
約1カ月かけ完成する「クラシックホテルの特製ビーフシチュー」
長野駅と善光寺のちょうど中間地点に位置する犀北館ホテル。多くの文化人や芸術家などに愛され、まもなく創業135年を迎える長野県を代表するクラシックホテルだ。
1827年、長野県中野市にて「松田屋」という宿として開業。その後、火事に見舞われ長野市へ移転。1890年(明治23年)に現在の場所にて犀北館として営業を開始した。
ホテルメイドの手土産として、まず一番に思い浮かんだのが犀北館ホテルのビーフシチュー。
長野市に生まれ育ったわたしにとって、犀北館ホテルは敷居の高い憧れのホテルというイメージが強い。ホテルにあるレストランに行く際は、親戚の集まりや祝い事など、特別な日であることが多かった。
「そんな敷居の高さを払拭し、もっと多くの方に気軽に来ていただけるように、20年ほど前にホテル内にあったフランス料理店をカジュアルな洋食レストランへとリニューアルしたんです」
そう話してくれたのは水上正憲シェフ。犀北館ホテルの調理部門を取り仕切る総料理長だ。

20年ほど前にリニューアルオープンした「グリル洋食とみんなのワイン食堂 Seiji」は、カジュアルな単品メニューからコース料理まで幅広く味わえる洋食メインのレストラン。そのときに店を代表する看板メニューをつくろうと、水上シェフらが開発したのがビーフシチューだった。
「洋食なので、まずデミグラスソースをつくろうと。それも普通のデミグラスソースではなく、個性的なものを出したいと思い考えました」
牛肉、香味野菜を一度焼いてから、トマトや赤ワインなどと一緒に煮込む。弱火で10日間ほど煮込んだのち、それを濾し、スープの状態に。そしてまた新たに具材を足し、煮込んで濾すという工程を繰り返し行っていく。
「煮込みだけでも20日間以上。すべての工程を含めると、ひと月ほどはかかっていますね」

約1カ月かけ、ようやく完成したデミグラスソース。この時点ですでにかなり黒に近い色合いに。
「旨味成分が凝縮され、黒く艶やかな色合いに仕上がります」
牛肉の塊、牛骨などを加え、さらに煮込むことで漆黒ともいえる色合いに変化していく。決して焦げているわけではないのだが、素材を焼いて煮込んでいるためか、独特の苦みのような味わいが感じられるのも犀北館メイドの特徴だ。
「お子さまですと、ちょっと苦いと感じるかもしれませんが、この苦みがクセになるという方も多いです」
ほかでは味わうことができない唯一無二のビーフシチュー。味の奥深さに魅了され、何度でも食べたくなる気持ちがよくわかる。

レストランで提供するときは一人前ずつ土鍋に入れ火にかけ、最後に生卵を投入する。再びさっと火にかけると卵は半熟状態に。
とろける卵とビーフシチューを一緒に食べると、苦みとうまみがまろやかに調和され、また違う個性が生まれるなど味の変化も楽しめる。
「皆さまが慣れ親しんだビーフシチューの味ではないかもしれませんが、これが私どもが大切にしているデミグラスソースを使ったビーフシチューです」
まさにクラシックホテルメイドにふさわしい味。ランチにはライスかパンをセットに。夜は赤ワインと合わせてゆっくり楽しむのもいいだろう。


ホテルのこだわりがたっぷり詰まったビーフシチュー。こちらをお土産用に販売しようと思ったきっかけは何だったのだろうか。
「もともと1階にベーカリーがあったのですが、またパン屋を再開しても…ということで、パンに加えて焼き鳥やかき揚げなどのお総菜などを販売したのがはじまりです」
ホテルシェフがつくる総菜類はたちまちヒットし、ビジネスマンなどが多く訪れるようになっていった。
「味については自信があったので、もっと気軽にホテルを訪れ、ホテルの味を食べていただきたいという思いもありました」
需要も高まってきたので徐々に品数を増やし、多い時は100種類以上の総菜や弁当などが並んだ時期もあったという。

ニーズに合わせホテル内にテイクアウト専用のショップ「Delica鐵扇」をオープン。
現在は品物を厳選し、デリやスイーツ、長野県産のお酒や特別な土産品などを中心に販売している。
そしてもう一品。
「Delica鐵扇」で購入できる、犀北館ホテルメイド土産としておすすめしたいのが、ピスタチオのマカロンだ。
「マカロンってカラフルでいろいろな味があるのが一般的なのですが、私どもはあえてピスタチオのみ。この一種類だけなんです」
果実やチョコレートなどいろいろなフレーバーを試作してみたが、一番“犀北館らしさ” が感じられたのがこのピスタチオだったという。
フランスの伝統菓子であるマカロンは、濃厚な甘さと食感が特徴だが、犀北館メイドは甘さ控えめ。
「試作のときに数えきれないほどいろいろな種類を食べましたが、ピスタチオは日本人向けのちょうどよい甘さに仕上げることができたので何個でも食べられました」

「鐵扇のマカロン ピスタチオ」(5個入り1,380円)

