リゾートと生活の中間にある穏やかな湖
飯山市と野沢温泉村の間、標高500mほどに位置する「北竜湖(ほくりゅうこ)」。神秘的な雰囲気が漂う小さな湖です。風が少なく穏やかな湖面は、初めてのSUPやカヌーにぴったり。一周およそ2kmの湖畔にはトレッキングコースが整備され、エリア内でも有数の「森林セラピー基地」として訪れる人たちを癒します。
今回お話を伺ったのは、野沢温泉村で生まれ育ち、環境を活かしたさまざまな遊びを作り出す河野健児(こうの・けんじ)さん。木の上のキャンプ場「TREE CAMP」やSUPツアーの企画を手がける 「四季を彩る長野県野沢温泉村 GREEN FIELD」の代表や、野沢温泉を舞台に持続可能なまちづくりに取り組む「株式会社野沢温泉企画」の代表など、さまざまな顔を持つ人物です。古くからの文化と体験が彩る北竜湖周辺の「遊び」を教えていただきました。
北竜湖は火山の噴火でできた天然の湖で、地下からの湧き水や山に積もった雪どけの水が水源です。湖畔には七福神が祀られた「弁天島」や大きな杉の御神木があり、古くから地域の人に愛されてきた様子がうかがえます。
「自宅から自転車で来られる距離なので、小学生の頃はしょっちゅう仲間と釣りに来ていました。今はSUPやカヌー、サウナ、キャンプにトレッキング、ヨガなどさまざまなアクティビティができる場所になりましたが、その根底にあるのは『私たちが感じている自然の豊かさをシェアしたい』という事業者共通の想いです」
湖畔で感じる大自然に包み込まれているような感覚は、湖の三方が山に囲まれているから。山の上部には、水資源の源となるブナの林が広がっています。
「午前中、鏡のように澄んだ湖面のリフレクションは、ぜひ見てほしい景色のひとつです。春の新緑から夏の深緑、秋には紅葉と、四季を通じて美しい光景が広がります。SUPやカヌーに乗って水上から、トレッキングやヨガをして湖畔から、いろいろな角度で楽しめるのも北竜湖の魅力です」
河野さんのモットーは、遊び場と遊びは自分たちで作ること。雪が降ればスキーをしに山へ行き、暖かくなれば川や湖に飛び込んで遊ぶ。この地域を訪れる人にも、季節の移ろいのなかで、自然と共存する心地よさを感じてほしいと話します。
ヨガやトレッキングなどウェルネスを軸に活動する「LIVE THE SEASONs(リヴ ザ シーズンズ)」の松村弘美(まつむら・ひろみ)さんも、その1人です。
都内から1時間半でアクセスできる天然のスタジオ
「野沢温泉村出身で、2015年に戻ってきました。ヨガの国際ライセンスを活かし、日本の美しい四季を感じる自然豊かな外で活動がしたいと思い、ウェルネス関連の活動『Snow Crystal Wellness(スノークリスタルウェルネス)』を立ち上げました。今は湖畔やブナ林、神社でヨガを行っています」
お気に入りは、大地に寝転んで行うシャバアーサナのポーズ。背中に大地、視線の先には空と緑が広がります。水や緑のある景色が心をスッと落ち着け、耳をすませばたくさんの鳥の声や虫の声が聞こえてくる。季節によっては土や花の香りも感じられ、五感を通じてリフレッシュできるのが湖畔で行うヨガの特徴です。
「自然のなかで身体を動かしていると『こんなところにゴミが落ちている』とか、ちょっとしたことが気になるようになります。楽しい思い出はもちろん、そうした気づきも日常に持ち帰ってもらえたら嬉しいです」
「より山歩きを楽しみたいなら、私がガイドをしている『信越トレイル』もおすすめです。長野県と新潟県にまたがって広がる信越トレイルは、かつて海から塩を運んだ貿易の道。景色や動植物、地域の歴史に触れながら、1日かけて尾根を歩くアクティビティです」
Snow Crystal Wellnessでは、他にも郷土料理や茶道、着物や浴衣を着付けたり、考古学の視点から地域を見つめてみたり。さまざまな講師とコラボレーションした体験プログラムを提供しています。「水が苦手でも湖のある地域の楽しさを感じてほしい」と話す松村さん。
