• HOME
  • 保存する暮らし 「発酵と食」

保存する暮らし 「発酵と食」

山国・長野の暮らしを支えるのが、大切な食材を長くおいしく保存できる「発酵」の知恵です。味噌や漬物、日本酒など伝統のものから、チーズやワインなど新しいものまで、さまざまな発酵の文化が今、長野に息づいています。

20537_ext_01_0_L

TOP PHOTO:種付けの終わったお米を麹蓋に盛り込み、指で筋をつけて製麴を進みやすくする、伝統的な麹作りのひとこま

 

発酵食は長野の風土が醸した食文化

麹造りは早朝から米を蒸し上げ、仕込みます

長野の調味料といえば、やはり味噌が欠かせません。海産物が手に入りにくい山間部では当然、昆布や鰹節などの「だし文化」は発展せず、料理の味付けは発酵による味噌の旨みが頼り。なにより山のものと味噌は、よく合うのです。
味噌に加えて野沢菜などの漬物や、塩を使わず乳酸発酵のみで作る「すんき漬け」、貴重な魚のタンパク源を長くおいしくいただく「万年鮨」(なれ鮨)なども含め、発酵食はまさしく風土が醸した長野の食文化といえるでしょう。
 

信州味噌が長野から全国へ

室に麹蓋を並べ、温度や湿度は計器に頼らず、身体で覚えた感覚で整えていきます

全国シェアの半分近くを占める信州味噌。江戸創業の老舗が今ものれんを守りますが、かつて味噌は家ごとに仕込むのがあたりまえでした。明治政府による殖産興業や、鉄道の整備で都市へ人や物資が流出すると、味噌も産業化が進み、長野では製糸工場に集まる工女を賄うために大量の味噌が自社生産されます。
昭和になって世界恐慌と化学繊維の普及のなか製糸業が衰退した際、味噌醸造業へと転業する企業が多かったのは、設備も鉄路もすでに整っていた背景があります。さらに関東大震災や太平洋戦争で都心部が大きな被害を受けると、長野から味噌が支援物資として運ばれて「信州味噌」として普及したのです。
 

手前味噌の材料、麹が身近な調味料に

長野では、今も自家製味噌を仕込む方が多くいます。材料は大豆、麹、塩と、いたってシンプル。春先に仕込んで、夏の暑さで発酵が進み、あとは秋まで待てば手前味噌の完成。食べ進むごとにその家だけの味に育っていきます。
麹といえば味噌や甘酒、漬物の材料になるもの。そんな認識をくつがえし、麹が主役になったのが2010年代の麹ブームです。以来、年代を問わず塩麹はじめ多様な発酵食があらためて食卓を賑わすようになっていきました。
世界で発酵がトレンドになったのも同じ頃。長野県でも、地域の伝統的な発酵食のみならず国内外の発酵食を取り入れる職人や料理人が増え、今、その食文化はさらに深みをみせつつあります。

コラム:発酵の町へ。北国街道上田宿 柳町散策の旅

真田一族が2代藩主までを務め、その後、廃藩置県まで続いた上田城の城下町に柳町はあります。北国街道の宿場町として栄え、今も卯建が目を引く昔ながらの商家の町並みが残ります。
眺めるだけでも風情があって楽しい町ですが、特徴的なのが全国屈指の銘酒・信州亀齢の「岡崎酒造」、天然酵母パンの先駆け的存在の「ルヴァン 信州上田店」のほか、「武田味噌 菱屋」、「はすみふぁーむ ワイナリー&カフェ」など、発酵にまつわるお店が軒を連ねること。毎年5月には発酵食品をテーマに「発酵フェス」も開催してきました。
ほかにもそば店やレストラン、書店など、歩いてめぐれる通りに20近い店が並びます。信州の発酵を町ごと楽しむなら、柳町散策がおすすめです。
 

信州上田北国街道 柳町
長野県上田市中央4
公式サイト

撮影:平松マキ、取材・文・編集:山口美緒・塚田結子(編集室いとぐち)

閲覧に基づくおすすめ記事

MENU