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山の恵みを収穫し 手業を凝らして一品に添える

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TOP PHOTO:季節の八寸、じゃがいも餅の椀、主菜の鹿ステーキ(左から時計回り)。コースはランチ4000円~

 

古民家での営みを求めて

築150年を超える古民家を改修した趣ある店内

飯山市街地から少し離れた集落に建つ、築150年を優に越える古民家で羽多野隆三さん、みどりさんご夫妻が和食店を開いたのは10年前のこと。古民家暮らしへの思いが募り、そこでの暮らしの糧として料理人になることを選んで料理修業の道に入るという、異色の経歴の持ち主です。
名古屋での修業時代、店までの通勤は走るか自転車かのどちらか。その道すがら、むかごをはじめ食べられる野草や飾りとなる葉を採っては修業先で使ってもらっていたそう。そこではフグも、ハモもさばけるまでになりましたが、独立の際、摘み草を喜んで使ってくれた親方からの「長野に行くなら山の幸で勝負したらどうだ」という言葉で、今の店の方向性は決まりました。
 

手間ひまをかける喜び

裏山のほか妙高山麓まで分け入ることも。積雪量に応じて採れるキノコや山菜の種類や量も変わります

毎朝のように店の裏にある里山へ沢伝いに分け入り、その季節の食材を集めます。春はたらの芽やコゴミ、シオデやアマドコロなどの山菜、初夏には根曲り竹、晩秋からは雑キノコに自然薯と、枚挙にいとまがありません。根曲り竹は収穫して水煮に、たらの芽は味噌漬けにするなど、たわわに収穫できる山の恵みをむだなく保存します。
取材で訪れた9月初旬は、ミズの実が大きくなりはじめた頃。実を茎ごと収穫し、湯通ししてお椀に添えるほか、硬くなった葉は素揚げにして飾りとしても使います。一見すると同じような緑のなかから、隆三さんは次々と食べられるものを見つけていきます。
「昆布と鰹節以外、すべて地元のものです」と言うように、主菜も佐久鯉や岩魚、山女魚に、熊、鹿、猪などのジビエと、地元を中心に県内のものを使います。野草など山の恵みはあくまで主菜を彩る添えものとして、しかしいずれも手業を凝らして盛り付けられます。
「山の食材はアクが強く食べ過ぎはよくないですし、ご自身で山に入る人が少なくなったとはいえ日常のものですから、それらを中心に据えることはしません。でも、工夫を凝らし、手をかけて添えることで、普段の食事よりも季節や日本料理の美しさを感じていただければ」
八寸を見れば、細切りにしたごぼうの先に白ごまをまぶして揚げて稲穂に見立てたひと品や、1年前に収穫し、繊維を残して皮をむいておいたほおずきが目に入ります。幼い頃から細かなことが好きだったという隆三さんならではの仕事です。1年先を見越して準備しておくものも多くあり、完全な休業は元旦だけと言いますが、それでも自身が納得できる食材で料理を作り、手間ひまかけられる喜びのほうが勝ります。
 

一所懸命のもてなしが恩返し

羽多野隆三さん・みどりさんご夫妻。みどりさんは隣の長野県中野市のご出身。古民家移住には驚いたそうですが、互いの意見を尊重しながら進んで今に至ります

生まれ育った愛知県という土地柄もあってか、子どもの頃は学校で陶芸の授業があり、その頃の影響もあって若い頃から器を集めるのが趣味だったそう。店では古民家に合わせて古い器を中心に使いますが、それらもこれまで少しずつ集めてきた厳選の道具たち。今でも全国各地に出かけては器を仕入れてくることが、楽しみのひとつです。
食材、料理、器、そして古民家。すべてのことに対して細やかに、自身の思いを貫くのは「自分が納得していないことは、お客様に伝わる」から。一所懸命のもてなしで訪れた人に心からの感動を届けることこそが、この地で営むことの恩返しでもあると考えます。
恩返しの思いは、地域へも向けられます。地元の区長さんをはじめ地域の方の許可をいただいて山に入る隆三さん。山の恵みをいただく代わりに、高齢化が進む集落では山を見守る大切な役目も担っているそうで、樹木や不法投棄の様子なども確認して地域の人と共有します。
飯山の暮らしを支えるおいしい水や山の幸は、美しい里山があってこそ。山に入り、山を守り、ひいては暮らしを守る。はたのは、山とともに、地域とともに息づく店なのです。

旬菜料理はたの

長野県飯山市旭644
☎ 0269-67-0393
11:30~14:00、 17:30~21:00
不定休 *完全予約制
公式サイト

撮影:平松マキ、取材・文・編集:山口美緒・塚田結子(編集室いとぐち)

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