『HIGH RAIL 1375』で巡る小海線沿線、“思い立ったが吉日”酒蔵・味噌蔵・星空ロマン旅 “伝統=クラシック”の中に見つけた“新しい=ニュー”な信州・小海線沿線『鉄道旅』リポート編。
2月下旬。長野県東信地方には春の訪れを知らせる風の便りが……。
きょうは2017年のデビュー以来、今も話題を集める『HIGH RAIL 1375』に乗車。JR東日本長野支社が主催する『集え!駅酒パート!』の舞台、小海線沿線の酒蔵・味噌蔵を訪問。日本酒好きの!? 日頃から観光業に携わる二人の休日旅、始まりです。
小諸駅で待ち合わせ。小海線に詳しい二人は、小諸駅談義から幕明けです。
「JR小海線としなの鉄道の列車が通る利便性の高い駅です。ローカル線らしいのどかな雰囲気。駅員の方が切符をチェックしてくれるところも、ほっこりしますね。改札を抜け駅舎内に入ると、地元のお野菜が販売されています。地方の個性あふれる小さな物産館みたい。そして駅前に出ると正面に商店街が。小諸市はコンパクトシティ型のまちづくりを推進しています。行政・公共機関、病院、そして新旧の喫茶店やカフェ、デリカテッセンなども点在。このまちが広い世代を魅了している理由かもしれません」。
TOP PHOTO:小諸駅ホーム。春はもうすぐ。でもこの日朝の気温は2℃。笑顔も寒そうな二人。
『山吹味噌』と「健康美食」のおいしい関係見つけました。〈酢久商店・小諸本店〉
小諸駅から徒歩8分ほど。店先の掃除や水まきなど開店準備で活気を見せる商店街を通り、きょう最初の訪問地、『山吹味噌』で有名な〈酢久商店〉に到着。
歴史の重み漂う商家屋と醸造所が隣接する、小諸文化の象徴的存在。それもそのはず〈酢久商店〉の創業は江戸時代1674年。歴史街道=北国街道筋に門を構えます。現在の軽井沢町追分から新潟県直江津市まで続く主要な街道の一つ。当主・小山久左衛門正顕氏は信州、そして越後まで商いを拡充。350年の月日を経た現在。途切れることのない食文化との出会いに二人は少し緊張しながらも興味津々です。
引き戸を開け営業開始間もない店内へ。店長の岩淵英樹さんが「いらっしゃませ」と笑顔と共にお出迎えいただきました。
重厚な梁が構成する空間に配置された数々の商品。手前にお目当ての一つ、外光を受け黄金色に光る甘酒。そして正面奥、蛍光灯の明かりの下、まるでアートオブジェのように浮かぶ商品。岩淵さんが「あちらが『山吹味噌』のコーナーです」。二人の思いが伝わったのでしょうか、そのまま奥へ移動します。
「丁寧に時間をかけ熟成された味噌は、濃厚なうま味やコク、そして香りを漂わせます。大豆に含まれるタンパク質や米麹が持つデンプン。酵素の力によってゆっくり、ゆっくりと分解されます。これが『山吹味噌』の特長なのです」と岩淵さん。
戦後の日本では食生活が変化し大量消費の時代に突入。供給も増大します。これにともない味噌の消費も激増。需要と供給を共に満たすため「速醸」という、天然醸造よりも熟成期間を短縮する醸造法を競うようになりました。しかし〈酢久商店〉は高度経済成長下の量産の流れには乗らず長期低温熟成を貫きました。
岩淵さんのお話しを聞いた二人。店内隅々まで商品を見ながら会話を続けます。
「お味噌だけでなく、発酵食品やお味噌を使ったお土産がたくさん。ついつい、あれもこれもと欲しくなり迷います。岩淵さんがおっしゃっていた、“熟成が進むと色が濃いお味噌になる”に惹かれ、今年リニューアルした商品を購入しました」
「ポイントカードを発行していただき、次回2回目の利用で早速プレゼントがもらえる。これはうれしいですね!」
「コロナ禍以前は甘酒の試飲サービスも開催していたとのことでした。現在、再開を検討中です」
「試飲できなかったのは心残りでしたが、しっかり甘酒を購入。自宅で味わいます」。
