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【完全保存版】信州の冬の味「野沢菜」。発祥の地・野沢温泉で収穫、漬け込み体験

信州の冬の食卓に欠かせない野沢菜漬け。ごはんのお供に、お茶請けに、おつまみにと、冬の間中どの家庭でも愛されるふるさとの味です。
信州全域で作られている野沢菜漬けですが、発祥の野沢温泉村は、何百年と受け継がれてきた独自の野沢菜漬け文化が残り、その味わいも格別。土地の風土がもたらした野沢菜漬けは、いかにして作られるのか。そしてなぜ美味しいのか。晩秋に行われる、本場の野沢菜漬け体験に参加し、その秘密を探りました。

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野沢温泉が推進するガストロノミーツーリズム

長野県の北部に位置する野沢温泉村。村の名に“温泉”がつく通り、中心部には歴史ある湯宿や民宿、13の共同浴場が点在し、温泉街を縦横に延びる坂道や路地裏にも昔ながらの風情が漂う、ノスタルジックな温泉地です。
冬は全国屈指のスキーの聖地でもあります。

そんな野沢温泉村は、昨年スキー場誕生から100周年を迎えました。101年目となる今年の4月、次なる100年の「観光立村・野沢温泉村」を目指すべく、5団体を構成団体とする地域DMO「野沢温泉マウンテンリゾート観光局」が発足。
野沢温泉の自然がもたらす“食”に関連する文化や歴史、ストーリーなどを合わせて楽しむ観光モデル「ガストロノミーツーリズム」などを推進しています。

野沢温泉の食といえば、やはりその名に地名がついている“野沢菜”。
地元の方は11月初旬から中旬にかけて、各家庭の畑で育てた野沢菜を収穫し、共同浴場や洗濯場などで洗う“お菜洗い”を経て、それぞれのレシピで漬け込み、冬の間中、野沢菜漬けを楽しみます。

こうした村の食文化を観光客にも体感してもらおうと、観光局では野沢菜漬けシーズンの例年11月3日から3周目の日曜までの期間限定で、収穫から漬け込みまでの体験を実施しています。
普段食べている野沢菜漬けがどのようにしてできるのか、わくわくしながら、さっそく参加してきました。

のどかな里山風景のなか、野沢菜を収穫

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収穫時期を迎えた青々と輝く野沢菜

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NPO法人「おせっ会」理事の池田さんに教わりながら次々と収穫

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引き抜いた野沢菜の蕪を包丁で切り落としていく

紅葉した山々、畑に山積みになった野沢菜、民家の軒先に干してある大根など、のどかな里山風景に癒されながら、集合場所の野沢温泉マウンテンリゾート観光局事務所へ。
事務所のすぐ裏に体験用の畑があり、腰くらいの背丈の野沢菜が辺り一面に広がっています。

今回お世話になるのは、野沢温泉村のブナ林の緑化活動や山歩きなどのガイドをされているNPO法人「おせっ会」の理事・池田和夫さん。

そもそも野沢菜とは、約260年前に地元の健命寺のご住職が、京都・大阪の「天王寺蕪」の種を持ち帰って栽培したことが始まりだそう。
今回の畑の野沢菜は、その健命寺で採種され続けている貴重な「寺種」という種から育てられており、ほかと比べて草勢が強く、形質も均一と言われています。

「種蒔きは9月頭くらいに行います。暑いうちに蒔くと、蝶々に食べられて葉っぱがなくなるので、農薬を極力使用しないためにも、寒くなってきた頃に蒔くんです。芽が出てから何度か間引きし、雪が降ると折れてしまうので、その前に収穫します」

さっそく収穫スタート。野沢菜は力を入れずとも、少し引っ張るだけで、意外とスポっと簡単に抜けます。土がついた蕪のみを、包丁で一気にスパッと切り落とし、黄色くなりかけている葉は食べ頃を過ぎているので取り除いていきます。
そして蕪と茎の繋ぎ目の硬い部分を、茎がバラバラにならないよう注意しながら、包丁を前へ出して鉛筆の芯を削るかのように削いでいく。これをひたすら繰り返し、一箇所に重ねて束にしていきます。

「葉っぱが一部紫色になっているところは、霜が当たった証拠。霜に当たると甘みが出るので、これが収穫のサインです」「朝採ると水分量が多く、茎が折れやすいので、野沢の人は午後収穫します。日が当たってしんなりしたほうが折れにくいんです」
など、次々と知られざる野沢菜豆知識を聞きながら、あっという間に5キロ分の収穫が終了。テープでひとまとめにしたお菜を抱っこするように抱えると、ずっしりと重さを感じました。なんだか赤ん坊を抱き抱えているような愛着すら湧いてきます。

