北八ヶ岳の東麓に広がる八千穂高原(やちほこうげん)。およそ200haの高原に50万本もの白樺林が群生し、日本一の美しさと言われる光景が広がります。
今回の舞台は、国定公園でもある「駒出池(こまでいけ)キャンプ場」。お話ししてくださったのは、キャンプ場の支配人を務める三好寛(みよし・ひろし)さんと八千穂SAUNAオーナーの長岡哲也(ながおか・てつや)さんです。静かな環境でゆっくりくつろぐキャンプ体験と、自然のままの渓流を使うダイナミックなアウトドアサウナ、それぞれの魅力をたっぷり伺いました。
ほっとひと息、穏やかなレイクサイドキャンプへ
葉の擦れる音や鳥のさえずり、流水音。普段は気づかないような小さな音が心地よく響く駒出池キャンプ場は、「大切な人と心穏やかなアウトドアライフを満喫してほしい」というコンセプトのもと整えられたキャンプ場です。かつては村営の牧場で、古い遺跡も発掘されるなど、土地の歴史からも長く人の営みがあった様子がうかがえます。
「1961年4月のオープン以来、多くの方に親しまれ、2019年から私たちが指定管理を受けて運営しています。収容数はおよそ250組。1,000人以上が同時に宿泊できる、全国でも大規模なキャンプ場だと思います。キャンプサイトは開業当初からほとんど変えておらず、苔むした岩や木立など、なるべく自然のままを感じられるよう営業を続けています」
ここ数年リピーターも多く、三好さんたちがこだわっている"静かな環境を楽しむ人"が増えていることを感じています。
「宿泊者には、どのエリアも20時以降のサイレントタイムにしています。とにかくゆっくり静かに過ごしてほしいという想いと、ここは星空がとても綺麗に見える場所なので、余計な光を感じず環境に浸ってほしいという想いがあります。焚き火をしてぼーっと火を眺めたり、カメラや望遠鏡を持ち込んだり、思い思いに過ごしている様子がとても嬉しいです」
1番人気は、芝生や池のほとり、森の中などを自由に選べるフリーサイト。特に、キャンプ場のシンボルでもある駒出池周辺は人気があり、テントが映り込むリフレクション写真を撮るのが定番です。
「池の大きさも程よくちょうどよく、手持ちのカメラやスマートフォンで綺麗な写真が撮れます。水上のアクティビティは一切禁止で水面も穏やか、4年ほど前からはカモの親子も住み始めました。春には小川で泳ぐ練習をしたり、母鳥のうしろをついて歩いたり、ほほえましい光景が見られます」
「前回とは違うキャンプを楽しみたい」と、毎回違うプランを予約するリピーターも多くいるそう。バンガローやコテージ、国内テントブランド・ゼインアーツの人気テントに泊まれる”手ぶらプラン“など、選ぶ楽しみも駒出池キャンプ場の魅力です。
「お湯が出る炊事場は4箇所あり、トイレやシャワールームもある程度不便がないよう各所に配置してあります。レンタル品も多く、獣の被害は少なく、トータルで見ても安心して過ごせるキャンプ場だと思います」
3種類のテントから選んで予約する「手ぶらプラン」は、到着時までにテントや調理器具、薪や焚き火台などを用意してもらえるお手軽プラン。宿泊者は好みの食材やドリンクを持ち込むだけで、誰でもおしゃれで本格的なキャンプが楽しめます。
「グランピングと違うのは、あくまで“楽しむ道具は全て揃えます”という立ち位置だという点です。事前に必要な調理器具や作りたいメニューをお伺いするので、“このキャンプ飯が作りたい”などお伝えいただければ、アドバイスもできるようにしています」
キャンプ場を起点にエリアをまわって楽しんで
支配人・三好さんの出身は福岡県。大学入学に合わせて上京し、長野県に来るまでは、都内や神奈川県でデザイナーの仕事をしていました。フリーのデザイナーとして独立した2014年、さらに「田舎暮らしをしたい」と一念発起した三好さんは、友人が暮らす長野県伊那市に移住を決意。スキー場での仕事をきっかけに、駒出池キャンプ場を運営する会社との縁ができました。
「八千穂高原に来た当初は、何があるわけでもない路肩に停車して写真を撮る観光客を見て、“なんだかすごいところに来た”と思いましたね。ただ、キャンプ場という場所で自然に向き合っていると、むしろもっと良い景色はたくさんあるのに、という勿体なさも感じていて。今は、閑散期と呼ばれる季節にも異なる魅力があることを知ってほしいなと思います」
麓とは季節に2週間程のずれがあり、気温も5度前後は違うという八千穂高原。真夏でも30度を超える日は少なく、刻々と景色が変化していきます。
2024年9月には、キャンプ場の近くに三好さんたちも関わる「道の駅 八千穂高原」がオープンし、新たに町との接点が増えました。
「道の駅には地元の名産品や新鮮な野菜が揃っているので、せっかくキャンプに来るなら、そうした地域の雰囲気も丸ごと味わってもらえたら嬉しいです。隣接している八千穂SAUNAも、私にとっては自然を楽しむツールのひとつ。文字通り大自然に飛び込んで整って、そのままキャンプで乾杯できたら最高ですよね」