〈酢久商店〉の『山吹味噌』は350年の歴史と共に進化を続けています。日本を代表する保存食の一つでもある味噌は、その由来ゆえ塩分が多い特性があります。〈酢久商店〉では早くから昨今の健康志向変化を捉え減塩味噌の製造に注力してきました。殺菌作用も担う塩の減量はカビの発生をもたらすことも。よって速醸製造が適しているといわれています。しかし〈酢久商店〉『山吹味噌』では豊富な酵母菌を仕込みに使うことで、一般的な減塩味噌よりも長い熟成期間を可能に。ハイクオリティな減塩・うま味・コク・香りを有する『山吹味噌』が誕生しました。
店内には食と健康に関する説明が書かれたポップや書籍が置かれたコーナーも。岩淵さんご自身の自社商品の食体験から得た食の大切さをお聞きできます。
追記):後日、野菜のお味噌汁として堪能した二人の感想。「お味噌とお野菜の甘みが互いに邪魔せず、まさに“いい塩梅”。とても優しい味のお味噌汁でした」。
店舗を後にするとき、岩淵さんが、「この5月に蔵を改装して味噌ラーメンを提供できる店舗を開店準備中です」と、とっておきの情報を。“老舗味噌蔵の味噌ラーメン”……おなかがすいてきました。
〈酢久商店〉小諸本店
長野県小諸市荒町1-7-12
10時~18時。水曜休
0120-56-0009(10時~17時)
☞https://www.yamabukimiso.com
いつか夢で見たことがある風景。のどかで居心地のよい八千穂駅。
きょう、もう一つの目的地、〈黒澤酒造〉へ向かいます。最寄り駅は八千穂駅。
1915年(大正4年)。当時の小諸−中込間13.4kmを結ぶ、小海線の前身、佐久鉄道が開業。その4年後、1919年(大正8年)。佐久穂積駅(八千穂駅)が誕生しました。すでに沿線各地域から生産される米をはじめとする農産物、繭や生糸、そして日本酒などの物流が旺盛。八千穂駅から徒歩5分の距離に位置する黒澤合名会社もその一翼を担う酒蔵として全国に知られるようになりました。
「『HIGH RAIL 1375』を降りホームに立つと、とても静かで、とても爽やかな風が迎えてくれました。線路にそって佐久平方面を眺める……自分の中に物語が生まれそうな景色が続きます。お約束の、スマホでパシャリ。構内には木製の動物などが飾られていて、八千穂駅が持つのどかさに癒され……。人がいない駅=さみしい。ではなく人がいない静寂がもたらす開放感に、思わずこの場所を独り占めしたような贅沢も感じました」。二人の顔にも爽やかな微笑みが浮かびます。
駅舎を出て通りを右に。少し歩くと左手に『奥村土牛記念美術館』が見えてきます。この建物はかつて黒澤合名会社の集会所でした。後に寄贈され、1990年(平成2年)美術館として開館。荘厳な日本建築と溶け合うように造られた自然豊かな庭園には、奥村土牛の作品に描かれた草花を見ることができます。今回は時間の関係から入館せず。ぜひ訪れたいスポットです。
駅から約5分。〈黒澤酒造〉に近づくにつれ、町屋の雰囲気が濃くなり、旧街道沿いに見かける宿場町の一角のよう。二人が訪れたかった『黒澤酒造 酒の資料館』入り口に到着。なまこ壁が備わる重厚な家屋に圧倒されました。しかし、こちらは“後の楽しみ”に。時刻は正午を過ぎたところ。実は小諸市の〈酢久商店〉を出て駅へ戻り『HIGH RAIL 1375』に乗車後、すでに空腹の兆しが……。本社入り口斜向かいの短い坂道を下った所に建つ『蔵元SHOP & ギャラリーくろさわ』と隣接する、お目当ての『喫茶くろさわ』のビーフカレーが待っています。
地域の人も遠方の人も愛するカレーとケーキ。
「店長さんらしき女性が笑顔で迎えてくれました。窓から春の太陽が差し込むテーブル席に座ると、遠くのほうに残雪の山々が見えました。八ヶ岳かな……。店内を見ると作業着やスーツにネクタイ姿のお客さんがランチ中。きっと地元の人たちです。すぐにお店が愛されていることに気が付きました」
