文豪気分か、360度パノラマビューのワイナリーか。 選べるワーケーションが魅力の温泉宿ステイ 文豪ゆかりの宿「中棚荘」が提案する地元密着型ワーケーション
四季折々の美しい情景のなかに小諸城の面影を堪能でき、日本の歴史公園100選にも選定されている、長野県小諸市にある小諸城跡・懐古園。小諸城は大手門がもっとも標高の高い場所にあり、本丸がもっとも低地にある日本でも唯一ともいわれる「穴城」です。本丸をさらに下った先にある中棚荘は「隠れ宿」としても人気があり、文豪・島崎藤村が愛した歴史深き宿でもあります。
今、その長き歴史に、若き社長の思いの詰まったワーケーションという時間が刻まれはじめています。
中棚荘と島崎藤村
明治31年創業の老舗宿「中棚荘」。島崎藤村著『千曲川スケッチ』にある「もっと自分を新鮮に、そして簡素にすることはないか」をテーマに、肩肘張らずに過ごすことを念頭に置く歴史ある宿です。
明治の文豪・島崎藤村が明治32年、小諸義塾(私塾)に英語と国語の教師として赴任し、足掛け7年ほどを小諸で過ごした際「もっと自分を新鮮に、そして簡素にすることはないか」と自らに問い、文学者として生きようと決意した地が小諸市です。その当時、足繁く通ったのが中棚荘。『千曲川旅情の歌』(島崎藤村『落梅集』より)に、「千曲川いざよふ波の 岸近き宿にのぼりつ 濁り酒濁れる飲みて 草枕しばし慰む」と表現されているのが、まさに「中棚荘」だそうです。
文豪気分でワーケーション。島崎藤村ゆかりの宿で「文豪ステイ」
中棚荘では、令和3年1月より、ワーケーションを活用した”自分だけの書斎”のように利用できる新しい滞在方法を提案しています。筆者も、藤村が実際に『千曲川旅情の詩』を執筆した部屋を復元した大正館2階「藤村の間」に宿泊し、文豪気分でワーケーションを試みました。
中庭にはプラタナス、ヒマラヤ杉などの大木が茂り、窓を開けると心地よい風が吹き抜け、日々の喧騒からタイムスリップした感覚になります。
車の音もなく、木々のせせらぎと虫の声しか聞こえない。その空間にそぐわないパソコンのタイプ音だけが部屋に静かに響く。島崎藤村の時代は、ペンを走らせる音だけが閑静に共鳴しただろう。そんな思いをはせた時「千曲川旅情の歌」の旅愁が私の中に入り込んでくる。そんなワーケーションもいいものだ。
「文豪ステイデイユースプラン」は、2時間貸し切り1部屋最大4名まで利用できます。混雑状況にもよりますが、温泉卓球利用も可。オプションで中棚荘の自家源泉(アルカリ性単純温泉)「美肌の湯」として人気の温泉も利用できます。事前予約でそば打ち体験もでき、仕事をしながらバケーションも楽しめる温泉宿ステイです。
さらに、宿泊ワーケーションだと、お料理目当ての宿泊客がいるほど人気の、小諸の自然の恵みが味わえる会席料理もいただけます。お料理は季節に合わせたメニューとなっており、品毎に食材の特徴や効能などのお品書きがついているので、味わいとともに身体に優しい気遣いを感じることができます。
360度パノラマビュー!
Gió Hillsワイナリーの「Winery workcation stay」
中棚荘では2002年、5代目荘主 富岡正樹氏の「本場フランスで味わったこの味のワインを、私たちが暮らすこの地で造ることはできないだろうか」という想いからスタートしたワイン事業が始まりました。
宿から車で10分ほどにある標高800mの御牧ヶ原は、小高い丘にあり、風が吹き抜けるのが特徴的です。その台地に2018年、ジオヒルズワイナリーが完成しました。四方から完全に独立したテーブルランド状の台地という全国的にも珍しい地形から見る景色は、まさしく360度パノラマビュー。真夏でも涼しい風が吹き抜け、ここが小諸だと忘れてしまうほどの絶景です。
ジオヒルズワイナリーでは、この景色と、非日常空間での仕事への取組みを提案しています。非日常空間での仕事は生産性が上がるとされており、ワイナリーから見える信州小諸の風景の中、普段とは違う環境でのワーケーションは仕事効率が上がること間違いなし。最近は、地元の企業がワイナリーを貸し切り、仕事場として社員に提供しているそうです。
中棚荘6代目が提案する信州小諸のワーケーション
6代目となる富岡直希社長は、地域の魅力を再発見できる取り組みの一つにワーケーションを掲げています。「東京や県外からのワーケーションもとても有難いのですが、まずは、地元の方にワーケーションという形を通じてお越しいただきたい」と語っています。
近いからこそなかなか泊まることのない宿を、ワーケーションで利用してもらうことで、地域の魅力を再発見してもらいたいという想いが伝わってきます。最近では地元の企業の利用が増え、若い方たちから、こんな近くに非日常があったのか、と好評をいただいているそうです。「地域との交流を生み出し、地域魅力の発見と共創にも繋げることができる。私たちは、企業や小規模チームでワーケーションを利用することで、新たなイノベーションの創出や、そのために必要な人と人との深い繋がり合いやコミュニケーションが生まれることによる“一体感“を大切にしていきたいと考えています」と富岡社長。地域を大切にすることで、県外の方に地元の魅力を伝えることができ、もてなす人の心を醸成してほしいと考える富岡直希社長を中心に、スタッフも精力的に取り組む中棚荘のワーケーションは、魅力に満ちた素敵な時間なのです。
文:原 有紀 写真:池松勇樹
<著者プロフィール>
原 有紀
長野県PTA新聞編集委員を経て、2007年より、『うえだNavi』副編集長として地域密着型情報誌を発行する。2020年には信濃毎日新聞にてコラムを連載。本業は老舗味噌蔵の女将で、発酵プロフェッショナルや利酒師、調理師の資格を持ち、こよなく酒を愛する。上田市の発酵に携わる女性たちと『信州上田発酵の女学校』を設立。初代校長。
『中棚荘』に関する詳細は☞ https://nakadanasou.com
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