らない隠れた資産が、まだまだ地域に眠っている」といいます。
「私の仕事は、仲間を巻き込んでそうした“隠れた資産”に光を当てることです。ひとつひとつが発掘されていけば、白馬バレーは国内でも有数の世界基準の通年型の山岳リゾートになると信じています」
和田さんが白馬岩岳エリアのまちづくりに取り組みはじめたのは6、7年前のこと。白馬岩岳スキー場の麓にある「新田地区」を中心に民宿のリノベーションを行い、宿泊事業や飲食事業、ハム・ソーセージ工房などを展開してきました。
「ひとつの通り沿いに6棟の物件を借りて、それぞれの特徴を活かした施設をオープンしてきました。雰囲気や部屋数は物件によってさまざまで、お風呂やレストランも分散しているのが特徴です。地区全体でひとつの旅館になるようなイメージで、プロジェクトを進めてきました。これも新田地区のきれいな街並み、という隠れた資産を活用しながら地域を元気にしたい、と取り組んできたものです」
「オールディ・カフェ」に込めた湖畔の魅力
「ao LAKESIDE CAFÉ(以下『ao』)」は朝8時から夜8時まで、日のある時間帯はずっとオープンしているオールディ・カフェ。窓の外は、太陽の動きに合わせてゆっくり景色が変化していきます。
「清々しい朝の空気と鏡のような湖面。夕方には山も空も湖も目に映る全てが赤くなり、夜の幻想的な雰囲気へと変化していきます。夏に見られる緑と青のコントラストもいいですし、秋から冬にかけては雪化粧をしたアルプスと湖畔の紅葉のグラデーションがたまりません」
目指したのは、快適な空間で食事をしながら、この「とっておきのロケーション」が楽しめる場所。スキーやスノーボード、登山など、明確な目的がなくても、気軽に自然に触れられるのが『ao』のコンセプトのひとつです。
「北アルプスのリフレクションが見られるのは、白馬周辺でも青木湖くらいだと思います。7月にはカフェがオープンしましたが、これから秋にかけては湖水に飛び込む絶景サウナ『Hakuba Zekkei Sauna ao』のオープンも控えています」
県産食材を最新トレンドにアレンジしたメニュー
朝にぴったりのパンケーキプレートは、タイソンズアンドカンパニーが都内で展開するカフェのレシピを採用。地元の野菜や白馬ハムのソーセージを添え、ボリューミーなワンプレートに仕上がっています。
「しっとり系のクラシカルなパンケーキは、食事にも合う優しい甘さが特徴です。スムージーや長野県産の果物のジュースなどを揃えていますので、朝食でしっかりパワーチャージをしてレジャーに繰り出してもらえたらと思います」
食のコンセプトは、ローカルモダンコンフォート。長野県の食材や地域に根付いた郷土料理を基本に、モダンで高級感のあるアレンジを加えます。
「長野県のレタスを一番おいしく食べるならどのようなサラダがいいか、野沢菜や山賊焼など地元で親しまれる料理の良さを引き出すアレンジはないか。単に地域の素材を味わってもらうだけでなく、おしゃれさや綺麗さを加え、より多くの人に魅力が伝わるように検討を重ねました」
夜はクラフトビールや信州のワインに合わせて、パスタや信州サーモンのソテー、肉料理などもおすすめ。店長の手塚さんは、「このエリアで採れる食材をどんどん使っていきたい」といい、今後は糸魚川の海で採れる海産物を使ったメニュー展開も考えていると話してくれました。
「白馬バレー」のアクティビティ拠点を担う『ao』
和田さんが勧める過ごし方のひとつは、青木湖畔を含むエリア内のサイクリングです。
『ao』も大町市観光協会が実施しているシェアサイクルのプログラムに参加し、カフェで自転車の貸し出しができるよう整備されています。カフェの隣には「白馬ライオンアドベンチャー」が提供するサップやカヤックなどの湖上アクティビティ基地があり、食事やサウナと組み合わせて楽しむことができます。
「水辺の景色を眺めるもよし、湖上アクティビティに挑戦するもよし。食事やサウナはスキーや登山など本気のアウトドアレジャーとも組み合わせて楽しめますし、『ao』を起点に、青木湖周辺が観光アクティビティの拠点として機能していけばと考えています」
国内のみならず世界中から注目を集める白馬エリア。秋にサウナのオープンを控え、進化を続ける新拠点からも目が離せません。
Information
撮影:新井涼平 文:間藤まりの
和田 寛 / Yutaka Wada
株式会社ズクトチエ共同代表
農林水産省、ベイン・アンド・カンパニーを経て、2014年に白馬で働き始める。2023年10月まで(株)岩岳リゾート代表取締役社長。同年12月より現職。白馬岩岳マウンテンリゾートの経営者として「世界水準のオールシーズン・マウンテンリゾート」を目指した改革に取り組み、グリーンシーズンの来場者数がウィンターシーズンを大きく超える実績を残す。現在、白馬エリアを中心にリゾート施設の開発・運営やコンサルティングに取り組む。著書「スキー場は夏に儲けろ! 誰も気づいていない逆転ヒットの法則」(東洋経済新報社)