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あっという間に収穫完了

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土からとれたての蕪がこんなに甘くておいしいとは驚きです

「ちなみに切り落とした蕪は、採れたてなので丸齧りできるんですよ」と、池田さんから皮を剥いた蕪をいただき、そのままかぶりついてみました。これがびっくりするほど瑞々しくて甘くておいしい! 当たりは梨くらい甘く、取った瞬間が一番おいしいのだとか。ほかにも蕪を薄く切って野沢菜漬けをする時に一緒に入れることもあるそうで、すべてを無駄にせず、おいしくいただきます。

野沢温泉の風物詩。温泉で野沢菜を洗う“お菜洗い”

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味に影響するため、野沢菜の茎の間もよく洗って土を落とします

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中腰の作業なので、ときどき座って休みながら黙々と洗います

つづいて、収穫した野沢菜の土の汚れを温泉で洗い落としていきます。これぞ野沢温泉の風物詩。きっと、この工程においしさの秘密があるのではないかと思いながら、日帰り温泉「麻釜温泉公園ふるさとの湯」へ移動しました。

施設の外に設置された、体験用の洗い場。40度くらいのぬるま湯が溜めてあり、まずは人間が温泉に入る時と同じように野沢菜へやさしくかけ湯をして泥を落とし、浴槽が汚れないようにします。
かけ湯をしたら、軍手をはめ、一株ずつ浴槽の中に入れて洗っていきます。最初は葉をゆっくり撫でるように。「とくに重要なのは、蕪の近くの茎のところ。土が溜まりやすいので、割り開いて泥を掻き出すように洗ってくださいね」。温泉で温まりながら、丁寧に洗っていきます。

「ちなみになぜ温泉で洗うかわかりますか?」と、池田さん。
きました!これが気になっていたところ。きっと、ミネラル豊富とか柔らかくなるとか、野沢菜漬けが美味しくなる理由があるのでしょう。
「いえ、じつは人間のためなんです。冬の作業で手が冷たくならないよう、この土地には温泉があったので、温かい温泉で洗っているのです」。
なんと、人間のためだったとは……! 意外な回答に驚いていたところ、「ただ体験した人は、同じレシピで家のお湯で洗うよりも、味が全然違うと言うんです。違いはこの工程しか考えられないので、何か理由があるのでしょうね」。
実際洗いながら感じたのは、温泉の中で洗われている野沢菜が、のびのびと葉を広げ、とても気持ちよさそうなのです。また洗っている自分も温泉効果でリラックスできる上に、収穫から携わっていることもあり、丁寧に洗おうという気持ちにしぜんとなります。こうした視覚的、心理的な側面も、科学では証明できない味の違いに影響しているのかもしれません。

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すべて洗い終えたら、収穫の時と同じようにひとつの束にまとめますが、横にしておくと水が溜まるので立てて水を切ります。「この工程を終えた地元の女性たちは、手がしっとりもちもちになり、若返るんですよ」。たしかに手が柔らかく、ぽかぽかで湯上がり美人になった気分。手湯も洗いもできて、一石二鳥のお菜洗いです。

野沢菜を切って「時漬け」にしていく

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ザクザクと、均等に切っていきます

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この塩昆布が、時漬けに欠かせないポイント

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袋いっぱいに入った野沢菜・塩昆布をよく混ぜ合わせる

最後の漬ける作業に取りかかります。今回体験するのは「時漬け」という漬け方。
定番の「浅漬け・本漬け」は、桶に塩をふり入れながら一本丸ごとの野沢菜をぎっしりと敷き詰め、漬けて2週間から冬の終わりまで、食べるたびに桶から取り出し、色や味の変化を楽しみながら味わうというもの。
時漬けは、切った野沢菜を醤油漬けにしたもので、漬けて3日後から味わえる、初心者にもトライしやすい漬物です。

野沢菜の葉先は除いて、3〜4センチ幅にひたすら切っていきます。「蕪の根元の固い部分は落としますが、蕪に近い茎の部分がとくに美味しいので、ここはぜひ残しておいてください」と、池田さんからポイントを学びつつ、切った野沢菜は漬物樽にセットされた袋へ。途中、塩昆布も何回かに分けて野沢菜と交互に入れていきます。

全て切り終えたら袋を取り出し、空気をためた状態で結び、上下左右ひっくり返しながら撹拌させていきます。
「この工程が漬ける作業の一番大事なところ。塩昆布の塩により葉から水分が出ることで、そこに調味料が浸透していくのです」。水分が出た葉は少しずつ濃い緑になっていき、全体が濃い緑になるまで、ひたすら混ぜつづけます。これが結構な重労働!
途中池田さんのお手本を見ると、どうやら宙に浮かせるより、机に置いて一定の場所に固定しながらこまめに振動させるように振ると、よりきれいに混ざっていくようです。

