そこは、空の青と木々の緑それしかない世界。風が吹き抜け大地の声が聞こえる。そんな場所にワイナリーがある幸せを感じたことがあるだろうか。
長野県東御市にある『Rue de Vin(リュードヴァン)』は、2006年より、荒廃してゆく農地の再生を掲げ、雑木林と化した農地を開拓しワイン用ブドウの苗木を植え始め、2008年、ブドウ栽培及び醸造メーカーとして更なる発展を遂げるため、『株式会社リュードヴァン』を設立しました。醸造家で代表取締役でもある小山英明さんと筆者が出会ったのはその頃ですが、今、目の前に見える光景は、その当時と変わらないけど進化した、私の想像をはるかに超える素晴らしいものになっていました。
口にするワインを自分で収穫する至福
今では、どこのワイナリーも「ワインブドウの収穫体験」を率先して行っていますが、『リュードヴァン』では、当初より、自分が飲むワインブドウを自分で収穫する喜びと共感を実現しています。かくいう私も何度か収穫のお手伝いに行かせてもらっていますが、東御市が一望できるワインブドウ畑で、今年のブドウを食し、味を見ながら収穫し、このワインはどんなヴィンテージになるのかと想像する幸せな時は、体験して初めてわかるものです。
そして収穫後、ブドウ畑でピクニックをしながら『リュードヴァン』のワインはもちろん、各自持ち込んだワインで昼食をとる至福の時も提供してくれるのです。それまでワインは、酒屋で買ってきて飲む飲み物であった概念を完全に打ち崩し、ワインはもっと身近で自分たちも携わることができるのだ、と知った瞬間でもありました。
それから、10年以上たった今でも、当時と変わらず皆で収穫しワインと共にその時間を共有する至福を与えてくれる『リュードヴァン』の魅力に感動するばかりなのです。
ワインブドウの収穫は、9月~11月の週末に定員数限定で行われ、昼食は、持ち込みもOKですが、ワイナリー併設の〈カフェ&レストラン リュードヴァン〉で召し上がることもできます。さらに、ブドウ畑ピクニック用のカフェレストラン特製のピクニックランチもあるので、身軽に収穫体験ができるのも『リュードヴァン』の魅力の一つです。
小山英明さんのワインへの思い
「荒廃する農地の再生の実現」をこの15年間で着実に行ってきた『リュードヴァン』。当初2.7haだったブドウ畑は約12haとなり、雑木林だった景色が見事に激変しました。ブドウ品種もシャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、メルロなどに加え、フランス・アルザス地方で有名なゲヴェルツトラミネールなどの栽培も手掛けています。「ワイン葡萄の品種は増えたけど、ワインの造りは全くかわりません。ブドウのコンディションは毎年変わります。ブドウの出来不出来があって当たり前。でも、どんな葡萄であっても飲んだ方が『リュードヴァン』だね、と言ってもらえる。それが実現できるのが醸造家だと思っています。雑な味はなく、きれいで奥の深いどこまでも食と共に歩んで行けるワイン造りを常に目指しています」という小山さんの思いは、奇をてらうようなワインではなく「伝統的なワインづくり」へのこだわりが感じられます。
ワイナリーを満喫できる『シャンブルドット・リュードヴァン』の世界
昨年秋に週末(金、土、日、祝)、二組限定の宿泊施設をオープンさせた小山さん。その名も『シャンブルドット・リュードヴァン』。「シャンブルドット」とは、フランスの宿泊施設で、一般家庭の余っているお部屋などをゲストルームとして宿泊者に提供しているB&B(ベッド&ブレックファースト)を指す言葉だそうです。
”Rue de Vin”という名をつけたのはフランス語で「ワイン通り」の意味があるから。全ては私達の葡萄畑とワイナリーに通じる一本の通り”Rue de Vin” から始まります。やがてこの通りにはレストランやオーベルジュが現れ、私達の次にもまた新しいワイナリーやブドウ農家が誕生する。それはまるで点と点が繋がって線が出来るように「ワイン通り」は延びてゆくのです。と公言していた形をついに実現しました。
週末、東御市を訪れ、ワインブドウを収穫し、ワイナリーレストランでフルコースディナーを味わい、『シャンブルドット・リュードヴァン』で宿泊し、オーナーと朝食を頂く。こんな贅沢な時が過ごせる夢みたいなことを現実化したのです。
