日本一の星空で知られる阿智村(あちむら)は、長野県と岐阜県の県境に位置する山間の村です。車を使えば名古屋から1時間半でアクセスできる好立地で、春はハナモモの里としても有名。山間の渓谷に沿って、夢のように美しい光景が広がります。
今回紹介するのは、豊かな自然に囲まれた阿智村の、星をテーマにした北欧風ラグジュアリーグランピング「mökki(モッキ) STARDUST GLAMPING achi village」。2022年8月のオープン以来、関東や関西はもとより世界中から人が集まる人気の宿泊施設です。気持ち良い秋晴れのもと、mökkiの立ち上げから今までを知る長澤禎敬(ながさわ・さだひろ)さんにお話を伺いました。
想いを受け継ぎ形にする阿智村のグランピング
「mökki」は、フィンランド語で「小屋」や「別荘」を意味する言葉です。施設全体のコンセプト・北欧風のイメージは、阿智村の凛とした寒さや満点の星空がフィンランドを想起させることから生まれました。
「直感的に“良いな”と感じたインスピレーションをもとに、デザイナーや設計士、社長も一緒に話し合いを重ね、コンセプトを作ってきました。この場所はもともと村の土地で、地域の人たちが大切に育てている落葉樹林があったところです。敷地内に残る木々は当時からの名残で、皆さんの想いを受け継ぎながら、私たちも地域を盛り上げる一員になっていきたいと考えています」
切り倒した木も薪やウッドチップとして施設内で活用し、オシャレで温かみのある空間を作り上げてきた長澤さんたち。まだ森だった頃に魅力を感じたアンジュレーション(地表の起伏や高低差など)も活かし、たくさんのワクワクが詰まった場が誕生しました。
mökkiを運営する株式会社丸泰は、1951年の創業以来、建築や不動産、建材の販売やリフォームなど、幅広く土木に関する事業を展開する会社です。代替わりを機に新規事業の検討が始まり、2020年頃から観光に関するコンテンツづくりが始まりました。
「最初は岐阜県の飛騨高山で忍者をモチーフにしたカフェを始め、2箇所目がここ、阿智村のグランピングです。個人的には、10年以上前からあたためていた“アウトドアを気軽に楽しんでほしい”という想いを形にした場所で、施設のクオリティや体験の中身には徹底してこだわりました」
全国的にグランピングの施設が増えていくのを見ながら、「一過性のブームで終わってほしくない」と強く感じたという長澤さん。通常のテント泊とは違う贅沢で快適な空間ながら、ホテルや旅館では味わえないアウトドアの環境、自分でできる余白が残るワクワク感。建設業者として培ってきた技術や経験を注ぎ込み、どの季節も気軽に楽しく過ごせる“本物のグランピング体験”が、mökkiの強みであり魅力です。
「この地域はまだまだ余白があると思っていて、もっと掘り起こして、盛り上がったらいいなと思っています。まずは自分たちの事業をしっかり作りつつ、広げていく。これからの観光では、“自分たちだけが儲かればいい”という感覚は危険だと思っていて、社内でも、地域の雇用や産業の一助になる運営をしていこうと話しています」
星空のイメージが強くある村ですが、例えばナイトツアーを行なっているロープウェイ「ヘブンスそのはら」はハイキングやトレッキングにもおすすめの場所。夜には見えない山々の紅葉などが美しい絶景スポットです。
「個人的には、天竜川で行われている和船の川下りも好きなんです。荒々しい流れに身を任せて進む船は危険なイメージもあるかもしれませんが、心地よい風と水飛沫、船の上から見える景色はここだけのもの。伝統を感じる機会としても、挑戦してほしいコンテンツのひとつです」
誰もが気軽にとっておきのアウトドア体験を
さてここからは、長澤さんに教えてもらったmökkiの過ごし方をご紹介します。
15時頃にチェックインを済ませて荷物を置いたら、まずは敷地の奥にあるフォトスポットに向かいます。山間の風景を切り取る大きなフレームとブランコ、さらにペット用の小さなフレームまで、いくつかのシチュエーションでセルフの撮影が楽しめる人気スポットです。
