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わざわざ食べに行きたいカレーがある。

残暑感じる暑い日に体が欲するスパイスカレー。
カレー好きのライター(作るよりもっぱら食べる派)が、絶景と絶品カレーをダブルで楽しめるカフェを訪れました。

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暑い日は体がカレーを欲するのです。

「今年の夏、暑すぎやしませんか?」。
初対面の人との会話の糸口で天気の話をすることが多いが、今年ほど盛り上がる年はないだろう。
「いや、異常ですよね」「家の冷房、毎日フル回転です」

昼間は暑いが、夜になると涼しくなるのが“長野県あるある”。
「夜は窓を開けて寝る」と言うと県外の人にうらやましがられ得意になったりしていたが、今年はそうもいかなくなった。

暑い日が続き、なんだか毎日お疲れ気味。
「このままいくと夏バテになるかも…」と感じたときに、ワタシは必ずカレーを食べる。
夏のみならず、年がら年中食べるほどカレー好きではあるのだが「ここぞ!」というときに食べるエナジーフードも、またカレーなのである。


9月に入ってもまだまだ暑い日は続きそう。
例年よりも厳しくなりそうな残暑を乗り切るためにも、しっかり寝て、スパイス効いたカレーを食べよう。
せっかくなので今回は、長野の残り少ない夏を満喫すべく、
ちょっと足を伸ばし“わざわざ食べに行きたいカレー”を食べに行くことにする。

いざ、カレーを求めて県内横断。そこにカレーがある限り。

残したい風景を継いでいく。『TSUGUMORI』(小諸市)

2023年7月7日にオープン

広大な敷地内には手入れされたガーデンやテラス席も

ガーデナーさんと一緒に作りあげたガーデン

浅間サンラインを曲がり、グリーンロードを下った途中にある

長野県東部にある小諸市。東京から新幹線と小海線で90分ほど、車でも2時間半ほどとアクセス良好。軽井沢からも近く、自然も多く残るので、静かな場所でゆっくり過ごしたい人におすすめの場所だ。
千曲川から高峰高原まで、約1,500mの標高差がある小諸市は、「坂の町」と呼ばれるほど坂道が多い。
そのため、意識せずとも素晴らしい絶景に出合うことできる。
7月にオープンしたカフェ「TSUGUMORI」もそんな場所のひとつ。

「毎日追われるように仕事をしていたとき。小諸が地元の社員と一緒に車に乗っていたんです。普段だったら通り過ぎる道の途中で『すごく好きな景色があるので、そこを通ってもいいですか?』と言ってその子が見せてくれたのが、この目の前の景色なんです」。
カフェのオーナーである土屋さんは、この景色に一目ぼれし、より多くの人に見てもらいたいという一心で、この場所を作った。
「元々この場所は耕作放棄地だったんです。ここで何かできないかと思っていたときに分譲住宅にするという話を聞いて。地主の方に『この景色をできるだけ多くの方に見てもらいたい、そんな場所を作りたい』という話をしたら、趣旨をわかってくださって。2年半かけて作り上げました」(土屋さん)。
荒れた農地をこんなにすてきな場所にするには、さぞ苦労がいったことだろう。「そうですね、まずは山林作業からでした。庭園のプロ、ガーデナーさんにも入っていただきましたが地元の方も本当に協力してくれて。私の友人も何回も通ってくれたり、周りのみんなの応援があったらからこそ、続けられたのだと思います」。
みんなで作り上げた場所だからこそ、この先もずっと大切に守っていきたい。
「私の役目は場所を作ること。この先、何年も何十年も、この場所を守り伝えていってほしい。そんな想いから“継ぐ杜”と名付けました」


母を想う。毎日食べたい究極の家カレー

「和牛と信州素材のこだわりビーフカレー」(1,540円)

「じっくり炒めた挽き肉と野菜のキーマカレー」(1,320円)

「信州産あんずと花豆のクリームあんみつ」(880円)

テイクアウトOKの「カヌレ」(330円)も手作りだ

看板メニューは「ビーフカレー」と「キーマカレー」。
「私に何が作れるのかなと考えたときに、カレーだったらできるかなと思いました。見た目が派手なわけでもなく、何か特徴があるわけでもない。けれど、主婦として家族を思いながら作ってきた家カレーです」。

地味=滋味。毎日食べたいカレーはそんなカレーではないだろうか。

「そうですよね。だから、“家カレー”を極めようと思ったんです。年齢問わず、おじいちゃん、おばあちゃん、子どももみんなにおいしいって言ってもらえるカレーを目指しました」。
究極の“家カレー”。水を加えず野菜や果物の水分だけで仕上げた。ビーフカレーは国産A5クラス黒毛和牛を使用、米は地元の「さくさく農園」の五郎兵衛米(ごろうべえまい)。「米・食味分析鑑定コンクール」で金賞を受賞したこともある希少なブランド米だ。