(気になる方はinformationにあるHPからコンタクトを取ってみてください。)
歴史や文化が色濃く残る「野沢温泉」
北竜湖と合わせて訪れたいのが、車で15分ほどの場所にある「野沢温泉(のざわおんせん)」。源泉100パーセントの掛け流し温泉が楽しめる、日本で唯一名前に「温泉」が入る村です。
「野沢温泉は、暮らす人の文化や営みがあってこそ成り立つ観光地です。アクティビティを体験してくださる方には、そうした歴史も積極的に伝えますし、暮らしに触れる体験から、私たちの自然に対する思いや姿勢を感じてもらえたら嬉しいと思っています」
河野さんたちの原動力は、「自然」とそれを代々受け継いできた「村」に生かされているという意識。資源を活かしながら守り継ぐことが、暮らしにも事業にもダイレクトにつながっています。
「人と人のつながりが色濃く残る地域の在り方こそ、このエリアの魅力だと思います。村には13の外湯が点在していますが、これを守っているのは『湯仲間(ゆなかま)』という江戸時代からのコミュニティ。もとは村人のための温泉でしたが、『こんなにいい温泉に自分たちだけが入るのは勿体無いから、みんなで楽しみましょう』という思いによって温泉街が作られてきました。恵みをシェアする精神は、今の私たちにも通ずるものだと感じます」
日本三大火祭りの1つといわれる「道祖神祭り」も、厄年の祓いや無病息災を祈る村人による村人のための祭りです。重要無形文化財の指定を受け、祭りの期間は国内外から多くの観光客が訪れますが、今も村民の生活の一部であることは変わりません。
アクティビティの先に目指す「地域循環型自治体」という在り方
「私自身は、このエリアが最先端を行く『地域循環型自治体』になればいいと考えています。グリーンシーズンのコンテンツはどうしてもアクティビティに限定されがちですが、まずは自分たちの営みを充実させ、それをシェアする精神を忘れずにいたいですね」
河野さんが手がけるキャンプ場「TREE CAMP」もそのひとつ。宿泊の際に出たゴミは宿泊者自身が持ち帰り、電力は太陽光発電をしたり、食材や水は敷地内の畑や湧水を使って調達したり。不便さえも工夫を凝らして楽しむ環境を作っています。
もうひとつ、プロスキー選手として活動していた河野さんは、スポーツや身体づくりなど健康視点からの旅の提案もしていきたいといいます。
「身体づくりに重要なのは運動と栄養と休息です。多彩なアウトドアアクティビティがあり、新鮮な食材が手に入る。さらに休息にピッタリな温泉があるエリアだからこそ、健康に豊かに過ごす体験も皆さんにシェアしていきたいと思っています」
野沢温泉に雪が降るのも、豊富な温泉が出るのも、湧き水があるのも、全てはそれらを守る「村」というコミュニティがあったからこそ。豊かな自然を後世へと分かち合うため、持続可能な遊びと遊び場をつくる挑戦は続きます。
Information
【LIVE THE SEASONs〜季節を生きる〜 Snow Crystal Wellness】
住所:長野県下高井郡野沢温泉村前坂8399-2 F4
電話:090-6514-8207
撮影:新井涼平 文:間藤まりの
Profile
河野健児 / Kenji Kono
野沢温泉村生まれ
株式会社野沢温泉企画 代表取締役
四季を彩る長野県野沢温泉村 GREEN FIELD代表
アルペンスキーからスキークロスへと活動の場を移しながらワールドカップやX Gamesに出場。12年間に渡ってナショナルチームとして活躍。引退後は、世界中の山々を滑りながら野沢温泉をベースに北信州エリアの山を開拓。VECTOR GLIDEのスキーの開発も手がける。夏は「nozawa green field」では野沢温泉の楽しみ方を提案するなど、1年を通して故郷の魅力を発信し続けている。また2022年に株式会社 野沢温泉企画を立ち上げ地域事業にも充実している。