クラフトビールブルワリーやソフトクリームの店、アパレルショップなどが集まるこの場所は、蓼科高原(たてしなこうげん)にある蓼科湖(たてしなこ)。キャンプ・サウナ特集の3ヶ所目は、湖のほとりに建つ「TINY GARDEN蓼科(タイニーガーデンたてしな)」を紹介します。手がけているのはアパレルメーカーのURBAN RESEARCHで、ロッジ、キャビン、テントの3種類から好みのキャンプスタイルを選べる宿泊施設。店長の粟野龍亮(あわの・りょうすけ)さんにお話を伺いました。
自然を介してさまざまな交流が生まれる八ヶ岳・蓼科高原
2024年に70周年を迎えた蓼科湖。当初は農業用の湖として地域の人を中心に利用されていましたが、徐々にまわりに別荘が建ち、県内有数の別荘地として多くの人に愛される場所になりました。
「ホテルのバーラウンジや食事処は、地元の人と別荘に訪れる人が行き来するサロン的な役割を担っていたと聞いています。地域について語り合ったり、文化の交流が行われたり。都会的な感覚と地元の知見、新しさも自然の奥深さも、いろんなものが混じり合う風土は、その頃から受け継がれてきたものなのでしょう。観光地として大規模な開発が行われなかったのも場所の良さで、これからも大切に守っていきたいひとつです」
芸術的な面では、「晩春」や「東京物語」などの代表作で知られる映画監督・小津安二郎(おづ・やすじろう)の別荘ゆかりの地。他にも劇作家や俳優、音楽家の別荘が多くあり、「文化人たちの交流の地でもあったと思う」と粟野さんはいいます。
また蓼科湖は、八ヶ岳中信高原国定公園の一部に位置し、長野県から山梨県へと連なる八ヶ岳の玄関口です。手軽なルートとしては、北八ヶ岳ロープウェイを利用したハイキングができ、そのほかにも多くの登山口や山小屋があります。日本百名山のひとつであり、八ヶ岳最高峰の「赤岳(あかだけ)」も、日帰りルートから縦走ルートまで、バラエティに飛んだコースで登山者を迎えています。
「八ヶ岳は、高い山でも開放的で穏やかな雰囲気があり、初心者から上級者までどんなレベルの人も包み込んでくれるような優しさがあります。僕らがいるTINY GARDEN蓼科はその麓にあって、まずは誰もが、気ままに地域や自然を感じられる環境をつくるのが大きなテーマです」
例えば都会から来る人にとっては、ロッジの部屋から窓越しに蓼科湖や八ヶ岳連峰を眺めるだけでも、それは立派な自然を感じる体験です。一方で、テントを張って大地に寝転がるダイナミック体験こそ自然、という人がいるのも事実。粟野さんたちは「自然を感じる」というコンセプトに対する多様性を受け入れ、あえて境界線を引かず緩やかに交差させます。
「空間設計やサービスの軸になっているのもそのあたりの感覚で、敷地内にショップやカフェがある理由も、多様性を受け入れたいという想いからです。都会の人にとっては日常に近いカフェやショップが、地元の人にとっては少し都会的な非日常に映る。そんな風に自然体験だけではなく、さまざまな日常と非日常が行き来しているバランスが重要なんだと思います」
「垣根を越えて集える小さな庭」がコンセプト
「小さな庭」を意味する「TINY GARDEN」は、URBAN RESEARCH DOORSというブランドラインの10周年パーティをきっかけに生まれた言葉です。パーティのコンセプトは、お客さんとスタッフ、メーカーが垣根を超え、自然のなかで集う小さなガーデンパーティ。キャンプ場を貸し切って行うスタイルが大好評で、毎年企画されるようになり、徐々にコミュニティの輪が広がっていきました。
「そのうちに、“年間通して集える場とサービスを整えよう”という話が持ち上がり、場所を探してリノベーションをし、完成したのがこの場所です。目指したのは、大自然に飛び込むようなワイルドなアウトドア体験ではなく、庭や公園の延長にある身近な体験。キャビンに囲まれた広場のようなキャンプサイトは、TINY GARDENのコンセプトにぴったりでした」
施設の立ち上げから関わっている粟野さんは、茅野市に移住して7年目。生まれは静岡県で、育ちは東京都という人物です。
「小学校の頃に両親と都内へ引っ越し、大学を卒業したあともそのまま都内で就職をしました。ものづくりへの興味からURBAN RESEARCHに入職し、オーガニックや日本の手仕事を大切に展開する“KAGURE”に所属をしていたこともあります。地方の作家さんの作品を仕入れたり、ショップ併設のギャラリーで企画を組んだりしていました」
