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そばの名所・戸隠の『雪がくしそば』とは
日本有数のそば処・長野市戸隠。戸隠そばは、一人前を5~6束の馬蹄形にして盛る「ぼっち盛り」が特徴です。エリア内には30軒近くのそば店が軒を連ね、多くの人が足を運びます。そんな戸隠のそば店では、毎年6月から『雪がくしそば』を提供しています。
『雪がくしそば』の提供は、そば店若手経営者でつくる「麺’z(メンズ)倶楽部」の発案で10年続く取り組み。豪雪地・戸隠の雪の恵みを生かしつつ、閑散期の誘客を図る目的で始まりました。毎年1月中旬ごろ、戸隠神社中社社殿近くに戸隠在来種の秋の新ソバを埋雪。ソバの実と一緒に日本酒も雪室の中で保存します。「戸隠山雪中酒」は、そばとの相性も抜群です。
祝詞や太鼓の音を聞きながら冬を過ごす、神聖なソバと日本酒。掘り出しは4月中旬ごろ。約3ヵ月寝かせたソバは、新そばの風味そのままに、甘さを増し、日本酒はよりまろやかな味わいに仕上がります。
今年の『雪がくしそば』提供店はエリア内の15軒。提供方法や1日の提供数は店舗によって異なります。例年だと6月20日前後に売り切れるところもあるので、戸隠観光協会のホームページで販売状況をチェックしてからお出かけください。
☞戸隠観光協会ホームページ
今回は『雪がくしそば』提供店のうち、そばがき・そばきりを用意する店舗をそれぞれピックアップしました。
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戸隠『雪がくしそばがき』〈たんぼ そば店〉
車で「戸隠バードライン」を走り、戸隠エリアの入口に位置する『たんぼ』。そばはもちろん、そば粉で作るうす焼きや、手作りおやきも人気です。「そば屋らしい」趣のある店内には大きな窓から自然光が入り、周辺の緑も目を楽しませてくれます。
そばがきは、そば粉と水を火にかけながら丁寧に練り続けて作られます。「この時期の通常のそばと比べて『雪がくしそば』は香りが立つ」と3代目の小林春樹さん。手に感じる抵抗感から頃合いを見計らって、そば湯を投入し、煮立たせていきます。そばの柔らかさをみながら煮汁を捨て、さらに練って、ほどよい柔らかさになったら完成。「そばがきを食べればその職人の実力が分かる」と言われるほど、感覚技による奥深い逸品です。
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そば粉を水で練って、そば湯を入れて煮立て、また練る。どのタイミングでそば湯を入れるかもまた熟練の技
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左が『雪がくしそば』のそば粉。右がこの時期のそば粉
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『たんぼ』の玄関口から見える厨房。味のある風景。掲げられる「努力」の書が力強い
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『たんぼ』外観。緑豊かで閑静な環境に建っています
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『たんぼ』3代目の小林さん。気さくな人柄も魅力
そば粉を100%使用したシンプルな調理方法のそばがきは、ソバの味をダイレクトに感じることができます。『雪がくしそば』のそばがきは、クセがなくマイルド。そしてほんのりとした甘みが口の中に残ります。滑らかな食感も相まって心地いい味わい。かえしに付けてもよし。薬味の地大根・戸隠おろし、わさびはお好みで。そばがきは1日10食限定。この他、通常のそばメニューもプラス100円で『雪がくしそば』に変更可能。そば粉無くなり次第、提供終了です。
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くず餅のような……プリプリでもっちりとした絶妙な食感。『雪がくしそばがき』(税込950円)
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かえしに付けても、さわやかな辛さがたまらない戸隠おろしやワサビと合わせても◎
『たんぼ そば店』
長野県長野市戸隠豊岡10217
TEL 026-254-2261
営業時間 10:00~16:30
定休日 毎週火曜
https://togakushi-21.jp/spot/326/
☞Googleマップ
戸隠『雪がくし九割そば』〈そば処 仁王門屋〉
創業58年の『仁王門屋』。廃仏毀釈以前、戸隠神社が戸隠山顕光寺というお寺だった頃、仁王像が安置される門が建っていた場所に店を構えます。門はなくなってしまいましたが、店名としてその歴史を継承。軒先には仁王像が置かれ、お客さんを出迎えています。
そばは、水回し・こね・打ち・切りの工程を経て形になります。中でも「肝は水回し」と話す、2代目の横川幸喜さん。天候や湿度によってそば粉に混ぜる水の量を調整しているそう。『雪がくしそば』は秋の新そばを雪中保存しているため、そば粉も新そば特有のほんのり緑がかった色をしています。そこに水を入れ、そば粉とつなぎ粉に水を馴染ませ「菊練り」と呼ばれる方法で、そば種の真ん中に穴を開け空気を押し出していきます。
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職人の技「菊練り」
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戸隠では「一本棒丸延し」技法でそばを打ちます
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職人の技は目にも美しい
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仁王門跡地に建つ店
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2代目の横川さん。この道40年のベテラン
『仁王門屋』の『雪がくしそば』は1日10食限定の九割そば(そば粉なくなり次第、提供終了)。通常のつゆとは違う「あごだしつゆ」を合わせ『雪がくしそば』のまろやかな味わいを引き立てます。戸隠の地に根付いた在来種の新そばとともに「戸隠山雪中酒」を嗜めば、戸隠の自然の恵みを感じる時間が味わえます。「戸隠山雪中酒」も残りわずかとのこと。お早めに!
