クラフトマンシップからなるアウトドアカルチャーの発信地「ALPS OUTDOOR SUMMIT2024」とは

10月初旬、暑いくらいに良い天気のなかALPS OUTDOOR SUMMIT(以下AOS)2024が開催されました。メインテーマは「LOVE,CRAFTMANSHIP.」、「山に、感謝。」が今回の合言葉です。会場のやまびこドームには、一般開放の2日間で16,000人の来場者が集い、さまざまな体験やギア、出展者との出会いを楽しみました。
記事では、イベント主催者の一般社団法人ALPS OUTDOOR SUMMIT代表・村田淳一(むらた じゅんいち)さんと一緒に当日を振り返りながら、この場をきっかけに生まれる出展者同士の繋がりやオンラインコミュニティ「AOS365」など、アウトドアカルチャーの広がりをご紹介します。

変わらぬ熱気に包まれた2年目のAOS

コアなファンや出展するメーカーに向け、メインステージのコンテンツやエリアの配置など、細かなアップデートが図られた今年。昨年に比べると、テントなどを扱う大型のブースは減り、中・小規模のギアやアパレルを扱うブースが増えました。
 
村田さん「“ものづくりの良さ”をじっくり感じられる楽しさがある一方、新しい形がどのくらい皆さんに受け入れられるかは未知数でした。昨年は近隣エリアを対象に入場無料などのサービスもあって、開場時間前から多くの人が列を作ってくれていましたが、それも今年はないだろうと思っていたくらいです」
 
しかし当日、村田さんを待っていたのは、300人弱が並ぶ開場待ちの列でした。その様子を見て、「イベント自体が魅力を持ち、認知されてきた証だと感じた」と振り返る村田さん。昨年からの盛り上がりを見て、積極的に出展を希望するメーカーが多かったのも印象的でした。

開放感のある天井、芝生のようなフィールドもイベントの雰囲気にマッチするやまびこドーム内
行列は会場内にも。アウトドアシーンを彩るギアやアパレルにも注目が集まる

村田さん「メーカー同士の繋がりの構築は、AOS開催の願いのひとつですから、そうして集まってくれるのは本当に嬉しいことです。この1年、会場での出会いをきっかけに海外へ販路が拓けたとか、いくつかの山小屋がコラボしてグッズを出す計画があるとか、あちこちで新しいものが生まれているという話も聞いています」
 
会場は北アルプスの玄関口に位置する松本市。日本屈指のアウトドアフィールドが近いのも、AOSの強みであり魅力です。
 
村田さん「この環境だからこそ得られる体験やインスピレーションがあると思います。今はもっとフィールドに出ていくコンテンツがあっても良いのではないか、と、イメージが広がっていて。例えばメーカー主体で自社のザックを使ったツアーを組むとか、メーカーと参加者の間に対話が生まれ、意見が行き交うような企画もできたら良いですね」

「LOVE,CRAFTMANSHIP.」のテーマに沿い、想いある人たちと共に強いこだわりを持って作られた製品が集まる
6日に登壇した作家の椎名誠さん。自身の体験を交えた軽快なトークに多くの人が聞き入った

「出展のなかにも、AOSきっかけで生まれたギアがある」と村田さんに紹介してもらったのが、兵庫県の老舗刃物メーカー・神沢鉄工株式会社が手掛けるブランド「FEDECA(フェデカ)」と、開催地・松本市が本社の株式会社柳沢林業のブースです。作っているのは、オリジナルのナイフやトング、コーヒーメーカーの台座など。それぞれの得意分野を掛け合わせ、プロダクトを展開しています。

ものづくりに対する想いが、新たな文化と社会を創り出す

お話を伺ったFEDECAの御守(おんもり)さん(写真左)と、柳沢林業の高力(こうりき)さん(写真右)
「FEDECA」の「FE」は鉄、「CA」はカーボン(木炭)を意味する。鉄と木で育まれてきた日本の美しい文化を次世代に継承するのがミッションだ

