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<長野ONSENツーリズム③>諏訪湖を望む半露天風呂付き客室で贅沢な時間を。「萃sui-諏訪湖」で1泊2日のご褒美旅

各地から開花の便りが届き、四季の移ろいを実感する日々。少しの憂いや不安、そして期待が交錯する季節。春本番を前に、この一年を振り返り自分を労い、新たな一年に向けて心身を整えたい。『長野ONSENツーリズム』最終回、諏訪湖畔に佇む「萃sui-諏訪湖」へ出かける。

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私から私へ。節目に贈る温泉旅行

長野県で一番大きな湖・諏訪湖。周囲には飲食店やホテルが点在し、その情緒にどこか安堵する。諏訪湖東岸に広がる「上諏訪温泉」は、諏訪大社上社の女神が下社に移る際、化粧の湯として綿に含ませ運んだ湯が途中で滴り、そこから温泉が湧出したとの神話が伝わる地。源泉数は12カ所ある。JR「上諏訪駅」のホームに設置された足湯と共に、湖畔への駅出入り口2からほど近い石彫公園向かいに建つ国指定重要文化財「片倉館」の千人風呂も人気が高い。

「萃sui-諏訪湖」は、上諏訪駅から徒歩約10分、諏訪・岡谷インターチェンジから車で15分ほどに位置する。全8室の客室すべてに半露天風呂が付き、屋上には諏訪湖を一望する展望露天風呂が備わる温泉宿だ。諏訪湖の絶景を眺めながら温泉につかる……といった魅力はもちろん、諏訪湖側に面した部屋で思う存分くつろぎながら内省する時間を持ちたいと思い出かけた。

暖簾をくぐり庭園を横目に格子の引き戸を開けると、囲炉裏のあるロビーが出迎える。明るい木材を基調とした和の空間に心が落ち着く。窓辺の椅子に腰かけ、ウェルカムスイーツのおやきと緑茶で一息ついた。野沢菜と餡子のおやきは当館料理長のお手製。緑茶には諏訪市のお茶屋「金鵄園(きんしえん)茶店」の茶葉を使用しているそうだ。

チェックインの手続きを済ませ、スタッフの方と一緒にエレベーターに乗り客室へ向かう。畳張りの館内で履物は必要なく、足元が軽いとこんなにも開放的なのかと驚いた。

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ロビー「囲炉裏茶の間」

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明るい色調の和室にくつろぎを感じる

客室は主室と寝室が分かれるワイドタイプと一部屋にまとまるスタンダードタイプの2種類。1フロア2部屋に限られ、プライベートな時間が担保されている。

今回はスタンダードタイプの3階「駒草」に滞在した。テーブルと座椅子のある和室に半露天風呂が併設され、フローリングスペースにツインベッド2台が置かれている。壁材には赤貝を主原料とした“幻の漆喰”が採用され、ホコリや臭いなどを吸着するよう工夫。床材は天然木が持つ保湿性や防菌作用を最大限に生かすよう熟成乾燥した杉の木を使用するなど、快適に過ごすことができるよう配慮されている。

スタッフの方から一通り説明を受けた後、窓辺に腰掛け諏訪湖をぼんやりと見つめた。3月、全国的に桜の開花を耳にするようになった一方、長野ではまだ雪が降る日もあり、この日も例外ではなかった。きっと晴れた日は青空と湖の濃淡異なるブルーが美しいだろう。きょうの、春を目前にしたモノトーンの世界は内向するに最適な環境だ。

ノートを開いて、昨年度の振り返りをとペンを握り、月毎の出来事や心情を書き出した。けれど、解像度が低くしっくりこない。宿オリジナルのプリンを冷蔵庫から取り出し一時休息。濃密なカスタードと芳醇なキャラメルに記憶装置の潤滑油をもらう。

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3階「駒草」。スタンダードタイプの部屋

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半露天風呂からはすぐ近くの諏訪湖の風景を見ることができる

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館内の至る所に飾られた掛け軸は、下諏訪町出身の書家・小松朝韻氏の作品

信州の食材を諏訪の味付けで。素朴シンプルな美食

文章を綴っては外を眺めたりを繰り返していると部屋の電話が鳴った。夕食の時間だ。完全個室の食事処は同じフロアにある。和室にテーブル席が設けられ、掛け軸やアンティーク調のたんすといった和のテイストに藍色の壁が調和している。一人での食事にちょうどいい広さの部屋を用意してくれた。

夕食「寛ぎの膳」は、春夏秋冬で品目が変わる懐石料理。茅野市の日本料理店「無名(むみょう)」の店主・唐木正文さんが監修し、地場産の有機野菜をはじめとする旬の食材が、諏訪地域や周辺で造られた調味料で味付けされている。

この日は「春の献立」で、スナップエンドウの冷製茶碗蒸しや菜の花の昆布締めなどからはじまり、旬菜鍋には山菜(タラの芽・ワラビ・ウルイ)に加え、ミョウガ、油揚げ、ホワイトアスパラといった食材が寄せられる。かつお節と昆布のだしが入った鍋で煮立て、器に盛り山椒の葉を添え、盆に置かれた美しい一品。絶妙なだしの塩梅をゆっくりと味わう。

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旬の彩りが並ぶ八寸

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季節の味覚とだしを合わせた椀

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「竹の子旨煮」。素材の味を活かした滋味あふれる一品

信州サーモンのお造り、信州牛のふきみそ焼き、八ヶ岳産のそば粉を使ったそばなど信州の味覚を堪能する。創業約120年の大久保醸造店のしょうゆでぐつぐつと煮込む信州地鶏のすき焼きと続き、口に運ぶたび頬が緩んでいくのが分かる。

