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足を運び仕入れた食材で作る 塩尻・奈良井の「土地の味」

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TOP PHOTO:炊き合わせの「里山」

 

酒蔵と民宿の建物を再生

中山道の奈良井宿は、木曽路の難所、鳥居峠をひかえる宿場として発展し、日本最長の1kmにもおよぶ町並みは「奈良井千軒」とも謳われました。今も江戸時代からの建物が多く残り、往時の様子をよく伝えています。
一方で年々、空き家は増えていました。歴史ある景観を壊すことなく、いかに町を盛り上げるか。官民連携のプロジェクトが立ち上がり、2021(令和3)年8月に酒蔵「杉の森酒造」と「豊飯豊衣(ほいほい)」という民宿だった建物が宿泊施設に生まれ変わり、「BYAKU Narai(びゃくならい)」として新たなスタートを切りました。
 

旧酒蔵が本館に、旧民宿が別館に

仕込み蔵を改装したレストラン「嵓(くら)」は一般客向けのランチ営業も(要予約)
本館の客室「百四」は、床を下げた客室の「おこもり感」の居心地が良い空間。半露天風呂付き

2012(平成24)年から休業が続いていた旧・杉の森酒造の建物は、母屋や家財蔵などを生かした8室の客室になりました。かつての仕込み蔵は規模を3分の1にして新・杉の森酒造「suginomori brewery」の醸造スペースとし、残りがレストラン「嵓(くら)」に。そして民宿だった建物は、宿の離れとして4室の客室となりました。
レストランは土蔵の梁や柱、漆喰壁はそのままに、1階の天井を取り払った吹き抜けに、かつて酒の仕込みに使った一斗瓶が照明器具となって下がります。
レストランと窓1枚隔てて隣接するsuginomori breweryは、新たな蔵元と杜氏をむかえて四季醸造で酒造りをはじめました。奈良井の山水と安曇野の酒米で造る日本酒「narai」は、地の食材を生かしたレストランの料理とよく合うのです。
 

地の食材を生かした料理

料理長の友森隆司さん。食材はみずから仕入れます

レストラン「嵓」をはじめるにあたって、22(令和4)年の「アジアのベストレストラン50」で1位を獲得した「傳(でん)」の店主、長谷川在祐(ざいゆう)さんが料理を監修し、友森隆司さんが料理長に就任しました。友森さんといえば、塩尻の野菜に惚れ込んで「トムズレストラン」を開業した人。「ラ・メゾン・グルマンディーズ」に改称した今も変わらず地元で愛され続けています。塩尻の食材を生かす腕を見込まれて、白羽の矢が立ったのです。
「長谷川さんも友森さんも、スタッフも一緒に、地元の方の話を聞きながら、意見を交わしてメニューを作り上げました」と支配人の高山京平さんは言います。
「友森さんは塩尻のレストランも予約制で続けつつ、今は奈良井に軸足を置いて、毎日仕入れに走り回っています。自分で運転して生産者のもとへ足を運び、今一番うまいのはこれだよって教えてもらいながら仕入れています」

 

塩尻・奈良井という土地の味

おやきもコース料理のひと皿で、奈良井の暮らしの一片を伝えます。この日の具は「なすの油味噌」
土鍋ご飯は、春は山菜尽くし、夏は岩魚の天バラ、秋はキノコ尽くし、冬は信州サーロインなど、季節ごとの食材を混ぜ込みます。
土日本酒「narai」は金紋錦、美山錦、山恵錦を酒米に使用。コースのひと皿「里山」は、つむぐ農園などから仕入れた野菜をそれぞれ調理して盛り合わせたもの。添えてある味噌パウダーと人参ソースを付ければ、滋味が口に広がります

和食の長谷川さんとフレンチの友森さん、ふたりが生んだメニューとは。「大事にしているのは、地のもののおいしさを最大限に引き出すこと。派手さを求めず、食材を丁寧に調理して提供すること」と高山さんは説明します。
たとえば宿泊客に提供するディナーの一品、「里山」と名付けた炊き合わせは、ひと皿に美しく野菜が盛り込まれ、一見サラダですが、じつは野菜ごとに異なる方法で調理されています。シグニチャーディッシュは「饗」と名付けた土鍋ご飯。季節の味覚を取り込み、奈良井の水で炊き上げます。秋はチチタケ、アミタケ、ホテイシメジなど、近隣の山で採れたキノコが盛り込まれます。
「奈良井の水で仕込んだお酒と、同じ水で炊き込んだご飯。いずれも奈良井の水のストーリーを大切にしています」。野菜も山菜も、川魚も、ここでしか味わえない、奈良井という「土地の味」が表現されています。

BYAKU Narai

長野県塩尻市奈良井551
☎ 0264-34-3001
公式サイト

撮影:宮崎純一、取材・文・編集:山口美緒・塚田結子(編集室いとぐち)

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