特集『サイクリング』⑤|Japan Alps Cycling Project 代表・鈴木雷太さん、副代表・小口良平さん厳選! 長野県下のおすすめサイクルイベント5選

今回はJapan Alps Cycling Project代表、副代表として長野県の自転車業界を牽引する鈴木雷太さんと小口良平さんに、「プライベートでもエントリーしたい!」「人生で一度は挑戦してほしい!」というサイクルイベントを選んでいただく特別企画。難易度低めでe-bikeの使用もできる「センチュリーライド」と、少し難易度が上がって峠道などにも挑戦できる「グランフォンド」、タイム計測ありの競技的側面を持つ「ヒルクライム」まで、レベルも開催地もさまざまな県内のイベントを紹介します。

アルプスあづみのセンチュリーライド《開催日:毎年4月・5月》

残雪が残る北アルプスを望む松川大橋にて。120kmのコースは小学生から参加できる @猪俣健一

まずは、鈴木さんがプロデューサーを務める「アルプスあづみのセンチュリーライド(以下、AACR)」。松本市から白馬村までを往復するロングライドイベントで、例年2回、4月と5月に開催されます。4月は残雪と桜のコントラストが美しい「桜のAACR」。5月は田んぼに水が入り、新緑のなかを走る「緑のAACR」として親しまれています。
それぞれ120kmと160kmの2つのコースが設定されていて、制限時間以内に決められたポイントを通過し、規定の時刻までに完走すればOK。エントリーは1月頃にネットで受付がはじまります。

市街地を抜け、山が近く感じる「蓮華大橋」からの一枚。下を流れる水の美しさもたまらない @猪俣健一
小口さん「私もプライベートで走りに行きましたが、松本市街地から大町市を抜けて白馬村まで、刻々と変わっていくアルプスの表情がとても魅力的なイベントだと思います」
鈴木さん「4月は国営アルプスあづみの公園から特別に許可をもらい、園内を走らせてもらっているのも特徴です。一面にチューリップが咲いていて、写真を撮る人が続出。5月はより一般の方に楽しんでもらえるよう、JR大糸線とコラボしたサイクルトレイン(※)を実施しています」
麓から見る北アルプスは迫力満点。非日常の景色を走り抜ける爽快感が何よりの魅力 @猪俣健一
もうひとつのこだわりは、ルート上に9箇所ほど設置された「エイドステーション」。地元の飲食店などと連携し、地域の味が楽しめるよう工夫されています。メニューは毎回少しずつ変わるといい、飽きのこない絶景と食にリピーターやファンの多いイベントです。
 
(※)臨時列車が走り、自転車を持ち込んで松本駅まで帰ることができるサービス。年によって実施状況は異なるため、詳細はHPにて確認を
 
 
【アルプスあづみのセンチュリーライド】
HP:https://aacr.jp/
問い合わせ:info@aacr.jp
(アルプスあづみのセンチュリーライド/エントリー事務局)

野沢温泉自転車祭《開催日:毎年10月》

神秘的なブナ林のなかを駆け下りる野沢温泉自転車祭。オフロードならではの迫力も満点だ @野沢温泉サイクルイベント実行委員会
2つ目は、秋の野沢温泉スキー場を舞台に行われる「野沢温泉自転車祭」をご紹介。もとは「ヒルクライム」と「ロングダウンヒル」の2つが行われていましたが、昨年の第3回大会から未舗装路を中心にライドするグラベル種目が追加されました。上記3つのカテゴリーの同時開催が可能な環境は非常に稀であり、野沢温泉村のポテンシャルを存分に楽しんでいただけるサイクリストの祭典になっています。

鈴木さん「コースや競技ももちろんですが、まず野沢温泉という土地が魅力的だと思います。最近は、守り継がれてきた文化に海外のテイストが加わり、日本ではないような不思議な雰囲気が味わえるというか。海外でメジャーなマウンテンバイクスポーツなど自転車の文化も発展し、整備が進んでいるのも注目ポイントです」
最新鋭のゴンドラは自転車の持ち込みOK。自転車まつりの下山にも活用されている @野沢温泉サイクルイベント実行委員会
ヒルクライムは、麓からやまびこ山頂までの約13km、標高差800mのコース設定。ロングダウンヒルも標高差は800mほどで、およそ5kmのトレイルとスキーのゲレンデ斜面が混合する特設コースが設けられています。予選を勝ち抜いて行われる決勝戦では、選手が一斉にスタートするダイナミックな演出が魅力です。獲得標高600mのグラベルライドは、全長およそ40km。ゴンドラでスタート地点まで移動し、やまびこ山頂から野沢温泉村を中心に様々な路面や地形が楽しめます。
グラベルライドは、全体の30%ほどが未舗装路。年齢制限などがあるので注意が必要 @野沢温泉サイクルイベント実行委員会
鈴木さん「野沢温泉は、少し前までフランス語で“雪崩”を意味するアバランチェが開催されていて、私も参加したことがあります。たくさんの自転車が一斉に駆け降りる様子はなかなか狂気じみていましたが、走ったあとの外湯めぐりは最高でしたね。そんな周辺の環境も満喫してほしいイベントです」
 