御守さん「私たちFEDECAは、”刃物で遊ぶ文化をつくる”をビジョンに掲げてものづくりに取り組むメーカーです。テクノロジーの進歩もあって刃物離れが進む昨今、きっとこのまま便利さを追求する流れは止められませんが、”刃物を使いたい”という欲求は普遍的なものだとも感じていて。例えばナイフで果物の皮をむくとか、アウトドアシーンで豪快に調理をするとか、そうした憧れを応援しながら刃物の良さを次世代に伝え、繋いでいくのが私たちのミッションです」
 
2023年の出展時は、丈夫で使い勝手の良い海外の木材を使っていたFEDECAのトングやナイフ。国産材の活用も試していたといいますが、イメージに合う素材は見つけられず、試行錯誤を繰り返す真っ最中でした。一方の柳沢林業は、”山の恵みを生かしきる新林業会社”というビジョンのもと、木材生産だけを出口としない林業の在り方を探っているところでした。
 
高力さん「私たちの仕事は、簡単に言えば山から木を切り出して丸太を売る仕事です。これまでは製材業者との付き合いがほとんどでしたが、今取り組んでいるのは、切ってきた木を自分たちで活かし、直接お客様に届けること。木をきちんと使って土に還す美しい営みをつくり直したいと考えたとき、伝統を守りながら新しい文化をつくろうとしているFEDECAさんたちに大きな共感を覚えました」

木を薄く削って作るフェザースティック。ブース内では刃物の体験も行われ、木のいい香りが漂っていた

高力さん「懇親会で隣同士だったのをきっかけに、翌日にはうちの会社を訪ねてくれて。話の内容からも信頼できる相手だと感じ、その場で私たちの想いや価格の話をさせてもらいました。ただカッコいい材を安く仕入れたいのなら他を当たってもらった方がいい、“うちは高いよ”って」
 
御守さん「価格の話はよく覚えています。私たちとしても適切な価格で現場を存続してほしい想いがありますし、これまでの試作やプライベートでしている薪割りなどを思い出せば怯む話ではなくて。そこに見合う価値つけて世に出すのが私たちの役割ですから、そうした話ができる信頼関係がとても嬉しかったです」
 
高力さんたちからサンプルの材を受け取り、すぐに試作を始めた御守さんたち。第一弾が出来上がったのは、AOS参加から1ヶ月半ほどの11月中旬のことでした。これまでの1年を「苦労らしい苦労はなく、ずっと楽しい」と振り返るお二人。高力さんと御守さんが中心になって作ってきた関係性は、徐々に社内にも広がっています。

商品には「〇〇さん宅の庭から切り出してきた木です」「象牙のような質感が魅力です」など、製材までを担当した人からのメッセージが添えられる
商品は、刃を研ぎ直したり、割れてしまった柄(え)を付け替えたりもできる。一回作って渡して終わりではないものづくりも、2社の共通点

高力さん「柳沢林業からは木の加工や価格設定、お客様に渡す際のストーリーづくりなどを担うスタッフが2名参加しています。普段の木を切る現場でも、”こう使ってほしい、こんな製品にしてほしい”というイメージが次々湧いているようです。ただ切って出すだけではないワクワクやときめきは、コラボで生まれた何よりの価値です」
 
社内に変化があったのは、FEDECAも同じ。クラフトマンシップを持つ企業同士だからこそ、「今後の展開にも未知数の可能性を感じている」と、御守さんは話してくれました。
 
御守さん「今回持ってきた3つ目のプロダクト・コーヒースタンドの台座は若手スタッフの発案です。一緒に高力さんを訪ねた帰り道、淹れてもらったコーヒーが美味しかったね、なんて話からポロッとアイディアが生まれて形になっていきました。今でも納品の箱が届くと”どんな木が入っているんだろう“とワクワクしますし、”そうきたか“という発見も多くあります。今後も刺激し合いながらお付き合いが続いていけば嬉しいです」