「カレーともうひとつ、あんみつもぜひ食べて行ってね」(土屋さん)。
運ばれてきた「あんみつ」は、他のお店とはちょっと違ったフォルム。シンプルながらもキレイに盛り付けられたビジュアルに心が躍る。千曲市産のアンズ、丁寧に煮た佐久市産の花豆、上田市のあんこ屋さんの北海道小豆のあん、自家製の白玉に長門牧場のソフトクリーム。
「あんみつは私の母が作ってくれた思い出のおやつ。みんなにも食べてもらいたくて私が好きなものを全部のせちゃいました」と土屋さん。あんこや花豆は甘さ控えめなので濃厚なソフトクリームと一緒に食べるとちょうどいい。景色をのぞみながら飲む食後のコーヒーもまた格別だ。


残したい風景とその想い。

カフェの特等席は八ヶ岳連峰を目の前にのぞめるカウンター席と大きなテーブル席。「目の前の野菜畑もいいでしょ」と土屋さん。
確かに。雄大な山並みももちろんすばらしいが、緩やかな斜面に広がる畑の風景もとてもいい。
キャベツの収穫をしている農家の方々の様子も含めた風景が目の前に広がる。その様子を眺めているだけで、心がゆったり安らいでいく。
「朝日や西に沈む夕日、佐久平の夜景もとってもすてきなんです。今はカフェだけですが、ゆくゆくはこの場所全体を楽しんでもらいたい。そのために、ここからいろいろ発展していければいいなと思ってます」と土屋さん。

「私は種を植えたので、これから先はみんなで大きく育てていってほしい」。
森を守り、育て、景色を継いでいく。
自然に囲まれた高台にあるカフェのカレーを食べに来たら、人々の繋がりを継いでいくという想いに触れることができた。

八ヶ岳連峰が真正面にのぞめるカウンター席

カウンター席にある小さな扉、何かと思えばコンセント。快適さを提供「でも少しでもゆったり過ごしてもらいたいので」かわいく隠した

Info

〈TSUGUMORI〉
住所:長野県小諸市柏木1389
TEL:0267-46-9230
https://tsugumori.com/
Google Maps

長野県を南下し、大鹿村へ。

南北に広い長野県。北と南とでは県外に行くほどの距離と時間がかかる場合もある。今回目指す大鹿村は、私が住む長野市から160kmほど離れた場所にあり、高速道路を使っても車で約3時間近くはかかる。仕事柄、県内あちこちに行っている方ではあるが、実は大鹿村は未開の地。原田芳雄監督の映画『大鹿村騒動記』の舞台でもあるので、映画のロケ地にも足を伸ばしたいところだが、今回の目的はカレーである。いざ大鹿村へ、カレーを食べに行ってきた。

と言っても、目的のお店は大鹿村のさらに山の上。長い道中、せっかくなので寄り道も楽しみたい。休憩かねて「道の駅 歌舞伎の里 大鹿」に立ち寄った。

大鹿村が“歌舞伎の里”となったのは江戸時代。素人による歌舞伎の上演はご法度だったが、小さな集落による「神への奉納歌舞伎」という名目での上演は許されていたという。それが定着し、村の娯楽として受け継がれてきたのが「大鹿歌舞伎」が根付いた理由だそう。国の重要無形民俗文化財に指定された「大鹿歌舞伎」。毎年春と秋に行う定期公演には、多くの人が訪れるという。

大鹿歌舞伎もぜひ見てみたいところだが、忘れちゃいけない今回の目的はカレーである。
道の駅でレトルトカレーを購入し、目的地へと車を走らせる。

「道の駅 歌舞伎の里 大鹿」。レストランでは「大鹿村ジビエカレー」や「小渋ダムカレー」も味わえる

郵便物を入れると歌舞伎のセリフが流れる “大鹿カブシャンポスト”

大鹿村のご当地カレーをお土産に。カレーグランプリで上位に入賞した「大鹿村ジビエレトルトカレー」と大鹿一味唐辛子を使ったレトルトカレー

大鹿村ジビエカレーに誘われて……

せっかく大鹿村へ来たのだから、レトルトカレーではない「大鹿村ジビエカレー」も食べてみたい。調べてみたら「塩の里 観光案内所」にある食堂で食べることができるらしい。

一見、定食や麺類などが揃う普通の食堂という雰囲気だが、鹿肉のハンバーグや鹿肉焼肉など本格的なジビエ料理も味わえる「食事処ふじ」。創業50余年、この場所に移転して25年ほどの老舗食堂である。

現在は息子さんが作っているという「鹿肉カレー」。子どもでも食べやすいまろやかな口当たりで、鹿肉は柔らかく、獣臭さやパサつき感は皆無。今の時期は大鹿村の特産、大粒のブルーベリーがのっていた。
「見た目いいでしょ? 味もいいでしょ?」とご主人。ちょっとした心づかいがありがたい。