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タレをゆっくり注いでいきます

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タレが全体に行き渡るように。醤油のいい香りが漂います

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漬け込み完了! 食べ始めるのが楽しみです

全体が濃い鮮やかな緑色になったら、袋を漬物樽にセットし直し、そこにタレを注いでいきます。タレの材料は醤油・砂糖・みりん・酢。分量などは事前に準備してくれているので、入れるだけ。
全て入れ終えたら、下に溜まっているタレが野沢菜全体に行き渡るように、グッグッと上から全体重をかけて袋の空気を抜きつつ、回しながら押して圧縮していきます。途中、漬物樽を横にしてタレを行き渡らせると、食欲をそそるとっても良い香りが!
圧縮袋のように密閉され、下のほうに溜まっていた醤油がだんだんと袋の上のほうまで上がってきたら完璧。
最後に鷹の爪を入れて終了。鷹の爪はピリッと味に変化をもたらすほか、腐敗防止にもなるそうです。

漬けて3日後から2週間程度食べられますが、タレごと冷凍すれば1年持つので、冬を越しても野沢菜が味わえるのが時漬けの嬉しいところ。試食で2週間前に漬けたものをいただきましたが、シャキシャキと食感よく、ほのかに野沢菜の甘味を感じつつもしっかり濃厚な醤油のタレが絡み、箸が止まらないおいしさでした。これは1年と言わず、きっとすぐに食べ終えてしまいそうです。

今回のレシピと、漬けた野沢菜をおみやげに体験は終了。通しで3時間でしたが、あっという間でした。
地元の方と交流しながら、土に触れ、水の音を聞き、温泉の温かさを感じ、醤油の香りを嗅いで、味わって。自分の五感をフルに使って、より深く野沢菜漬け文化を学ベる、とても豊かなひとときでした。

風土まるごと味わう。野沢温泉村の野沢菜漬けは唯一無二

信州を旅すれば、野沢菜漬けを食べる機会は多いはず。しかし、その本場である野沢温泉村の野沢菜漬けは、その歴史や文化を含めて唯一無二であることが、今回の体験で実感できました。
雪が降り、山のブナ林が水を蓄え、その雪解け水が村のあちこちに湧き、地下熱で温められた水はやがて温泉となる。その水で育った野沢菜を、温泉で洗い、漬ける。野沢温泉村ならではの自然の循環と人々の営みが、最高においしい野沢菜漬けを生み出しているのです。

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冬のスキーシーズンに突入する野沢温泉では、きっとあちこちの宿や飲食店で、漬けたばかりの野沢菜漬けに出会えるはず。各家庭によって味噌や柿の皮など、調味料にアレンジを加えているので、それぞれの野沢菜漬けのこだわりを聞きながら食べ比べるのもまた一興です。

「この村で何百年と続く人々の生活こそが村の財産です。ぜひ現地に来て、その空気を肌で感じてみてください」。村の人が話していた言葉を思い出しながら、体験で漬けた滋味深い野沢菜漬けをしみじみと味わいました。

野沢菜収穫漬込み体験

開催日/例年11月3日〜第3日曜まで
※その年の天候等により変動する場合もあります。詳細は野沢温泉マウンテンリゾート観光局までお問い合わせください。

時間/午前の部9:00〜12:00  午後の部13:00〜16:00

定員/8名(最少催行人員2名)
※団体での体験希望の場合は別途ご相談ください。

持ち物/長靴、軍手、防寒着(雨具)

集合場所/野沢温泉観光案内所(野沢温泉マウンテンリゾート観光局)

料金/大人4,500円(漬物樽持ち込みの場合は4,000円)※1樽(10型)約5kg
小学生も1名で1樽を作る場合は、大人と同額(大人1名と小学生1名で1樽作る場合は、小学生1,500円)。
※1 令和6年度の料金です。次年度以降は変更となる場合がありますので、詳細はHPをご確認ください。
※2 ご自宅へ宅配希望の方は、300円にて梱包資材をご用意いたします。事前にお知らせください。
※3 漬物樽持ち込みの方は事前にお知らせください。

予約/希望日の3日前までに要予約

問い合わせ/野沢温泉マウンテンリゾート観光局
https://nozawakanko.jp/
info@nozawakanko.jp

取材・文:佐藤妃七子 撮影:長野県観光機構(TXデザイン部・佐藤)

<著者プロフィール>
佐藤 妃七子(Hinako Sato)
イラストレーター・編集者
千葉県出身。都内の某出版社で旅行雑誌の編集に携わる。全国各地を取材した経験から、ローカルに魅力を感じ、2017年に上田市に移住。観光関係の広報の仕事や、イラストレーターとして活動中。各地に伝わる文化や風習、温泉、喫茶店、日本酒、民藝などが好き。

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