気軽な出会いと体験で、大自然に一歩踏みだすきっかけを

長野県観光機構が出展した屋内ブース。さまざまな情報と、オリジナルグッズが当たるクレーンゲームが設置された
展示の内容やキャスティングなど、制作会社と一緒に企画全体を手掛けてきた松本さん

今年初参加の長野県観光機構では、「Go Nature,Go Nagano.」をテーマに2箇所のブースを設置しました。アウトドア初心者や若者に低山登山の楽しみを知ってもらい、山に足を運んでもらうことが狙いです。中心に立って進めてきたのは、自身も家族でアウトドアアクティビティを楽しむ機会が多いという松本さんです。
 
松本さん「低山登山の魅力は、なんといっても登頂までの時間が短く気軽に挑戦できること。ガッツリ装備も必要ありませんし、余裕を持ってご飯を作って食べたり、景色を楽しんだり、いろんな遊び方の提案ができればと思って企画をしてきました」
 
開放的で草原のような場所もあれば、岩だらけでチャレンジングな場所もあり、色々な自然が楽しめる長野県。ブースで行ったアンケートの結果からも、30・40代を中心に、届けたかった層に情報が届いているのを感じたといいます。

山岳ガイドの園原さん。以前は海外の山専門の旅行業に携わり、スキーやハイキングなどのガイドをしていたそう
ブースではハイキングや低山登山の質問に答えたり、会話を楽しんだり。「これから山を楽しみたい人が多くきてくれた印象」という

屋内ブースでは、登頂のしやすさや眺望の良さなどから北信の「岩菅山(いわすげやま)」、東信の「黒斑山(くろふやま)」、中信の「長峰山(ながみねやま)」と、南信の「陣馬形山(じんばがたやま)」の4座を中心に情報の提供が行われました。ガイドとして来場者にアドバイスを行った園原さんは、飯綱高原でガイドとロッジの経営をする人物です。
 
園原さん「普段は飯綱山の登山口のすぐそばで、“ロッジ ピノキオ”という宿をしたり、インバウンド中心のガイドをしたりしています。ロッジは僕の実家で、コロナ禍をきっかけに3年前にUターン。遊びをテーマにしたアットホームな宿です」
 
長野県の山の魅力は、「森林の美しさや寺社仏閣、食など、個性ある山が多いこと」と話す園原さん。自身が子どもの頃から登っている飯綱山は特にお気に入りで、登りやすさや山頂からの景色、東京にある高尾山の総本山である歴史文化など、さまざまな魅力が詰まっているといいます。
 
園原さん「飯綱山の山頂には神社があって、毎年8月には火祭りなどの儀式が行われます。そうした地域とのつながりや山の奥深さも伝わったら嬉しいですね。標高2,000m弱の飯綱山は低山ではありませんが、地元では幼稚園の遠足も行われるほど登りやすい山です。皆さんぜひ、挑戦してみてください」

キャンプ飯ならぬソト飯作りのワークショップが行われた屋外ブース
ワークショップには地元の食材を積極的に使い、「地域を知ってもらうきっかけに」と松本さん

屋外のテントでは、長野県在住の山系インフルエンサーやキャンプ芸人などが日替わりで来場し、料理のワークショップやトークイベントが行われました。ワークショップは各回30枠の予約がすぐに埋まり、家族連れを中心に多くの人が体験を楽しみました。
 
さまざまなワークショップが魅力で参加したというご家族は、昨年からのリピーター。もともとアウトドアが好きで長野県を訪れる機会は多く、「今後はフィールドでも調理を楽しみたい」と話してくれました。また、「アウトドアを始めて2年目」という女性は、ちょうど購入を検討していたギアが体験できるというのでワークショップに参加。「バーナー調理は初めてでしたが、使い心地もわかったので今後の参考にします」と感想をいただきました。