「鹿肉カレー(サラダ付き)」(1,000円)。辛さをプラスしたい人は卓上の「大鹿一味唐辛子」をお好みで

「塩の里 観光案内所」。手作り豆腐店も併設

大鹿村特産の希少な山塩を使った山塩パン

「HAKKO OOSHIKA」に向かう途中にある天然記念物「逆さ銀杏」。神秘的な見た目に圧倒される

遂に到着!わざわざ行きたい天空カフェ

ここまで来て満席…なんてことにならないよう、予約は必須

紅葉シーズンもおすすめ。9月の平日は比較的ゆったり過ごせそう

絵画のような景色と心地よい静寂に包まれる2階席

絶景が広がるテラス席。冬季は休業する

長野県に住んでいながら、はじめて訪れた大鹿村。行きたいスポットはまだまだあったが、今回の旅の目的地「HAKKO OOSHIKA」へと車を走らせる。食堂のお父さんが「けっこう上るよ~」と言っていた通り、なかなか終わりが見えないくねくねの山道をひたすら上っていく。道中すれ違った車は一台だけ。本当にこの先にカフェがあるのだろうかと不安を覚えたそんな時、目的地である看板が見えてきた。

おぉ~確かに。目の前に広がる絶景を前に、この場所こそ、わざわざ行くべき「秘境の天空カフェ HAKKO OOSHIKA ~Sauce Labo~」であると確信した。

オーナーの松澤さんは大鹿村出身。いつか地元で自身のお店をやりたいと思っていた時に、2年ほど空いていた村有施設の運営者を村が募集。飲食店で働いていた松澤さんに「やってみない?」と声がかかった。
「最初は1人じゃ無理だなと思っていたんです。この場所も、お店のキャパも知っていたので。でも長野県庁に勤めている大鹿村出身の北澤さん(共同発起人)が“じゃあいっしょにやらない?”と言ってくれ、2人ならやれるかもと決断しました」(松澤さん)。

オープンが決まったところでコロナ禍に突入。「不安はもちろんありましたが、ゆっくり準備できたのでよかったです」と松澤さん。
「とは言っても、去年のゴールデンウィークに開店したんですが、その時はまだ改修が全部終わってない状態でオープンしちゃったんですよね。空間もオペレーションも今思えば恥ずかしいくらいガタガタで。しっかり立て直そうと一度お店を閉め、役場の皆さんと相談して改修。秋に再オープンしたんです」。

1階、2階、テラス席。どの場所からも伊那山脈が望め、晴れている日はその奥に広がる中央アルプスの山並みまでも見ることができる。
訪れたのは8月中旬。標高1,500mの場所にある天空カフェは、連日ニュースで酷暑だ猛暑だと叫ばれていたことを忘れるくらい、穏やかですがすがしい空気に包まれていた。


わざわざ食べたい、発酵カレーとフルーツパフェ

「バターチキン発酵カレー」(単品880円)。写真はサラダ、スープ、デリのセット(1,230円)

「季節のパフェ」(1,580円)。8月は桃とブルーベリー。9月はリンゴの予定

ここで食べられるカレーは発酵バターやたまり醤油など、発酵食品を使った「バターチキン発酵カレー」。隠し味は大鹿村特産の中尾早生大豆で作った大鹿味噌。
「少し入れるだけでコクが出るんですよ。やっぱり地元のものを使いたくて。野菜もできるだけ地元のものを使っています」(松澤さん)。辛みが足りないときは、大鹿村産の一味唐辛子をプラスオン。食欲がかきたてられる程よい刺激がちょうどいい。

レシピはすべて松澤さんが考える。「カレーの専門店ではないので…」と謙遜するが、スパイスと地元産の発酵食品を巧みに融合させたスパイスカレーは、わざわざ食べに来る価値がある、この店ならではのカレーである。

そしてもう1品。多くの女性がわざわざ訪れる理由の一つに、この店の「季節のパフェ」がある。
見た目の華やかさだけでなく、この店のパフェは本当に手が込んでいる。
毎月内容が変わるパフェ、8月は大鹿村産のブルーベリーをたっぷり使った「桃とブルーベリーのパフェ」。
季節感あふれるフレッシュフルーツにアイスやゼリー、わらび餅やクッキー、ブランマンジェなど。見た目の美しさ、香り、味、食感と、五感を刺激する楽しい層が口いっぱいに広がっていく。景色、カレーだけでなく、このパフェも訪れるべく理由の一つであることは間違いない。

ここに来ないとみられない景色がある。
その景色を見ながら、ここでしか味わえないカレーがある。
長野県の南端、大鹿村の標高1,500mの場所にある秘境のカフェで食べるカレーこそ
わざわざ食べに行きたいカレー、そのものである。


Info

〈HAKKO OOSHIKA ~Sauce Labo~(ハッコー オオシカ ソースラボ)〉
住所:長野県下伊那郡大鹿村鹿塩2459-1
TEL:050-8883-8368
https://www.instagram.com/hakko_ooshika/
Google Maps


取材・文:大塚 真貴子  撮影:平松 マキ

<著者プロフィール>
大塚 真貴子(Ohtsuka Makiko)
長野県出身。東京で情報誌を中心とした雑誌、書籍などの編集・ライターを経て、2008年に地元である長野市にUターン。地域に根差した出版社において情報誌の編集に17年間携わり、フリーランスのローカルエディター・ライターとして独立。趣味は飼い猫(ねこみやくん)を愛でること。カレー好きが高じて友人と間借りカレー屋を月イチ営業中。

 

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