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ディナーの前に、知識が深まる果樹園&醸造所ツアーへ
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中央アルプスと南アルプスに包まれる伊那谷の、ほぼ中央に位置する松川町。温暖で、なおかつ寒暖差があり日照時間が長いという特性を生かし、100年以上前から果樹栽培が盛んに営まれてきた地域です。そんな“くだものの里”である松川町の観光プロモーションの一環として、すてきなプログラムが立ち上がりました。果樹園のなかにダイニングを持ち込み、本格フレンチを提供するというアウトドアレストラン〈Orchardレストランまつかわ〉です。
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ランタン風の照明が、手元と皿の上のメイン料理を優しく照らす。
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シードル造りについて説明する北沢さんに、熱心に耳を傾ける参加者。シードルは、リンゴの収穫、カット、洗浄、ブレンド、破砕、搾汁、一次発酵、瓶詰め、瓶内二次発酵、ラベル貼りという手間のかかる行程を経て、やっと完成する。
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果樹園内を歩きながら、リンゴ栽培に関する豆知識もたっぷりと教わったあとは、果樹園で収穫されたリンゴを使ったシードルで乾杯!
9月17日のプレイベントは、ディナータイムに行われました。参加者は、県内外から集まった9名。日暮れ前に、当日の会場『フルーツガーデン北沢』へ集合し、果樹園4代目の北沢毅さん案内のもと果樹園&醸造所ツアーへ出かけます。ところで松川町には約500軒の果樹園があり、現在は数か所の果樹園で企画の受け入れをしているそうです。『フルーツガーデン北沢』はシードルを主体とした醸造所『マルカメ醸造所』も併設しているため、当日は果樹園と醸造所の散策というぜいたくなツアー内容になりました。
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参加者が果樹園&醸造所ツアーを楽しむ間、運営スタッフは果樹園の一角にタープを張り、その下にテーブルやイスなどをセッティング。あとは日暮れを待つだけ。
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参加者が果樹園&醸造所ツアーを楽しむ間、運営スタッフは果樹園の一角にタープを張り、その下にテーブルやイスなどをセッティング。あとは日暮れを待つだけ。
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参加者が果樹園&醸造所ツアーを楽しむ間、運営スタッフは果樹園の一角にタープを張り、その下にテーブルやイスなどをセッティング。あとは日暮れを待つだけ。
星空とタープの下でいただく本格フレンチ
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日が暮れたら、お待ちかねのディナーがスタート。アミューズブーシュ、オードブル、スープ、メイン、デザート……。フレンチ料理人が手掛ける、地元食材をふんだんに使ったコース料理が、一皿ごと卓上へ運ばれて行きます。ほぼすべての料理に松川町産のフルーツを使用しているのが、坂元暁彦シェフのこだわり。参加者は意外な味覚の組み合わせを楽しみながら、時間の許す限り、ぜいたくな料理と時間を味わっていました。
料理の内容は旬の地元食材を中心に構成されるので、訪れる時期によって異なりますが、一例としてプレイベントで提供された料理を紹介しましょう。
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アミューズブーシュ『アマゴと胡麻のビスケットサンド』。胡麻を練り込んだビスケット生地で伊那谷産のアマゴのクリームを挟んでいる。アクセントになっているエゴマも伊那谷産。
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オードブル『さんさん黒豚のテートドフロマージュ』。松川町『さんさんファーム』産の豚肉を使った、モザイク仕立てのゼリー寄せ。付け合わせに地元産の果物と野菜を使用している。
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オードブル『アルプスサーモンの瞬間燻製 りんごの枝を使って』。飯島町で養殖されている『アルプスサーモン』を、リンゴの枝のチップを使って瞬間燻製した一品。もう一品は、洋ナシとチーズのミルフィーユ。
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『桃の冷製スープ バジルのアクセント』。モモのほかトマトやベーコンも入っていて、甘味と酸味、塩味の絶妙なバランスで成り立つ。モモやトマトは加熱されていないので、そのフレッシュな味わいも魅力。
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メイン『黒豚肩ロースのロティ 五平餅風焼きリゾットとりんごのチャツネ』。こちらの豚肉も『さんさんファーム』産。味付けに、まろやかさが特徴的な大鹿村産の山塩を使用。信州らしい、五平餅風に焼き上げたリゾットもユニーク。
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デザート『りんごの再構成』。松川町のケーキ屋『ぺパン』が作った、青リンゴにそっくりなリンゴのケーキ。リンゴのコンポートをピスタチオとホワイトチョコレートのムースで包んでリンゴの形に成型し、ヘタを模したチョコレートを挿し込んでいる。
ホテル出身のシェフと美食の国からやってきたイタリア人が仕掛け人
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フレンチを得意とする坂元暁彦シェフ。大阪や京都のリーガロイヤルホテルのレストランに勤めた後、山梨県北杜市や蓼科のホテルで腕を振るい、2021年12月に妻のクリスティーナさんと松川町へ移住した。