【野沢温泉自転車祭】
HP:https://nozawa-cycle.jp/
問い合わせ:jitenshasai@nozawa-cycle.jp
(野沢温泉サイクルイベント実行委員会事務局)

木曽おんたけグランフォンド《開催日:毎年7月》

発着点は大滝村にある「松原スポーツ公園」。事前申し込みをすれば、事前の車中泊やキャンプ泊もできる @JapanAlpsCyclingProject
3つ目は南信地域。イベントタイトルの通り、古くから多くの信仰を集める御嶽山(おんたけさん)の麓をスポーツバイクで走るサイクルイベントです。
 
小口さん「コースは開田高原(かいだこうげん)と日和田高原(ひわだこうげん)をつなぎ、御嶽山や乗鞍岳を眺めながら進みます。距離はおよそ120km。獲得標高2000mの走りごたえある道ですが、じつは下り坂も多く、全国的に見ると挑戦しやすいグランフォンドだと思います」
真夏の高原を走る気持ちよさ。南信地域は水の綺麗さも魅力で、この環境が開催の決め手になったそう @シクロワイアード
鈴木さん「木曽は、私がコーチを務めた東京オリンピックの競技自転車の最終キャンプ地でした。そのとき初めて長期滞在をして、御嶽山を水源とした川や沢など水資源の豊かさを実感しました。イベントの開催は真夏ですが、走っているとさまざまな“涼”が感じられると思います」
 
もうひとつサイクリストにとって魅力的なのが、木曽エリアの信号機の少なさです。120kmのコース中、ストップするのは一時停止も含めて8回だけ。鈴木さんたちがこだわる「一筆書き」の良さを存分に感じながら走ることができます。
江戸時代には中山道が通り、11の宿が置かれた木曽。町並みや歴史を感じるスポットも点在する @シクロワイアード
小口さん「街道沿いに栄えた宿場町によって異なり、ひと言で木曽といっても全く違った文化が残っているのも地域の良さです。エイドでは郷土食も楽しめますから、五感をフル活用して走ってほしいイベントです」
 
【木曽おんたけグランフォンド】
HP:https://kiso-ontake-granfondo.jp/
問い合わせ:info@visitkiso.com
(木曽おんたけ観光局)

信州高山ヒルクライムチャレンジ《開催日:毎年9月》

沿道に集まった人たちからの声援に見送られながらスタートするライダーたち。地域の人との交流もイベントの醍醐味だ @信州高山ヒルクライムチャレンジ実行委員会
アットホームであたたかな雰囲気にリピーターの多い4つ目は、上高井郡高山村で開催される「信州高山ヒルクライムチャレンジ」。村全域が「志賀高原ユネスコエコパーク」に登録されるほど豊かな環境に恵まれ、2010年には「日本で最も美しい村」連合に認定されるなど、美しいロケーションの中を走り抜ける爽快感もイベントの魅力です。
 
鈴木さん「とあるメディアで、高山村の山田牧場の星空が“世界で3番目に美しい星空”として選ばれていましたが、ここの魅力は空の近さ!青空の下、澄んだ空気の中で一気にフィニッシュを目指す走りごたえのあるコースがたまりません。走行距離はおよそ20km、標高差1300 mという国内でも有数のスケールで、林間区間の急こう配には全国からの脚力自慢が集まります。」
標高1900mの笠岳(かさだけ)登山口を目指して進むヒルクライム。ハードなコースも、緑あふれる環境が心地良い @信州高山ヒルクライムチャレンジ実行委員会
参加は高校生以上から、制限時間内の完走を目指して300人ほどの参加者が一斉にコースを走ります。麓の集落を抜けると広葉樹の林が広がり、標高が上がるにつれて白樺が目立つように。山田牧場過ぎてからのラスト5kmほどは森林限界地帯。アットホームで賑やかな雰囲気が一変、自分自身と向き合う静かで厳しい時間も楽しめます。
2013年に地元のロードバイク愛好家が30名ほど集まる走行会からスタートした歴史があり、今もすべて地域の「手作り」でイベントが開催されている @信州高山ヒルクライムチャレンジ実行委員会
じゃんけん大会など催しのある開・閉会式と合わせ、楽しみにしている参加者が多いという「前夜祭」は、翌日のレースを考慮して15時から17時に開催という早めの時間設定。おやきやピザ、フルーツ、手打ちそば、地元のワインやビールなど、高山村の魅力が詰まった料理の数々で、しっかりパワーチャージできます。