各地に足を運んで作家たちの暮らしに触れるうち、「そのシンプルかつ丁寧な姿に心ひかれるようになった」という粟野さん。次第に自身も移住を考えるようになり、三重県へ移ると共に旅行業へとキャリアをチェンジ。2017年に長野県茅野市にやってきました。
「進学や就職、転職も、全ては人との縁や巡り合わせなど、直感に従った選択をしてきました。大切にしているのは、自分の好奇心がある方向に素直に進むこと。さまざまな出会いや交流に恵まれた茅野市は、飽きることなく好奇心を追求できる、とても魅力的な場所です」
「ふー」とひと息、こだわりのキャビンサウナプラン
TINY GARDEN蓼科のサウナは、キャビンのなかに、サウナ小屋と更衣室、荷物置きや外気浴のスペースがぎゅっと詰まったもの。「SAUNA CABIN HU(サウナキャビン・フー)」という名前で、2023年に営業が始まりました。粟野さんをはじめスタッフにサウナ好きが多く、「この場所に作るならどんなサウナがいいか」知恵を出し合って完成した、こだわりのプライベートサウナです。
「湖畔の静かな環境で行う外気浴は格別で、自然を楽しむ手段として、どんな人にもおすすめのサウナができたと思います。プライベートだからこそ自分たちのペースで楽しめますし、滞在とセットで旅のオプションとして組み込みやすい形も意識しました。なかにはキャンプと合わせて家族で利用し、子どもたちはキャビンで遊びながら過ごす、というお客様もいらっしゃいました」
サウナストーブは、伊那市にある薪ストーブの専門店「dld(ディーエルディー)」から、サウナの本場・エストニアの薪ストーブ「HUUM」を導入。薪ならではの柔らかな熱が伝わり、しっかり汗を流したい本格派から初心者まで、長時間入っていられる至福の空間を演出します。
「年間通じて利用できるので、季節ごとの景色と合わせて楽しんでもらえたら嬉しいです。個人的なおすすめは、少しだけ空気が冷たくなる秋や春。周囲は紅葉や新緑が美しい木々も多く、木漏れ日が揺れる午後の光景は最高です」
サウナでリフレッシュしたあとは、室内のレストランでゆったりディナーを満喫。食材はなるべく30km圏内の顔が見える生産者さんから仕入れ、丁寧にじっくり調理して食卓へ。色とりどりのお惣菜と選べるメイン料理、ご飯やパン、味噌汁やスープなど味わい深くボリューミーなメニューが並びます。
テント泊をしながら夕食はレストランを利用したり、ロッジでホテル泊を選びながら自分で焚き火やBBQをしたり。必ずしもアウトドアだけで完結しない自由さは、TINY GARDEN蓼科の人気の理由のひとつです。
「宿泊の様子を見ていると、親子3世代での利用や季節を変えてのリピーターが多いのが特徴かもしれません。子どもたちはキャンプ、おじいちゃんおばあちゃんはロッジに泊まって体験を共有したり、夏はテント、冬はキャビンなどの使い分けをしたり。八ヶ岳はもちろん、ビーナスライン沿いには白樺湖や女神湖、車山高原などの観光スポットも多くあるので、連泊してあちこち足を伸ばす方も多くいます」
たくさんの日常と非日常、自然を感じる体験が交わる蓼科湖。湖畔のキャンプ場に、ふーっとひと息リフレッシュや八ヶ岳など周辺観光の拠点としても利用したい、ちょうどいい環境が整います。
Information
【TINY GARDEN 蓼科】
住所:長野県茅野市北山8606-1
電話:0266-67-2234
HP:http://www.urban-research.co.jp/special/tinygarden/
【EKAL 道の駅ビーナスライン蓼科湖店】
住所:茅野市北山4035-196
電話:050-2017-9028
営業時間:9:00〜18:00
定休日:不定休
Instagram:https://www.instagram.com/ekal_lake_official/
撮影:新井涼平 文:間藤まりの
粟野龍亮/Awano Ryosuke
ものづくりへの興味からアーバンリサーチが展開する「KAGURE」に所属。職人たちとの交流を通じて暮らしを見つめ直し、地方に触れようと三重県伊勢市へ移住。仕事も旅行業界へ。2017年に地域おこし協力隊として長野県茅野市に移住し、地域資源を活かしたツアー企画などを手がける。TINY GARDEN 蓼科への参加は2019年からで、現在は店長を務める。