「こちらのビーフカレーは仕事先の知人から教えてもらいました。『昭和のカレー、レトロカレー、普遍的カレー、絶対安定のカレー』。その呪文のような言葉を聞いて、きょうこの旅で絶対食べるぞ、って」
「運ばれてきたカレーは見るからに“定冠詞The ”を付けたくなるカレー!福神漬けの姿もお約束。味もやっぱり“The”が付く、香り、辛さ、そしてほんのりと広がる果実の甘さ。一口二口と味わいながら食べていると、ふと、思い出すことが。祖母が作ってくれたカレー……。急に懐かしさが」
「そしてデザート。蔵元自慢のマルト純米吟醸酒を使ったケーキをいただきます。口の中にほんの少しだけお酒の香りが漂います。パウンドケーキというよりスフレチーズケーキに似た食感と味でした。ビーフカレーと同じく名物の座を獲得しています。窓辺の席で柔らかな光を浴びながら過ごしたランチタイム。コーヒーをすするたび、平和と幸せを感じました」
旅のひととき、何気ない出会いと出来事が二人の心のドアを開けてくれたのかもしれません。
酒造文化を知り、酒造文化をいただく旅の、優しい酔いに包まれて。
頭上に下がる立派な杉玉(酒林・さかばやし)と、なまこ壁の門に迎えられ先に進むと『酒の資料館』への入り口があります。かつての養蚕家屋を改修した空間に所狭しと伝統の酒造り器具や地域の民族・風土を表す農機具、古民具を展示。別棟の階段を上った先にはさまざまな酒器を陳列。いにしえの酒宴の賑やかな音が聞こえてきそうです。
「建物の造り、柱や梁も素晴らしく、感動しました。資料館の隅々まで配置された貴重な品々は、地域の人たちから寄贈されたものや黒澤家の所蔵品など、見たことのないものばかり。お宝鑑定に出品すると驚愕の鑑定結果が出るかも、と想像します。アンティークに興味があるので、もっと見学の時間があったらよかったなぁ」
「JR小海線の前身、佐久鉄道の沿線観光マップを見つけました。当時から存在し沿線の観光業が盛んだったことがうかがえ、とても驚きました」。
貴重な体験をした二人。名残惜しそうです。
さて、いよいよ本日のメインイベント。〈黒澤酒造〉の名品を味わう試飲へ。
ワクワク、タノシイ、オイシイ試飲。味覚と記憶に残る旅の一編。
大きな木製引き戸を開け『蔵元ショップ・ギャラリーくろさわ』店内に。この建物は安政年間(1855~1860年)創業当時の酒蔵を改修復元された空間。入り口からすぐ左側にドリンクサーバーのような機械内部に6本のお酒が収められているようです。試飲の希望を伝えると「こちらで専用コインをお買い求めください」と招かれます。コロナ禍以前は対面でのサービスを実施していましたが、感染対策の一つとして「コイン式非接触型SAKEサーバー」を導入。季節限定の商品や憧れの大吟醸など常時6種のセレクト中から試飲可能です。
「専用コインを投入して、渡された唎猪口(ききちょこ)をお好みのお酒の上にある蛇口の下に持ち、そして上部のボタンを押すと適量のお酒が注がれます。アトラクションっぽくて楽しかった。最初はこの中で一番高級な『純米大吟醸 黒澤』をいただきました。華やかな香りと共にずっしりとした品を感じさせる味。それでいてまろやかなお酒でした。お店のスタッフさんからアドバイスをいただき、2杯目は先ほどの対局にある軽やかな品種を。『生酛純米マルトらいと』はその名のとおり優しい酸味と甘味が個性的。アルコール度数は13%台とちょっぴり控えめ。今回はこちらをお土産に購入しました」
「私は〈黒澤酒造〉を代表する定番のお酒『まると純米生酛造り』からいただきました。とても飲みやすく、あっという間に完飲しちゃいました。お店の人へ、さらりとした印象です、と伝えると、その男性は、こちらは伝統製法生酛造りで醸した力強さが自慢の純米酒です、と笑顔。私の“さらり”という印象が意外だったようです(もしかすると私のお酒好きが露呈してしまったのかも)。実はこの方、〈黒澤酒造〉の社長、黒澤孝夫さんでした。その後もお酒談義を楽しませていただきました。私がお土産に選んだのは、もちろん“さらり=力強い!?”『まると純米生酛造り』です(笑)」。
