真夏でも涼しい風が吹き抜ける高原の湖「白樺湖(しらかばこ)」。標高1,450mに位置する湖畔では、読書や散歩を楽しんだり、SUPやカヌーなどのアクティビティに挑戦したり、さまざまな「湖の過ごし方」が提案されています。
お話を伺ったのは、「八ヶ岳アドベンチャーツアーズ」を主宰する福井五大(ふくい ごだい)さん。アクティビティのガイドツアーのほか、湖畔のアウトドアショップ「Hygge(ヒュッゲ)」や宿泊施設「little grebe(リトルグリーブ)」を運営する福井さんに、レイクリゾート・白樺湖の魅力を教えていただきました。
「のんびり」が目的になる静かな湖畔
白樺湖は、八ヶ岳連邦の北の端、蓼科山(たてしなやま)の麓に位置する人造湖。冷たすぎる山の水を農作業に使うために開発が行われ、当初はため池として地域の農業を支えていました。一方で、日本屈指のドライビングコースとして人気を集める「ビーナスライン」沿いにあり、古くからリゾート地として栄えてきた歴史もあります。さまざまな背景を持つ白樺湖ですが、その魅力は、思いっきり深呼吸したくなるようなのんびりした空気感。湖畔には木道の遊歩道が整備されていて、気軽に腰掛けられる芝生や桟橋など、水辺との距離の近さが特徴です。
「なにか明確な目的を持っていなくても、湖畔で読書をしたりお弁当を広げてピクニックをしたり。白樺湖は、そうした“湖のある暮らし”が楽しめる場所だと思います。高原の晴天率は年間通して80%ほどと高く、都内からでも車で3時間あればアクセスできる好立地。周囲には気持ちよくドライブできるルートもたくさんあります」
梅雨時期に咲く黄色い花「ニッコウキスゲ」が広がる草原や、本来国内では冬に多く見られる渡り鳥「ジョウビタキ」が夏場に繁殖しているのも、この辺りならではのこと。福井さんは、そうした地域の文化や歴史、環境を丸ごと味わえるようなツアーを生み出し、展開しています。
地域に飛び込む多彩なアクティビティ
白樺湖を舞台にした湖上アクティビティは、もともと「白樺湖カヌースクール」という名前で、福井さんのお父さんが始めたもの。福井さん自身は、3歳の頃に家族と白樺湖に移住。ご両親がペンションやカヌースクールを営むかたわらで、スキーをしたりトレイルランニングをしたり、自然の中で遊びながら大きくなりました。18歳で神奈川県に進学し、30歳まではスキークロスの選手として世界を飛び回る日々。そこでヨーロッパやニュージーランド、北アメリカなど、さまざまなスキーリゾートを見る機会に恵まれました。
「地元の人も観光客も、当たり前のように一緒にアクティビティを楽しむ姿が印象的でした。特に思い出に残っているのは、ニュージーランドのワナカ湖です。スキーをして、カヤックをして、いつの季節も楽しめる。多くの人が自然を楽しむ風景が白樺湖と重なり、これは僕らの地元でも何かできそうだと直感しました」
2018年にUターンして事業を引き継ぎ、スクール名を「八ヶ岳アドベンチャーツアーズ」に改名。今はカヌーや白樺湖にコンテンツを限定せず、周辺のフィールド全体を使ってできるアクティビティを展開しています。
「これまではアスリートや体力に自信のある人しか走れなかったビーナスラインを自転車で走り、富士山や日本百名山の半分以上が見渡せる絶景スポットまで行くツアーを企画しました。使用するのはデンマーク生まれの『MATE』というe-bikeです。急坂が続く峠道でも息を切らすことなく、誰でも座ったままで楽しめます」
ツアーの中では、白樺湖半を1周してマイボトルに湧き水を汲む体験も取り入れています。また少し高い位置から白樺湖やその先に広がる里の風景を見るときは、「農業振興のために白樺湖ができた」という話をすることも。地域の歴史や文化に触れてもらうことも、福井さんたちが行うアクティビティのこだわりです。
イベントやショップを通じて「湖での滞在」を再定義
福井さんたちが数年前から実施しているイベント「湖畔の時間」。ライブをしたり、木陰でシーシャ(水タバコ)を吸ってリラックスしたり、ブックコーナーで本を読んだり。まだ知られていない湖の過ごし方を、実際に体験してもらおうという企画です。
「イベントを通じて、私たちは今まで湖で過ごしていなかった、ということを痛感しています。湖周辺のホテルに滞在しても湖畔でなにかをする機会はありませんでしたし、景色もドライブで通り過ぎるときに見る程度。SUPやカヌーなどアクティブなレジャー以前に、まずは多くの人にゆっくり時間を楽しんでほしい。これこそが、白樺湖が提案するレイクリゾートの姿です」
過ごし方の提案のひとつが、福井さんたちが3年前にオープンした湖畔のアウトドアショップ「Hygge(ヒュッゲ)」。
見ているだけでもワクワクしてくる店内は、ガイドツアーやイベントが終わったあともゲストと接点が持てる拠点として機能する、とても大切な場所です。
「ガイドツアーで体験するSUPやe-bikeは『楽しかったので自分のライフスタイルに加えたい』と声をかけてくださる方も多く、Hyggeで相談の対応やギアの販売をしています。コーヒーを淹れるセットや湧水を汲むのにぴったりのボトルなど、選りすぐりのアウトドアグッズを集めました」
日々進化するリゾートは長期滞在にもおすすめ
白樺湖は今、老舗の「池の平ホテル」がリニュアールをし、セカンドホームのサブスクリプションサービス「SANU(さぬ)」が建ち、新しい施設やレストラン、夏限定のコーヒーショップなど、さまざまな店やサービスがはじまっています
「湖畔で過ごす時間が充実し始めた、とても良いタイミングだと感じています。私たちもガイドツアーを通じてもっと地域の遊びを発信していきたいですし、イベントやショップ、宿泊施設などのコンテンツで、地域の盛り上がりの一端を担えればと考えています」
福井さんのお気に入りは、朝の静かな湖でSUPを漕ぐ時間。鏡面のように澄んだ湖面に周囲の山々が映り込み、四季を通じて美しい景色が見られるといいます。
「夕方は子ども達と一緒にマウンテンバイクやロードバイクに乗ったり、トレイルランニングのコースを走りに行ったり。そんな日常のちょっとしたことが、充実した毎日につながっている気がします。穏やかな空気に包まれながら、全力で仕事をしたり遊んだり、もっともっと白樺湖の暮らしを楽しむ仲間が増えれば嬉しいです」
Information
【Hygge】
住所:茅野市北山白樺湖畔3419
電話:050-5526-4408
営業時間:平日 10:00-17:00/土日祝 10:00-18:00
定休日:不定休
撮影:新井涼平 文:間藤まりの
福井五大 / Godai Fukui
白樺湖生まれ
自然を愛するアウトドア事業家。八ヶ岳アドベンチャーツアーズや合同会社Hyggeの代表を務め、地域に根ざした体験ツアーを提供している。元フリースタイルスキークロス日本代表の経歴を持ち、2019年には全日本SUP選手権6kmレースで優勝。2020年に長野へUターンし、地元で新たな事業を展開しながら、アウトドアショップの運営やSUPツアーの提供に加え、株式会社8peaks familyでは地域事業にも積極的に従事している。