個々の熱をより広く、繋がり育む「AOS365」とは

AOSを起点に、さまざまなカルチャーやビジネスが展開されていく未来を描く村田さんたちは、今年新たなオンラインコミュニティ「AOS365」を立ち上げました。
 
村田さん「AOS365は、友人でありコミュニティ運営に特化したプラットフォームを独自開発するオシロ株式会社の杉山博一さんや編集者の越後雅史さんと一緒に構想してきたプロジェクトです。イベント中、親睦会の熱量や空気感を翌年のAOSまで維持したいと思ったのが始まりでした」

システムの提供からコミュニティの運営、企画まで関わる杉山さん(写真左)と、AOS365の編集長を務める越後さん(写真右)
村田さんの思うオンラインの魅力は、人も企業も全てがフラットに関われるところ

杉山さん「自分も力なりたいと思って考えたのが、人と人が繋がって新しい価値が生まれる、その繋がりを作るお手伝いでした。イベントやHPで伝える情報価値、年に一度の集まれる体験価値、その先の”繋がり価値”の創出ができればと思っています」
 
アウトドアには100人いたら100通りの楽しみ方があります。それぞれが体験を持ち寄って交流したら、さらにすごいことが起きるかもしれない。杉山さんたちが作ろうとしているのは、メーカーとファンがさまざまな形で情報を交換したり交流したりできる複合的な繋がりのある場です。
 
杉山さん「2日間しかないイベントですから、会場に来ただけではわからない想いやこだわりもたくさんあると思います。オンラインコミュニティはそれぞれのペースで世界中からアクセスできるので、まずは気軽にAOSの戦利品を見せあったり、感想を伝え合ったり。キーワードで自分の興味関心を細かく示せるので、“AOS2024に参加”とか、”登山初心者”とか、共通点を見つけて話が広がる工夫もしています」
 
例えば登山というワードだけでも、「これから登山を始めたい」という人から「登山を初めて1年目」、「テント泊でアルプス縦走に挑戦したい」という人まで、興味関心や経験値はさまざまです。プラットフォームの特徴として、入っているメンバーは誰でもイベントを作ったりブログを書いて発信したりできるので、アドバイスをし合ったりリアルな登山仲間を募ったりする使い方も想定できます。

イベントとイベントの間を埋めるオンラインのコミュニティ。名前には「365日ずっとAOSだよ」というメッセージを込めた

越後さん「発信やコンテンツが集まっていくイメージをしているので、僕が編集長という形で参加をしています。集まった情報を冊子にまとめたZINE(ジン)も作ってみたいなと思っていて、例えばそれを来年のAOSで販売するとか、そんな風にしてリアルとオンラインが混ざり合っていけばと考えています。少しでもアウトドアやギア、ものづくりに興味があれば、気軽に参加してもらえると嬉しいです」
 
年に一度AOSに集まる人たちが、それぞれの想いや体験を持って全国に散らばり、オンラインで再び混ざり合う。途切れることなく続く交流から、新たなビジネスやカルチャーが芽吹き、根付いていく予感を残し、2024年のAOSは幕を閉じました。
第3回目となる2025年は、10月3日(金)〜5日(日)の開催を予定しています。

Information

【ALPS OUTDOOR SUMMIT】
主催:一般社団法人 ALPS OUTDOOR SUMMIT
公式サイト:https://alpsoutdoorsummit.jp/

【柳沢林業株式会社】
住所:松本市岡田下岡田774-1
電話:0263-87-5361
HP:https://yanagisawa-ringyo.jp/

【FEDECA】
住所:兵庫県三木市鳥町27(工場直営店 FEDECA factory shop)
営業日:火、水、木、金 (祝日休み)
営業時間:10:00〜12:00/13:00〜17:00 (最終入店16:30)
HP:https://www.fedeca.com/

【ロッジピノキオ】
住所:長野市富田1-92
電話:026-239-2950
ご予約・お問合せ:090-4920-5267
HP:https://lodge-pinokio.com/

撮影:小池勇輝  文:間藤まりの