試飲を終え、建物の外に置かれた木製の長椅子に腰を下ろし、午後の西日を浴びながらくつろぐ二人。小諸駅から始まったきょうの旅。どんな思い出が編まれたのでしょうか……。
〈黒澤酒造〉
長野県南佐久郡佐久穂町穂積1400
8時~17時(土日、祝祭日休)
0267-88-2002
☞https://kurosawa.biz
〈黒澤酒造 酒の資料館・蔵元SHOP & ギャラリーくろさわ〉
長野県南佐久郡佐久穂町穂積1400
10時~17時。無休(年末年始除く)
0267-88-3714
☞https://kurosawa.biz
〈喫茶くろさわ〉
同上
取材・撮影・文:Go NAGANO編集部(佐藤)、リポート:JR東日本長野支社
NEWS!『集え!駅酒(えきしゅ)パート!』第3弾「鉄道で巡る 信州 日本酒・甘酒スタンプラリー」
『集え!駅酒パート!』第3弾「鉄道で巡る 信州 日本酒・甘酒スタンプラリー」
第3弾となる今回は、日本酒に加え甘酒もお楽しみいただけるスタンプラリーにパワーアップしました!
信州の恵まれた気候風土により育まれた酒米から造られる日本酒や美と健康にも効果的な甘酒を列車旅と共にご堪能ください♪
鉄道と日本酒や甘酒を楽しむスタンプラリーにぜひご参加ください♪
開催期間:2023年1月20日(金)~2023年6月30日(金)
特設サイト:https://www.jreast.co.jp/nagano/ekisyupart/
【参加方法】
1 専用パンフレットを入手
参加鉄道会社の主な駅またはスタンプラリー対象の酒蔵・味噌蔵でスタンプ台紙(応募はがき)がついた専用パンフレットを入手します。
※専用パンフレットは特設サイトからもダウンロードいただけます。
2 対象の駅と酒蔵・味噌蔵でスタンプを集める
専用パンフレットに掲載されている駅スタンプを1個押印します。
各酒蔵・味噌蔵では、税込1,000円以上お買い上げいただくとスタンプ台紙にスタンプを1個押印します。
駅スタンプ1個、酒蔵又は味噌蔵スタンプ2個の合計3個を集めると、以下の各賞に応募いただけます。
(1)信州の日本酒賞:日本酒2本または日本酒1本・甘酒1本
(2)信州の甘酒・発酵食品賞:甘酒・味噌など
(3)信州の農産物賞:6種類のなめ茸が楽しめるなめ茸セット
※同じ酒蔵・味噌蔵で税込2,000円以上お買い上げの場合でも、スタンプは1個のみ押印となります。
※1枚のスタンプ台紙(応募はがき)に同一の酒蔵・味噌蔵スタンプを押印したはがきは、無効となります。
※1枚のスタンプ台紙(応募はがき)で応募できるのは1つの賞のみです。
※各酒蔵・味噌蔵の定休日、営業時間等は特設サイトでご確認ください。
3 応募方法
スタンプを集めたら、スタンプ台紙(応募はがき)に必要事項を記入いただき、63円切手を貼りポストに投函してください。
4 応募期間
2023年7月10日(月)まで ※2023年7月10日(月)事務局必着
【当選者数】
各賞に応募いただいた方の中から抽選で合計128名様に以下の賞品が当たります。
(1)信州の日本酒賞:53名様
(2)信州の甘酒・発酵食品賞:11名様
(3)信州の農産物賞:64名様
※「信州の日本酒賞」へのご応募は、20歳以上の方に限ります。
※当選者の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。
※各賞の内容は変更となる場合がございます。
※各賞の商品内容は選べません。
閲覧に基づくおすすめ記事