コンセプトは「大自然のとてつもないサウナ」
サウナ歴15年の陽気なオーナー・白樺薪男(しらかば・まきお)こと長岡哲也さんが立ち上げた八千穂SAUNA。初心者から玄人まで、唯一無二の楽しみ方を探せる、アミューズメントパークのようなサウナ施設です。
「八千穂高原の大自然をガツンと感じてほしい、それがなによりの想いです。入り方やオプションサービスはなんでも気軽に相談してください。水着やポンチョなどの備品はレンタルもあり、思い立ったら手ぶらで来られる気軽さとリーズナブルさが八千穂SAUNAの特徴です」
サウナと水風呂、外気浴の3つが揃ってワンセットのサウナ体験。八千穂SAUNAは、その全てを高原からの自然の恵みでまかないます。
「サウナの室内を温める熱源は、アカマツなどの薪。60度くらいの低温から120度近くまで、幅広いニーズに応えられるようストーブにもこだわり、全てセルフロウリュウが可能。水風呂はこの辺りに湧き出る天然水の掛け流しで、初心者や“水風呂が苦手”と感じる人にこそ体験してほしい、まろやかで柔らかな肌触りが特徴です」
給水しているホースの水は天然水なので、そのままガブガブ飲めてナチュラルで美味しい。続く外気浴は、そのまま森林浴もできてしまうという充実の環境が揃います。
「アウトドアサウナと温泉施設などで入る室内のサウナは全く別物。自然のなかで遊ぶような感覚で初心者や子どもも挑戦しやすく、玄人にはよりマニアックな体験が提供できるのが魅力です。雰囲気を見て“次はサウナキャンプをしよう”とリピートしてくれた方もいますし、翌日には“サウナで整い、大自然の中でぐっすり眠れて最高でした”と感想をもらいました」
地域を交え、極上のアウトドアサウナを追求
佐久穂町出身で、幼少期は渓流でイワナを釣ったり、父と山に出かけて蜂の子を取ったり、さまざまな野趣溢れる体験をしてきた長岡さん。大学時代は“いかにも田舎”な環境が嫌で上京をしたといいますが、大人になって改めて、八千穂高原の自然の偉大さや空気のおいしさに気づきました。
「いくつかのタイミングが重なって地元にUターンすることになり、八千穂という土地の良さを多くの人に知ってもらいたい、地域を活性化したいと考えるようになりました。会社は母と一緒に立ち上げ、地域の仲間がいたからこそ、共にこの最高の環境でサウナをオープンできた経緯があります」
長岡さんを魅了し続けるアウトドアサウナの魅力は、整ったあとの鮮やかな時間。薪サウナでたっぷりロウリュウを浴び、痛いほどの熱さからキンキンに冷えた水風呂ダイブ。そして外気浴。「一連の行動が、僕の気合いが入るスイッチです」と、長岡さんはいいます。
「アウトドアサウナの文化は、日本でも広がり、定着し始めたと思います。しかし八千穂サウナのように、本物の大自然に溶け込み、地域の素材だけで体験できるサウナはまだ多くありません。まずはこの場所を大切に育てながら、自然を楽しみ地域を盛り上げる手段のひとつとして、アウトドアサウナを全国に広めていきたいです」
穏やかに心休まるキャンプ場には、自分らしく大自然と付き合えるさまざまな魅力が詰まっていました。限られた季節しか味わえない豊かな時間、体感しに出かけてみてはいかがでしょうか。
Information
駒出池キャンプ場
所在地:南佐久郡佐久穂町大字八郡2049-856
TEL : 0267-88-2569(総合案内所9:00~17:00)
営業期間:〜2024年11月24日(日)
HP:https://yachiho-kogen.com/camp/
※予約の問い合わせは、HP内の専用フォームにて受付
八千穂SAUNA
所在地:南佐久郡佐久穂町大字八郡2049-860
営業時間:9:00〜19:00
定休日:木曜(祝日の場合は営業)
問い合わせ: 090-8505-0517
HP:https://yachiho-sauna.jp/
撮影:新井涼平 文:間藤まりの
三好 寛/Miyoshi Hiroshi
首都圏でデザイナーとして活躍後、田舎暮らしに憧れて長野県に移住。スキー場やキャンプ場の運営を行う会社で働くようになり、仕事が縁で2018年に佐久穂町に越してきた。現在は八千穂高原スキー場と駒場池キャンプ場のほか、2024年9月にオープンした道の駅八千穂高原で副駅長を務めるなどエリア活性に尽力する。
長岡 哲也/Nagaoka Tetsuya
コロナ禍を機に生まれ育った佐久穂町にUターン。母と共に株式会社八千穂SAUNAを設立し、2021年2月22日に八千穂SAUNAをグランドオープン。「白樺薪男(しらかば・まきお)」というオリジナルキャラクターに扮し、八千穂高原とアウトドアサウナの魅力を発信し続けている。自身もサウナーで、サウナ歴は15年ほど。