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イタリア中部出身の坂元クリスティーナさん。10年前に来日し、山梨県北杜市のホテルで働いていたときに夫の暁彦さんと出会う。夫とともに松川町の『南信州まつかわ観光まちづくりセンター』に勤めながら、松川町や伊那谷の食を切り口に観光プロモーションを推進中。
果樹園のなかに現れる本格フレンチレストラン。このロマン溢れるプログラムが実現したのは、10年以上高級ホテルのレストランに勤めていた坂元暁彦シェフと、美食の国として知られるイタリア出身の坂元クリスティーナさん夫妻が、松川町に移住してきたからにほかなりません。
「どこを見ても果樹園がある、松川町の風景が気に入っています。シーズンになると果物狩りを目的にたくさんの観光客が来ていますが、このていねいに手入れされた美しい果樹園をもっと長く楽しんでほしいと思って、果樹園とグルメを掛け合わせたプログラムを考えました」
おもに企画や運営を担当しているクリスティーナさんが、このプログラムが生まれた背景についてこう語ってくれました。料理をフレンチのコース料理にしたのは、夫の暁彦さんがフレンチ料理人であることはさることながら、果物を使った料理が作りやすいからという理由もあるそう。プレイベントのメニューをご覧のとおり、素材の味を生かすことが特徴のフレンチであれば、地元産の食材の味を最大限に引き立てた料理に仕上げることができるのです。
「農家が作った風景のなかで、農園のぜいたくをたくさんの人に味わってほしいですね」
本格フレンチを手軽にいただける〈Orchardピクニックまつかわ〉もどうぞ
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ピクニックセット2人分。ひとくちサイズの前菜盛り合わせ(クロスティーニ3種、ケークサレ、鳥とキノコのバロティーヌ、自家製ソーセージ、自家製スモークアルプスサーモン、ピクルスと彩野菜)、地元のお野菜のジャーサラダ、季節のお野菜のスープ、サンドイッチ2種(食パン野菜サンド、パンコンプレ)、梨とりんごのバジルゼリーかけ、桃薫農園のりんごジュース。
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ピクニックセット2人分。ひとくちサイズの前菜盛り合わせ(クロスティーニ3種、ケークサレ、鳥とキノコのバロティーヌ、自家製ソーセージ、自家製スモークアルプスサーモン、ピクルスと彩野菜)、地元のお野菜のジャーサラダ、季節のお野菜のスープ、サンドイッチ2種(食パン野菜サンド、パンコンプレ)、梨とりんごのバジルゼリーかけ、桃薫農園のりんごジュース。
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ピクニックセット2人分。ひとくちサイズの前菜盛り合わせ(クロスティーニ3種、ケークサレ、鳥とキノコのバロティーヌ、自家製ソーセージ、自家製スモークアルプスサーモン、ピクルスと彩野菜)、地元のお野菜のジャーサラダ、季節のお野菜のスープ、サンドイッチ2種(食パン野菜サンド、パンコンプレ)、梨とりんごのバジルゼリーかけ、桃薫農園のりんごジュース。
〈Orchardレストランまつかわ〉に先駆けてふたりが最初に仕掛けたのが、8月から始まっている〈Orchardピクニックまつかわ〉です。『まつかわ旅の案内所』でピクニックセットを受け取り、果樹園内の好きな場所でピクニックを楽しむことができます。
バスケットに入っているのはもちろん、すべて坂元シェフが手掛けた料理なので、質も量も食べ応えは抜群。コース料理同様に、『さんさんファーム』の豚肉や松川町の人気パン屋『ブーランジェリーみかづき』のパンなど、地元産食材がたっぷり使われています。コース料理に比べると値段も手頃なので、“週末の昼下がりに気軽にフレンチをいただきたい”という人にもおすすめ。可能であればお酒と一緒に、時間をかけてゆっくり味わってほしいところです。
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『まつかわ旅の案内所』でピクニックセット一式を受け取ったら、案内所より指定された果樹園へ持ち込み、好きな場所に広げよう。
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木の下に陣取り、少し低い目線で果樹園を眺めながら、自由気ままにピクニック。景色も料理もすてきなので、どのアングルから写真を撮っても絵になる。
松川町の果樹園を舞台に始まった、地元グルメを満喫できる新しい観光の形。大自然のなかでの味覚体験は、屋内のレストランでは決して味わえない感動と、豊かな感性を与えてくれるに違いありません。
〈Orchardレストランまつかわ〉
実施期間: 4月中旬~12月中旬の土、日、祝日
実施時間:日没30分前にスタート ※2022年はディナーのみ。2023年以降はランチも開催予定。
定員: 5組10名 ※最小催行人数は5名。
料金: 1人12,000円(税込) ※果樹園のガイドウオーク、乾杯のシードル、フルコース料理の代金を含む。乾杯以外のドリンク代は別料金。
予約・問い合わせ:まつかわ旅の案内所 TEL: 0265-36-6320(9:00~17:00)
☞https://dansuki.jp/experience/experience7752/
〈Orchardピクニックまつかわ〉
実施期間:3月中旬~12月中旬
実施時間:ピクニックセットの受付 11:00~14:00、農園での滞在可能な時間帯11:00~16:00
定員:12食 ※最小催行人数は2名。
料金:1食2,600円(税込)
予約・問い合わせ:まつかわ旅の案内所 TEL: 0265-36-6320(9:00~17:00)
☞https://dansuki.jp/experience/experience7546/
撮影:佐々木健太 取材・文:松元麻希
<著者プロフィール>
松元麻希(Maki Matsumoto)
鹿児島県生まれ。転勤族のため、物心ついたときから高校生になるまで、全国を転々とする生活を送る。都内の雑誌出版社で9年間修業した後、フリーランスライターとして独立。2017年にスキー好きが高じて長野県松本市へ移住し、現在は南アルプスと中央アルプスの麓・伊那谷で暮らしながら、アウトドアやグルメを中心としたライター業に励んでいる。
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