写真を撮り終えたら管理棟に戻り、デッキでピザ焼き体験はいかがでしょう。夕食までの間の小腹を満たすちょうどいいサイズで、飯田市内のパン屋さんが作るもちもちのピザ生地が人気です。チーズも合わせて数種類用意された具材は、地元の野菜やソーセージ、レモンなどの変わり種もあり。初めてでも、スタッフの方が優しく教えてくれます。
管理棟にはそのほかにも、数種類のスパイスを自分で組み合わせて調味料を作る「spice bar」や、自分でドリップコーヒーが淹れられる豆と機器のレンタルセット、たくさんのボードゲームなどが用意されています。いずれも部屋での時間を充実させるためのコンテンツ。「これまで経験のなかった人にも、気軽にアウトドアに触れてほしい」という長澤さんたちの想いから、最小限の荷物で来られるのもmökkiの魅力です。
今回のテーマのひとつ「サウナ」は、15時から21時の間、1枠90分の予約制。北欧というテーマが決まったときから導入を検討していた体験のひとつで、本格的な薪ストーブを使ったアウトドアサウナが楽しめます。オリジナルのサウナハットやサウナ着、ポンチョはレンタルもあり、手ぶらでの利用が可能。取材時はテントスタイルでしたが、サウナ施設はまだ整備の途中で、今後さらに快適な機能が備わっていく予定です。
美味しい食事と美しい景色でリフレッシュ
じっくりゆったり汗を流して、お腹も空いてくる夕方。予約をしておいたBBQの食材が、指定の時間に部屋に届けられます。メニューは全て仕込み済みで、あとは焼いたり温めたりするだけで食べられるのが嬉しいところ。海外製の本格的なグリルを使い、建物のなかと外、どちらでもBBQができます。
「断熱も空調もしっかりしているので、真冬の寒さも夏の暑さも気になりません。これから寒くなる季節は空気も澄んできて、星空観察にピッタリのシーズンです。サウナや温泉でゆっくり温まって、ドームからのんびり星を眺めて。防寒対策にベンチコートも用意してあるので、屋外で過ごすときにご利用いただければと思います」
施設の中心には焚き火エリアとドリンクバーの建物があり、宿泊者は自由に利用できるという充実ぶり。ソフトドリンクから温かいコーヒーやラテ、サワーやハイボール、ビールに地元産ワインなどのアルコール類まで、たくさんのメニューが揃っています。
お待ちかねの夜の時間。日が暮れてしばらく経つと、徐々に頭上に星たちが姿を表します。管理棟には星座や星に関する本も用意されているので、借りてきて観察をするもよし、ぼーっと眺めてみるもよし。ロマンチックな雰囲気はプロポーズや誕生日など記念の場所として選ばれることも多く、オプションのバルーンや花束のサービスと合わせて、特別な時間を演出するのもいいかもしれません。
「チェックインのあとは施設のなかで思い思いに過ごす人が大半ですが、素泊まりプランで地域の食事処に出かけたり、配布しているサービス券で、近くの昼神温泉(ひるがみおんせん)や月川温泉(げっせんおんせん)に入りに行ったり。ここを起点に地域を楽しむのも、おすすめの過ごし方のひとつです」
長野県の最南端。満点の星空のもとで味わうグランピングには、地域を想うあたたかな気持ちと、気軽に自然を楽しむたくさんのアイディアが溢れています。
Information
mökki STARDUST GLAMPING achi village
所在地:下伊那郡阿智村智里4152-67
電話:0265-49-3016(受付9:00~18:00)
メール:info@naganoachimura-glamping.com
※時間外のお問合せは、メールにて
撮影:新井涼平、池田紗 文:間藤まりの
長澤 禎敬/Nagasawa Sadahiro
出身は岐阜県。文系出身ながら、「作ること」が好きで建築の仕事に興味を持ち、新卒で株式会社丸泰に入社。mökkiでは工事の現場監督も務め、社員はじめ地域や関係企業など、多くの人たちと一緒にあたたかな場を作るため奔走。さまざまな事業を手がけるなかでは、行政や議会と協働する機会も多く、対話を通じて新たな挑戦を続けている。