『雪がくしそば』を堪能したら、ぜひ2階のカフェへ。今春オープンしたカフェはシンプルでシックな空間。人気のそばソフトクリームの他、そばモンブランやそばシフォンケーキ、そばプリンなど、そばを使ったオリジナルのスイーツが楽しめます。
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『雪がくしそば』(税込1,000円)、『戸隠山雪中酒』(税込500円/1合)
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『雪がくしそば』と一緒に雪室の中で熟成させた『戸隠山雪中酒』。まろやかで後味さわやか
『そば処 仁王門屋』
長野県長野市戸隠3419
TEL 026-254-2244
営業時間 10:30~16:00(カフェは~17:00)
定休日 毎週金曜・第3木曜
https://www.niohmonya.com/
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飯綱町『雪ねむり』そば〈そば処 よこ亭〉
飯縄山の麓に位置する飯綱町。リンゴの名産地としても知られています。県道37号線沿いにある『よこ亭』では『雪ねむりそば』が5月下旬より提供中。「雪むろ施設」に貯蔵する飯綱町産ソバの実を使っています。ソバの在庫無くなり次第、提供終了。例年お盆すぎ頃まで食べられるとのことです。
「雪むろ施設」は『よこ亭』の道向かいすぐにある「横手農産物直売所」の隣に建っています。飯綱町が2013年に建設した断熱仕様の貯蔵庫で『よこ亭』や直売所などを経営する「飯綱町ふるさと振興公社」が管理運営を担います。毎年2月、40㎡の施設半分ほどに集めた雪を入れ、もう半分のスペースにソバの実とリンゴを保管。雪は7月中旬ごろまで残っていて、施設内の温度は0~1℃、湿度100%に保たれています。「飯綱町ふるさと振興公社」によると、一定の温度・湿度で保存することで高品質が保たれ、低温糖化によりソバのでんぷんが糖に変わって甘くなるといいます。
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『よこ亭』ではソバの栽培・製粉・そば打ちを自社で一貫して行っています。『雪ねむりそば』は「雪むろ施設」から必要な分を運び出し、石臼で製粉。一番粉・二番粉・三番粉を混ぜてひく「挽きぐるみ」で、そば殻は取り除かれるものの細かく砕かれたそば殻が若干残ります。そのためソバ本来の風味が強く、ホシ(麺に散らばって見える黒い点)があるのが特徴です。
『雪ねむりそば』は二八そばで提供。製粉からそば打ちまでを担う戸谷田昌美さん。保存時の雪の量によってソバの実の水分量が変わるため、やはり水回しの加水量に気を配るんだとか。味や固さなど好みは人それぞれですが、ホシのある『雪ねむりそば』はそば本来の味に甘さが加わり、バランスの良さを感じます。全メニューに『雪ねむりそば』のそば粉を使って提供する他、お土産用に半生麺を販売中。『よこ亭』や「横手農産物直売所」などで手に入ります。
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ホシがある『雪ねむりそば』(税込800円/ざるそば)
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石臼でじっくりひいてそば粉に
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製粉からそば打ちまで携わる戸谷田さん
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麺の固さも人それぞれ好みがあるため、バランスを考えて「赤ちゃんの耳たぶ」ぐらいの柔らかさになるようにこねていきます
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そば生地は四角く延ばしていきます
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『よこ亭』外観。連日、地元内外のお客さんでにぎわいます
『そば処 よこ亭』
長野県上水内郡飯綱町柳里847-3
TEL 026-253-8287
営業時間 11:00~17:00
定休日 毎週水曜
https://www.iizuna-yokotei.com/
☞Googleマップ
取材・文・撮影:松尾 奈々子
<著者プロフィール>
松尾 奈々子(Nanako Matsuo)
1993年生まれ。長野市出身・在住。
記者・観光地広報担当を経て、現在はフリーライターとして活動中。果物店の娘。大好物はイチゴ。顔は大福に似ているといわれる。人の話を聞くことが好き。
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