経木の箱入りで賞味期限も14日間と長いので、贈答用に最適だ
伝統あるクラシックホテルがつくる、ちょっとしたプレゼントにも最適なスイーツと、ふとしたときに思い出す、あの日あの場所で食べたあのビーフシチュー。ホテルメイドの味を気軽にお取り寄せできるなんて、いい時代になったものだとしみじみ思う。

中国料理と西洋料理の融合、まかないから生まれた「斬新な担々カレー」
次に紹介するのは、松本にあるホテルブエナビスタがつくるホテルメイドのカレー。それもただのカレーではなく、中国料理の料理長が手がける「四川風 担々カレー」だ。

松本市街地に位置するホテルブエナビスタ。観光やビジネスなどさまざまな目的に対応した利便性が高いシティホテルだ。ホテル内には、西洋料理、日本料理、中国料理と幅広いジャンルがそろい、目的や好みにあわせて選ぶことができる。
ホテルオリジナルの品にも力を入れており、スイーツや煮込みハンバーグなどそれぞれ魅力的なアイテムがそろうなか、今回“これぞ!”と注目したのが「聖紫花 四川風担々カレー」。中国料理×西洋料理という意外な組み合わせが興味をそそる。

話を聞いたのは中国レストラン聖紫花(以下、聖紫花)の料理長を務める上野浩さん。中国料理一筋、キャリア40年のベテランシェフだ。
地域によって使う食材や調理法が異なる中国料理。中国四大料理といわれる北京、四川、広東、上海をとってもそれぞれ特徴が異なるなかで、聖紫花が提供するのは広東料理だ。
「中国料理は、たくさんの油を使う料理というイメージが強いと思います。でも広東料理は湯通しして、余計な油をとるんですよ。調味料も塩やオイスターソースを使うものが多く、すごくさっぱりしているから “体にやさしい中国料理”といわれています」
素材の味を生かした優しい味の要は、特製の塩ダレにあるという。
「数種類のスパイスなどを入れてつくるオリジナルの塩ダレを、聖紫花で提供する、ほぼすべてのメニューに使用しています」
中国の思想「医食同源」をベースにした体に優しいメニューは約70種類。ランチやディナーで味わうことができる。

担々麺は中国四川省の成都で、天秤棒に麺と具材(挽き肉)を担いで売り歩いたことからその名が広まっていったのだという。
ではなぜ、四川省発祥の料理をなぜこちらで提供するようになったのだろう。
実はこのメニュー。上野さんがかつて働いていた四川料理店のまかないでつくったメニューが元祖なのだという。
「担々麵にカレーをかけて食べたら、これは合うな、おいしいなと。ある日は焼きそばにかけたり、まかないで食べていたんです」
レギュラーメニューに昇格するきっかけは、イベントだった。
「当ホテルのレストランが参加するカレーフェアがあったんです。それでカレーにまつわるメニューを考えることとなり、昔よくまかないで食べていた担々カレーをブラッシュアップしました」
2020年7月、アルピコグループ100周年を記念し、ホテルブエナビスタ所属の3名の料理長が考案したカレーを梓川サービスエリアのレストランで発売。その際に「アクセントの辣油と胡麻の香りがスパイシーさを引き立てる中国料理カレー」という名前で生まれたメニューだった。

ゴマをたっぷり使っているので風味がよく、後からカレーが追いかけてくる奥行きのある辛さ。店内で味わう場合は、焼きそばとごはんをお好みで選べる仕様になっている。
この日は上野さんがおすすめだという焼きそばをチョイス。
特注の卵麺を高温で焼き上げた焼きそばに担々カレーをかけていただく。オリジナルザーサイ、もやしナムルなど4種類のコンディメントが付くので、味変も多彩で食べ進めていくのがかなり楽しい。
店内で食べた人がお土産用にと買って帰るというレトルトタイプは、聖紫花やホテルのショップ&ペストリー「パセオ」のほか、グループホテル、ECサイトでも販売している。こちらはルーだけなので、ご飯や麺以外にも豆腐や春雨に合わせるなど、お好みのアレンジでどうぞ。

もう1品。手軽な手土産として人気なのが「中国風ナッツの飴だき」。
クルミ、ピーナッツをあめで煮詰め、油で揚げたシンプルなお菓子だが、ひと粒食べるとまたひと粒と止まらなくなるのでご注意を。
保存料不使用なので、限られた数のみの販売。運よく出合えたら必ずゲットしてほしい一品だ。


長野市、松本市にあるそれぞれのホテルが考案したホテルクオリティの食土産。旅の楽しさを思い出す自分へのギフトに、家族や大切な人へのお土産に、新たな信州土産として提案したい。
〈THE SAIHOKUKAN HOTEL(長野ホテル犀北館)〉
住所:長野県長野市県町528-1
https://www.saihokukan.com/
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〈ホテルブエナビスタ〉
住所:長野県松本市本庄1-2-1
https://www.buena-vista.co.jp/
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取材・文:大塚真貴子 撮影:宮崎純一
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