【信州高山ヒルクライムチャレンジ】
HP:https://takayama-hillclimb.nagano.jp/
問い合わせ:info@shinshu-takayama-onsenkyo.com
(信州高山ヒルクライムチャレンジ実行委員会)

GRAV BICYCLE CAMP(グラバイキャンプ)《開催日:毎年7〜8月》

太平洋から日本海を目指すサマーキャンプの4日目。白樺湖をバックにみんなで記念写真
5つ目は他とは少し違う、子どもたちを対象にしたイベントを紹介します。今も自転車冒険家として旅を続ける小口さんが企画する「グラバイキャンプ」は、ひと言でいえば「自転車冒険塾」。対象は9〜16歳までの子ども達で、みんなで助け合いながらワクワクドキドキのサマーキャンプが行われます。
 
小口さん「プログラムは3つのレベルに分かれていて、レベル1では長野県から富士山麓を抜け、1週間かけて太平洋を目指します。走る距離はおよそ200km。経験者向けには太平洋から日本海を目指す600kmの日本列島横断ルートもありますし、逆にもう少し小さい子向けのファミリーキャンプなど、さまざまな層に向けて企画を行っています」
どのレベルでもアウトドア環境負荷をミニマムインパクトにする「Leave No Trace ワークショップ講習会」を実施。単なる観光ではない体験や学びを取り入れている 
参加者は長野県在住者が半分と、関東など他地域から来る子が半分。自分の体力に自信があって参加する場合もあれば、周囲に背中を押されてドキドキしながら参加する場合もあります。
 
小口さん「一番の良さは仲間ができることだと思います。初日はみんな初対面で緊張していますが、同じ釜の飯を食べて自転車を漕ぐうちに、どんどん打ち解ける。過去には『生きる場所を見つけるきっかけになった』という声もありましたし、『また絶対に会おう』と約束をして帰っていく姿は毎年の恒例です」
1週間のなかには、地域の宿泊施設や飲食店を利用したり、アクティビティを体験したりする時間も含まれる

バイクや装備はレンタルもあり。受付前には事前説明会が開催されているので、まずは相談してみるのもおすすめです。
 
 
【GRAV BICYCLE CAMP(グラバイキャンプ)】
HP:https://gravbicycle.com/camp/
問い合わせ:info@gravbicycle.com
(合同会社トビチカンパニー)



※各イベントの開催日は目安となります。詳しくは各大会をご確認ください。

 

 

撮影:新井涼平 文:間藤まりの

Profile

鈴木 雷太 / Raita Suzuki

愛知県岡崎市出身

Japan Alps Cycling Project 代表

1995年からブリヂストンサイクル株式会社とプロ契約を結び、2000年にシドニーオリンピックMTBクロスカントリー日本代表に選出。その後2007年までプロマウンテンバイク選手として活躍する。引退後はナショナルチーム監督として選手育成に尽力するほか、松本市でスポーツバイシクルの専門店「BIKE RANCH」を経営。各種サイクルイベントのプロデュースなども手がけ、国内外に向けて自転車の魅力を発信している。

Profile

小口 良平 / Ryohei Oguchi

長野県岡谷市出身

Japan Alps Cycling Project 副代表

1980年生まれ、長野県岡谷市出身。2007年に1年かけて日本1周の自転車旅を達成し、2009年から約7年半をかけて世界を走破した現役の自転車冒険家。これまで訪ねた国は157カ国、走行距離は約16万kmに及ぶ。現在は長野県辰野町に拠点を置き、grav bicycle projectを主宰。ツアーガイドとしてさまざまなサイクルツーリズム事業を手がけながら、まちづくりサイクルアドバイザーとして、マップ作成や観光商品開発、環境整備などにも取り組んでいる。