見るに香ばしい土鍋が運ばれ、蓋が開くと湯気と共に青々とした春の匂いが立ち込めた。刻まれたフキノトウのみずみずしい色合いに目を奪われる。この「竹の子と蕗の土鍋ご飯」は、フキノトウのアクを全く感じない爽やかな風味。漬物やみそ汁と一緒に、至福を享受する。デザートの黒糖ゼリーを食べ終えると、数々の美食に頭がふわふわとしていた。

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椀や火の物などは、スタッフの方が仕上げてくれる

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鶏のムネ・モモ肉と地鶏100%のつくねを含む「信州地鶏のすき焼き」

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「竹の子と蕗の土鍋ご飯」。土鍋いっぱいのご飯は、食べ切れなかった場合、おにぎりにして部屋まで運んでくれる

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デザートの「黒糖ゼリー」。イチゴ、うらごしした塩ようかん、白玉が付き、生クリームに抹茶がかかっている。“幻の在来茶”と呼ばれる、標高400mで栽培された「高山ほうじ茶」とともに

ロビーの「囲炉裏茶の間」は夜20時以降「地酒Bar」としてオープンする。間接照明が灯されジャズが流れる空間で、9つの酒蔵がある日本酒の名産地・諏訪の銘酒を嗜むことができる。

当館おすすめの「豊島屋」(岡谷市)で仕込まれた「豊香」の純米酒の飲み比べをオーダーする。囲炉裏を囲む席で私と同年代の2人組が同じく飲み比べをして感想を言い合っている姿が素敵だった。「私は純米原酒推しです」と心の中で呟きつつ、いささか酔いが回ってきたので、飲みかけを持って部屋に戻ることにした。

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諏訪地域の銘酒がそろう

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ロビーの「囲炉裏茶の間」は20〜23時は「地酒Bar」に変貌

真夜中の諏訪湖、明け方の諏訪湖につかる

心地良いまどろみが解け、夜中に目が覚めた。半露天風呂に誘われ、諏訪湖を囲むように静まる夜景を望む。机に向かっていた時には湧いてこなかった思考に自然と耽っていた。ガラス窓に映る自分と諏訪湖とで交互に視点を移す。自分という存在の内側に足を踏み入れたのは何年ぶりだろう。

さらりとした肌触りのお湯が気持ちいい。上がるとじわじわと汗が出て、温泉の力を実感する。諏訪市湖岸通りに位置する「七ツ釜源泉」の泉質は単純硫黄温泉。自律神経を整える効果などがあるという。用意されていたバスローブに袖を通し、歯を磨いてからやわらかな肌触りのパジャマに着替え、横になる。温泉の効能と質の高い寝具の気持ち良さから再び眠りに。

朝6時に開場する屋上の展望露天風呂に入るため、日の出前に起床した。窓の外がだんだんと明るくなり、群青色の空と諏訪湖に挟まれた山容が浮かび上がってくる。展望露天風呂につかると、夜明けの諏訪湖と一体になった。

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夜明けの諏訪湖。雪化粧した山並みとの共演はあまりにも美しかった

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早朝の展望露天風呂「綿雫」より。利用の際は湯浴み着用必須の混浴露天風呂だ。山から麓のまち並み、諏訪湖までを一望する

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落ち着きある色合いの甚平は館内着として

節目に過ごした温泉旅の締めくくり

温泉と絶景の“効能”だろうか、とてもお腹が空いていた。朝食の「郷香(さとか)」は“田舎のお母さんが作る朝ご飯”を思わせる優しい味わいの品々。葛とだしを合わせた餡をかけたおかゆがやさしい。長野県産の大豆を使用した手作り豆腐はかつお節やネギなどの薬味とともにいただく。

チェックアウトの11時までまだ時間がある。各部屋に用意されている四季折々の当宿の様子を描いた絵葉書を見つけ、ふと手紙が書きたくなった。淡いピンク色と若々しい緑色が目を引く一枚を選び、東京で暮らす幼なじみに宛てる。

この一年の振り返りと決意表明のような文面は、彼女に向けているようで自分に対する言葉でもある。決して華美ではない居心地の良い空間や素朴で美しい食事に身も心もほぐれ、刻一刻と表情を変える諏訪湖の風景、そして温泉にパワーをもらった。おかげでこの一年間を振り返り自問自答の時間が叶った。

「長野でまた素敵なところを見つけました。近々一緒に行きましょう」と結び、青空が広がる湖面を見つめる。新しい一年、どんな年になるだろうか。さまざまなことが起こっても、また一年を振り返り、自分の人生を積み重ねていくことができるのなら“御の字”なのではないか。そんな今回の旅に感謝した。

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朝食も完全個室で。障子越しの朝陽がやさしい

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ロビーでは、客室に置かれていた当館オリジナルのクルミの菓子。お土産に一つ購入

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四季の情景が描かれた絵葉書

『萃sui-諏訪湖』

長野県諏訪市湖岸通り2丁目5-27
TEL 0266-58-3434
1泊2食付 35,200円〜(2名1室利用時・税込)+入湯税1名150円
https://www.sui-suwako.jp/


取材・文・撮影:松尾 奈々子

<著者プロフィール>
松尾 奈々子(Nanako Matsuo)
1993年生まれ。長野市出身・在住。
記者・観光地広報担当を経て、現在はフリーライターとして活動中。顔は大福に似ているといわれる。人の話を聞くことが好き。

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