『シャンブルドット・リュードヴァン』は和風建築を改装した一軒屋ですが、中に入ると外観からは想像できない基調のクオリティーの高さに驚きます。鮮やかな”リュードヴァンカラー”の青を基調として、シャンパン製造に欠かせない木枠(ピュピトル)を贅沢に使った玄関を入るとピュピトルに瓶が刺さっています。いかにもワイナリーに宿泊している感が漂ってきます。受付カウンターに置かれたお部屋のキーホルダーにもピュピトルを使用。さらにお部屋のいたるところにワイナリーならではの演出がされ、部屋は広くゆったりとした空間です。
お部屋に案内されたのち、ワイナリーレストランまでは歩いていきます。ディナーは、ソムリエでもある元島瑞紀シェフが提供するフルコース。それぞれの料理に7種類のワインをペアリングします。驚くのは、小山さんの選ぶワインに料理を併せてくれること。セオリーな形であれば、料理にワインを併せるのでは?とお聞きしたところ元島シェフは「その時のワインを見てお料理の味を決めます。それはワインの美味しさをお客様に知っていただくことでもあるのです」言ったその言葉にソムリエだからこそ分かり合える造り手への思いを感じました。
ディナーの食材は地元の野菜や果物、東御産のホエー豚などを厳選。レストランを通じて近隣農家とも繋がりを持ち、食を中心にお互いを必要とし生きてゆける環境へと派生して欲しいという思いが伝わってきます。
コース料理とワインとのペアリングをゆっくりと楽しんだあとは、満点の星空を眺めながら宿へと帰ります。まだもう少し余韻を味わいたい方は、1階のサロンにてディナー後のひと時を楽しむこともできます。
朝は小鳥のさえずりで目が覚め、朝食はオーナーの小山さんと共にフレンチスタイルの食事を用意いしながら一緒にいただきます。まさしく「シャンブルドット」を体感できる素晴らしい時間なのです。
ワインのある豊かな食文化へ。
小山さんは常に「食と共にいかに寄り添えるワインを造るか」を考えてきました。そしてそれは、「地域に暮らす人々自らが主役であり、私達はワインを通じてこの地域の食文化の繋ぎ役として、彩として存在したいのです。生涯、そして次の世代もまたその次の世代も当たり前のようにワインを造って暮らせる環境が、一本の通りから始まりますように」という“Rue de Vin”という名の意味でもあり、ワインを中心として食、伝統、文化、社会とさまざまな文化的要素を考える起点になりうるワイナリーに成長していたことに喜びを感じるのです。
*小山 英明(こやま ひであき)
1967年東京生まれ・千葉県出身。
2008年株式会社リュードヴァン設立。
2019年十二平の開墾とブドウの定植が完了し栽培面積は合計6.5haとなる。新たに十二平 の西側、祢津御堂に5.2haの圃場を確保する。ブドウ栽培からワイン製造・販売、 地域文化活動まで、ワイン文化をトータル的にサポートすることを目的とした新会社、株式会社カーヴ・ド・ミドウを設立。2020年 宿泊施設、シャンブルドット・リュードヴァンをオープンする。2022年 祢津御堂に新ワイナリーを建設予定。
文:原有紀 写真:池松勇樹・原有紀
<著者プロフィール>
原 有紀
1988年長野経済短期大学卒業。長野県信用組合を経て1993年 結婚・同年長野県信用組合退社 原商店へ従事。2007年フリーペーパーうえだNavi副編集長就任。2008年上田市の自治の基本原則等を定める条例検討委員会委嘱副会長他上田市審議会多数委嘱、信州上田サマーウォーズ実行委員会設立副委員長、NHK 大河ドラマ「日本一の兵 真田 幸村公」放映実現を願う会広報、美味だれで委員会設立 副事業部長、信州上田発酵の女学校設立 初代校長を歴任。発酵プロフェッショナル・発酵マイスター・SSI認定 利酒師・調理師・歯科助手 甲乙の資格も取得。
《株式会社リュードヴァン》
長野県東御市祢津405。 TEL0268-71-5973。FAX0268-71-5983。『カフェレストラン&ワインショップ』Café Rue de Vin(カフェ・リュードヴァン)10時~17時。レストラン11時~14時。火曜休。https://ruedevin.jp/
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